黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

さらば打撃職人・長谷川勇也〜あの勝負強さをもう一度

2021年10月8日。通信社の速報記事で「ソフトバンクの長谷川」の文字を見た時、来るべき時が来たなと思った。長谷川勇也、今季限りでの引退表明。10月に入り2軍行きとなった時点で腹をくくったのか、侍が刀を置くように打撃職人が重い決断を下した。私にとって、長谷川勇也は恩人だ。ソフトバンクホークスのファンになるという、楽しい生活をもたらしてくれた恩人だ。私がホークスファンになってもう10年になったことに、長谷川のあの一打の映像を見て気が付いた。

あの一打とは、2011年11月5日、ライオンズとのCS第2ステージ第3戦で放った同点タイムリーだ。語り継がれる杉内対涌井の投手戦。先に点を与えた杉内(と言っても延長10回、127球目だったが)は降板し涙を流した。長谷川はこれを見て「負け投手にしてはいけない」と思ったという。裏の攻撃で2死から打席に立った長谷川は2ストライクと後がなくなった。そして外角いっぱいに決まったかに見えた球はボールの判定。実は私はスタンドにいたのだが、どよめきが起きたのを覚えている。にわかもにわか、初めての福岡での野球観戦でこんなしびれる展開となり、大興奮しながらスタンドで見ていた。そしていつしか祈っていた。頼む長谷川、タイムリーを打ってくれ!

長谷川はフルカウントからバットを一閃。打球はフェンスまで達し、セカンドから福田秀平が帰ってきた。同点。涌井は奇しくも、杉内と同じ127球目で力尽き、杉内と同じく涙した。両エース涙の降板。熱戦はまたしても長谷川が、今度はサヨナラタイムリーを延長12回に放って終止符を打った。私は初の福岡での野球観戦で、秋山監督の胴上げを見ることができたのだった。そして頭から湯気を出しながらドームをあとにする頃には、身も心もすっかりホークスファンになっていた。

長谷川は2013年には首位打者に輝き、球団記録となる198安打を放った。しかし2014年のオリックス戦でホームに突入した際、ブロックにまともに跳ね返されて足首を負傷。これがなかったらその後もっと数字を残せたかもしれない。引退表明した時点で通算1108安打は意外だった。ただ、長谷川には勝負強い印象が残っている。1打席にかける執念も尋常ではなかった。2020年巨人との日本シリーズではチャンスに相手の好プレーでセカンドに倒れたのだが、一塁にヘッドスライディングした後、グラウンドを叩いて悔しさを露わにした。それをベテランがやる意味。やはり長谷川は手を抜かない男だ。大けがとなったあの本塁突入も全力プレーの結果だから、避けられない運命だったと思わねばなるまい。

そんな執念の男は、現役に執着はしなかった。引き際を悟ったのか、10月2日の登録抹消からわずか6日後のスピード発表。このところ代打で起用されても打てなかったことから、限界を感じたのかもしれない。数字上まだCS進出の可能性は残るが、モイネロの帰国に加えて長谷川の引退表明があり、個人的には2021年シーズンが終わった気がする。長谷川の引退表明はホークスファンの心を折る威力があるのだから、せめてCS進出の可能性が消えるまでは公表してほしくなかった、というのは甘えだろうか。引退表明の日、ホークスはビハインドを追いつきながら、終盤突き放されて敗れてしまった。

長谷川は筑後でもうあいさつを済ませてしまった。花束も受け取ったらしい。長谷川のことだから、1軍に上がる枠を若手に譲るべく、もう1軍戦に出ないつもりじゃないかと心配してしまう。どうやら19日に引退試合が予定されているらしいので、このまま長谷川とサヨナラをせずには済みそうだ。最後の打席、長谷川はどんな顔でバッターボックスに向かうのか。長谷川には真剣勝負がよく似合う。もしも最後の打席が代打なら、ホークスナインには最後の最後まで長谷川にふさわしい舞台をつくってあげてもらいたい。できれば一打同点あるいは逆転のシチュエーション。私がホークスファンになったあの日のように、勝負強い長谷川の姿をもう一度見てみたい。

