黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

逃げない気持ちが成長させる~元大洋の佐々木吉郎、アテ馬からの完全試合

予定が変わると大変だ。が、ひょうたんから駒、ということもある。最近、完全試合について調べていてまた発見があった。過去15回しか記録されていない完全試合の中で、いわゆる「アテ馬」として登板し、そのまま完全試合を成し遂げたピッチャーがいたとは……彼の名は佐々木吉郎(大洋)。北原遼三郎氏の労作「完全試合」をテキストに詳しく見てみよう。

完全試合―15人の試合と人生

完全試合―15人の試合と人生


アテ馬とは、ざっくり言えば偵察要員。相手ピッチャーが読めないときにとりあえず先発させて、引っ込める。だからバッターの場合ばかりと思っていたが、佐々木吉郎はピッチャー。対戦相手の広島打線は、大洋の先発を左腕の小野正一を想定して左打ちを並べる。そこへ右投げの佐々木吉郎を登板させる。もし広島が右バッターに変えてきたら大洋は小野を出す。そういう作戦だったらしい。


そんな策を考えるのはやはりこの人。三原脩監督である。これまた初めて知ったが、完全試合15回のうち4回を三原脩が指揮していたそうだ。勝負強すぎる。

佐々木吉郎にしてみれば、気楽な登板だった。最初だけ投げればいいのだから。しかし、欲はあった。ピッチャーあるあるだが、まずは完全試合四死球が出てもノーヒットノーラン、それがだめなら完封。次に完投……。目標をちょっとずつ下方修正しながらベストを尽くすのだ。


最初だけ投げて上がろうとしたら、別所毅彦コーチが、ヒットを打たれてないから続投しろと言う。ヒットを打たれたら交代というシンプルな指示がよかったのかもしれない。失投もあったそうだが打ち損じにも助けられ、9回まできた。


26人目は森永勝也首位打者にもなった森永に対して佐々木吉郎は6球を費やしたが、根比べだったという。それを支えたのは負けない気持ち。
「攻めて、攻めてむかっていきましたね」


しかしそれは燃えるというよりは恐れにも見える。「逃げたら絶対やられていましたね」とも述べているからだ。


佐々木吉郎は気がついた。これまでは無意識の中に逃げていることがあったのではないかと。鳴り物入りプロ野球に入りながら結果が伴わない、けがに苦しんでいる。そんな背景があったのかもしれない。そんな佐々木の心に、この日ばかりは小さな闘志の火が灯った。
「この完全試合を達成できれば、あるいは自分のピッチングも変わるかな、と……」


最大のヤマ場、森永からは三振を奪った。27番目のバッター、阿南準郎の時もこう考えた。「絶対逃げない」と。かわすピッチングだった佐々木吉郎を突然奮い立たせたものは何だったのだろう。佐々木吉郎の言葉を読み返して見ると、自分を変えたい、という思いが見て取れる。そう、やはり自分で変わろうと思わない限り、人は変われないのだ。


かくして、阿南を打ち取った佐々木吉郎は最初で最後の、とても短いヒーローインタビューを受けた。そして怒りの収まらないカープファンから逃げるため、県警のパトカーで球場から脱出したそうだ。



そしてここからがリアルなのだが、完全試合を成し遂げた後に佐々木吉郎が挙げた勝ち星は15。完全試合は勲章にはなったが大ブレイクとはならなかった。そうそう甘いものではない。しかし、人が成長したいと願うことで、一つの結果が出せることは証明できた。


そして、そのきっかけはたまたま割り当てられた仕事からだった、というのもちょっと背中を押してくれる。ひょうたんから駒、とはあり得ないことが実現することのたとえでもあるが、あり得ないことをあり得ることにするためにも、まずは目の前に割り当てられたことをコツコツやっていこう。その中でいつもかわしてしまう局面でも逃げない気持ちを前に出すことで、自分を成長させたいと思う。

考えずにやる500本の素振りは意味がない~大谷翔平はお手本を見つけ、鏡の前でスイング

ノックは技術力向上もあるが、指導者と選手の「気」のキャッチボールだ的なことが、高橋善正著「情熱野球で勝つ『言葉の鉄拳』」に書いてあり、興味深く読んだ。

情熱野球で勝つ「言葉の鉄拳」 (ベースボール・マガジン社新書)

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日本で15回しか記録されていない完全試合の達成者、高橋善正はノックの時間を重視しているのだが、こんなことも書いていた。やらされる1000本ノックよりも、能動的に受ける50本のノックの方が意味があるのだ、と。

能動的に、とは選手の意思で、ということだ。まだまだうまくなりたい、足りないところを埋める必要がある、だから自分はノックを受けたい、受けなきゃいけない。もうその時点で捕球態勢が整っている、と解釈した。

社会人的にも日々の作業は1000本ノック状態。やってもやっても終わらない作業はよくある話だ。やらなければ帰れないという根本的な問題はあるが、理想はそれぞれの作業に「意義」を見出すことだ。これをやることでこんな結果が得られる、期待できる。それがイメージできる方が、作業自体もはかどるに違いない。

漫然とやるのは意味がない、という言葉を思い出した。1月、岩手日報に掲載された大谷翔平菊池雄星の「紙上対談」。カッコを付けたのは、実際には2人が会っていないから。編集によって対談っぽくなっていたのだが、その紙面に大谷翔平への子どもたちの質問が載っていた。

