黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

意地で放った上林劇的同点タイムリー〜自分らしさを取り戻せ

ゴールデンウイーク終盤、昼間仕事しているうちに上林誠知が大活躍していたとは! 帰宅してからDAZN見て熱い同点劇を堪能させてもらった。ジーンとさせられた。上林、よかったなぁ。

このところソフトバンクは低調でこの日負けたら4カード連続の負け越し。この9連戦はここまで3勝5敗。そんなチームでも戦力は充実しており、ここまで上林が2軍から呼ばれることはなかった。ようやく4日に守備固めで初出場。そして5日に初スタメンだったわけだが5打数3安打4打点と大当たりした。うち1本はホームランであり、別の1本が9回裏の同点タイムリー。くすぶっていた男が塁上で「シャアっ!」と吠えていた。

「彼の意地だったりプライドだったりが、今日のヒットやホームランにつながったと思います」と工藤監督は上林の心中を慮った。そう、上林は次代のソフトバンクを背負うと期待されながら伸び悩み、低迷していた。今年こそはと挑んだはずだが開幕から2軍暮らしを余儀なくされた。腐ってしまってもおかしくない。しかしそうではなくしっかり備えて1軍に上がってきた。まだまだ高めの球の見極めなど粗い部分はあるが、気持ちの入ったスイングをしていたように思う。意地で仕事をすることを否定する人もいるだろう。仕事に私情を挟むのはスマートではない。それは分かるがこのやろう、何くそ!という思いが好結果を招くこともある。今日の上林はその典型だと思う。

多かれ少なかれ1軍の選手はそういう思いをして1軍に定着しているのだろう。だからこそ事実上この日が開幕日である上林が結果を出したことを、チームメイトは喜んでいた。土壇場で追いついたこともうれしいけれど、それ以上に上林の悔しさが晴らされたことをチームメイトは喜んでいたに違いない。何とか同点のランナーとして出塁をと意気込んだ松田宣浩が粘って四球をゲット。そしてチャンス拡大というミッションを粛々とこなして四球を選んだ川島慶三もさすが。ネクストバッターズサークルには上林が見えたから、ここで上林に回ったらドラマだよなと思っていたら、本当に打席が回ってきた。しかし相手は守護神・松井裕樹。2ストライクと追い込まれてしまった。ストレートか、伝家の宝刀スライダーか。確率2分の1でスライダーに反応。おっつける形でレフト方向に運んだ。セカンドランナーが生還すると上林は両手を突き上げた。ベンチ前には先輩後輩が飛び出して大盛り上がりだった。そりゃそうなるわな。

この日は工藤監督の誕生日。結局サヨナラ勝ちにはならなかったが上林の意地の同点タイムリーはよいプレゼントになったことだろう。同点劇のお膳立てとして、中継ぎの踏ん張りも見逃せない。特に岩嵜翔は8回に配置転換間もない。今日もランナーを出してヒヤヒヤしたが、前回登板とは違って外角低めに鋭い球を投げ込めていた。岩嵜は岩嵜で階段を登っている途中。モイネロも森唯斗が復帰するまで9回を任されそうだ。それぞれが新しい持ち場で結果を出そうとしている。そのことこそが工藤監督にとって最良のプレゼントのような気がする。

もう一つ気付いたのは上林への応援。スタンドには上林の名前を表した手作りのボードや、上林の応援タオルを掲げているファンの姿があった。しばらく2軍にいた上林の視界に入ったら感激したことだろう。自分は忘れられていないのだ、と。選手層の厚いソフトバンクで上林が常時試合に出るためには、コンスタントに結果を出さねばならない。次こそは勝利に結びつけてお立ち台に上がってもらいたい。

復活ののろしとなる今季第1号ホームランは上林独特の、リストを生かした一撃だった。それでレフト方向にも長打が出れば以前のような活躍が期待できる。そう、何より自分らしさを取り戻してくれたことがうれしかった。柳田ともグラシアルとも栗原とも違う。上林は上林。走攻守、バランスの良さが上林の素晴らしさ。上林が活躍することで真砂や栗原には刺激になることだろう。遅れてきた男がソフトバンクにどんな効果をもたらすか。ゴールデンウイークが明けてからの楽しみができた。上林の躍動を期待しよう。

19安打敗戦が何より悔しい理由〜柳田悠岐、早くも4失策

悔しい敗戦となった。24日のロッテ戦、ソフトバンクは19安打を放ちながら敗れた。これは75年で3度目の珍事だという(ネタ元は西日本スポーツ)。原因はもちろん13与四球という投手陣の乱調なのだが、私はあのワンプレーがどうしても許せない。柳田の今宮への返球だ。角中の犠牲フライで1失点はやむを得ないが、カットに入った今宮健太への返球が中途半端になり、今宮がお手玉。もたつく間にセカンドランナー中村奨吾の生還まで許してしまった。

この時点でソフトバンクは4ー3とまだリードしているのだから、そこまでの致命傷かという人もいるだろう。しかしこの日「も」先発高橋礼は乱れに乱れ四球が止まらない。そんな高橋礼には1点でも多く余裕がほしいのに1点差になってしまった。結局高橋礼は高部にプロ初ホームランとなる2ランを喫して逆転されてしまった。

