黒柴スポーツ新聞

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無理を悲劇にしないためには~野球殿堂入り立浪和義10.8決死のヘッドスライディング

立浪和義野球殿堂入りが決まった。黒柴スポーツ新聞的には権藤博で書きたいところだが、以前書いたことがあるのできょうは立浪和義で。ミスター二塁打ミスタードラゴンズなのだが、私にはあの名シーンしか浮かばない。そう、立浪和義のヘッドスライディングだ。

1994年10月8日、そう、巨人と中日が最終戦の130試合目で同率首位決戦をした、あの10.8で立浪和義はヘッドスライディングをしたのだった。普段そんなことをしない人がヘッドスライディングをしてしまう、それくらい熱い試合だったのだ。



久しぶりに動画を漁ってみたら吉村功アナウンサーの実況だった。立浪和義がヘッドスライディングをしたのは巨人が3点リードの8回裏。立浪和義は先頭バッターだった。

「切り込み隊長の役割もできます立浪です」。吉村アナウンサーの実況は滑らかだ。「どうですか達川さん、この回一つ大きなヤマ場でしょうね」「ヤマ場ですね、それも立浪次第ですね」
長打力を高める極意 (MASTERS METHOD)

長打力を高める極意 (MASTERS METHOD)



立ちはだかるのは桑田真澄。しびれる場面でPL学園対決である。大先輩に対して立浪は成績を残していた。17打数の7安打、打率は4割以上だ。「どういうわけか、いつも桑田は立浪にムキになりますよね」と解説の鈴木孝政。野球センスの塊同士だから燃えるのは当然だ。桑田が燃えないはずがない。
初球、桑田はインコース低め、ここしかないというところでストライクを取る。すさまじいコントロールだ。「桑田も気合が入ってますねぇ」と吉村アナ。

1球ボールを挟んでツーストライク目もインコースの変化球。まさに卓越したコントロールだ。そして運命の4球目。立浪が叩きつけた打球は高いバウンドでサードへ。岡崎郁がうまくすくい上げて一塁へ。だが立浪が気合のヘッドスライディングで一歩上回った。

立浪和義公式写真集

立浪和義公式写真集



「どうだ、セーフだ!」。吉村功アナウンサーは声を張ったが、立浪はしゃがみこんでいる。「立浪もどこか痛めたか?」。巨人も落合博満が負傷。ギリギリの勝負をしていたのだ。
決断=実行

決断=実行



「今のプレーでお客さん泣いてましたね」「ああ、そうですか」「これは気合と気合のぶつかり合いですね」「もう執念のヒットですね」。見るものを熱くする名場面であった。結局、立浪和義は左肩を傷めてダグアウトに引っ込んでしまった。

この傷は立浪和義に深いダメージを残してしまった。翌シーズンさらには引退まで痛みを持ち越してしまったという。一説には、一塁は駆け抜けた方が速いとか。野球経験者に聞いてみたら、駆け抜けるよりヘッドスライディングの方が速い場合もあるそうだ。映像を見る限り立浪和義の脚の方が速く、タイミング的にはヘッドスライディングをしなくても大丈夫そうだ。だがこれも結果論。恐らく本能的に立浪和義はヘッドスライディングしていたのだろう。

物事を精神論で片付けるのは好きじゃない。だが、この立浪和義のヘッドスライディングにものすごく惹かれた。イチローには否定されてしまうだろうがこれもプロフェッショナルだと思った。やはり勝負をかける時は全身全霊でやる方が好きだ。立浪和義はけがをしたわけだからやらない方がよかったのだが、時には熱くなることも必要だと思う。

それで言うと、引退した稀勢の里が、けがをおして出た場所はどう評価したらよかったのか。武蔵川親方はズバリ、「横綱の責任は出場ではない。勝つことだ」と指摘した。無理をしてもいい人と、自重した方がいい人がいるということか。

そして、無理してよかったのかどうかは、その後の結果にもよるのだろう。立浪和義は22年間で2480本もヒットを打った。けがをした後も二塁手三塁手としてゴールデングラブ賞を取っている。もしもあのヘッドスライディング後に再起不能だったら、やはりやらなきゃよかったのになぁとなったのだ。だから過去の無理を悲劇にしないためには、その後そこそこハッピーにならねばならない。果たして稀勢の里は挽回することができるだろうか。

それで結局、権藤博にも触れてしまうが1年目に35勝、2年目も30勝とすさまじい投げ方だったことで、権藤博は指導者としてのスタイルが決まったわけだ。そして、80歳にして野球殿堂入りを果たしたのだ。無理したことが後々どんな意味合いを持つのか、結果が分かるのは何十年も後になることもあるのだ。そこは稀勢の里には救いになるだろう。
もっと投げたくはないか 権藤博からのメッセージ

もっと投げたくはないか 権藤博からのメッセージ



それにしても立浪和義はなかなか監督にならない。未来のミスタードラゴンズ候補の根尾がいるうちには中日の監督になるだろうか。指導者になったらぜひ、熱い気持ちを体現できる選手を育ててもらいたい。


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