「1日にバットを最高何回振っていましたか」

大谷翔平 二刀流の軌跡

大谷翔平 二刀流の軌跡

 

大谷翔平は、自分はそんなに振っていないと答えた。だが部屋では常にバットやボールに触れていたし、連続写真や動画でいいなと思うプロ野球選手のフォームを見つけたら、鏡の前で振ったり投げたりしていたという。極めつけはこれ。

何も考えずに500本振ることくらい無駄なことはないと思います。

エンスカイ 大谷翔平 2019年カレンダー

エンスカイ 大谷翔平 2019年カレンダー

 

もしかしたら、デキる人たちがスマートに見えるのはこのように合理的な努力をしているからではないか。やたらめったら千本ノックを受けたりはしないのだ。

なお、500本の素振りや1000スイングなど数をこなす練習の意味がないとは言わない。振ることで多少は筋力が付くのかもしれない。耐え抜いて得られる精神力、踏ん張る力もある。しかしそれは意図して付ける力ではあるまい。あくまでも副産物だ。

また、繰り返し行うことでフォームを体に染み込ませることもできよう。その場合は「理想のフォームを確立する」という意図を明確にすることだ。そうしないと練習すること自体が目的になってしまう。

胸に手を当てると、日々の仕事をこなしている自分がいる。目の前のことにいちいち意義付けなんてしていられない時もある。そんな時はせめて作業の効率化、スピードアップを目指して早く帰ろう。つくった時間を生かせば本を読んだりブログを書いたりできる。意図して動くことは、自分を高めることにつながるのだ。

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ここ一番ではベストピッチを投げよう~元東映・高橋善正はなぜ完全試合ができたのか

あと一人、打ち取れば完全試合。自分はシュートが得意なピッチャー。しかしバッターはシュートを打つのがめっぽう得意。さあ、あなたなら何を投げますか?

 

 

私は思った。相手はシュートを打つのが得意なのだから、シュートを投げるのはやめておこうとするだろう。しかし実はもう、この時点で勝負はついているのかもしれない。

 

 

完全試合は過去15回しか達成されていない。プロ野球における奇跡の一つである。その稀有な達成者が高知県にいる。元東映フライヤーズ、元巨人の高橋善正さん。ここはあえて敬意を込めながら以下敬称略でいこう。とにかく思考がカッコいいのだ。

 

 

冒頭の設定は、高橋善正が実際に体験した場面だ。高橋善正著「情熱野球で勝つ『言葉の鉄拳』」を元に詳しく見てみよう。日付は1971年8月21日。場所は後楽園球場。対戦相手の西鉄和田博実を打ち取れば完全試合を達成できるところまできた。

 

情熱野球で勝つ「言葉の鉄拳」 (ベースボール・マガジン社新書)

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キャッチャーの種茂雅之が出したサインはカーブ。和田博実がシュート打ちの名人だからだ。高橋善正もそれは承知していた。だが、高橋善正が選択したのはシュートだった。「おれはシュートピッチャーだ」という強烈な自負があったからだ。

 

 

実は過去に痛い失敗をしていた。8回二死までノーヒットに抑えながら、ピッチャーの鈴木啓示にヒットを打たれた。ノーヒットノーランを達成できなかったことよりも、シュートではなく甘いカーブを投じた自分が許せなかった。

 

 

よい結果を目指し、かつリスクを回避する意味では相手の苦手な球種を投げるのも悪くない。だが、高橋善正は意識していた。「自分の力を出し切りたい」と。

 

 

大事なのは自分の力を出すこと。結果よりも自分のやるべきことをやれたかどうか、である。(中略)オレは結果オーライよりも納得のいく仕事ができたほうを評価する。(情熱野球で勝つ「言葉の鉄拳」より)

 

 

もちろん今時、こんな評価をしてくれる上司や会社ばかりではない。下手したら「オレがリスク管理してやったのに無視しやがって」とさえ言われるかもしれない。自分を信じてやるからには、やりきること、勝ち切ること、逃げ切ることが大事である。

 

 

高橋善正は自分を信じて得意のシュートを投げ込み、フライアウトに打ち取って完全試合を達成した。忘れてはいけないのが、この必殺技だ。自分を信じられるようになるためにも、得意なものは伸ばさねば、極めなければならない。冒頭、私がリスクを回避しようとしたのは、まだまだ自分の必殺技を確立できていない裏返しでもある。もちろん密かな自負はあるのだが、高橋善正ばりに「打てるもんなら打ってみろ」と言わんばかりに誇示できるよう、腕を磨いていこう。

さて、あなたが完全試合、最後の一球に選ぶのはどんな球ですか?