もちろん柳田の返球が乱れなくとも高橋礼は逆転を許した可能性はある。しかしあの余計な1失点、ロッテにすれば儲けものの1点で反撃ムードが高まったはずだ。しぶといロッテが相手なのだから、絶対に油断してはならない。このプレーに関して工藤監督は「エラーはある。次は同じミスをしないことが大事」とかばった(ネタ元は日刊スポーツ)が、実は別の試合でも同じように内野への返球がスムーズにいかない間に、余計な進塁を許す場面があった。調べたら今季すでに失策は4つ。いかにミスはつきものとは言え柳田クラスがそうそうミスしては困る。誰がミスしてもよくないのだが、チームを引っ張る人がミスすると乗っていけない。柳田は打つし走れるのだから、ぜひ内野への返球も丁寧にやってもらいたい。それをやってくれなかったからこそロッテ戦の負けの悔しさが倍増してしまった。いつもどのプレーでも全力なのがソフトバンクの素晴らしさ。ぜひ基本に立ち返ってほしい。

助けられた津森が好投、甲斐に火をつける〜北九州の鬼が5打点の大活躍

甲斐は北九州市民球場がよほど好きらしい。20日楽天戦で3ラン含む5打点の大活躍。だがその裏には中継ぎ陣の踏ん張りがあったことを書いておきたい。特に津森宥紀。津森は前回登板で手痛い勝ち越しタイムリーを浴びて降板していた。

ビハインドから登板する中継ぎもいるが、津森は同点あるいはリードの場面での起用が多いように思う。いわゆる勝ちパターンでの登板。だからこそ、津森が失点することはチームの負けに直結しかねない。前回登板の西武戦ではもう負け寸前となったが中村晃の起死回生の同点弾が飛び出しドローに持ち込むことができた。ホームランを打った中村晃が津森の肩を叩いてやるシーンはソフトバンクファンの胸を打った。

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だからこそ津森は次の登板で結果を残す必要があった。舞台はすぐに用意され、次のカード初戦の北九州で津森はマウンドに立った。先発笠谷がランナーを残し1死ニ、三塁。バッター浅村。しびれる場面である。一発があるだけに慎重な攻めになった。四球。だが失点したわけではなく、むしろ浅村ならば許容範囲の結果だった。満塁。バッター茂木。今季調子が良くポイントゲッターになっている。でも津森が逃げている雰囲気は微塵も感じられなかった。追い込んで最後は外角への速球、空振りを奪った。素晴らしい。まずひと山超えた。続く鈴木大地も嫌なところで打つ印象だ。鈴木はうまくとらえたかに見えたが、打球はさほど飛ばず。ライトフライに倒れた。津森、見事な火消しである。

後輩が頑張ったら先輩も頑張らねばならない。津森、泉、嘉弥真と無失点でつなぐ。あとは勝ち越すのみだ。と、チャンスで甲斐に回ってきた。満塁から二人を返す勝ち越しタイムリー。もちろんうれしかっただろうけれど、キャッチャーとしては継投の6投手が無失点リレーしたことの方がうれしかったのではなかろうか。

先輩の一発に救われた後輩が好投し、その頑張りを生かさないと、とまた別の先輩が活躍する。高校野球かよアオハルかよとツッコミたくなるソフトバンクホークス。首位に立つには理由がある。

中村晃が9回劇的同点弾。勝ち越し許した津森宥紀を救う

この勝負強さは何なのか。中村晃が西武戦、敗色濃厚の9回に劇的な同点2ランを放った。それはチームと共に若きリリーフ投手、津森宥紀をも救う一発となった。

津森は先発松本裕樹の後を受け6回から登板し1イニングを無失点。しかし2イニング目につかまる。勝ち越し点を許した上にさらに失点。ゲーム展開からして致命傷だった。9回、西武は守護神・増田達至をマウンドへ。ソフトバンクファンの私は負けを覚悟した。

しかしデスパイネが四球を選んだ。このあたりがデスパイネの素晴らしさ。一振りで仕留められなかった結果かもしれないが、助っ人外国人なら「オレがオレが」となってもおかしくないところ、高めの球を悠然と見送った。申し訳ないがこのあたりがバレンティンとの違いか(今いないけど)。

そして中村晃が打席へ。当てるのがうまい中村ならチャンス拡大あるぞと期待していたら、あら、打球がめっちゃいい角度で外野に飛んでいった。あとは飛距離だ。外野手が見送った? 入った〜! 「よっしゃっ!」と思わずDAZNを見ながら叫んでいた。顔を紅潮させて悔しがる増田。笑顔弾けるソフトバンクベンチとは対照的だった。

ダイヤモンドを一周してナインとタッチしていく中村晃。その最後列に津森の姿があった。手痛い勝ち越し点、ダメ押し点を献上していただけに津森の背中はやけに小さく見えた。その右肩に向かって、中村晃の左手がバチーン。もはや言葉は要らない。アキラ先輩かっけ〜っ!惚れるわマジで。

このパターン、ソフトバンクは開幕カードのロッテ戦でもやった。松田宣浩が手痛いエラー、岩嵜翔が逆転2ランを喫して嫌なムードだったが代打川島慶三が奇跡の逆転サヨナラ打。この一打が松田と岩嵜を救ったのだった。「助けたのは僕です」とヒーローインタビューで言うあたりがエンターテイナー川島慶三なのだが、津森の肩を一発叩いて置き去りにするのも中村晃らしさ全開だった。ホームラン自体も素晴らしかったが、この団結力がソフトバンクの魅力。そう改めて思った。

