黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

FA補強成功で生まれたロッテ鳥谷敬

ロッテが3月10日、元阪神鳥谷敬獲得を発表した。コロナウイルスの混乱のさなか、 さすがにタイガースファンも鳥谷敬の動向からは関心が薄らいでしまっていたのではないか。結果的にはプロ野球の開幕延期が決まったとはいえ、開幕を控えたこのタイミングまでどうなる鳥谷敬記事にお目にかかった記憶もない。記事がなかったのか?かくいう私も鳥谷敬のことを忘れていたようで記事をスルーしていただけなのか。他人のことはとやかく言えない。そんな感じだったので鳥谷敬のロッテ入りを知った時、ああまだ所属は決まっていなかったんだ、と少々驚いた。そして、あのまま引退せずに済んでよかったな、と思った。

にしても阪神で一時代を築いた選手。2000安打も果たしたレジェンド。本来ならば縦じまのユニホームのまま引退……というのが本人にもファンにも一番だったのではないか。しかしそこは結果がすべてのプロ野球。2019年、鳥谷敬の出番は限られてしまったし(74試合)、安打はたったの19、本塁打に至ってはゼロに終わった。タイガースから肩たたきされても仕方なかった、のかもしれない。

いやいや、鳥谷敬は出番さえ与えていたらもっと結果を出せているはずだよと見る人もいるだろう。しかしどのギョーカイでもまずは出番を勝ち取るまでが勝負だ。打席に立つまでがなかなか大変。もしすべての人に機会が均等に与えられるのであればチャンスに一本打てばよい。本当に力があるならば数少ないチャンスに結果を残せるはずだ。だがどのギョーカイにも厚遇される人と冷遇される人がいる。また、組織には年齢構成という要素もある。そもそも年齢構成がいびつになる組織は計画性のなさを露呈するだけなのだが、タイガースの場合はどうなのだろう。鳥谷敬を置く枠の余裕はなかったのか。確かにベテランが居座れば若手一人の芽は摘まれる。

枠以外でネックになるのは年俸。高い評価がのちのち自らの首を締めるのがプロ野球の恐ろしさだが、4億円もらっていた鳥谷敬の処遇は確かに難しい。どれだけ打たなくなっても鳥谷敬というネームバリューとブランドがある。功績が色褪せることもない。かといってもはや億単位の年俸は出せない。だから引退勧告という選択肢はなしではないと思う。さすがに移籍はどうですかとは球団からは言えまい。

で、鳥谷敬に手をさしのべたのはロッテだった。井口監督との関係、かつて似たような動向となった今岡誠が入った球団であるロッテ入りはプロ野球ファンなら予想の範疇だった。それでも結論を出すのがこんなに遅くなったのはロッテも獲得の意思が最初はなかった、と見てよいのではないか。そこは一兵卒になった野村克也にソッコー手を挙げた金田ロッテの時とは違う。

鳥谷敬獲得に至ったのはこのシーズンオフの補強がうまくいったから生まれた「余裕」のなせるわざと見た。ソフトバンクからはユーティリティプレーヤーの福田秀平、楽天からは先発ができる美馬が加入。涌井や鈴木大地が去ったが戦力的にはマイナスにはなっていないだろう。そこでふと内野を見た時に、ベテランがもう一枚いたらなおよいかな、しかも練習熱心で実績も経験もあるベテランが……と考えた時、鳥谷敬がいたなと。しかももうこのタイミングなら1600万円という一軍最低保証の年俸でも違和感はない。あの松坂大輔も確かこのくらいで中日入りしている。ロッテにしてみたら「損はない」という判断かもしれない。

鳥谷敬はロッテ入りに際し「感謝しかない」と謝意を表した。素直な気持ちだと思う。もはや年俸など二の次なのだろう。ユニホームが着られる。野球ができる。それが一番。惜しまれ、慣れ親しんだタイガースのユニホームのまま引退する道もあったが現役続行を模索した甲斐はあった。さまざまな要素や思惑がロッテにもあっただろうが、現役続行ができるなら鳥谷敬にはあまり関係ないことだろう。鳥谷敬はとにかく結果を出すことに集中するはずだから。

結果的にはまた縦じまのユニホームを着ることになった鳥谷敬。あ、今気が付いたがパ・リーグに来るのではないか。これはソフトバンクファンの私には一大事。どうぞソフトバンク戦だけは打ちませんように。福田秀平も同じ。福田もできればソフトバンクのまま現役を終えたかっただろうけど、出番を求めたり自分の評価を聞いてみたかったりと福田なりの考えはあった。そこはソフトバンクファンも理解している。きっと阪神ファンもそうだろう。今からでも楽しみなのが、甲子園での交流戦阪神対ロッテ。終盤に鳥谷敬が代打ででも出てきたら地鳴りのような歓声が沸き起こりそうだ。そうなるためにもプロ野球はどうにか春先に開幕してもらわねばならない。コロナウイルスの沈静化とともに、ちょっとしたことに幸福を感じられる日常が戻ることを願おう。

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敗者にも光を~マラソン東京五輪代表決定シリーズに終止符

3月8日に名古屋ウィメンズマラソンが開催され、一山麻緒が優勝。有力候補だった松田瑞生のタイムを上回り東京五輪代表の座を射止めた。ゴール後から一山の記事はアップされたが松田瑞生の記事は一つ二つしか見つからず。仕方がないとはいえ、何だかなあと思う。1カ月前は松田がヒロインだったからだ。

月刊陸上競技 2020年 03 月号 [雑誌]

月刊陸上競技 2020年 03 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/02/14
  • メディア: 雑誌
 

 

代表を逃した松田がどんな思いになったのか。それを聞くのは酷だなと思いつつも、一切触れないのも礼を失する気がする。彼女もまた挑戦者だったのであり、五輪代表を目指して全力を尽くしたのだから。で、気になって、夜になり松田瑞生と入力して検索してみた。すると記事より前に本人のTwitterを発見した。

 

「期待に応えれずすみませんでした。また笑顔をお見せできるよう頑張ります」。家族にかけられた言葉と共に、期待に応えられなかったことを詫びていた。そんな必要はないのに……どんなに悔しかったことだろう。さすがにTwitterには続きがあった。「とは言っても、ちょっと時間がかかるのは正直な気持ち…かも?笑」。そりゃそうだろうな。半端な気持ちで取り組んだわけではなかっただろうから。