リチャードが放った初満塁弾&手洗いうがいリチャードの名文句

ここで打ったらすごいなと思ったらホントに打った。リチャードが待望の初ホームランかつ満塁弾。手応えが十分だったようで打球の行方も追わずに吠えた。ファームもしっかりチェックするコアなソフトバンクファンからしたら当然なのだろうが、まさに覚醒。満塁弾に加えて2本目のホームランも飛び出した。2本とも内角寄りで好きなコースなのかもしれない。直球をとらえたらスタンドインするわけで、他球団へのインパクト十分の2発だった。ただし内角を警戒して外角でとられた三振も。中継で池田親興が言っていたが活躍するほどマークはきつくなる。リチャードはこれからが勝負だ。

リチャードはお立ち台でも炸裂。次の西武戦には師匠の山川穂高がいますがと振られても「関係ない。ぶっ潰しに」(このあと小声でちょっとまずいなとも(笑))。そこはキャラで乗り切ってもらおう。締めには「手洗いうがいリチャード」の名文句も飛び出した。まさに「舌好調」で今後がとても楽しみだ。

リチャードが点火した打線は12得点。打つ方の印象が強いが試合を引き締めたのはスチュワートJr。6者連続三振。終盤崩れたのは課題だが中継ぎとして面白い存在になってきた。甲斐に代わってスタメンマスクを務めた高谷もナイスリード。追加点のきっかけとなるヒットも出た。やはり高谷は頼りになる。牧原大成にも一発が飛び出し、上林は三塁打をマーク。和田には5勝目が付いた。最終回を投げた左腕古谷は速球が持ち味で嘉弥真とは違う魅力を感じた。リチャードだけでなくそれぞれが活躍できた印象だ。初戦は手痛い負けを喫したが首位オリックス相手に勝ち越し。ソフトバンクは上昇気流に乗りつつある。

ソフトバンク崖っぷちで育成出身トリオがお立ち台〜甲斐、牧原そしてリチャード

「全員元育成選手」
アナウンサーが言うまで気がつかなかった。4日のオリックス戦。お立ち台に上がったソフトバンクの面々…甲斐拓也、牧原大成、そしてリチャードは育成から1軍のポジションをつかんだのだった。お立ち台の3人とも育成出身は珍しい。と同時にソフトバンクの素晴らしさを感じた。

この育成出身者が、負ければ自力優勝の可能性が消える崖っぷちでお立ち台に上がる。何とも胸が熱くなる。今日勝ったからといってもまた、自力優勝消滅の危機はなくならない。しかしまずは一つでも勝つ。そして可能性のある限り諦めない。それが求められる。このところソフトバンクの調子が良くなく、正直なところグッとくるシーンが少なかった。基本的に、湧き上がってくるものがないとブログを書こうという気持ちまで持ってこれない。職業として、勝とうが負けようが何かしらネタを見つけて書くライターの人とは違う。別に負けてもグッとくるものがあれば書きたくなるのだが、今シーズンのソフトバンクは史上最多ペースの引き分けや取りこぼしが多い。工藤監督になってから初めて後半戦でも負け越しを経験。このチームのもたつきとブログの執筆ペースが上がらないのは無関係ではない。

お立ち台に上がった牧原大成は13球だったか粘るシーンがあった。エンドランのサインが出ていたようでそのたびにランナー甲斐は走りヘトヘトになった。だが解説の坊西いわく、「体にキレが出た」。その後の逆転タイムリーといい、良いリフレッシュになっていたら最高だ。リチャードは待望のプロ初安打を放ったが甲斐の逆転打につながった四球が印象的。何とか打ってアピールしたいところだがよく見極めてチャンスを拡大した。