7回の男に休息を〜スチュワート加入で泉圭輔ら中継ぎの負担は分散するのか

ソフトバンクが西武に一矢報いた。開幕からの対戦成績は4連敗だったが、ようやく1勝をもぎ取った。それを喜ぶ一方で不安に思う。今年は「7回の男」が離脱することはないのだろうか。2021年の場合は泉圭輔。4月17日終了時点でもう11試合に登板した。

岩嵜翔、加治屋蓮、甲斐野央、そして板東湧梧。いずれもソフトバンク日本シリーズ進出に尽くしたリリーフピッチャーである。もちろん成績は年俸に反映されるがピッチャーの体は消耗品である。登板数を振り返ってみよう。
岩嵜72試合(2017年)
加治屋72試合(2018年)
甲斐野65試合(2019年)
板東15試合(2020年)※シーズン途中で離脱、先発も含む。
ズバリ、投げ過ぎである。

でも森唯斗やモイネロは大丈夫じゃないかという人もいるだろう。確かにタフな人もいる。が、当時10年選手だった岩嵜を除いたメンバーはまだ経験が浅かった。かつ、これからアピールして自分の場所を作らねばならない。必要以上に無理をしかねない。だからこそ私は登板数をチームとしてもっとコントロールしてほしいと思っている。

しかし勝ちパターンという言葉が示す通り、今年ノリに乗った活きのいいピッチャーはこの選手なんだとなれば、惜しげもなく投入される。だからおのずと登板数が増えていく。同時に体への負荷と疲労が蓄積されていく。故障のリスクは高まる一方だ。ピッチャーの肘、肩は消耗品という。でもピッチャーの選手生命、いや、もっと言えばピッチャーの人生を消耗させてほしくはない。

今年で言えば泉が心配だなあと思っていたところ、メットライフドームブルペンが映った。あれ、スチュワートじゃない? ついにベールを脱ぐらしい。ソフトバンク打線が攻撃の手を緩めず試合は6点差のまま9回裏に。そしてスチュワートがマウンドに上った。長身から投げ下ろすストレートは威力抜群。記念すべき第1球から150キロを超えた。

スチュワートが1軍に定着すると誰かが2軍に行かねばならない。今回はローテーションの都合があり武田翔太が抹消された。だが本当の意味で外される可能性があるのは、まず杉山だと思う。なぜなら力投型という投球スタイルが丸かぶりだからである。スチュワートのデビュー登板は四球もあったが1イニング無安打無失点2奪三振。果たして杉山はスチュワートの初登板をどう見ていただろうか。

いずれにせよ、工藤監督はスチュワートを中継ぎで起用するようだ。となると中継ぎは厚みを増す。このところ津森や高橋純平も安定感が出てきたから、泉ばかりの負担にはならなそうだ。中継ぎはアピールしていかないと使ってもらえないが、使われすぎると故障のリスクは高まろう。登板がなくてもブルペン待機をすれば体を休めていることにはならない。リリーフ投手は地味ながら大変な職務である。だからこそ、首脳陣には若い中継ぎピッチャーを大切にしてもらいたい。7回の男たちに休息を。スチュワートの加入で負担は分散するのだろうか。中継ぎ陣には体を十分ケアしながら、それぞれがポテンシャルをMAX発揮するよう願っている。

和田毅がホークス40代勝利3人目〜ソフトバンクはベテランが元気

和田毅がホークス40代勝利3人目という。え、あと二人って誰なの?

そんな長いことやってたピッチャー、ホークスでは思い浮かばない。工藤公康はありえるかな?(違いました)

吉田豊彦!と思ったが現役が長かっただけで最後は楽天だったし…

加藤伸一もベテランの印象が強いがホークスは最初であって広島やらオリックスに行ったし…

調べるのも味気ないなと思ったら実況アナウンサーが答えを言っちゃった。

今井雄太郎さん」
今井雄太郎! そもそもブレーブスだろう〜世の中的には。完全試合も阪急時代だったし。

「長冨さん」
長冨浩志。同じく印象はカープやし。長冨が勝ったのは2001年だから20年ぶりだとアナウンサーが言っていた。勉強になりました。

で、和田毅。40代で勝つ以前にローテーション入りしていることを激賞せねばなるまい。恐ろしく息の長いピッチャーである。松坂世代と言われるが、藤川球児引退後は事実上最後の砦的な。個人的には松坂大輔にももう一踏ん張りしてもらいたいが。本当の意味で第一線にいるのは和田毅くらいになってきた。この日も7回途中無失点の好投。山本由伸と投げ合うのだからさすがである。鳥谷が開幕カードに出ていてベテランの頑張りいいよなと思ったがわがホークスの40代和田毅もカッコいい。松田宣浩の泥臭い安打で先制し、和田の熟練のピッチングで勝つ。昨日も最終回の川島慶三長谷川勇也のダブル代打で反撃できた。ホークスベテラン陣はいよいよ元気で見ていて楽しい。