納得いくまで「ありたい自分」を追求する~阿部慎之助、捕手復帰という終活

日経新聞のコラムで、巨人の阿部慎之助の捕手復帰が取り上げられていた。コラムの締めでは沢村を「公開説教」した場面を引き合いに出し、「叱れる」稀有な人材なので捕手復帰を肯定していた。黒柴スポーツ新聞も阿部の捕手復帰を肯定している。

 

 

  

阿部はこのまま一塁手のまま終わってしまったら、後悔すると思ったらしい。確かに年齢的には選手生活のしまい方を考える時期である。年齢を軸に考えること自体はイチローには批判されてしまうかもしれないが。

 

 

しかし、みんながイチローではないからこそ、きちんと終わり方や過ごし方のビジョン、プランを持った方がいいと思う。周りが何と言おうと、本人が納得するキャリアを残すことが一番なのだから。

  

イチロー 262のメッセージ

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プロ野球は守備で言えば九つしかポジションがない。選手の特徴を生かして当てはめられるべきだが、世代という観点も重要だ。徐々に若返らせていかないとかつての阪神や中日のように、気付いたら主力が高齢化して、若手の台頭までしばらく間があく恐れがある。

 

 

その意味ではコラムにも書いてあったが小林誠司や大城が捕手として一本立ちする方がチームとしてはバランスがよい。阿部もそれは承知しているだろうが、捕手に未練を残したまま終わるわけにはいかないということだろうし、ファンとしても不完全燃焼の選手は見たくない。だから、やりたいようにやればいいと思う。

  

  

 

日経新聞のコラムでは同じくキャッチャーだった谷繁元信が紹介されていた。谷繁は1年という軸の中で、投げさせる球を決めていたという。何と奥深い世界だろう。そう、やはりその仕事の醍醐味や、やりがいは、やった人にしか分からない。

  

谷繁流 キャッチャー思考 (当たり前の積み重ねが確固たる自信を生む)

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阿部は2018年シーズンを終えて399本のホームランと2085本の安打を放っている。実績が十分なのだからもう後輩に道を譲るべき、なのかもしれない。しかし、捕手に執着することがモチベーションになるのならとことんやってみたらよいと思う。それによって選手生命が伸びる可能性だってある。後輩は後輩で、はいどうぞとポジションを与えられるのではなく、阿部から力ずくで正捕手の座を奪い取ればいいのだ。むしろそれがプロのあるべき姿だろう。

 

 

  

2019年シーズンは阪神鳥谷敬も再びショートの定位置を奪還しようと奮闘しているという。ベテランの「終活」といったら鳥谷や阿部のファンには怒られてしまいそうだが、遠慮なく後輩と争う姿勢はカッコいい終活とも言える。ぜひ納得いくまで「ありたい自分」を追求してもらいたい。私は鳥谷からも阿部からもとてもよい刺激をもらっている。

全力プレーこそ勝者の条件~怠慢走塁で懲罰交代の横浜DeNA伊藤裕季也、汚名返上を!

若くてキラキラした新人にはフレッシュさ、はつらつプレーを期待してしまうから気の毒な面があるのだが、横浜DeNAの伊藤裕季也は怠慢走塁で名前を売ってしまった。打球をファウルと決めつけ、すぐに走り出さなかったという。



確かに野球選手は小さい頃から膨大な数、打席に立つ。ゆえにどんな当たりならセーフかアウトか、すぐに分かってしまうのだろう。アウトになると分かっているのに全力疾走するのは合理的とは言えない。
しかし野球は人がやることであり、気象条件や球場の設備が作用する可能性もゼロではない。経験からしてアウトと思ってもセーフになることはあり得るのだ。万に一つの可能性を追う。それもプロの大事な素養と思う。

ちょうど読み終わった、元ヤンキース守護神で野球殿堂入りしたマリアノ・リベラの自伝「クローザー」に対照的な走塁が紹介されていた。
クローザー マリアノ・リベラ自伝

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メッツ戦でヤンキースは1点のビハインドのまま9回ツーアウトまで追い込まれた。ただし二塁にはジーター、一塁にはテシェイラがいた。一打出ればまだ分からない。
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打席にはアレックス・ロドリゲス。しかし待っていた速球を打ち損じてセカンド後方に打ち上げてしまった。万事休す、と思われたが二塁手が落球。ジーターに引き続き、テシェイラまでがホームインした。そう、一塁からだ。

ツーアウトだと確かに、ランナーはダメ元でやたらめったら走ることはできる。しかし、一塁からの本塁生還である。本気の全力疾走だったのではないか? マリアノ・リベラはこう記している。
「……私たちは初戦に勝った。五年に一度くらいの珍しいエラーがあったからだけじゃない。一人のスター選手が最後まであきらめず……試合が終わるまで、懸命な走塁を見せてくれたからだ。これこそ、勝者の条件だ」
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メジャーリーグは規格外のパワーやスピードで人気なのかもしれないが、このような全力プレーも愛される要因だろう。
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ドラフト2位で将来を期待されるからこそ、横浜DeNAのラミレス監督は伊藤裕季也を「懲罰交代」させたのかもしれない。確かに今からこの調子では本人のためにならないし、チームの士気にも関わる。伊藤にはぜひ成長のきっかけにしてもらいたい。というか実力で評価を覆すしかない。そう、よくないレッテルをべったり貼られないうちに。

残念ながらまだまだ凝り固まった日本社会は若手への目線が厳しい。ベテランだから許されて、新人だから許されないというのは理屈に合わないのだが、それに反論したいのであれば「こいつはひと味違うな」と印象付けることだ。少なくとも全力プレーを続けていれば、悪い印象は持たれない。失敗は若手の特権くらいに割り切って、力を出し惜しみせずやってもらいたい。
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かくいう私もテシェイラばりに激走しているかと言えば、できていない。経験から相場を読むことに長けてしまうのも考えものだ。劣勢でも何とか打開策はないものか。ゲームセットの声を聞くまでは、あきらめない気持ちを持ち続けよう。