オリックスはすっかり自信を付けて劣勢でもひっくり返せそうなムードを持っている。逆にソフトバンクは追いつかれたりひっくり返された経験からすぐ「またか」といった雰囲気になりがちだ。ゲーム差が6まできたらもう思い切ってやるだけ。リチャードは初安打の次は初ホームランを打ってほしい。昇格した上林にも結果を期待したい。守護神・森唯斗が戻ればまだファイティングポーズは取れるのではないか。そんな可能性を感じた試合だった。

能力以上のものは出ない〜11試合連続無失点の板東と、連日被弾の岩嵜

ロッテに0-5からひっくり返される手痛い敗戦から1日。最終回のマウンドには岩嵜ではなく板東が上がった。無事に試合を締めくくり、プロ初セーブ。「9回のマウンドはいつも以上に緊張しました」(日刊スポーツ記事より)とのことだが、私が購読する新聞にはとてもいい板東のコメントが載っていた。

「自分の持っている以上のものは出ないので、普段通りの投球を心がけた」
そう、ほとんどの人はそうだろう。自分の能力以上のパフォーマンスは発揮できないのだ。たまに切羽詰まった結果すごくいい作品ができたりもする。でもそれも実力。板東が仮に追い詰められたとしてもそれを乗り切ることができたなら、やはり抑える力があるということだ。板東はこの日で11試合連続無失点となった。

仕事がうまくいかなかった時。こんなはずじゃなかったのにな、なんて思う。運不運は確かにある。でも本当に能力があれば失敗はしないはずだ。自分の持っている以上のものを、能力もないのに望むからギャップが生まれる。やはり自分の能力は客観的に把握しておきたい。板東はどうだろう。2日連続で3失点の岩嵜に代わって上がった最終回のマウンドにいつもより緊張した。でもしばらく点を取られていないのは事実だから、決して自信なくマウンドに上がったわけではないと思う。板東はランナーを背負ったが、ロッテの盗塁を今宮健太が「神の手」で防いで事なきを得た。板東はちょっと運を持っているかもしれない。

昨日は岩嵜の代役で板東が締めたが、最終回を任せるにはまだ負担がかかりそう。2軍戦とは言え森唯斗も投げた。森がバリバリ投げるまではやはり岩嵜に踏ん張ってもらわないといけない。岩嵜は2日連続で打たれてかなり悔しそうな顔をしていた。その気持ちがあれば大丈夫なんじゃないか。板東が言うように、自分の持っている以上のものは出ない。岩嵜は一発を打たれることがあるならば、そうさせないために何をすればいいのか。この悔しい被弾から答えを導き出してほしいと思う。

ニ保が阪神移籍後初勝利〜環境を変えて勝つ大変さを実感

ソフトバンク在籍中、とりわけ熱烈に応援していたわけではないが、ニ保旭の阪神移籍初勝利に涙がにじんだ。ニ保の定番の6回途中3失点。大量得点で援護してくれた強力打線さまさまではあるが、試合をつくったという点では立派。とにかく阪神にはシーズン途中で合流したのだから。環境が変わって、そこで結果を出すのは簡単ではない。

後半戦が開幕して2戦目の先発は抜擢といっていい。それとも虎の台所事情が厳しいのか? いずれにせよニ保にはビッグチャンスだった。移籍しても実績が作れなければ、生え抜きよりは立場が弱い。先発なら勝ち星、中継ぎならホールドを積み重ねていきたい。まず1勝できてホッとしていることだろう。

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環境が変わると言えば、パ・リーグからセ・リーグに来たわけだから、打席に立つこともある。この日ニ保はプロ初の犠打を記録したのだが、送りバントは一発で決められたわけではなかった。失敗の後、心細そうにベンチを振り返るニ保。プロ10年以上の選手とは思えない。だが送りバントをする機会がなかったのだから大目に見てあげてほしい。バント無理かなと思われたが何と落差の大きな変化球に食らいつき、見事に転がした。これを決めていかないとニ保は使ってもらえないのだ。恐らく京セラのタイガースファンもそんなニ保の境遇は知っていた。だからパ・リーグ育ちのニ保の送りバントでちょっと場内が湧いたようだ。ベンチに戻って誰かが気の利いた言葉をかけてくれたのか、ニ保はめちゃくちゃ笑っていた。ホッとしていた。