価値あるブルペンデー勝利〜ソフトバンク松本裕樹が4回無失点

4月11日の楽天ソフトバンク。トピックとしてはソフトバンク田浦文丸のプロ初勝利か。しかし黒柴スポーツ新聞的にはソフトバンク松本裕樹。2年ぶりの先発で勝ち星はつかなかったものの4回無失点は上出来。投げ合ったのが楽天のゴールデンルーキー早川隆久だから、なおさら価値がある。ゴールデンルーキーに対してソフトバンクは松本、高橋純平そして田浦。ブルペンデーでの勝利は価値が高い。

松本裕樹とて2014年のドラフト1位。それがブルペンデーに先発するあたり、人生は直線道路ではないよなと思わされる。故障があったりうまくいかなかったり。それでも力がなければ先発させようとは思われない。ソフトバンク的には千賀が数カ月離脱確定だから、松本あたりが去年のニ保旭的に使えればしめたものだ。その意味で松本の4回無失点は価値がある。

場所もよかった。たまたまかもしれないが、楽天の本拠地宮城での登板だったが岩手・盛岡大付属出身の松本的には東北で投げられてよかったと思う。また、今年松本は結婚もした。腰の手術の後だから無理はできないけれど、家族のために頑張ろうという気持ちもあったことだろう。松本にはいくつか、頑張りたい理由があったのである。

私は2シーズン前のオリックス戦で松本が先発した試合に居合わせた。8回まで好投するも援護が乏しく、つかまってしまった。リリーフが打たれて試合に敗れたのだが、素晴らしいピッチング。素晴らしすぎたからこそ工藤監督は替え時が難しかったのだと思う。私は一時サイドスローも模索していた松本裕樹が先発として立派に試合を作っている姿を見て泣きそうになっていた。京セラでアラフォーのおっさんが松本裕樹のピッチングを見て涙ぐむ。なんのこっちゃという画だったに違いないが、本当に心に残るピッチングだった。日帰りで大阪を行き来する強行軍だったが、無理して行って大正解だった。

もはやゴールデンルーキーではなくなった松本裕樹が将来のエースと目される早川に投げ勝った、わけではない。早川より早く降板したが、4回の大ピンチを中村晃の横っ飛びで切り抜けた。そのあたりにグッとくる。頑張っていたらいいことはあるんだなぁと思わされる。勝ち星は田浦に付いた。田浦ももちろん好投したのだけれど、松本裕樹の踏ん張りにも拍手を送ろう。

いい仕事をして信頼を得る〜楽天の西口直人、6点ビハインドからの好リリーフ

いい仕事だった。敵(筆者はソフトバンクファン)ながらあっぱれと言いたいのは、楽天でリリーフした西口直人。4月10日のソフトバンク戦で6点差の4回からマウンドに立ち3イニング2安打無失点。この踏ん張りが楽天反撃の一因となり何と一時は8ー7と逆転した。最終的にはソフトバンクが追い付いたものの、この試合を面白くしたのは西口の好投であった。

西口直人。申し訳ないが楽天ファンでなければ誰それレベルの知名度ではなかろうか。wikiで調べると2016年ドラフト10位、2021年の年俸は530万円だという。それが億単位の選手が並ぶソフトバンク打線を小気味よく封じた。解説の川崎憲次郎によるとまだまだウイニングショットの精度は欠けるが、強気で投げ勝つピッチングを身に付けてほしいと期待していた。確かにそう思わせる、見事な投げっぷりであった。

6点差でマウンドに立つピッチャーに求められるのはなんだろう。それ以上試合を壊すなよ的な。主力ピッチャーが投入されるわけもなく、押されながら投げたらいわゆる敗戦処理になりがちだ。が、そこでの踏ん張りが味方に「あれ、ひょっとすると同点、逆転あるぞ」と思わせるから野球は面白い。いわゆる負けパターンのピッチャーであっても踏ん張り続けることで信頼を得て、いつしか勝ちパターンで投入されるピッチャーになっていく。出世である。この日の西口の頑張りはしっかり石井一久監督の目にも焼き付けていた。サンスポ記事、【指揮官一問一答】楽天・石井監督、7点ビハインドから2試合連続引き分け「攻撃的な姿勢がみえた頼もしい」、に書いてあった。
「中でも西口が、あの展開(6点を追う四回)から(2番手で登板し)我慢して我慢して、しっかりつないだ結果が、野手のみんなが追い上げる態勢を整えてくれた。価値のある3イニング(3回56球、2安打4三振無失点)でした」

やるべきことをやった西口と対照的だったのはソフトバンク杉山。150キロ台を連発できる、いわゆるパワーピッチャーだが四球が玉にキズ。この日は3人と対戦して2四球を献上。後を継いだ津森が浅村に逆転2点タイムリーを浴びたが、試合展開からして杉山の2四球がターニングポイントだった。杉山は豪速球が持ち足。だがストライクが入らなければ球速にはさして意味がない。そして何よりほぼ1イニング限定で登板する杉山にとって、最も回避すべきは四球ということをさらに意識してほしいところだ。長身の杉山が小さくなりながら途中降板する姿は情けない。豪速球で三振を奪って、胸を張ってマウンドを降りるようにしてもらいたい。