 

勝者がいれば敗者がいる。結果だけ追っていたら、そんな当たり前のことすら忘れてしまいそうだ。オリンピックでの日本代表を応援する前に、代表決定戦で敗れ去ったアスリートに対しても思いをはせ、挑戦への敬意を表したいと思う。

努力で運命を変える~野村克也「この一球」を読んで

プロ野球のレジェンド野村克也が亡くなった。まだまだメディアが一報しか書いていない。2月11日、亡くなったことが分かったという書き方からはまだ取材が不足している印象も受ける。今後詳しく報じられるだろうがわが黒柴スポーツ新聞ではそれとは一線を画し、野村克也の自著あるいは野村克也が出てくる書き物から野村克也人間性に迫ってみよう。まずは著者「この一球」から。

この一球―野村克也の人生論

この一球―野村克也の人生論

  • 作者:野村 克也
  • 出版社/メーカー: 海竜社
  • 発売日: 2012/11/01
  • メディア: 新書
 

 

「この一球」(海竜社)は2012年11月第一刷発行。サブタイトルの「野村克也の人生論」が表すように、ノムさんが自身やさまざまな選手を例にしてあるべき姿、生き方を提示している。目次からざっと、出てくる選手を並べてみよう。
桧山進次郎
山崎武司
斎藤佑樹
宮本慎也
野村克也
皆川睦雄
稲尾和久
江本孟紀
江夏豊
田中浩康
土橋勝征
西本幸雄
稲葉篤紀
池永正明

もうこの名前だけでプロ野球通なら買いの本。もっとも、著書の多い野村克也だけにどこかで聞いたよな話があったらご愛敬だが、そこは何回も言いたいくらいの話なんだろうなとオトナの対応で流してもらいたい。また、阪神楽天、ヤクルト時代の「結果を出した」弟子たちが出てくるのもご愛敬。これも「自慢したくなる」選手と関わった証拠だよねと受け流してほしい。

目次の中でビビっときて、やっぱり真髄を語っているなというページを紹介する。本の最後の最後、結論的にも読める「人生を運命として消化するか、可能性を探求し運命を変えるか【覚悟】」(204ページ)だ。事例として挙げているのは1963年に野村克也が樹立した当時のシーズン最多本塁打記録52本。それまでは小鶴誠が1950年にマークした51本塁打野村克也は新記録をシーズン最終試合最終打席でつくったのだった。

新記録をつくられたくないバッテリーは敬遠気味の投球。万事休すと天を仰いだ野村克也。そこへ運命の一球が外角低めにやってきた。あからさまなウエストボールではファンのブーイングに耐えられない。バッテリーの苦肉の策がストライクゾーンのやや外側だったのだがそこはギリギリバットが届いた。これを野村克也は一撃で仕留めたのだった。

この技術もさることながら野村克也小鶴誠の記録に追い付いた、前日の2本塁打自画自賛している。つまり記録は日々の積み重ねだから、この2本があっての新記録なのだというのだ。確かに結果を出すには日々の積み重ねが必要だ。運の強さは運にプラスアルファを重ねなければ身に付かない。それは一投一打に至る準備だという。著書の中でゴシックになっている箇所は大事なところなのでそのまま引用させていただこう。
運の強さとは、運そのものの強弱ではなく、運を引き出すべく努力を続けたかどうかで変わるものだ。そうして強くしてきた運の重なりによって、運もまた変わってくるものなのだ。

深い。そして努力した人にしか言えない言葉だ。ズシーンと心に響く。そして自分はまだまだ努力が足りないと反省してしまう。運が悪いと嘆いてばかりでは道は開けない。変わりたければ努力するしかない。運の重なりによって運命は変わるのだから。野村克也自身、クビになりかけたこともあったが鶴岡一人監督に認められて正捕手の座につき、本塁打王9回、打点王7回、首位打者1回で三冠王は一度。通算本塁打657本は歴代2位、通算試合3017も歴代2位。野村克也には自分で自分の運命を切り開いた自負があるのだろう。そんな野村克也の背番号19を2020年シーズンから、同じ努力型の甲斐拓也が受け継ぐ。ノムさんが亡くなり、甲斐にしても心に期するものがあるに違いない。

「この一球」はこんな言葉で締めくくられている。野村克也が亡くなった今となっては遺言のように聞こえるが、敬意を込めて引用し、ご冥福を祈ることにしよう。機会があればぜひ「この一球」を手に取ってみてください。
運命を変えるもの、運を強くするもの。それはいつ来るか分からぬ「この一球」に常に備え、己の仕事を理解して行動を選択する。その覚悟にほかならない。

 

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ソフトバンク今宮健太300犠打に王手~愛しき送りバントの名手たち

日刊スポーツ記事で、2020年に達成可能なソフトバンク選手の記録一覧を見た。その中で注目したいのは今宮健太の通算300犠打。残りあと1である。300犠打は過去6人。プロ野球通のあなたは全員言えるだろうか?

 

川相昌弘
平野謙
宮本慎也
伊東勤
田中浩康
新井宏昌

シブい。ちなみに宮本慎也新井宏昌は2000安打達成者でもある。

以上が歴代1位から6位。新井宏昌は300ぴったりだから今宮健太があと1個決めれば6位タイだ。田中浩康が302個、伊東勤が305だから今宮健太は2020年には単独4位が濃厚。だがトップ3は少々ハードルが高い。宮本慎也は408個(2162試合)。平野謙は451個(1683試合)。川相昌弘は533個(1909試合)とずば抜けている。今宮健太は1056試合で299個。これだけみたら今宮は十分健闘しているし、トップ3に食い込む可能性もあると期待してしまう。

明日への送りバント

明日への送りバント

 

 

1月に日経新聞記事、実は手堅くない送りバント損益分岐点」は打率1割、を読んだ。ざっくり言えば1割3分より打たないバッターでないと、強攻した方がお得ではないかという話。損益分岐点という表現、考え方がいかにも日経のコンテンツだなと思った。それで言えば今宮健太の通算打率は.248。お得ではない。ちなみに宮本慎也は.282。新井宏昌に至っては.291だから二人とも十分打てた。そう、送りバントの醍醐味は確率ではない。作戦なり流れを楽しむものだと私は思う。

今宮より手前の打者が出塁する。そこへバントの上手な今宮が登場。難なく送ってチャンスを拡大。さぁ得点を期待して応援だ。そういう流れ。決めるべき人が送りバントを決めた時の満足感。間違いないという今宮健太のブランド。それを楽しむ。ただただ勝った負けたと結果を追う人には理解不能だろう。大砲をズラリ並べてドンパチやるだけが野球ではない。2000安打達成者ばかりが野球選手ではない。小技がうまい選手にも光が当たる。それが野球の素晴らしさである。川相昌弘平野謙田中浩康らが上位に名を連ねる通算犠打記録は野球バカにはたまらない。

バント完全マスター―究めれば大きな武器に!