6点リードをもらっていたのだが、ソロホームラン2発を打たれたところでニ保は降板した。そう、ニ保は球速は遅くはないが、剛速球でねじ伏せるタイプではない。鋭い変化球があるわけでもない。丁寧に、何とか抑える。だからソフトバンクファンとしてはタイガースファンに対し、ニ保の3失点までは温かい目で見守ってほしいと思う。強力打線の援護があれば、ニ保は勝てるので。なおここからは新型コロナウイルスの接種会場よりお届けします。注射そのものは痛くなかったです。接種後の違和感がジワジワきだしたのですぐ終わります(汗)。被接種者を案内するスタッフや医療関係者の皆様本当にありがとうございます。座席の消毒もしていただき感謝です。このまま接種後の違和感が収まりますように。そしてニ保が阪神で早く2勝目を挙げますように。以上接種会場よりお届けしました(帰宅後公開)。

ペースを握って勝つ〜明徳義塾、サヨナラで難敵・県岐阜商破る

レフトフライと思われたが風のいたずらか、外野手が落球。明徳義塾が幸運な二塁打から同点、逆転。一度は県岐阜商業に追い付かれたが9回、森松のサヨナラ打で振り切り初戦を突破した。

勝因はいくつもある。前半押され気味だったがエース代木大和が粘って無失点で切り抜けたこと。その代木が先制点を許すも代わった吉村が追加点は許さなかったこと。代木はマウンドを降りた後の打席で同点の犠牲フライを打ったこと。明徳が犠牲バンドをきっちり決めたことなどなど…。こう見ると接戦ながら明徳は勝つべくして勝ったようにも思う。

明徳義塾馬淵史郎監督と県岐阜商業・鍛治舎巧監督という名将対決のふれ込み通り、1点を争う好勝負だった。ただ、守備が堅かった明徳に対して県岐阜商業は守りからペースを相手に渡したことを悔やんでいるだろう。明徳は確かに少ないチャンスを中軸がきっちりものにして勝ったのだが、先制されてからの守備でリズムが出た。内野安打が出たり相手のエラーで出塁したり。徐々に明徳ペースになった。8回に追いついた県岐阜商業はさすがだったが、9回一死からの送りバントをしっかり決めるなど、流れをものにしていた。その差が結果に現れたと思う。

次は明桜戦。代木と吉村が1失点ずつにとどめ、打つ方では中軸は結果を出せただけに次も楽しみだ。雨で3日連続の順延と思わぬ足止めを食らったが、この勢いで勝ち上がってもらいたい。

開幕投手の自覚で勝った石川柊太〜ソフトバンク、逆転優勝へ後半戦好スタート

ソフトバンクが後半戦初戦、投打がかみ合い順調なスタートを切った。特に石川柊太の好投に注目したい。「今年、初めて開幕投手を務めさせてもらった。その気持ちというか意気込んで投げました」(日刊スポーツ記事、ソフトバンク石川柊太11K好投で後半戦“開幕”白星で飾る 逆転Vへ勢い より)。そう、好投の裏側にはこの意気込みがあったのだ。

何と石川の勝利は5月28日の巨人戦以来。2カ月以上前だ。石川が勝ったからあえて書くのだが、ソフトバンクがここまで苦戦している一因は石川の不調にある。開幕投手が前半戦で3勝では話にならない。石川が援護に恵まれなかったのは事実。だけれども、特に千賀をけがで欠いてからは石川がエースとして投げねばならなかった。エースとは勝つピッチャーである以上に負けないピッチャーであらねばならない。石川は前半戦3勝8敗だったわけだから負け過ぎである。問いたかった。エースとは言わないまでも、開幕投手の自覚はあるのかと。

それはあったようだ。冒頭のコメントからうかがえた。五輪期間中は調整に専念できたことだろうが、侍ジャパンが金メダルを取ったのだから嫌でも意識するはずだ。甲斐、柳田、栗原そして千賀は輝いている。自分はどうか。輝けていない。だから是が非でも後半戦初戦は完璧な投球をしなければ…。石川はかなり気持ちを入れて投げたと思う。

