黒柴スポーツ新聞

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メッツで輝け千賀滉大〜言葉よりもプレーで語れ

千賀滉大の密着番組「最後の下剋上」がなかなか面白かった‥と書こうとしたら、ん? 何かおかしなことになってるぞ。思い当たる節はある。「勝っても負けても感情が揺るがなくなった」と「無」の境地だったことを車内インタビューで言っていたのだ。

2022シーズンのホークス戦全試合を追いかけた私としては確かに「え?」と思った。そりゃないぜと。勝っても負けても、それ以上でもそれ以下でもないとは‥勝ったらファンと喜びを分かち合い、負けたらファンと共に悔しさを噛みしめる。そうあってほしい。当然千賀も言っていた。「(感情が揺るがないなんて)良くないことだ」と。だからこそ早くいなくならなければいけないとも思ったのだ。

このドキュメンタリーは1年間の密着だという。記者経験のある私が見ても、「無」発言は千賀の内面がよく表現されていて、特番に編集する上では欠かせない発言だと思った。だが密着した人や親しいチームメイトは千賀のことを理解しているから、感情が揺るがなくなったという意味合い(あくまでも千賀の内面で一喜一憂しなくなった)は分かるのだろうが、一般の人からしたら「何か自分のことしか考えてないな」と思われてしまったのだろう。すでに削除されたらしいが千賀はTwitterで釈明。そうしたくなったのは真意を伝えたいという千賀の真面目さを物語るのだが、逆効果になった面も否めなかった。

そう、言葉で気持ちを100%伝えるのは難しい。とらえ方は何通りもあるのだ。「それは伝わんないよ」と言われたら、それはやめる。周防正行監督の言葉だと新聞に載っていた。どっちが良い悪いではなく伝わらなかった事実が重要なのだ、と解説文に書いてあった。言葉を生業にする者としてはいま一度肝に銘じるべき言葉だと思った。

千賀は球団関係者を交えてInstagramでライブをやり、ありがたいことに盟友の甲斐拓也も出てくれた。甲斐は、みんなに理解してもらうのは無理であるとか、みんな千賀の気持ちは分かってるってと千賀を励ましていた。素晴らしいバッテリーである。「絶対戻ってくるなよ」とも言っていた。本当はずっとバッテリーを組みたいに決まっている。しかし千賀が帰ってくるということは必ずしもメジャーで成功したことを意味しない。むしろうまくいかなかった結果だろう。そんな形ではバッテリー組まないからな。甲斐拓也流の激励だった。

ホークス選手が80人いたら自分は81番目の選手。そのくらいの立ち位置だったと千賀は振り返っていた。そこから千賀は努力してメジャー行きを勝ち取った。7年連続2桁勝利は責任感の何よりの証拠。千賀が適当に投げていたなんて思わないでほしい。そこはホークスファンなら信頼しようではないか。言葉足らずのところはあったにせよエースの言葉を信じられないなんて悲しすぎる。

ずっと追い求めてきた夢の舞台にようやく挑戦できる。ドキュメンタリーの中での千賀は晴れ晴れとした表情に見えた。同時に目標設定してそれをクリアすることの素晴らしさを再認識できる番組だった。思わぬ波紋を呼んだけれど私はメッツの千賀を応援したい気持ちになった。背番号34。かつてノーランライアンも付けた背番号が輝くことを願っている。


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