※執筆時、伊藤選手のお名前を間違う致命的ミスをしておりました。申し訳ありませんでした。

意識次第で環境は変えられる~楽天の浅村栄斗が単調な練習を工夫して意味付け

西武を日本シリーズに連れていかずに楽天に移籍した時点で、浅村栄斗は冷たいヤツだなと思った。が、面白い思考の持ち主だなと評価が変わった。何と、バッティングマシンで7通りも打ち方を変えていた。元ネタは日刊スポーツ「楽天浅村が死んだ球で生きた打撃披露、若手にも波及」から。



設定すれば一定の球速、一定のリズムで投げてくれる。それがバッティングマシンのいいところである。一方で、それに対応できてしまえば素直に打ち返すことができてしまう。プロ野球選手であればなおさらだ。

浅村は同じように投じられる球に対して、自分が立ち位置やスタンスを変えていた。そうやって工夫して対応力を伸ばしていた。

これは社会人的にも見習いたい。
年次が上がるにつれ経験も知識も蓄積されるから、一定のリズムで振られる仕事は真芯でとらえられるようになる。そこは間違いない。

それができるようになったら、次は対応力、応用力だ。そのためには自ら環境を変えねばならない。だが新しい環境は、ほんの少し自分の立ち位置を変えるだけでも手に入れられる。そんなことを浅村が教えてくれているように思えた。

また、立ち位置を変えるだけで、単調な作業が意味のある作業になることも示唆してくれている。漫然と日々の作業をこなしてしまいがちだが、ほんの少し意識を変えるだけで、単調な作業にも意味を見出だすことができるのだ、と。

同じ作業でも、ただやるだけではつまらない。逆に、意味付けをすることで生きた作業へと昇華できる。そのためには日頃から何を何のためにやるのか、常に目的意識を高めておく必要がある。
浅村が楽天に入った意味は打線の強化とばかり思っていたが、浅村の加入は同僚に高い意識を浸透させているようで、移籍の価値はこちらも多そうだ。意識の高い人の移籍は周りを巻き込むのだな、とあらためて思った。

先輩の抜けた穴は後輩の伸びしろ~オリックス山岡泰輔が狙っていた開幕投手をゲット

人事異動の季節。エース級の人材が他部署に行くと、期待できることは後輩の成長である。その意味で、2019年シーズンはオリックスの山岡泰輔に注目したい。

 

長年オリックス投手陣を支えた通算120勝の金子が日本ハムへ。そして、近年はオリックスの軸であった西勇輝がFAで阪神に移籍した。オリックス球団は大打撃である。
 
若手の奮起に期待したいところだが、その一人が山岡泰輔だ。若手、と言ってもオリックスは社会人出身投手を積極的に獲得してきたから、山岡らはすぐにでも結果を残したい世代ではある。
 
山岡泰輔は決して恵まれた体格ではないが投げっぷりがよい印象だ。しかしいま一つ「勝ちきれない」イメージがある。急に単調になるのだろうか? 2017年は8勝11敗。2018年は7勝12敗だ。
 
申し訳ないが、オリックスだからこそたくさんチャンスがもらえている気もする。一方で、強力打線がバックについていたら、2桁勝てている気もする。金子も西もいないのだから山岡は頑張らなきゃいけないのだが、とうとう開幕投手に指名された。  

「2人が抜けて狙っていた。自分がこのチームのエースになりたい気持ちも大きかったので、ビックリすることはなかった」(スポーツ報知より)
何と! 山岡は開幕投手を狙っていた。  
 
それを担えるだけの人材だが、このチャンスをものにできるかどうかは山岡の野球人生を大きく左右しそうに思う。これは人事異動で頼れる先輩に抜けられた後輩あるあるなのだが。 
  
これまた申し訳ないが、西勇輝がいたら西が選ばれていたと思う。日本ハムに移った金子だって、結果的には上沢に開幕投手を譲ったが開幕投手候補に挙げられていた。山岡は山岡で調整がうまくいっているのかもしれないが、果たして先輩たちがいたらそれを押しのけるまでに至っていたかどうか。 
  
しかしこれもまた人生である。先輩たちが一気にいなくなった。そして開幕投手の大役が回ってきた。これはビッグチャンス。開幕投手は12人しかなれないわけで、貴重な経験となるに決まっている。独特の緊張感を味わうだけでも成長の一歩になるだろう。 
  
また、開幕投手は初戦を任されるのと同時に、この一年をローテーションの軸任せたぞという意味もある。2016年ドラフト1位、まだ23歳の山岡にとって、飛躍のきっかけにしたい1年であることは間違いない。 
  
力ずくで奪い取った開幕投手と、先輩が抜けたことで手にした開幕投手は意味合いが違うのかもしれない。しかし、開幕投手開幕投手。大事なのはそこで結果を残すことだ。人事のアヤで職場のエースに抜てきされた人も同じ。要は結果を残せばいいのだ。そうすればおのずと周囲が認めてくれるはずだ。
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山岡泰輔がポテンシャルをいかんなく発揮して初の2桁勝利をマークすればオリックスもAクラスが見えてくる。そして社会人出身の多い投手陣のよい刺激にもなる。着火剤にもなりうる山岡泰輔の踏ん張りを楽しみにしていよう。

エースは結果に責任を負う~2006年ソフトバンク斉藤和巳の涙に学ぶ

平成を振り返る企画「シリーズ平成史」をNHKサンデースポーツ2020がやっていた。最終回は「野球」。そこにソフトバンクホークスの試合も出てきたのだが、名場面に選ばれたのはどの試合のどんなシーンだったか、ホークスファンはすぐ分かるだろうか?