8回1アウトまで投げて11奪三振。完投ペースだったが、前半戦は四球からの一発という場面もあった。スパッと交代したのはベンチワークとしても正解だった。逆転優勝を狙うソフトバンクとしてはとにかく石川で貯金しないといけない。だからこれからも石川にはリードした状態でリリーフにつなぐことを求める。モイネロが離脱したのは誤算だが、板東、岩嵜が初戦くらい投げられたら勝てるはずだ。コリン・レイの退団でますます石川の負担は増すが、千賀もオリンピックで投げられたし後半戦は投げられそうだ。前半戦思うように投げられなかった石川と千賀が勝ち星を重ねること。これが逆転優勝への条件だ。

雨の日に運命を変える公文克彦〜甲子園降雨コールド負け回避、日本ハムから西武にトレード

またしても雨の日だった。公文克彦日本ハムから西武にトレードされることが8月12日に発表された。2009年、夏の甲子園で当時高知高校のピッチャーだった公文は如水館相手に史上初の2日連続降雨コールドゲーム。もしかしたら負け、という状況を2日連続でしのいだ公文は「三度目の正直」で如水館に勝った。雨は公文にとってまさに恵みの雨となった。

勝った試合で公文は14奪三振の力投。これが好印象となったのか前から決まっていたのかは分からないが、公文は高校卒業後、大阪ガスに進む。そして何と巨人にドラフト指名された。ただ、いわゆる本格派ではないため、リリーフでいい結果を出して、1年でも長くプレーしてもらいたいなと思っていた。だが他球団も同じかもしれないが選手層が厚く、登板は2016年までの計2シーズンでわずか15試合。2014、15の2年間は1試合も投げられなかった。公文はこのまま埋没して戦力外になる可能性があったかもしれない。その状況を打開したのはトレードだった。

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大田泰示とペアでの日本ハム行き。知名度で言えば大田。だから大田プラス公文という印象だった。だが日本ハムで覚醒した大田に負けず劣らず、公文はいきなり41試合登板を果たす。繰り返すが巨人在籍中はたったの15試合にしか出ていなかった。これは大ブレイクと言っていい。一度一塁方向に踏み出した、と思いきやすぐさま反転して右打者にズバッと投げ込む。ワンポイントで使いたくなるというものだ。球も決して遅くない。公文はしっかりと日本ハムで戦力になった。そして初登板からの無敗記録を更新し、182試合連続無敗のプロ野球新記録まで作ってしまった。

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公文は2019年には61試合に登板するなど通算200試合以上に投げた。だが、2021年は日本ハムの調子自体が悪かったこともあろうが公文の登板もわずか10試合。大丈夫だろうかと思っていたところに西武移籍のニュースが飛び込んできた。そしてその日は奇しくも同じ高知県勢の明徳義塾が、夏の甲子園で雨天順延となった。あの日もし雨がひどくならなかったら高知高校は負けたかもしれない。その後の公文の球歴はどうなっていただろうか。もしも日本ハムに移籍していなかったら。もしも今回西武へのトレードがなかったら…。西武は左投手が手薄な印象だったから、きっと公文は弱点を補うために白羽の矢が立ったのだ。公文にとって、雨の日に何かが変わるのは縁起がいい。降雨コールドしかり、182試合連続無敗しかり。公文には不思議な力があるように思えてならない。雨の日のトレード発表に公文の新天地での活躍を祈った。

23年経っても色あせない名勝負と松坂大輔のカリスマ性〜1998夏、横浜対明徳義塾

23年も経つのに鳥肌が立つ。そんな試合だった。8月9日、NHKがあの試合をもう一度 スポーツ名場面で、横浜・松坂9回に登場 1998夏「横浜」対「明徳義塾」を放送したのを見た。鳥肌が立ったのは横浜がサヨナラした瞬間ではなく、松坂大輔が9回に救援登板したシーンだった。