バント完全マスター―究めれば大きな武器に!

 

 

そしてここでちゃぶ台返しをするのだが、そんな今宮健太の2019年ハイライトはご存じ西武とのCSファイナルステージ第4戦。3本のホームランで西武に引導を渡したのだった。小技がうまい。守備もうまい。そんな今宮も高校時代からパンチ力あったよなと思い起こさせる大活躍。じゃあやっぱり犠打じゃなくて打てばいいんじゃない?という話になりそうだが、今宮健太には送りバントや守備からチームをもり立ててもらいたい。それが今宮健太の特性だから。控えめだけれども個性で組織に貢献する。通算犠打記録は日本全国の裏方たちに勇気を与えてくれている。なお、通算犠打現役2位の細川亨は296個と今宮健太と3個差ながら出場は限定的。現役3位の菊池涼介が278個とわずか12個差に迫っている。今宮健太には何とか現役1位の座をキープし続けてホークスファンを楽しませてもらいたい。

野球がしたい~持ち場を2年離れたソフトバンク・サファテ

「監督から『4回を投げてくれ』と言われれば投げるし、『9回で』と言われれば投げる」
西日本スポーツ記事、ソフトバンク・サファテ「野球がしたい」キャンプ初日から参加、を読んでグッと来た。あの絶対的守護神のサファテが、4回でも投げたいと言っている。2年間のブランクが言わせたのか。2年。長いようで短い。短いようで長い。2年間、思うように動けなかったサファテの気持ちが私には少し分かる。

サファテは2017年にプロ野球新記録の54セーブを挙げた。MVPも獲った。そこから一転、2シーズンはけがで十分働くことができなかった。サファテが戦線を離脱している間に、10歳下の弟分の森唯斗は新守護神の座を確立。サファテが戻って十分働けたとしても、森唯斗と競わねばならない。サファテが通算250セーブに迫るほどの実績があっても、顔だけでは守護神は務まらない。ましてやほぼ2シーズン、実戦から遠ざかっている。感覚を取り戻すまでしばらくかかるだろう。

キャンプ初日から合流するのは、とにかく野球がしたい気持ちからだろう。4回でも投げたいというのは偽らざる心境だろう。失ってみて初めて分かる。当たり前のように働いてきたポジションがいかにかけがえのないものだったかということが。代わりのきかないものだったかということが。だからこそサファテは必死で守護神の座を奪い返しにくるだろう。選手を年齢で判断するとイチローに怒られそうだが、サファテは38歳。プロ野球選手の年齢としては高齢である。そろそろ終活の季節だ。最後にもう一度やりきりたい。そう思うのは当たり前だ。

前のめりになるのはいいのだが、それが空回りしてけがする人もいる。サファテは特に故障明けだから無理はしてほしくない。よくも悪くもサファテは入れ込んでしまうから気をつけてもらいたい。思えばソフトバンクの3年連続日本シリーズ制覇の初年度、サファテは勝負を決めた第6戦の9回から11回まで投げた。内川聖一が9回に山崎康晃から放った起死回生の同点弾を無駄にはしなかった。負けても第7戦があったのだが、第6戦をソフトバンクが落としていたらDeNAが逆王手をかけていたわけで、サファテのイニングまたぎは2017年日本シリーズの、ある意味ハイライトだった。決着は、われらが川島慶三大先生がサヨナラタイムリーを打ってつけるのだが。

サファテがいなくても確かにソフトバンク日本シリーズ3連覇を果たした。しかしそれはリーグ3連覇ではない。この2シーズンは西武に連覇を許している。最後の最後で獅子に蹴落とされる。2019年シーズンはけが人が続出しながらよくやったとも思えるが、サファテがいれば救援陣もそこまでバタバタせずに済んだ気がする。もっとも、サファテがいたら起用をめぐって森との兼ね合いが難しかったとは思うが。森の躍進はサファテがいない間の最大の収穫。サファテが復帰した時、サファテにとって森が最大の壁になるのは皮肉にも思う。

しかしそこはプロの世界。「一番状態のいい人が投げられる場所だから」。西日本スポーツ記事で森がそう話していた。そう、サファテも森も実績があるならあとは状態の良し悪ししかない。サファテにはまずは良いコンディションでマウンドに立ってもらいたい。森とサファテがガチンコの守護神争いを繰り広げられれば、おのずとソフトバンクのペナント奪回が近づく。春先はオリンピック予選でモイネロが不在の可能性も。サファテ復帰で救援陣がどう再編されるのか、興味深く見ていこう。

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セレンディピティーの機会はだれにもある~ノーベル賞吉野彰さんに学ぶ

ある偶然をきっかけに幸運を手に入れる能力や才能。セレンディピティーという言葉を、日経新聞1月16日付で見つけた。旭化成名誉フェローの吉野彰さんのノーベル賞受賞記念座談会を、ジャーナリストの池上彰さん、島津製作所シニアフェローの田中耕一さんとの3人で行った記事だった。

 

 

セレンディピティーが出てきたのは、吉野さんが「セレンディピティーの機会はだれにも均等にあると思います」と言ったくだりだった。スマホが一人1台と言ってもよいくらいの今日、世の中は情報にあふれている。目にする情報の量が同じだったとしても、それを有効に活用できるかは本人次第。吉野さんはこう続けた。「問題意識を持っている人が検知できる」。

リチウムイオン電池が未来を拓く (エレクトロニクス)