話を西口に戻す。この試合を見て一番喜んでいたのはその人ではなかろうか。そう、西口を発掘した楽天のスカウトである。西口のプロフィールを見てみると、甲賀健康医療専門学校(現・ルネス紅葉スポーツ柔整専門学校硬式野球部)出身。日本ハム入りした建山義紀阪神入りした藤本敦士の母校である。渋いけれどいい選手たちだ。西口もぜひ先輩たちに続いてほしい。でも…私はソフトバンクファンだからその西口を打ち負かすシーンを期待しているのだが。試合翌日、スマートニュースで楽天関連の記事を漁ったが西口直人単独の記事は見当たらなかった。これだけいろんなスポーツメディアがあるのだから、選手の名前で記事を書いてばかりなのもどうか。松井裕樹の記事をいくつか見かけたが、彼が3連投したのが果たしてニュースなのか。連日ランナーを出して失点のピンチ。土曜日の試合は失点しなかったのが相当うれしかったらしく小躍りしながらダグアウトに戻ってきた。守護神としての気概は感じられなかった。やはり守護神としての格はわがソフトバンク森唯斗が数段上である。そんな松井の記事よりも、地味ながら「試合をつくった」西口にフォーカスしてほしかった。ま、そこは地味な選手大好きな黒柴スポーツ新聞の出番か。これからもコツコツ頑張る選手にフォーカスしていこう。

勝負に入れ込む〜日本ハムのルーキー伊藤大海、敗戦後に悔し涙

さすがスポニチ日本ハムのドラ1伊藤、涙流して「凄く悔しい」 7回3失点11奪三振もプロ初勝利ならず チームは6連敗、という記事があった。ソフトバンクファンの私も伊藤大海の投球に見惚れていた。そして敗戦後ベンチに残って涙する姿勢にまたグッときた。

4月7日に札幌ドームで行われたその試合は、ソフトバンクがグラシアルのホームランで先制するも日本ハム大田泰示の2ランで逆転。しかし7回表一死1、3塁で、ダブルプレーかと思われたピッチャーゴロから伊藤のセカンド送球がわずかに三塁側にそれ、ショート中島が捕球できなかった。三塁ランナーが生還し同点。中島的には逆を突かれたのだろうがルーキー伊藤を助けてやってほしかった場面。伊藤は踏ん張りきれず松田に決勝打を浴びてしまった。

試合後、ベンチに座ったままの伊藤の姿が中継された。あれ、泣いてるのかな? そう見えた。踏ん張りきれなかったことを悔やんでいるのか。目が潤んでいるように見えた。敵チームのピッチャーながら、その姿勢に好感を持った。そう、そのくらい勝負に入れ込まなくてはね……

もちろん伊藤の気持ちは栗山英樹監督にも伝わっていた。「一試合一試合、それくらい魂を込めて向かっている姿がいい。結果よりも自分が命を懸けて一試合に向かっていった。それに対して悔しくてしようがないのは大きな力になっている。そういうものが明日に必ずつながっていく」、と同じくスポニチ記事、日本ハム・ドラ1伊藤 11Kも…涙「何とか連敗を止めたいと」 プロ初黒星、で触れられていた。部下の気持ちをきちんと理解してくれる上司がいる。伊藤は幸せ者である。外角低めにズバッと決まるストレート。切れ味鋭い変化球(スライダーかな?)。それ以上に勝負に対する入れ込み方が強く印象に残った。伊藤大海。日本ハムには素晴らしいルーキーがいる。

チームの一員になる〜巨人から阪神移籍の山本泰寛がサヨナラ打

異動の季節である。新聞社員となり21年で9回の異動ともなると、やはり目が行く。そう、移籍とトレードに。そして新天地で活躍するとまるで自分のことのようにうれしくなる。別に自分が打ったり投げたりはしてないのだけれど。巨人から阪神に移った山本泰寛はよかったなぁ、サヨナラ打を打てて。

山本泰寛。思えばソフトバンクとの日本シリーズでエラーをしたことが運命の分かれ道だったのかも。エラーは信用を減らす。大舞台だけに注目もされてしまった。山本は2020年シーズン、1軍に一度も上がれなかった。そこに手を差し伸べたのは阪神だった。いや、そんな甘いものではなかろう。単に人買いとも言える。内野ならどこでも守れる山本を、今なら巨人は手放すのではないか。そう読んでも不思議じゃない。

山本はトレードを言われた時どう思っただろう。巨人ではもう必要ないということか。それも事実と思う。本当に必要な選手なら金銭トレード含め球団は手放さない。一方で必要だからこそトレードの申し出がある。だから山本は阪神からご指名があったことを喜んでよいと思う。奥さんがMBSのアナウンサーだから、それも含めて関西に行くことには意味があったと思う。

球界にはいくつも決まり文句があり、その一つが「これでチームの一員になれた」。そう、移籍してきた選手は走攻守、何らかの活躍をして初めてチームの一員と見なされる。そんなこと言わずに温かく迎えてあげればいいじゃないと思うけど、輪に入るにも何らかのきっかけがいるのか。であればサヨナラ打はおあつらえ向きだ。その日の解説でも触れられていたが、初球から勇気を持って振りにいった。そこがよかった。おれはもう阪神で結果を残すしかないんだ。そういう歯の食いしばり方だった。打球はぐんぐん伸びて野手は追いつけなかった。