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語り継がれるPL学園との死闘は前日。延長17回、250球も投げた松坂はさすがに投げられない。準決勝の明徳戦はチームメイトが先発、中継ぎした。試合は序盤から明徳ペース。それでも松坂は5回から投球練習を開始した。だが横浜は得点できない。それどころか中押しダメ押しに近い6点目が入った。さすがの横浜もじわじわ土俵際に追い詰められつつあった8回、打線が明徳のエース寺本四郎をとらえ出した。4点を返して試合は一気に分からなくなった。

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試合はまだ負けているというのに、松坂がマウンドに向かうと歓声が上がった。何という松坂のカリスマ性。元々ずば抜けた力を見せてきたが、PL戦での力投でますます松坂への声援は増すばかりであった。投球練習の最中、スタンドからは「まっつざか、まっつざか!」の大歓声。まだ明徳が2点リードしているのに、確実に風向きは変わりつつあった。そして松坂は明徳を三者凡退とし、味方の反撃ムードをきっちりつくった。

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9回裏の横浜の攻撃はさすがというしかなかった。まず先頭の9番バッターが右打ちで出塁。次が絶妙のセーフティバントで一塁も生き無死一、二塁。さらに送りバントがキャッチャー前に転がり三塁封殺かと思われたがわずかにそれて無死満塁のビッグチャンスになった。もう押せ押せで、後に西武入りする後藤武敏がセンター前への2点タイムリーを放ち一気に同点。まさに一気呵成だ。明徳義塾は完全に受け身になっていた。ここでうなったのは4番松坂が送りバントを決めたこと。4番が一発で試合を決めるのではなく、1点を奪うのに最善を尽くす。やはり常勝軍団はそつがない。

対する明徳は惜しいプレー、厳しい言い方をすればミスがいくつも重なった。ショートゴロがあと少しで取れなかった。送りバントの処理ができなかった。暴投もあった。やはり勝ちに不思議の勝ちなし、負けに不思議の負けなし(野村克也)である。先制、中押し、ダメ押しと横浜を追い詰めた。試合の流れはこれ以上ない展開だった。松坂相手ではなかったが、打線は好調。ちなみに逆転負けの印象が強くてかすんでしまっているがこの試合で明徳の藤本敏也が史上4人目のサイクル安打を記録していた。恥ずかしながら初めて知った。

明徳は最後の最後にエース寺本四郎を再びマウンドに戻した。押せ押せムードを押し込めるには力しかない。だから寺本の再登板は選択ミスではなかった。横浜のサヨナラヒットは寺本の球威に押されてどん詰まり。セカンドが飛びついて取れるか取れないかくらいの所に飛び、わずかに及ばなかった。それ以上でもそれ以下でもない。寺本は泣き崩れ、しばらく立ち上がることはできなかった。他の明徳ナインもそうだった。PLも横浜を追い詰めたが、明徳も横浜をあと少しの所まで追い詰めた。取れる時に得点し、やりたくない点は絶対にやらない。そんな明徳野球を形成してきたのはこうした悔しさだろう。そういう意味ではこの23年前の敗戦は明徳義塾にとって財産になっている。

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NHKがなぜ今このタイミングでこの試合を流したのかは知らないが、松坂が引退するシーズンでもあり、やはり松坂は別格の存在だったなとあらためて感じた。松井秀喜5敬遠、松坂世代で壮絶な逆転負けと、明徳は何かと引き立て役になってしまいがちだが、過去には全国制覇した輝かしい成果もある。甲子園に出場するからにはまた何十年も先に再放送されるような名勝負を繰り広げてもらいたい。

侍ジャパンの正捕手・甲斐拓也はホークスの誇り〜東京五輪・金メダルおめでとう!