リチウムイオン電池が未来を拓く (エレクトロニクス)

  • 作者:吉野 彰
  • 出版社/メーカー: シーエムシー
  • 発売日: 2016/10/05
  • メディア: 単行本
 

 

 

2016年からスポーツブログを書き続けてきて、何度目かの壁にぶち当たっている。ネタが思い付かない。もともとプロ野球中心の構成だから、シーズンオフにネタに困るのは当たり前ではある。しかし、それ以前。明らかに情報への感度が鈍っている。インプットの量も足りていない。そして感動する場面が減っている。悪い傾向だ。

 

だからこそ、吉野さんが言われた言葉が身にしみた。セレンディピティーの機会はだれにも均等にある。もっと物を見る目を、感動する心を高めないとじり貧だ。きょうは20日だから16日付の日経新聞を見てうわぁと感激するのもどうかなとは思う。しかし綴じているのをめくってみたからこそ、吉野さんの一言にたどり着けた。やはり、めくらねばならない。それは義務でも何でもない。ただ「しびれたい」から、感動、感激したいから。自分をアップデートしたいから。昨日の自分を超えるきっかけは新聞に限らずいろんな記事に埋もれている。まずは根気よくセレンディピティーを生かす機会を探るようにしよう。

野球殿堂入り田淵幸一を支えた順応力~ホームランアーティストの美学と力学を読んで

2020年に野球殿堂入りする方々が発表された。元慶大監督の故前田祐吉氏、元早大監督の故石井連蔵氏、そしてホームランアーティストの田淵幸一氏(以下敬称略)だ。慶応、早稲田、そして法政。六大学野球ファンにとっては伝統と実力を誇りたくなる表彰となった。

若き日の誇り ~法政大学野球部黄金時代~ 松永怜一、田淵幸一、山本浩二、山中正竹

若き日の誇り ~法政大学野球部黄金時代~ 松永怜一、田淵幸一、山本浩二、山中正竹

 

 

タイミングよく、田淵幸一の本を読んでいた。12月に買った「ホームランアーティストの美学と力学」(ベースボール・マガジン新書)だ。タイトル通り、思い出のホームランを中心に田淵の足跡をたどることができる。

田淵が放ったホームランは実に474本。2019年シーズン終了時で歴代11位。現役では中村剛也の415本(同16位)が最高だ。400本以上となると、それなりにこだわらなければ到達しない数字である。

そんな田淵だから最初からガンガン打てたのかと思っていたが、プロ初打席は何とすべて見逃しの3球三振。相手は平松政次だった。学生時代とは球速が違う。ここで田淵がしたことは「グリップを下げる」。そのまま振りだせる位置にしたのだそうだ。

田淵は法政大学時代、長嶋茂雄広野功の持っていた通算ホームラン記録(8本)を塗り替えた。大幅更新して22本まで伸ばした。それはやがて高橋由伸に抜かれるのだが、学生時代に結果を残したバッティングフォームというものはあったはずだ。

それをプロ入り後すぐ変えることに躊躇しなかったのがすごい。いや、平松のストレートを見て変えねばと思うしかなかったのか。だとしても即断即決即実行をしたことがプロでの結果をもたらした。まさに英断。早くもプロ4打席目で初ホームランを放ち、1年目は結局22本。新人王にも輝いた。

田淵の順応力は西武に移籍してからも感じられた。あの有名な深夜のトレード通告。自宅を出てホテルに向かったのは午前1時過ぎだったと本に書いてあった。阪神生え抜きのスター選手が深夜にトレードを通告される。今なら、いや、当時としてもとんでもない話だ。これで腐るなという方が無理。気持ちを入れ換え西武に合流したものの、初年度は指名打者が多かったことも影響し「27本塁打に終わった」(何という贅沢な言葉遣い……)。その後もケガあり、合わない広岡達朗監督の登場ありと、田淵には我慢の場面が続いた。田淵を支えたのは優勝の味だった。

ついに田淵はホームランを捨てるという境地にすら立った。1982年、日本ハムとの後期プレーオフ。かつて黄金バッテリーを組んだ盟友・江夏豊がマウンドに立つ中、西武の田淵は1点ビハインドの8回の打席でつなぎのバッティングに徹してヒットを放った。一塁にランナーがいたため三塁に返球される間に田淵は二塁を陥れる。そして満塁からは大田のタイムリーで二塁から逆転のホームイン。ホームランに関する描写はないのだが、この本で一番こころに残るくだりだった。

中年・田淵くんの逆襲

中年・田淵くんの逆襲

 

 

ミスタータイガースとも言われた田淵幸一阪神を出たことは不幸だなとずっと思っていた。もちろん阪神一筋で現役を終えることができたならばそれはそれで幸せだったかもしれない。しかし西武で苦労しながらも新しい打撃の型や活躍の場を手に入れられたのも事実。西武で打倒巨人を果たしたからこそ正力松太郎賞にも輝けた。「西武に来て本当によかった」。本に書いた言葉は素直な気持ちだろう。西武で結果を残すためには……田淵は田淵なりに必死で西武ライオンズという新しい環境に順応していった。それが好結果につながったのではなかろうか。

言うは易し、行うは難し。やらなきゃいけないな、と思うことをすぐやっていたら、結果は変わっていたのだろうか。今さらながら胸に手を当ててみる。変化するのは苦手だから、田淵のように瞬時にフォームを変えるのは躊躇してしまう。順応力があればな、といつも思う。それだけに今回田淵の本を読んで、うまくいかない時はそこでやれる限りのことをやるしかないのだな、とあらためて思った。そういう環境をまず受け入れるしかないのだな、と。田淵は代打要員でいいから巨人行きてぇなぁ的な心境の時もあったそうだが、そのモヤモヤを吹き飛ばしたのはやっぱりホームランだった(南海戦での代打逆転ツーラン)。「ホームランアーティストの美学と力学」、今何となくモヤモヤしている方にはおすすめです。ぜひご一読ください!