 

 

プロが選んだ名場面。ホークス戦はその第10位に出てきた。日本ハムとのクライマックスシリーズ。マウンド上にいたのは斉藤和巳だった。そう、あの有名なシーンだ。ホークスファンには思い出したくない場面かもしれない。だが、見方を変えればこんなに骨太のエースがいたのだ、とちょっと誇らしくなるのではなかろうか?

 

  

この2006年シーズン、斉藤和巳は18勝を挙げ最多勝に輝いた。最優秀防御率最多奪三振に最高勝率。当然のように沢村賞に輝いた。それを支えたのは「オレがやる」というエースの自負、だったのではないか。

 

 

だからこそ決戦のマウンドでは相当入れ込んでいたことだろう。

 

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日本ハムのバッターは稲葉篤紀だった。9回裏二死1、2塁。稲葉の放ったセンター前に抜けようかという当たりをセカンド仲沢が好捕。ショートにトスをするも、一瞬早くランナーがセカンドに到達してしまった。セカンドから一気に稀哲が生還。日本ハムがサヨナラでリーグ制覇を成し遂げた。

 

 

マウンドでひざをついたまま起き上がれない斉藤和巳歓喜に沸くファイターズナインとはまさに天国と地獄だった。ズレータカブレラがわきを固めてようやく斉藤和巳を引き上げさせたが、プロ野球選手でこれほどまでに悔しさを見せた人がいただろうか?と思ってしまうくらい、マウンドに懸ける思いが伝わってきた。

 

 

これを見ると、エースとは責任を体現する人なんだなと再認識させられる。結果を残すだけでなく、結果に責任を負う人。それこそがエースだ。

  

  

斉藤和巳は通算79勝だから、もっと勝ち星の多いピッチャーはたくさんある。しかし同じ2桁勝利でも多い方から20勝3敗、18勝5敗、16勝1敗と、圧倒的な勝ち方だった。これもエースだったことを強く印象付けた要因だろう。この貯金の多さは負けない人だったことを証明している。

 

 

そしてやはり自分はエースなんだという自負があった。だからこそマウンド上で立ち上がれないほど脱力してしまったのだ。そのくらい自分を高められるってすごいなと今でも思わされる。ホークスファンとしては忘れたいシーンかもしれないけれど、実は忘れてはいけないシーンなのだとも思う。

  

  

誰もがエースになれるわけではない。だからこそ、エースは絶対的な存在なのだが、エースでなくとも自分のやることには思い入れを持ちたいし、できれば結果を残したい。そして斉藤和巳を見習って、結果には責任を持ちたいと思う。予想外のタイミングではあったが、懐かしい映像を見て背筋がピンと伸びた気がする。これをいいきっかけにしたい。

 

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背番号は自分でつくる~ホークスのエース斉藤和巳66、攝津正50。千賀滉大41も?

攝津の引退に際し、ふと思った。ホークスのエースの背番号は大きいな、と。斉藤和巳は「66」。攝津正は「50」。このまま千賀滉大がなれば「41」だ。



日本球界ではエースナンバーは「18」が定番だが、それを背負うのではなく、元から背負った番号で勝負する。それもカッコいい。

背番号はヤンキースが、打順通りに入れたのがはじまりだそうだ。ベーブ・ルースが3、ルー・ゲーリックは4。おかげでヤンキースは一桁の背番号がすべて永久欠番になってしまった。

背番号につくられる野球人生が多い中、背番号を自分で「育てる」人もいる。代表的なのがイチロー。今でこそ「51」は有能なバッターが付けているが、源流はイチローだ。

競技は違うがマイケル・ジョーダンの「23」も印象的。51も23もまったくスター性があった番号ではないが、今は特別感がある。それはスーパースターが背負っていたからだ。
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ホークスの近年のエース番号はこちらだ。エースになった人が背負っている番号。自分で価値を付けた番号だ。66も50も無骨な感じがして、とてもカッコよかった。
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千賀滉大は2年連続開幕投手ということで、エースに最も近い投手と言える。背番号を変えなければ41のままエースになる。そもそも千賀は育成時代は128。41でもずいぶん軽くはなっているのだが。
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元広島の前田智徳の背中を追って鈴木誠也が51から1になり、小園海斗が51を引き継ぐ。そんなスターの系譜も美しい。しかし、自分の背番号を育てていった斉藤和巳や攝津正の生き方も骨があってカッコよかった。
千賀もその流れでいきそうな気がするが、まずは2019年シーズン、きっちりローテーションの中心にいることだ。そうでなければエースではない。工藤監督に託された思いに応えなければならない。

けさの新聞には球団記録の5年連続開幕投手を努めた攝津のコメントが載っていた。
「どんどん先輩の記録を塗り替えることがチームにプラスアルファになる。一つの目標として塗り替えてほしい」
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千賀の開幕投手はまだ今年で2年連続だから、6年連続までいくとしても先のこと。メジャー志向もあるから6年連続になるかもビミョーなのだが、メジャーに挑戦する前にまずは押しも押されもせぬホークスのエースになってもらいたい。その時は背番号41がさらにカッコよく見えていることだろう。
 
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あなたと過ごせた10年間は宝物~攝津正がセレモニアルピッチ 引退スピーチ全文付き

攝津正が名実ともに引退した。3月2日にセレモニアルピッチを行うことは知っていたが、一つ気になっていた。攝津正はどんな服装で登場するのか?