山本泰寛をたたえるコラムをと構想を練っていたら何と翌日にエラーして失点していた。そう、それが真理である。いつもうまくいくわけではない。歓迎されて、失望されて。そうやって輪の中に馴染んでいく。そういうものではなかろうか。私も久々の部署で浮かないよう、しっかり結果を出していこう。

川島慶三、代打逆転サヨナラ打でチームメイト救う〜ベテランが元気なソフトバンク

彼の打席はいつも劇的である。
川島慶三。2021年シーズン、最初の打席は劣勢の9回裏、2死満塁で回ってきた。最初の球を見逃し、次はファウルであっという間に追い込まれた。しかし、落ちる変化球を辛うじてバットに当てた辺りから徐々に川島のペースになってきた。

この日はすごい試合であった。ホークスが先制するもロッテに逆転されて2-3となり先発和田毅は降板。松田宣浩のエラーが致命傷になった。それを帳消しにしたのは8回裏のデスパイネによる2ランだったが、9回表2死から岩嵜翔が菅野に逆転2ランを喫する。まさにカウンターパンチ。応援するこちらもへたりこんでしまったが、9回裏1死から代打長谷川がヒットで出塁。2死となりさすがにこれまでかと思ったら開幕から神がかっている今宮健太二塁打でチャンスを拡大。当然柳田悠岐は敬遠…という流れで川島慶三は打席に立ったのであった。

逆転までは望まないからまずは同点に…と祈っていたが2ストライク。もはやこれまでかと諦めかけたが外角の球に川島が手を出すと打球はライト線近くで弾んだようだ。スマホの小さい画面でDAZNの中継を見ていたから打球までは追えなかったがアナウンサーが絶叫していて、セカンドランナーの今宮が戻ってきたのが見えた。サヨナラ。井口監督が映ったが視線は宙をさまよっていた(そらそうなるわな)。対照的にセカンド辺りでは川島慶三がもみくちゃにされていた。その光景はDeNAとの日本シリーズでサヨナラ優勝決定打を放った時を彷彿させた。

「あの2人(松田と岩嵜)を救ったのは僕です」とヒーローインタビューでアピった川島慶三であったが決してディスったわけではない。試合に出てりゃミスもある。そこをフォローするのがチームメイトであり、そうやって勝つんだよと言わんばかりである。ヒーローインタビューで川島の鼻はふくらみっぱなしに見えたが、この日はご両親ご親戚が生観戦していただけにやむを得まい(そらそうなるわな)。とにかく川島には殊勲打を放たねばならない理由がいくつもあったのである。

このコラムを書くに当たりいくつかネット記事を見たが日刊スポーツの写真を見て気が付いた。殊勲の川島慶三に最初に抱きついているのは長谷川じゃないか? 打席では目を見開いて集中し、アナウンサーに「打席に飢えている」と言わしめた長谷川。カウント0-3から狙い澄ましたように打って出て出塁した長谷川は、代走を送られてベンチに退いていたはずだが川島の一番近くにいる。一塁ランナーだった柳田と、凡退してベンチに下がっていた俊足周東よりも速く川島に飛びついていた。そういえば前述のサヨナラ優勝決定打の際、川島に向かって内川聖一が猛ダッシュしていたっけ。熱い瞬間のベテランの走力はすさまじい。

ベテランになると熱くなるのは少々気恥ずかしいものだ。しかしソフトバンクのベンチはベテランが喜怒哀楽をはっきり表している。チームメイトの活躍をわがことのように喜んでいる。そういうチームは強い。降板した和田が引き揚げる際に松田に声をかけ、試合後には川島が被弾の岩嵜と抱擁する。松田も岩嵜も心に機するものがあろう。若手の成長が楽しみなソフトバンクではあるが、やっぱり元気なベテランから目が離せない。

栗原と上林、分かれた明暗〜ユーティリティーとオンリーワン

今宮、周東、柳田そして甲斐。華やかに4発の花火が打ち上げられた開幕戦を、上林誠知はどんな思いで見つめていただろうか。上林はオープン戦打率1割台と低迷。開幕を2軍で迎えたのだった。

この日ライトを守ったのは、上林とポジション争いをした栗原陵矢。栗原とてオープン戦は不調だった。ではなぜ栗原が1軍で、上林は2軍なのか。アエラ記事、よもやの2軍行き ソフトバンクのスター候補「上林誠知」はこのまま埋もれてしまうのか、にはこう書かれている。
一軍に置いておけば代打や守備固めなど起用の場面は多そうだが、工藤公康監督と小久保裕紀ヘッドコーチは、上林を「便利屋」としては使わず、あくまでレギュラーとして大成することを期待しているという。
full-count記事、鷹・上林誠知はなぜ開幕1軍から漏れたのか? 工藤監督と小久保ヘッドの思惑とは…にはこう書かれている。
工藤監督は「(小久保)ヘッドも考えに考えて、熟慮しての決断だと思う。彼の背中を押してあげること、理解してあげることが僕の仕事だと思うので、いいよ、と。本人にも『レギュラーとして出るのと、ベンチで出るのとどっちがいいんだ?』と聞いたら『レギュラーで出たいです』と思いも聞きました」という。

これらを読んで考えてしまった。何か高望みしていないか。まずはどこでもいいから出てきっちり結果を出す。それができて初めてレギュラーを目指すと言えるんじゃないか…。

 