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貪欲に教えを請う~ソフトバンク甲斐拓也がヤクルト嶋基宏と合同トレーニング

ソフトバンク】甲斐、9日からヤクルト嶋と合同自主トレ「1日中ずっといる」、というスポーツ報知記事を読んだ。他チームのキャッチャーと一緒のトレーニング。ひと昔前なら考えられないことではないか。まあ、嶋も楽天からヤクルト、つまりパ・リーグからセ・リーグに移ったからできたことだよなと思ったら何と2回目だった。前回はまだ「楽天の嶋」だった。同一リーグのキャッチャー同士が一緒にトレーニングをする。いちいち目くじらを立てる行為は古いのかもしれない。

筆者は是非を聞かれたら「あり」だ。合同トレーニングとはいえ実質、甲斐が嶋に弟子入りしているようなものだ。球場入りから食事、野球談義まで、学びたい人の側にずっといる。それができるのはものすごく恵まれている。甲斐は代名詞でもある強肩が売りだが、2019年は打撃が向上。それでついに1億円プレーヤーになれたのだが、もう一皮むけるとしたらリードやリーダーシップだろう。嶋は経験豊富であり、楽天の顔でもあった。甲斐が弟子入りを望むのもうなずける。他チームのキャッチャーに学ぶ是非はあろうが、私は貪欲に教えを請う甲斐の姿勢には好感を持った。

嶋は嶋で、悪い気もしないだろう。甲斐からのラブコールは自分の存在意義を再認識させてくれたのではないか。自分を慕うキャッチャーに果たしてどのくらい、どのように教えるのか。手取り足取りは教えず見て学ばせるのか。もちろんまだまだ現役だから手の内を全て明かす訳にもいくまい。嶋がどんな塩梅で甲斐に接するのかは興味深い。

また、嶋にもメリットはあると思う。伸び盛りのキャッチャーがすぐ側にいるのだ。すごくいい刺激になるのではないか。甲斐は甲斐で。嶋は嶋で。二人のキャッチャーの合同トレーニングは2020年シーズンにどう影響するのか。楽しみにしていよう。

我が道を行き結果を出す~箱根駅伝、創価大の嶋津ミズノ履きヴェイパーフライ封じ

創価大9位初シード 嶋津、ヴェイパー無双阻止!ミズノ社製シューズで区間新」というデイリースポーツ記事の見出しについ指が伸びた。箱根駅伝を席巻したヴェイパーフライに注目が集まる中で、それではない靴で結果を出した創価大学の嶋津雄大、何てカッコいいんだキミは。

創価大学駅伝部 箱根への道2020

創価大学駅伝部 箱根への道2020

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 潮出版社
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

高校駅伝ニューイヤー駅伝、そして箱根駅伝。ピンクやらオレンジのシューズが目立った駅伝シーズン。ナイキのヴェイパーフライが大注目だ。天候に恵まれたとはいえ、これだけ好記録が続出したらシューズ効果と見るのは当然。そんな中で創価大学の嶋津はミズノ製シューズで区間新。最終10区の記録更新は13年ぶりとか。いかに嶋津の記録がすごいかが分かる。

デイリーの記事が面白かったのは嶋津がライトノベル小説を書いていることに注目した点。つい先日、陸上競技異世界をテーマにした作品を書き上げたと紹介していた。何それ!面白そう……。何せ現役ランナーだからなぁ。記事によれば、目標設定用紙に「自分がシード圏内でゴールテープを切る瞬間までを物語に仕立てて」提出。嶋津は実際、9位でゴールしたので記事にある通り「ノンフィクション」になった。面白いエピソードだ。

箱根駅伝 ナイン・ストーリーズ (文春文庫)

箱根駅伝 ナイン・ストーリーズ (文春文庫)

 

 

嶋津は網膜色素変性症だという。初めて聞いたが「暗いと見えづらい」ため、練習に支障をきたしてしまう。それで嶋津はどうしたのか。何と高校時代には電気のついた廊下を走ったのだという。しかも何十往復も。単調な練習をしたこともすごいなと思うが、それをやろうという執念に胸を打たれる。

あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド2020 (ぴあ MOOK)

あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド2020 (ぴあ MOOK)

  • 作者:EKIDENNEWS
  • 出版社/メーカー: ぴあ
  • 発売日: 2019/11/26
  • メディア: ムック
 

 

病と言えば5区を走った日体大の藤本珠輝は全身脱毛症という。初めて見た時は今時ハチマキなんて古風だなと思ったが、これはウィッグを止める工夫だった。実況のアナウンサーがそれを披露した時は、とんでもない個人情報の暴露と思ってしまったが、暴露も何も藤本は病を公表していた。自分が頑張ることで勇気を与える。その思いは箱根駅伝での力走で十分伝わったことだろう。

少しでもタイムや勝利にこだわろうと道具を積極的に求める姿勢は素晴らしいと先日記事を書いたが、嶋津のように我が道を行き結果を出すのもカッコいい。ヴェイパーフライ旋風が吹き荒れた第96回箱根駅伝だったが、ミズノのシューズで区間新。厚底シューズの記事が目立つ中で嶋津に注目したデイリーのファインプレーもよかった。わが黒柴スポーツ新聞も、アクセスをいただく工夫は世間並みにこだわりつつ、個性を大切に書いていこう。

回数に縛られない~ライオンズの生き証人、東尾修「ケンカ投法」を読んで

練習でも何でも、何回やろうと目標を作るタイプだ。しかし回数じゃないんだ、とバッサリやられた。東尾修著「ケンカ投法」(ベースボール・マガジン新書)に書いてあった。何球投げるかということが大事ではない。肝心なのは中身だ、という。

ケンカ投法 (ベースボール・マガジン社新書)

ケンカ投法 (ベースボール・マガジン社新書)

 

 

投げる下半身は傾斜のあるマウンドでつくるのが持論だという。走れ走れという論は金田正一鈴木啓示が知られているが、東尾修いわく、ランニングはあくまでも準備。いくら走っても、投げる下半身はできないのだそうだ。仕事に置き換えたら、OJTと言えようか。基礎体力と実技込みの体力は違う。そこは何となく分かる気がする。

投げたらアカン!―わが友・わが人生訓

投げたらアカン!―わが友・わが人生訓

  • 作者:鈴木 啓示
  • 出版社/メーカー: 恒文社
  • 発売日: 1985/04
  • メディア: 新書
 

 

