回数に縛られない~ライオンズの生き証人、東尾修「ケンカ投法」を読んで
練習でも何でも、何回やろうと目標を作るタイプだ。しかし回数じゃないんだ、とバッサリやられた。東尾修著「ケンカ投法」(ベースボール・マガジン新書)に書いてあった。何球投げるかということが大事ではない。肝心なのは中身だ、という。
投げる下半身は傾斜のあるマウンドでつくるのが持論だという。走れ走れという論は金田正一や鈴木啓示が知られているが、東尾修いわく、ランニングはあくまでも準備。いくら走っても、投げる下半身はできないのだそうだ。仕事に置き換えたら、OJTと言えようか。基礎体力と実技込みの体力は違う。そこは何となく分かる気がする。
東尾修は毎日ブルペン入りした。でもガンガン投げてばかりではない。そこは体調、コンディションを見た上で。調子がよければどんどん投げる。その結果投げ込みができて、結果的に何球投げたというのであれば回数に意味があるというものだ。なるほど。先日読んだ山本昌著「133キロ怪速球」(ベースボール・マガジン新書)の回でも書いたが、立てた目標の消化の仕方や、回数に縛られないといった考え方はこの正月新しい発見だった。継続することや柔軟な思考の大切さを意識しよう。
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「ケンカ投法」でもう1カ所、印象的に残ったのは「配球」について。配球を云々できるのはそこに投げきれる人。投げられない人は投げたい球を投げればいい、という直球の論にはギャフンと言わされた。超一流にも配球は関係がない。きっちり四隅に投げれば打たれないから、という理由にも唸った。やっぱり一流はすごい。
コントロールに自信があった東尾修をして通算成績は251勝247敗。勝ち越しはわずか4だ。本にも書いてあるが、東尾の在籍した西鉄ライオンズは栄光からどん底に落ちた頃。黒い霧事件の余波で東尾はまさにOJT、投げながら打たれながら育った。「ケンカ投法」の巻末に年度別成績が掲載されているが、リーグ最多被安打が7回。リーグ最多失点6回。リーグ最多敗戦が5回。その多くは西鉄、太平洋、クラウン時代だ。西武ライオンズで200勝に到達した時点では214敗していた。引退の年でさえ5完投していたのはびっくり。時代が違うとはいえ、実戦で鍛えられた東尾修はすごいなとあらためて思わされた。マニアはこの見開き2ページだけでも楽しめる。
しのぎを削った門田博光や落合博満、デービス事件の背景、広岡達朗監督との確執や引退の引き金……箕島高校時代から面白いエピソードが満載。ちょうど今年はライオンズ命名70年だ。西鉄ライオンズから西武ライオンズ黄金期までを知る生き証人の東尾修を通じて、ライオンズの歴史もなぞれるお得な一冊だった。ライオンズファン、コアなプロ野球ファンにもおすすめ。機会があればぜひ手に取ってみてください。
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