 

 

平成も終わろうとしている中で若干の昭和さえ感じる男、攝津正。ゆえに背広もしくはワイシャツもありえると予想していた。だが、もちろんファンはユニホーム姿が見たいに決まっている。果たして攝津正はどんな服装で登場するのか?

 

 

そう思っていたら、攝津正はあの慣れ親しんだホーム用の白いユニホームで現れた。3月2日、ホークスは特別仕様の赤を入れたユニホームだったのだが、攝津は黄色いつばのキャップをかぶっていた。そうだよな。やっぱり攝津はこのユニホームでなければ。

 

 

セレモニアルピッチと、引退スピーチ。順番も気になっていたが、ネットに上がった動画を見ると、先にマウンドでスピーチしていた。引退記念&記録に全文書き起こしておこう。

 

 

本日は素晴らしい、このようなセレモニーを開いていただいた球団、関係者の皆様には、心より感謝申し上げます。

さいころから夢見たプロ野球という世界で、10年間プレーできたのは、今まで支えていただいた監督、コーチをはじめ、球団スタッフ、家族、そして何よりも、いつも温かく声援を送っていただいたファンの皆様のおかげだと思っております。

これからはまた、ホークスに呼んでいただけるよう、頑張りたいと思います。

短いあいさつではありますが、本日はこのような素晴らしいセレモニーを開いていただきまして、本当にありがとうございました。

 

 

シンプルだが、心のこもった、まっすぐな攝津らしいスピーチだった。

  

そして、キャッチャー高谷がスタンバイ。攝津はやわらかな軌道でストライクを投じた。涙はなく、高谷からボールを受け取った攝津は笑みを絶やさなかった。そして工藤監督と内川聖一から花束を受け取った。

  

 

  

ネット上には、セレモニアルピッチの前に大型ビジョンで流れた記念映像もアップされていた。節目節目の字幕だけでも追ってみよう。

引退会見

入団会見

プロ初登板(2009年4月5日、無失点初ホールド)

プロ初勝利(2009年5月8日)

リーグ新人王(最優秀中継ぎ投手賞、39ホールドポイント

2010年 勝利の方程式「SBM」(攝津正、B.ファルケンボーグ馬原孝浩

最優秀中継ぎ投手賞(71試合登板、42ホールドポイント

2011年 先発転向 14勝

2011年 8年ぶりの日本一

2012年 多くの先発陣が抜けた中で大隣憲司とともにチームを支えた

沢村賞 最優秀投手 2012年27試合17勝

2年ぶりの勝利(2018年5月22日)

通算成績282試合79勝49敗1セーブ73ホールド 882奪三振 防御率2.98

 

 

あなたの闘志は私たちの誇り。

あなたと過ごせた10年間は、私たちの宝物。

ホークスファンより心からの感謝を込めて

ありがとう、攝津投手。

  

 

最後の字幕にはグッと来た。

 

 

 

10年という期間は決して長くない。しかしこの映像を見るだけでも攝津正がいかにチームに貢献したかが分かる。短くとも太い、濃密な10年間。中継ぎでも先発でも、そしてエースとしても任された場面で最善を尽くす。しかも淡々と。派手さはないけれど、黙々と頑張る人たちの背中を押す存在だったようにも思う。

 

攝津自身が望むように、ぜひいつかホークスに加わって、「第二の攝津」を育ててほしい。中継ぎも先発も経験があるから、きっと選手に寄り添った指導ができるはずだ。その日を楽しみにしておこう。

 

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失敗よりうまくいったイメージを大切に~今中慎二が大野雄大を叱咤激励

ぶっきらぼうに見える、ふてぶてしい顔。中日の大野雄大が調子いい時はそんなイメージだったが、何かすっかり弱々しくなっていないか(確かに2018年は0勝3敗)。あらためて中日スポーツの記事を見ると、ますますそんな印象が強くなった。


それをドラゴンズOBで「師匠」の今中慎二が叱咤激励していた。メンタル、メンタルだと。「もうプロで何年もやったら、技術を上げるのは簡単じゃない。要は気持ちの持ちよう。自信を持てるかどうかや」
なるほどな。

若い頃は仕事を覚えていき急激にレベルアップしていくが、できる人ほどレベルアップの幅は広がりにくいかもしれない。そこで大事なのが気持ちだという。

記事によれば大野雄大は2月の練習試合、「結果ほしさ満々で」マウンドに上がったという。分かる。調子が悪い時ほどそういうふうに考えるものだ。しかしベンチは、結果にこだわるよりこれまで取り組んできたことをやれと指導した。確かにまだシーズンイン前。何となく抑えるよりも、目指す形を突き詰めたらいい。

記事の最後にある、今中慎二の言葉は特にいい。
「打たれたことよりもその後に抑えたイメージを大切にすればいい」
いかがだろうか。開き直りではない。初めはうまくいかなくても、その後うまくいったのであれば、そのイメージを大切にしたらよい。何か、背中を押してもらった思いだ。
悔いは、あります。

悔いは、あります。



そう、引きずるのが一番よくない。後ろを向いてばかりでは前に進めない。終わったことよりこれからだ。まがりなりにもうまくいったならそのイメージを大切にすることで、自信につなげたい。大野雄大にもまたあの「打てるもんなら打ってみろ」という、ふてぶてしい表情になってもらいたい。

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朝ドラ「エール」モデルは六甲おろし作曲家・古関裕而氏~心に残る作品をつくる

古関裕而氏の記事が出ていた。野球にゆかりのある作曲家だったかとうっすら記憶があったが、2020年春からの朝ドラ「エール」は古関裕而氏がモデルなのだという。福島県の出身ということで、地元では朝ドラ待望論があったのだとか。関係者の皆さん、おめでとうございます!