東尾修は毎日ブルペン入りした。でもガンガン投げてばかりではない。そこは体調、コンディションを見た上で。調子がよければどんどん投げる。その結果投げ込みができて、結果的に何球投げたというのであれば回数に意味があるというものだ。なるほど。先日読んだ山本昌著「133キロ怪速球」(ベースボール・マガジン新書)の回でも書いたが、立てた目標の消化の仕方や、回数に縛られないといった考え方はこの正月新しい発見だった。継続することや柔軟な思考の大切さを意識しよう。

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「ケンカ投法」でもう1カ所、印象的に残ったのは「配球」について。配球を云々できるのはそこに投げきれる人。投げられない人は投げたい球を投げればいい、という直球の論にはギャフンと言わされた。超一流にも配球は関係がない。きっちり四隅に投げれば打たれないから、という理由にも唸った。やっぱり一流はすごい。

私の真実―わが悔いなき野球人生

私の真実―わが悔いなき野球人生

 

 

コントロールに自信があった東尾修をして通算成績は251勝247敗。勝ち越しはわずか4だ。本にも書いてあるが、東尾の在籍した西鉄ライオンズは栄光からどん底に落ちた頃。黒い霧事件の余波で東尾はまさにOJT、投げながら打たれながら育った。「ケンカ投法」の巻末に年度別成績が掲載されているが、リーグ最多被安打が7回。リーグ最多失点6回。リーグ最多敗戦が5回。その多くは西鉄、太平洋、クラウン時代だ。西武ライオンズで200勝に到達した時点では214敗していた。引退の年でさえ5完投していたのはびっくり。時代が違うとはいえ、実戦で鍛えられた東尾修はすごいなとあらためて思わされた。マニアはこの見開き2ページだけでも楽しめる。

しのぎを削った門田博光落合博満、デービス事件の背景、広岡達朗監督との確執や引退の引き金……箕島高校時代から面白いエピソードが満載。ちょうど今年はライオンズ命名70年だ。西鉄ライオンズから西武ライオンズ黄金期までを知る生き証人の東尾修を通じて、ライオンズの歴史もなぞれるお得な一冊だった。ライオンズファン、コアなプロ野球ファンにもおすすめ。機会があればぜひ手に取ってみてください。

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まずは履いてみる~第96回箱根駅伝でヴェイパーフライ旋風

ヴェイパーフライ。箱根駅伝で話題沸騰となり、初めて知った。高校駅伝でピンクのシューズがやたら多いなと思っていたが、箱根駅伝でもピンクのやらオレンジのやら。2020年の箱根駅伝往路は高速レースだったが、このナイキの厚底シューズがよい成果につながったのかもしれない。Amazonで探してみましたが、あっているだろうか?

シューズの詳しい機能は専門家や製造元におまかせするとして、ランナーでもない筆者は思う。シューズの機能は素晴らしいのだろうが、まずは履いてみようという姿勢がいい。1足3万円らしいが、相場が分からないので高いとも安いとも言えない。庶民の感覚では安くない。だが、これがトレンドならば、学生ランナーたちがこぞって履くのはあり。いや、むしろそうあるべきだと思う。かくいう筆者にはそういう執念が足りない反省があるからだ。昔から変なところで意固地。みんなが取り入れるならば取り入れない。本心はみんなと同じであることにものすごく心地よさを感じるくせに、だ。何でも試してみる。それで自分に合っていたら取り入れたらいいだけなのに。草野球をやっていた時もそうだ。ビヨンドマックスというカーボン素材を生かしたバットが登場した時は、チームで早速取り入れた。しかしそれに頼るのもね、と筆者は使わなかった。そういうところだ。打てない、飛ばない人だからこそ道具を上手に使えばよかったのに。箱根駅伝に出るくらいだから、出場するランナーはヴェイパーフライを履かなくても、自分の力を発揮することができればよい成績を残すと思う。だが道具を上手に使えばさらによい成果が出せるかもしれない。そう、ヴェイパーフライを履くという行為は勝つためにはどんなことも妥協しない、という意思の一つの表れに違いない。電子マネーもアプリも。話題になったものを敬遠してしまう傾向は依然として消えない筆者。ランナーではないからヴェイパーフライを買うことはなさそうだが、流行りに飛び付くという意味ではなく何かを成し遂げたい、そう欲する場面では妥協せず道具を求めていこうかなと切り替えてみよう。ナイキのシューズが大盛り上がりしているのを、アシックスやミズノ、アディダスなど他のメーカー担当者はどんな気分で見ていただろうか。モノ系で見るもう一つの箱根駅伝も非常に興味深い。

箱根駅伝、新興勢力と伝統校~青山学院大を追った東京国際大

第96回箱根駅伝が1月2日に行われ、青山学院大学が3年ぶり4度目の往路優勝に輝いた。青学の地力の強さを感じた大会だったが、黒柴スポーツ新聞的には2位の国学院大学にも、3位の東京国際大学にも注目した。この2校で箱根を走ろう、勝とう、という志が素晴らしいからだ。

 

筆者は伝統とか名門に力強さを感じるタイプ。歴史は一朝一夕では作れない。だからこその価値を感じる。もし幸運にもたぐいまれな脚力を授かっていたら、箱根駅伝の常連校に入ることで箱根駅伝を目指していたと思う。また実際そうしている人もたくさんいる。

箱根駅伝出場校や優勝校はひと昔前から様変わりした感がある。筆者が箱根駅伝にハマりだしたころは山梨学院やら早稲田、順天堂大学が強かったし、神奈川大学駒沢大学の時代もあった。近年は青山学院大学東洋大学などが牽引した。帝京大学上武大学なども定着した。しかしもはや毎年言われる気もするが戦国時代の様相で、山梨学院も上武大学も今回は出られなかった。名前だけで箱根駅伝には出られない。

箱根駅伝公式ガイドブック2020 2020年 01 月号 [雑誌]: 月刊陸上競技 増刊

箱根駅伝公式ガイドブック2020 2020年 01 月号 [雑誌]: 月刊陸上競技 増刊

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/12/20
  • メディア: 雑誌
 

 

とはいえ伝統校にはノウハウやら経験があるから新興大学よりは若干有利だと思う。その意味では東京国際大学が伝統校を抑えて一時首位を走ったことは本当に素晴らしい。そして筆者はあることを思い出した。そういえば東京国際大学の選手、前に見たなあ、と。2017年の関東学生連合で幻の区間賞だった照井明人選手(当時4年)だ。

