200勝以上投手で唯一負け越した梶本隆夫の素敵な生き方
好きなシャツやズボンや靴があるとそれを中心に身に付けてしまう。いわゆるヘビーローテーション。楽天になぞらえ冗談で「これはマー君」「これは岩隈」なんて言いながら。しかし楽天誕生のはるか昔、阪急ブレーブスには同時期に2大投手がいた。ヨネ・カジ(米田哲也、梶本隆夫)である。今回はそのうちの梶本隆夫が主人公だ。
梶本隆夫については三浦暁子さんの力作「梶本隆夫物語 阪急ブレーブス不滅の大投手」を読んで勉強させていただいた。読み終わるとすっかり梶本隆夫のことが好きになっている。こういう本って素晴らしいなと思う。黒柴スポーツ新聞も読んだらその記事に出てきた選手が好きになるような作品を残していきたい。
梶本隆夫は岐阜県の多治見工出身。甲子園出場はあと一歩のところで逃したが本人はサバサバしており家業のミシン商会を継ぐつもりでいた。しかしプロ球団が逸材を放ってはおかない。中日も巨人も獲得に動いたが阪急に入団。その理由はぜひ本をご覧ください。そしてなんと新人なのに開幕投手に大抜てきされ20勝を挙げる大活躍。巨人に入団した時の上原浩治を思い出した。
とにかく球が速かったそうだ。映像が残っていたらぜひ投球フォームを見てみたい。変化球の本格的な習得はプロ入り後らしい。それはそれですごいなと思う。結局20年間で挙げた勝利は254勝。しかし梶本隆夫を語るならもう一つの事実もセットでなければならない。それは通算255敗ということ。200勝以上の投手で唯一の負け越し男なのだ。
せっかくなのでNPBホームページを出典に200勝以上の投手の勝ちー負けを列挙する。
1 金田正一400-298
2 米田哲也350-285
3 小山正明320-232
4 鈴木啓示317-238
5 別所毅彦310-178
6スタルヒン303-176
7 山田久志284-166
8 稲尾和久276-137
9 梶本隆夫254-255
10 東尾修 251-247
11 野口二郎237-139
11 若林忠志237-144
13 工藤公康224ー142
14 村山実 222-147
15 皆川睦雄221ー139
16 山本昌 219-165
17 杉下茂 215ー123
17 村田兆治215-177
19 北別府学213ー141
20 中尾碩志209ー127
21 江夏豊 206ー158
22 堀内恒夫203ー139
23 平松政次201ー196
24 藤本英雄200-87
25長谷川良平197-208
広島のエース長谷川は、おまけで書いたが負け越している。東尾も西鉄時代に苦労したのか勝ち越しわずか4。大洋で踏ん張った平松も5。やはり打線のバックアップがそこそこないと200勝というのは難しい。ご興味がある方はNPBホームページをぜひご覧ください。
さて、梶本は20勝しながら新人王を逃している。また、28勝挙げたシーズンもチャンスがありながら29勝した人に最多勝をさらわれた。もう一歩、あと一歩の人なのだ。じゃあ地団駄を踏んで悔しがるかというとそうでもない。本紙が大好きな近藤唯之氏もうなる「読めない人」なのだ。
例えばプロ記録であるゲーム最多連続奪三振「9」を記録した時も同僚キャッチャーを驚かせている。このくだりも近藤唯之氏をあぜんとさせたエピソードもネタバレになるのでぜひ上記の本をお楽しみください。
梶本隆夫が愛した阪急は当時打線が振るわなかった。打ってくれていたらこれほどの負けを積み重ねることもなかっただろう。しかし梶本隆夫が素晴らしかったのは打線に対する文句を言わなかったことだ。組織ではつい同僚に厳しい目を向けてしまいがち。特にその人が頑張っていたり、結果が出ない時ほどそうだ。こんなにやってるんだから周りにもそれ相応の頑張りを求めてもいいだろう、となっても不思議ではない。しかし梶本はしなかった。だから「兄貴」と慕われた。ファンにも慕われた。200勝目を挙げた時はグラウンドになだれこんだファンに胴上げされた。
16連敗という不名誉な記録も作った。このさなかの2勝15敗という1967年シーズンがなければ梶本隆夫は勝ち越しで現役を終えたことだろう。それに打線とかみ合ってさえいればここまでの連敗もなかった。しかし梶本にとってはチームのために投げることが仕事だった。その積み重ねが254勝であり255敗であった。黒柴スポーツ新聞編集局長は滅私奉公という言葉が嫌いだが、みんなのためにやれることをやりきろうという人は大好きだ。周囲に相応の努力を求めるならばまずは梶本隆夫のように場所を選ばず自分の仕事をやらねばと思わされた。
さて、三浦暁子さんの本は梶本隆夫物語というタイトルからしてもちろん梶本隆夫の話なのだが裏主人公とも言える人が登場する。この人が本をしっかり締め、また味わいも醸し出している。この人物については以下の記事をご覧ください。
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