具体的にどんな曲を手掛けたのか、初めてチェックしたらおなじみの曲ばかり。

六甲おろし

六甲おろし

六甲おろし

闘魂こめて
巨人軍の歌-闘魂こめて-

巨人軍の歌-闘魂こめて-

栄冠は君に輝く
栄冠は君に輝く

栄冠は君に輝く

「紺碧の空」
TOKYO BIG6 ~Sounds of 神宮球場 東京六大学野球編~

TOKYO BIG6 ~Sounds of 神宮球場 東京六大学野球編~

高校野球大学野球プロ野球と、もうファンにはたまらない曲ばかりだ。不勉強で恐縮だが、古関裕而氏自身が野球好きだったのだろうか。そこは是非ドラマで確認するとしよう。と言っても朝ドラはちょうど出勤時間帯のため社会人になってからほとんど見られていないのだが。

評伝 古関裕而: 国民音楽樹立への途

評伝 古関裕而: 国民音楽樹立への途

それにしても、六甲おろし闘魂こめて、とは。阪神タイガース読売ジャイアンツ。ライバルなのに作曲家が同じだったなんて面白い。ファンは知りながら歌っていたのだろうか?

俺たちの野球の歌?六甲おろし 闘魂こめて?

俺たちの野球の歌?六甲おろし 闘魂こめて?

また、私は法政大学OBなのだが「紺碧の空」は早稲田大学の応援歌。東京六大学野球ファンにはおなじみだ。ほかに慶応大学応援歌「我ぞ覇者」も作曲されていた。六大学野球ファンとしては、古関裕而氏がフューチャーされることをきっかけにぜひ六大学野球を見ながら、氏の作品を堪能してもらいたい。歌いながらの野球観戦はめちゃくちゃ楽しいので。

ブラバン!六大学野球

ブラバン!六大学野球


スポーツファンとしてはNHKスポーツ中継テーマ「スポーツショー行進曲」も外せない。耳にしたことがある方は相当いるはずだ。

NHK ニュースの音楽2010

NHK ニュースの音楽2010


そしてラジオリスナー的に外せないのがNHK「ひるのいこい」 。社会人としては昼休み、そこまで憩いとは言えないのだがあのまったりとしたメロディーはたまらない。

心に残る作品をつくるという意味で、ものすごく尊敬してしまう。原動力は何だったのだろうか。また、Wikipediaで見ただけだが、戦時歌謡を手掛けており、軍歌と思われるタイトルも並んでいた。時代的に仕方なかったかもしれないが、どんな思いでつくっていたのか、また、その辺りがドラマでどのように描かれるのか、大変興味深い。
決定盤シリーズ 栄冠は君に輝く 古関裕而大全集

決定盤シリーズ 栄冠は君に輝く 古関裕而大全集



ちなみにドラマの主演は窪田正孝。ドラマではどのくらいスポーツと関わりがあるのか分からないが、野球やスポーツのエピソードを楽しみに注目しようと思う。


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自分を窮屈にしない~巨人・沢村拓一の先発再転向は成功するのか

再転向。素晴らしい響きだ。チャレンジは何度だってすればいい。そんなことをサンスポ記事を見て考えた。見出しは「巨人・沢村、先発再転向!原監督が通告『彼の良さというか…自分を窮屈にしている』」。

だから今日もブルペンに向かう

だから今日もブルペンに向かう



150キロ前後を連発できる沢村拓一。威力は抜群だが大味な印象は否めない。ルーキーイヤーに11勝を挙げ新人王に輝くも、以後4年間の先発時代は通算29勝33敗と負け越した。平均7勝だから悪すぎる訳でもないが、負け越しはいただけない。

また、コントロールに難がある印象も。球威を生かして抑えに配置転換されたが、大事な場面で四球を出し、結果的に抑えられたとしても苦しいマウンドさばきはぬぐえなかった。この辺りが、原辰徳監督が言う「窮屈さ」ではなかろうか。

スポーツ報知には原監督の言葉が詳しく紹介されている。
「1点を守るのは窮屈そうに見える。お前さんの良さは俺はよく知っている。自分を小さく、窮屈にしているように見える。先発として頑張ってくれ。1点、2点、3点くらいいいじゃないか。そういう野球をやってみろ。智之(菅野)に匹敵する投手にお前はなれる」



1点、2点、3点くらいいいじゃないか。典型的な、慕われる上司の言葉である。丸佳浩の加入でよっぽど得点力に自信があるのかとついナナメから見てしまうが、沢村には細かいことを気にせず、持ち味を存分に発揮せよと言いたいらしい。
原点―勝ち続ける組織作り