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当時の記事でも書いたが学生連合の選手には貴重な経験を出身大学に持ち帰るという、もう一つの重要なミッションがある。規定により照井選手には区間賞が与えられなかったが、箱根駅伝の貴重な経験を後輩たちに託すことができた(東京国際大学箱根駅伝初出場自体は照井選手が3年の2016年)。あの「東京国際大」というユニホームの文字をアピールしながらゴールした場面は、これから歴史を作ってくれよという先輩からのエールに思えた。

東京国際大学 (2020年版大学入試シリーズ)

東京国際大学 (2020年版大学入試シリーズ)

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 教学社
  • 発売日: 2019/08/28
  • メディア: 単行本
 

 

そうした先輩たちの思いに後輩たちは見事に応え、2020年の大会は予選会トップ通過で参加決定。からの本戦3位だから関係者も学生たちも本当にうれしかっただろう。往路最終5区では一時4位に後退したが、4年の山瀬が驚異の粘り。ゴール前で東海大学を抜き返した。何という根性。正月からいいものを見せてもらった。 

あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド2020 (ぴあ MOOK)

あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド2020 (ぴあ MOOK)

  • 作者:EKIDENNEWS
  • 出版社/メーカー: ぴあ
  • 発売日: 2019/11/26
  • メディア: ムック
 

 

箱根駅伝のテレビ中継や東京国際大学のWebサイトによれば、部員3人からのスタート。箱根駅伝を目指すだなんて、笑う人さえいたかもしれない。箱根駅伝目指すなら実績ある大学だろう、と。しかし新興勢力には歴史を作るという楽しさがあったことだろう。伝統をつむぐにはつむぐなりのプレッシャーがあり、やりがいがあることだろう。どちらが優れているとかいいとは言わない。ただ、歴史は自分たちで作るんだという気概は見ていて気持ちのよいものだな、と思った。それは新興勢力がチャレンジャーである時期ならではの感動なのだけれども。

箱根駅伝ガイド決定版 2020 (YOMIURI SPECIAL 127)

箱根駅伝ガイド決定版 2020 (YOMIURI SPECIAL 127)

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 読売新聞社
  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: ムック
 

 

予選会で危うく出場権を失いかけた早稲田がきっちり10位以内に入ったのはさすが。こういう伝統校の粘りも素晴らしい。筆者の母校、法政大学は1区から最下位と苦しかったが山のスペシャリスト青木の踏ん張りで16位まで盛り返した。往路を制した青山学院大学の優勢は間違いないが東京国際大学がどこまで粘れるか。昨年覇者の東海大学はどこまで巻き返せるか。2位国学院大学、3位東京国際大学、4位東海大学まで往路新記録というスピードレースだったが、新興勢力も伝統校も復路で、日頃の練習の成果を十分発揮してもらいたい。

 

あわせて読みたい第95回箱根駅伝関連記事はこちら。

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続かない苦しい努力はしない~中日・山本昌「133キロ怪速球」を読んで

2020年は読書に力を入れよう、そう考えている。年末にいくつか読み、元日も続きを読んだ。読み終えたのはこれ、山本昌著「133キロ怪速球」(ベースボール・マガジン新書)。私はソフトバンクファンだから元日から山本昌じゃなくても、とも思ったが、なかなかためになるくだりがあった。読書イヤーとしては幸先いい。

133キロ怪速球 (ベースボール・マガジン社新書)

133キロ怪速球 (ベースボール・マガジン社新書)

 

本の中で山本昌は、自分は特別の才能の持ち主ではないと表現し続けていた。本の最後にもそう書いていた。名球会入りしているし、ノーヒットノーラン(しかも史上最年長)達成者でもある。最多勝3回、最優秀防御率沢村賞にも輝いた。特別な人でしょ、と今でも思う。しかし「133キロ怪速球」を読むと、数々の運や縁を大切にし、ひたむきに野球を続けてきたからこその成績だということが分かった。

レジェンドの軌跡 山本昌の32年

レジェンドの軌跡 山本昌の32年

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 中日新聞社
  • 発売日: 2015/11/20
  • メディア: 雑誌
 

また、山本昌は10.8の当事者でもあり(登板機会はなかったが)、その内幕にも触れている。その日は巨人が勝ったので巨人が優位だったと思いがちだが、巨人の投手のやりくりは厳しかったこと、そして中日は勝つムードがあったと書いてあった。10.8については鷲田康著「10・8 巨人VS.中日 史上最高の決戦」が詳しいが、今回山本昌の証言も興味深く読めた。

10・8 巨人vs.中日 史上最高の決戦 (文春文庫)

10・8 巨人vs.中日 史上最高の決戦 (文春文庫)

 

「133キロ怪速球」は七つの章から成っている。一番面白く読んだのは選手時代のエピソード以上に第7章の「正しい努力の方法」。本の帯に「小さな努力をコツコツと」と書かれていることに後から気が付いたが、そういうことが書いてある。中でも「続かない苦しい努力はしない」という小見出しが印象的だった。こういう考え方もあるんだな、と勉強になった。努力を続けるのにもコツがある。やるかやらないか、じゃなくて、続けてやるにはノルマを減らしてでもやる、でもそうする代わりに続けるのだ、と書いてあった。山本昌は人に誇れる才能があるとするなら「継続力」なのだそうだ。

継続する心

継続する心

  • 作者:山本 昌
  • 出版社/メーカー: 青志社
  • 発売日: 2019/03/22
  • メディア: 新書
 

第7章ではライバルの存在にも触れている。初登板ノーヒットノーランの近藤真一、エース今中慎二山本昌に刺激を与えた二人のピッチャーの存在は興味深かった。刺激を与える、与えられる。そんな関係の人がいるのは素晴らしいと思う。

悔いは、あります。

悔いは、あります。

 

というわけで、山本昌に興味がある方、努力について考えてみたい方にはおすすめです。どこかで見つけたら手に取ってみてください。それでは、2020年も黒柴スポーツ新聞をどうぞよろしくお願いいたします。

