黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

甘利経済再生担当大臣が使った矜持という言葉で思い出した杉内と涌井の涙

 

金銭問題が取りざたされていた甘利明・経済再生担当大臣が1月28日、辞任した。

・秘書の監督責任

・閣僚としての責務

・政治家としての矜持

これらを鑑みたという。

 

矜持という言葉、久しぶりに耳にした。平たく言えばプライド、か。疑いをかけられるのは耐えられない、という状況で口にするなら分かるが、金銭のやり取りは認めた。けじめを付けるのがせめてもの矜持、という意味だったのだろうか。なお疑惑が「あまりあきら」かになっていない、というダジャレは何人もが思いつきそうである。

 

あと1勝でリーグ制覇

カーラジオから聞こえてきた矜持という言葉で、あの熱戦を思い出した。2011年、ソフトバンクと西武で争われたパリーグCS第3戦。先発の杉内俊哉涌井秀章は一歩も譲らず、9回を終えてなお0-0。

第1戦、2戦をソフトバンクが連勝したため、アドバンテージの1勝を足すと、この日引き分けでもソフトバンク日本シリーズに行ける状態だった。

まさかの社員旅行中

なんとこの日は、黒柴スポーツ新聞従業員の社員旅行の日だった。しかも初のヤフードーム(後にヤフオクドームと改称)観戦。にわかホークスファンもいいところの編集局長(本来巨人ファン)は「これで優勝したらあまりに話ができすぎだが、ここまで来たら目の前で胴上げしてほしい」と願い始めていた。 

トイレの道中での惨劇

しかし、そんなにうまくはいかない。10回表、中村剛也が2塁打を放ち、なおもバッター、フェルナンデス。延長の雰囲気を察知し、編集局長はトイレに立ってしまっていた。

フェルナンデスよ、打たないでくれ。

同点のまま自席にもどらせてくれ。

その願いむなしく、トイレ近くのテレビではフェルナンデスの2塁打が映し出されていた。あああー。満員のホークスファンからため息がもれた。

ほんの一角を与えられていたライオンズファンが水色の旗を振りまくっていた。 

 127球の熱投だった

気付けば、マウンドの杉内がひざに手をついたまま動かないではないか。

杉内が泣いている。

観客は察知し、温かい拍手を送った。ダグアウトでもらったタオルで顔を覆う杉内。127球の熱投だった。顔を上げられない。

今ネットで映像を見直しても、この日に賭けた意気込みが痛いほど伝わってくる。 

BBH2009 WBC 杉内 俊哉(日本)

BBH2009 WBC 杉内 俊哉(日本)

  

終わったはずが

ソフトバンクは何とかこの1点で流れを断ち切る。ともかく1点入れなければ、優勝は次戦に持ち越しである。つまり本紙社員は胴上げが見られない。逆転を、いや、同点を祈った。

すると10回裏、2死ながらランナー2塁。一打同点のチャンスを迎えた。

バッターは長谷川勇也。しかし涌井の球威は衰えない。

1ボール2ストライクからの1球は外角いっぱいに決まった、かに見えた。

「ボール!」

うおおおおお、という何とも言えないため息。首の皮一枚つながった。

はっせがわ!

ちゃーちゃーちゃちゃー ちゃーちゃちゃ ちゃーちゃーちゃちゃー(はっせがわ)

ちゃーちゃーちゃちゃー ちゃーちゃちゃ ちゃーちゃーちゃちゃー(はっせがわ)

かっとばせえ、はっせがわ!

にわかホークスファンの編集局長も福岡のファンに囲まれながら必死の応援である。

続く球は内角に外れ、フルカウントに。

歩かしもありうる場面だったが、ネクストバッターは第2戦満塁弾の松中信彦。いや、ここで逃げる涌井ではなかった。

しかし、投じた球はド真ん中へ。最後の最後に落とし穴が待っていた。

長谷川がきっちりとらえ、ボールは外野の間を抜けフェンスまで到達。2塁走者の福田秀平が悠々同点のホームを踏んだ。

今度は涌井が

 やってしまった、と呆然とする涌井。マウンド近くで杉内と同じようにひざに手をついてしまった。アンダーシャツでぬぐったのは汗でもあり、涙でもあった。少し深めにキャップをかぶり直し、涌井は降板した。ウィキペディアで初めて知り、映像でも確認したが、杉内と同じ魔の127球目だった。

杉内はこの年のシーズン8勝、涌井は9勝。本来の力を出し切れなかったからなのか、共にこの一戦だけはと思ったことだろう。

これぞエース

魂を込めて投げ合った両チームの先発が、同じような展開で相次ぎマウンドで涙する。チームに勝利をもたらせなかった自分自身が許せない。これがエースの矜持というものである。0-0というしびれる投手戦だったが、分業制が確立された最近の野球の中で、秋山幸二渡辺久信両監督が最後までエースを信じて任せたのも立派。選手にやれるだけやらせ、その結果は監督が取る。これが本当の任命責任であろう。矜持という言葉は、自分で使うよりも誰かに感じてもらう方が、かっこいい。

寛容力 ~怒らないから選手は伸びる~

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そして鷹党入り

試合は神がかっていた長谷川が12回裏にサヨナラタイムリーヒット。狂喜乱舞のヤフオクドームで本紙編集局長ら社員一同は全員鷹党入りを宣言した。ただ、ずるい局長だけは少年時代からのG党としての矜持も捨てられずにいる。

涌井秀章―埼玉西武ライオンズ (スポーツアルバム No. 22)

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