原点―勝ち続ける組織作り



スキルアップを目指す中で、短所を直すのと、長所を伸ばすのは、どちらがよいのだろうか。昔は短所を直して平均値を少しでも上げさせる指導者や上司が多かったように思う。だが近年はジェネラリストもスペシャリストもそれぞれ評価されているように思う。そんな中、一番まずいのはそのどちらでもない中途半端な人たちだ。

ピッチャーで言えば先発でも抑えでもない。じゃあ中継ぎかと言うと、今は違う。現代の中継ぎはセットアッパーといって、勝利の方程式の一角であり、仮に負けていたとしても劣勢を食い止めて反撃の布石にならねばならない。中途半端な人たちはそのどれもできない。あまりよくない言葉だが、いわゆる敗戦処理しかできない。

そうならないためにはどうするか。ここはもう、短所を付け焼き刃で直すよりは得意分野を目一杯伸ばす方が得策に思う。その人にしかできないことをとことんやる。そしてまずは何らかのスペシャリストになり、ゆくゆくはいろいろなことができるジェネラリストへとステップアップする。理想論かもしれないが、それに尽きると思う。

そのためには仕事ばかりでもいけない。オフの時間を充実させて、好きなことに没頭する。そうやって得意分野を肉付けしていく。その積み重ねがいずれ仕事にも反映されるはずだ。
豪腕ルーキー 澤村拓一2011 [DVD]

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再転向なんて言うと、それまでのキャリアを疑問視する向きもあろう。しかし、本来の力が発揮できないのであれば現在地に居続ける意味はない。だから、若干のくすぶり感が否めない沢村拓一がこのタイミングで先発に戻るのはすごく意味がある。

抑えを経験したことで、同じ先発ではあっても以前とは違う景色が見えるはずだ。あとはいかに自分らしさを発揮するか。沢村のチャレンジに注目してみよう。

優れた企画は人をワクワクさせる~中日本拠地開幕戦で権藤博vs立浪和義

4月2日の中日ドラゴンズ本拠地開幕戦で権藤博立浪和義が対決するという。と言ってももちろん始球式。でも、本当にワクワクする企画だ。

もっと投げたくはないか 権藤博からのメッセージ

もっと投げたくはないか 権藤博からのメッセージ



なぜこの二人かと言えばもちろん、そろって野球殿堂入りしたから。タイミング的にも、2019年の開幕戦でこの二人がパフォーマンスすることは想定内ではある。

しかし中日スポーツの記事で、権藤さんのこんなコメントを見たらついつい期待してしまう。
「俺は立浪に打ってもらいたいんだ」

楽しい企画とは、こういうものなんだな、と思う。世の中は企画にあふれている。ほとんどは企画者が、注目を集めたくて企画を立てる。だから当然、企画者が「どう? 面白いでしょう?」と思う自信作だ。

しかし本当に優れた企画とは、受け手が能動的に楽しめてしまうものなんじゃないか。権藤博vs立浪和義なんて、企画した人も楽しいに違いないが、提示されたファンは疑うことなく盛り上がれる。楽しみって、計算してつくるものよりは、わき上がるものであってほしい。きっとその方が楽しい。

権藤さんのコメントのおかげで想像が膨らんでしまった。立浪和義は打つだろうか。打つんだったら二塁打になってほしいな。なんて。

優れた企画とはこんなに人をワクワクさせることができるんだ。とても勉強になりました。

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開幕投手・千賀滉大の自覚を促した攝津正の引退~エース不在が次代を育てる

ソフトバンク開幕投手に千賀滉大が決まった。2年連続。しかし、去年とはモチベーションが違うようだ。Full-Countの記事「『こういう選手になりたいと…』2年連続の開幕投手、千賀滉大の意識を変えた出来事」を読むと、それがよく分かる。


大きな出来事だったのは攝津正の引退。ここ数年はけがで満足に投げられなかったとはいえ、2012年から5年連続で開幕投手を務めたエース。いるといないのとでは、まったく違うということだろう。

千賀は昨シーズンの開幕戦は「試合を壊さないように程度にしか思ってなかった」という。育成初の開幕投手。心中、期するものはあったと思うがあえて自然体でいようとしたのかもしれない。

だが、開幕投手はやはり特別だ。長いシーズンの初戦であるだけではない。このピッチャーを軸にローテーションを組むんだ。このピッチャーを先頭に戦うんだ。そういう、指揮官の決意表明なのだ。だから、去年は負けなかったとはいえ、千賀の「試合を壊さないように」という考えは、甘いと言われても仕方がない。

やはり組織にエースなり実績がある人がいると、若手はどこか甘えが出る。いざとなればあの人がいるじゃない、と。何とかしてくれるんじゃないか、と。エースが大黒柱であればあるほど後輩が育たないのは皮肉なものだ。


しかし、もう攝津正はいない。そして千賀は今、こう考えている。
「最後まで投げたい」
自分でけりを付けねばならない、という意味だ。この決意を知った時、あらためて思った。ああ、本当に攝津正は引退してしまったのだなあ、と。次代のエースに自覚を促したのは、攝津正のカッコいい置き土産に思えた。
3月29日からの開幕カードは西武戦。西武は初戦、多和田真三郎を立てる予定だ。エースの不在が次のエースを育てる。その意味では、菊池雄星がメジャーに旅立った今、多和田もまたエースへの道を歩みだしている。 千賀滉大と多和田真三郎。果たしてどちらが長くマウンド上に居続けられるだろうか。初戦から目が離せない。

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