2019年ホークスコラムで一番シェアされた選手は?~意外、でも納得のあの人が1位

いろんなメディアが1年を振り返る企画をやっている。それにつられるわけでもないのだが、記録もかねてやっておこうかなと思った。果たしてこのブログ「黒柴スポーツ新聞」で2019年最もシェアされた記事は何なのか? そして読者のあなたがシェアしてくださった記事はランクインしているのか……

 

主にソフトバンクの選手や戦術、試合結果について2019年シーズン中に書いたブログ記事は110本だった。我ながらよく書いたなと思うが、その興奮や感動、落胆まで共有できたらとホークスファンの皆さんが集うコミュニティーにも記事を投稿させていただいている。その結果、たくさんシェアしていただけた。ブログはどうしても独善的になる懸念があるため、評価を今後に生かす狙いもある。では、いったいどんな記事が目の肥えたホークスファンに受けたのか。シェアの数をチェックしてみた。

【第5位】長谷川勇也の回、82シェア

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ベテラン長谷川勇也は2019年なかなか1軍に定着できなかった。しかし昇格の都度しっかり結果は残した印象。コアなファンはいるのでこの黒柴スポーツ新聞で取り上げると、たくさんのシェアを獲得している模様。2020年はバレンティンが加入し長谷川は若手とも助っ人たちとも競争しなければならないが、変わらずいぶし銀の活躍をしてもらいたい。

 

【第4位】平石洋介の回、85シェア

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2019年に楽天を率いた平石洋介が退団したのだが、ソフトバンクが手を差しのべた。最下位からクライマックスシリーズ進出を決めただけに監督として力を発揮するのはこれからという時。しかし楽天三木肇を1軍監督に据えた。だが捨てる神あれば拾う神あり。シーズンオフはFAなど選手の動向に目が行きがちだが平石に着目したソフトバンクはしたたかだ。この記事がシェアされたのはその辺りと、平石への同情票、そして応援票があると見た。

 

【第3位】高谷裕亮の回、90シェア

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高谷が日本一の胴上げキャッチャーたりえたのは抜群の安定感があるからこそ。高谷がいるからこそ、ここ一番では思いきって甲斐に代打が出せるメリットもある。頼れるキャッチャー高谷の評価はもっと高くていいんじゃない?と一石を投じてみた。このあと契約更改した甲斐は1億円を突破。高谷は3分の1だが出場試合数が違うから仕方ないか。それでもこのシェア数を獲得したのはひとえに高谷の人柄、存在感からくるものと思う。

 

【第2位】川島慶三の回、104シェア

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出ました、黒柴スポーツ新聞編集局長イチオシの川島慶三。スタメン起用されたらradikoにかじりついて聞きたくなる元気玉左キラーとして重宝され、しぶとく選ぶ四球はまさに芸術品。今何をやるべきかが分かっている選手。バレンティンの移籍に際しては背番号4を譲る男気も。2019年たった2つの3桁シェアの一人が川島慶三なのはコアな読者がホークスファンである何よりの証拠。

 

【第1位】牧原大成の回、118シェア

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何と1位が牧原。これは正直、筆者も予想せず。しかし声を大にして言いたい。2019年、けが人、離脱が相次いだホークスが優勝争いできたことに関して、牧原大成が内外野、献身的に頑張った功績は大きい。たぶんホークスファンはそれが分かっている。一番バッターとしては物足りない面があったが、西武戦で見せたあの外崎のライナーに食らいついた場面は本当にしびれた。果たして牧原は2020年、どういう形で試合に出るのか。さらなる活躍を期待したい。

 

というわけで第1位は牧原大成だったが、まあ松田宣浩はいないわ、内川聖一もいないわ、千賀もいないわで渋いメンバーがシェア数上位を独占した。筆者が好んで渋い選手にフォーカスしている面もあるが、スター選手ばかりでなく控えも含めて素晴らしい選手が持ち味を発揮しているからこそ、ホークスが日本シリーズ3連覇しているとも言える。2020年もホークスを応援しながら毎日楽しく過ごせたらと思う。2020年も黒柴スポーツ新聞への応援をどうぞよろしくお願いいたします。

伝統とファンサービス~ソフトバンク内川聖一がユニホームで持論

ソフトバンク内川が球団に提言 花盛り「特別ユニホーム」に一石、という西日本スポーツ記事を興味深く読んだ。ファンサービスの重要性は認識しつつ、年に1度クラスの地方球場ならばそこは普段のユニホームでやる方が子どもたちの心に焼き付くのでは?という持論だ。これを見て、今の黄色を生かしたユニホームも伝統の域に達したなという発見があった。

 

元野球カードコレクターとしては、「限定」とか「復刻」というキーワードにめちゃくちゃ弱い。希少価値に飛び付いてしまうのだ。それがコレクター心理、ファン心理というもの。別に強欲ではない。また、球団も記念ユニホームでしこたま稼ごうとも思ってはおるまい。実際球団が鷹ガールにピンク基調の記念ユニホームを配るなどしており、無料で記念ユニホームをゲットしてきたファンも多い。球団とファンが一体となり盛り上がれる。記念ユニホームは素晴らしいアイテムだと思う。

 

内川聖一とてそこは十分理解している。からの持論。内川自身、少年時代の巨人対ダイエーのオープン戦で見たユニホームが忘れられないという原体験がある。これが強いホークスのユニホームなのだ、と。そう思わせられるほどの自負がある。そういうことではなかろうか。先日見つけたFull-Countの記事の見出しは「強すぎるソフトバンク、優勝5度に勝率5割未満は1度もなし…10年代パ最強チ―ムは」。そう、ソフトバンクのユニホームに強さを感じても当然の成績なのだ。

 

ソフトバンクDeNA楽天と、IT系の親会社を持つ球団もぼつぼつ伝統を意識してもおかしくない年数になってきた。その中でもソフトバンクの成績には安定感がある。つまりファンサービスの一つである「勝利」はしっかり供給してきたのだ。なかなか生で見ることがかなわない地域のファンだからこそ、その目にしっかりと強いホークスのユニホームを焼き付けてほしい。内川聖一が言いたかったのはそういうことだと思う。ソフトバンクにはこれからも、期間限定などで記念ユニホームを上手に活用しながら、強いホークスを印象付けてもらいたい。


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