一方の栗原は違う理由で1軍に置かれている。一塁の中村晃に何かあれば一塁に、甲斐に何かあれば捕手に、松田に何かあれば三塁に回ることができる。外野でも、開幕戦ではグラシアルが下がったらレフトに回った。そう、常にどこかのピースになれるのだと解説の若菜嘉晴が言っていた。守備だけではない。勝負強い打撃。それを期待しているからこそ、「どこかででも」使いたい選手なのだ。こここそが上林との最大の違いではなかろうか。

じゃあ、と思う。上林はオンリーワンになるしかない。強肩を含めた守備力は誰もが認めるところ。地道に進塁を防ぐ返球をするとか、抜けようかという当たりを好捕していく。打撃では強力なリストを生かす。俊足もアピールしたい。14本の三塁打を放ったシーズンもある。そういう選手であれば今の厚いホークススタメンの壁を割っていけるのではないか。そのためにも当てるバッティングではなく好球必打を貫いてほしい。オープン戦でパッとしなかった栗原は開幕で2安打2打点。上林にはいい意味で栗原を意識して、触発されてもらいたい。

なぜ書くのか、なぜ載せるのか~鶴岡一人の孫や花咲徳栄元主将の記事を読んで

ある大学生が逮捕された記事を見つけた。給付金詐欺。記事になった意味を考えてみた。コロナ禍の中だからのようにも思うが、その記事には特別な意味があった。逮捕されたのは南海ホークスで1773勝を記録した、鶴岡一人元監督の孫だったのだ。しかし、その記事にはそれを説明するくだりはなかった。ゆえに、見出しは「慶大生を逮捕」となっていた。先にニュースアプリを通じて「慶大野球部4年・鶴岡容疑者、持続化給付金だまし取った疑いで逮捕 故・鶴岡一人さんの孫」というスポーツ報知の見出しを見ていた自分としては、肩透かしを食らった格好だ。

また考えてみた。慶大生と見出しにするということは、慶大にニュースバリューがあるということだ。確かに有名大学ではある。何大学だから記事になる、ならないというのは本来はおかしい。しかし、東大や京大、早稲田や慶応などはやっぱり耳目を集めてしまう。それは有名大学の宿命なのかもしれない。ただし、今回は慶大よりも鶴岡一人の孫、というところがポイントだろう。私が見たその新聞記事は、おそらく通信社のものだ。なぜ鶴岡一人の名前がなかったのかは聞いてみたいものだ。

 

じゃあ、あなたも結局鶴岡一人の孫かどうかでニュースになるかならないかを決めてるじゃん、と言われるかもしれない。それはその通りだ。確かに誰の子や孫であっても、やってはいけないことはやってはいけない。だが、先ほどの東大京大のくだりのように、やはり有名人の一家はそういう宿命なのだ。ニュースはそういう背景を知っているかで価値が決まる。だから、今回記事になったり、その記事を掲載したことは自然だと思う。と同時になぜ載せたのか、そこは説明不足が否めない取り上げ方だったように思う。

 

有名な学校出身の野球選手の不祥事がもうひとつある。花咲徳栄高校の主将として全国制覇した人が、強盗犯の一人として捕まった。目下、裁判中だ。日刊スポーツの記事、甲子園V主将裁判で主張、駒大野球部「風習」で転落、は読みごたえがあった。また、必要以上にこの被告をたたかず、更正へのかすかな希望で締めくくる構成も、記事とはそうありたいなと思わされるものだった。ぜひ記事本編をご覧いただきたい。

記者や編集者はついつい、その選手や出身校、所属チームの名前に価値判断を左右されがちだ。もちろんネームバリューというものはある。だからこそ、記者や編集者は表層ではなく深層を見るべきだ。浅い記事や深みのない紙面を読ませてほしくない。表現の巧拙はあろうが、まずはなぜその記事を書いたのか、なぜその記事を載せたのかを読者に伝えてもらいたいと思う。と、いつか記者や編集者に戻れた時のためにハードルを高くしておこう。今は一読者として、読みごたえがある記事を、紙面を、毎日求めて過ごしている。

出会いをいかに生かすか~取手二高の名将木内監督とエース石田そしてリリーフ柏葉

人生に一度だけ、ワンポイントリリーフを頼めたら……そんなことを考えた。本棚で「永遠の一球: 甲子園優勝投手のその後」 (河出文庫)を見つけた。石田文樹。取手二高で全国制覇したピッチャーの物語を読んだ。名将・木内幸男監督が亡くなった後であるだけに、今読む価値があるように感じた。

高校野球ファンなら基本のキだろうが年齢的なものもあり、私は取手二高の記憶がリアルタイムでは、ない。記録映像が頼りで、石田文樹は太めの眉で平たい顔という印象だ。そして確かプロ野球にも入ったとうっすら記憶していた。が、その程度だったから、この本の石田の章を先入観なく楽しめた。取手二高の快進撃を、試合進行を詳しく交えながら知りたい方はYouTubeとの併用をおすすめする。1984夏の甲子園取手二高が優勝するのだが、初戦(2回戦)は強豪の箕島高校。雨でぬかるんだグラウンドも味方して、取手二高は逆転勝ちする。3回戦は福岡大大濠、準々決勝は鹿児島商工、準決勝は鎮西。そして決勝はPL学園との対決となった。

