黒柴スポーツ新聞

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観察眼と解釈が人を高める~野村克也と宮本慎也の共著「師弟」を読んで

日本シリーズでの宮本慎也の解説が深くて印象に残った。宮本慎也の本を読んでみたいと思っていたところ図書館で野村克也宮本慎也による著書「師弟」を発見。借りてきた。

師弟

師弟



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野村克也はもう120冊も本を出していると書いてあった。黒柴スポーツ新聞編集局長もその一部は読んだり持っている。今回もまた小早川毅彦斎藤雅樹から開幕戦で3本のホームランを放ち、宮本慎也は「自衛隊」と呼ばれていた。



じゃあいつもと同じかと思えばそうでもなかった。プロ野球での出来事を交えながらビジネスマンにも役立つ心構えのオンパレード。自己啓発本としてもさらっと読める。



「師弟」というタイトルで分かるが野村克也の考えと宮本慎也の考えが交互に出てくる。八つの章で構成されている。



第一章 プロセス重視
第二章 頭脳は無限
第三章 鈍感は最大の罪
第四章 適材適所
第五章 弱者の兵法
第六章 組織
第七章 人心掌握術
第八章 一流とは




まだまだ宮本慎也野村克也みたいに語れない。師匠と愛弟子だから当たり前だ。野村克也の枠内でしゃべっているように見えた。野村克也としては気持ちいいだろう。こんな優秀な弟子が自分の考えを吸収してくれたのだから。

野村ノート (小学館文庫)

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興味深いのが野村克也宮本慎也の球歴の違い。野村克也京都府の峰山高校という目立たない学校出身。宮本慎也は名門PL学園、そして同志社大学プリンスホテルという伝統と規律の中で育ってきた。共に歩んだヤクルトスワローズというチームが弱者の兵法を採用するのは分かるのだが、宮本慎也ならば特にPLでの経験もあるので強者の兵法と弱者の兵法を両立できる可能性はある。




ちなみに宮本慎也が言うにはいま強者の兵法をやれるのはソフトバンクのみだそうだ。日本一になった日本ハムもどちらかと言えば弱者の兵法。継投だけを見てもやりくり上手なことが分かる。




一方で大型補強が槍玉に上がることについては「できるのであれば、一企業としては当然の危機管理なのだと思います」(162ページ)とわざわざ太字で書いてある。




黒柴スポーツ新聞編集局長も同感。広島の25年ぶり優勝は美談なのだろうが、自前の戦力を育てて勝つまでに25年という年月は妥当なのか。カープファンが納得するならいいが本当のカープファンは怒っていい話である。




野村克也の語りで最も印象的だったのが「やる気のない選手の原因」七つ。


1 能力の割に目標が低い
2 単調な反復を打ち破る手段を持たない
3 限界を感じ、妥協したり、自分の力を限定している
4 成功の経験が少なく、挫折感に支配されている
5 興味、好奇心を抱くきっかけがない
6 疲労
7 意志、自信を持てずにいる



どれか一つという訳ではなくいくつか混ざりあっていることが多いそうだ。実は黒柴スポーツ新聞編集局長も何本もこの指摘の矢が突き刺さった心境。決してやる気がない訳ではないのだが低迷しがちという意味で、一つ一つ丁寧に矢を抜いていこう。




宮本慎也の考え方で面白かったのが「ID野球は究極の自主性野球」。セオリーやデータ重視と思われがちだが野村克也の教え子は考えてプレーしていた。日本シリーズでのピンチで試合展開を考え定位置より前で守った飯田哲也の例は分かりやすかった。引き出しが増えることで考える力が身に付く。そして最終的には自立する。宮本慎也もベンチからの指示は理解しつつも自分で考えてプレーしていた。

週刊 セ・パ誕生60年 29 1992 野村ID野球 勢いに乗ってV  2009年 11/10号 [雑誌]

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もう一つは「普通の人が気づかないようなところ、細かな仕草にこそ、その人の本質が表れる」(207ページ)。この本は2016年4月発行だが、そのシーズンでゴールデングラブ賞に輝くことになる名手に注文をつけていた。




菊池涼介は余裕でアウトになる時でもすぐ投げたがっている。急ぐべきかその必要はないのか、状況を冷静に見極められれば史上最高のセカンドになれると書いた。そう言えば王貞治氏も言っていた。「長嶋さんは送球する時打者走者がどのくらいまで走っているか見えていた。(急ぐべきかそうでもないかの)判断は抜群だった」と。




今宮健太はエラーの時大きく弾いてしまう。バウンドが合ってないと分かれば体を引き気味にするなどして体の近くにボールを落とせると書いた。菊池涼介今宮健太もまだまだ成長の余地があるそうだ。やっぱりプロの視点はすごい。




とにかく「師弟」では宮本慎也の着眼点、目線、観察眼が細かかったりユニーク。観察する力が優れていることは解説を聞いていれば分かるのだが、現役時代から視野が広かったからこそ素晴らしい選手になれたのだろう。立浪和義川崎宗則バレンティン真中満古田敦也石川雅規…。いろんなもの、人を見てそれを分析している。この解釈力は見習いたい。




あとがきに当たる「贈る言葉」で野村克也宮本慎也稲葉篤紀の愛弟子対決を期待していた。稲葉日本ハムVS宮本ヤクルトの日本シリーズなんかめちゃくちゃ面白そう。黒柴スポーツ新聞編集局長も実現を期待しておこう。




きょうの1枚は宮本慎也。2000安打と400犠打両立は宮本慎也だけ。いつか主役になりたいけどなれない脇役だったのが19年間の現役生活につながったという。「小さいときからバントばかりやったり、右方向に打ったりしていたら、プロ野球選手にはなれません」(114ページ)。至言である。
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