石田は肩を傷めていたため、その穴を埋めたのは二番手の柏葉だった。映像で見るとソフトバンクの嘉弥真をさらにアンダースローにしたような、いわゆる変則投法のピッチャーだったが、この柏葉の存在が石田を、そして取手二高を支えることになる。

木内マジックには二つの意味があり、一つは人心掌握。もう一つが大胆な作戦である。人心掌握は、やんちゃぞろいの個性派軍団の取手二高野球部をまとめたことが知られている。木内監督は部員に自覚を求めるため1週間休みを与えるも、「レギュラーに休みを与えたが、補欠が休んでいいとは言っていない」として、補欠に退部を求めてしまった。これに部員は猛反発。練習のボイコットに発展したが、吉田剛主将(のち近鉄阪神YouTubeで見ると顔が元中日井端にクリソツ)は「補欠のことを監督に認めてもらおう」と提案して反発は沈静化。団結力が高まり甲子園での快進撃へとつながっていく。もう一つのマジックは作戦面で、決勝の9回裏に同点ホームランを喫し、さらに後続に死球を与えた石田をライトに下げ、柏葉をマウンドへ。1アウトを取ると再び石田をマウンドに上げた。「永遠の一球: 甲子園優勝投手のその後」でも、別の映像でも、石田の降板時と再登板時の顔つきが見違えるように好転したと紹介されていた。

石田文樹が死球を与えた次の打者は左打者。そこに変則左腕の柏葉を当てられるところが取手二高の強さなのだろうが、変に「エースと心中だ」などと覚悟を決めるのではなく、一打逆転負けの場面でエースを降板させてワンポイントリリーフをした上で、再び石田文樹の闘志に懸ける。この「信じる心」が延長での勝ち越し劇につながったのだと思う。そして石田のガッツはもちろん称賛されることなのだが、しびれる場面で、送りバントとはいえきっちり1アウトを取った柏葉(と素早く二塁に投げて走者を封殺したキャッチャー中島も)は素晴らしい。本当に苦しい時に助けてくれる仲間がそばにいるかどうか。人生の分かれ道だと思う。

柏葉というワンポイントリリーフを得た石田文樹は甲子園優勝投手となった。だが、伸び伸び野球で才能を開花させた石田も伝統の早稲田大学野球部ではなじめなかったのか、1年もたずに退部となった。理由は詳しく語られていない。その後入れた日本石油ではよき先輩に恵まれて持ち直しプロ入りを果たすが、ドラフト5位で入った大洋では25試合の登板に終わった。通算1勝。現役生活6年よりずっと長い14年、打撃投手を務めた。しかし、ガンに冒され、41歳で旅立ってしまった。治療の際にも復帰を見据えて右肩への処置を回避したくだりには、石田の投手としての気概を感じた。さすがにガンに対するワンポイントリリーフは願えるわけもなく、石田は天に召されてしまった。

取手二高を卒業後、石田と木内監督がどのような関係だったかは知らない。もう天国で二人は出会っただろうか。YouTubeで流れていた木内監督のコメントでは、甲子園で優勝したことをひけらかさないような生き方を選手に求めていた。石田に優勝投手としての変なプライドがあったら打撃投手は引き受けなかったようにも思う。公立高校・取手二高の快進撃を支えたエースと名将。そして陰で支えたワンポイントリリーフの柏葉。人生はいかに出会いに左右されるかを、あらためて感じた。

見出しに笑いと感動を~社会人野球・四銀、JR四国の「銀行員から駅員」継投に学ぶ

【社会人野球】銀行員から駅員への“継投”で四国勢43年ぶり8強! 四国銀行が初の都市対抗「2勝」
Full-Countの記事の見出しだ。銀行員から駅員。なんのこっちゃと思うかもしれないが、それこそが編集者あるいは記者の術に思えた。社会人野球の都市対抗野球で、四国銀行が強豪パナソニックを破り、初の8強入りした。四銀の先発菊池から、補強選手であるJR四国の山本への継投。だから「銀行員から駅員」なのだった。

 

ま、こういう説明をつらつらするとオシャレではなくなってしまうのだが、事情を知っている読者からすると「ん!うまい!」となるし、社会人野球に明るくない人が見たら「ン?何だ?」となる。今はみんな忙しくて、ネット上に情報があふれていても自由時間の奪い合い。よほど面白い、あるいは興味をそそる記事でないとクリックされないし、最後まで読まれない。記者や編集者は興味を持ってもらえるような工夫が必要だ。

 

そうやって記事を読んでもらうことが、今回の記事で言えば四国銀行野球部やJR四国野球部への応援につながる。見出しを付ける、というのはそのくらい責任重大であるとともに、同じくらい超楽しい作業でもある。同じ記事でも紙の新聞に載せる場合とネットに出す場合は、見出しの付け方を変えないと、というのはそうなのだろう。だが、紙の新聞の見出しこそ、もっとネットの世界に学ぶべきだと感じる。戸別配達もあるが駅やコンビニで選んで買われるスポーツ紙はその辺り、本当に努力のあとが見える。素晴らしい。ネットの見出しも工夫を感じる。選ばれるためには心を動かさねばならないのだから。もっと見出しに笑いと感動を。「銀行員から駅員」の見出しから、そんなことを考えさせられた。


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