準決勝、8回だったと思う。ベンチで甲斐が電話していた。厳密に言うとブルペンへのコールだろうけど、選手が使うのは珍しい。だいたい野球中継ではピッチングコーチが使っていて、リリーフの準備を確認しているのだろう。甲斐の相手は栗林だった。「九回に入る前に僕のイメージを伝えておけば栗林も入りやすいと思った」(毎日新聞記事、「もしもし」侍J甲斐拓也、試合中に異例の直接電話 コロナ禍で工夫 より)そうだ。甲斐拓也とはそんな細やかな気遣いができる男である。

初戦では起死回生のスクイズアメリカ戦ではサヨナラ打と、守りだけでなく打つ方でも活躍した甲斐拓也。しかし決勝を終えた甲斐は「チームが勝ったことの方が」と繰り返した。団体競技の選手はそう言うものかもしれないけれど、甲斐が言うと本当に実感がこもって聞こえる。甲斐拓也とはそんな献身的な男である。

黒柴スポーツ新聞はフォーカスする。決勝、ゲームセット直後のバッテリーは抱き合って喜びを表現するのだが、甲斐拓也はどうしたか? そう、殊勲の守護神・栗林を持ち上げたのだ。そうやって栗林の頑張りを讃えられる。甲斐拓也とはそんな優しい男である。ホークスファンは誇ろう。そんな甲斐が正捕手を務めていることを。甲斐拓也、金メダル獲得おめでとう!

侍ジャパンを救うソフトバンク勢に興奮〜柳田同点打、栗原送りバント、甲斐勝ち越しタイムリー

崖っぷちの侍ジャパンを3人のソフトバンク戦士が救った。まずは柳田悠岐。土壇場の9回1死から、内野ゴロで同点に追いついた。ド派手にサヨナラ3ランとはいかなかったが、きっちり最低限の仕事をしてくれた。

そして栗原陵矢。解説の宮本慎也でさえ体験したことがないというくらいしびれる、タイブレークのノーアウト一、二塁からの送りバント。これを高校野球のお手本になるような、初球での成功。代表初打席というだけでも緊張しただろうが勝負強さはさすが。明るいキャラの栗原がきっちり送ってベンチに戻ると侍ジャパンはイケイケムードだ。

締めは甲斐拓也。アメリカチームが何やらゴニョゴニョ話していたが、何と外野手を1人内野に向かわせた。ピッチャー、キャッチャー以外に内野手5人。一か八かの賭けに出たが、それは甲斐も同じ。初球を思いっきり振り抜くと、アメリカの工夫をあざ笑うかのように高々とフェンスまで飛んでいった。甲斐の場合は殊勲のタイムリーも大事だが、そこはやはりキャッチャー。この日は梅野の後を引き継いだ訳だが延長では栗林の持ち味をきっちり引き出してタイブレークを無失点で切り抜けた。思い切ってこい!というジェスチャーは十分栗林に伝わっただろうし、期待に応えた栗林もさすがデビューから無失点記録を積み重ねた守護神らしかった。

というわけでソフトバンクファンにはたまらない勝ち方の侍ジャパン。今日は中継ぎで千賀がよく踏ん張ったのも収獲だ。次の韓国戦でもソフトバンク勢が活躍してよい結果をもたらしてほしい。

甲子園切符を手にする人々〜届かなかった高知・森木と大阪・興国高校

「甲子園が全てではない」。明徳義塾との決勝に敗れた高知・森木大智はそう言った。それはこの秋のドラフト指名が見込まれるからこそ言えるセリフのようにも聞こえた。森木とて簡単に割り切ったつもりはあるまい。ゲームセットの瞬間、森木はグラウンドに突っ伏したという。もちろん仲間と甲子園に行きたかったに決まっている。今頃森木のセリフを思い出したのは別の試合のサイド記事を読んだから。大阪府大会の決勝、大阪桐蔭ー興国戦だ。

おさらいしておくと、試合は大阪桐蔭が4ー3でサヨナラ勝ちした。興国としては申告敬遠する手もあったという。しかしやらなかった。元ロッテの喜多監督いわく「引くということはこのチームはやめようと言っていた。攻めていこうという話をしていた。もちろん勝負事を考えれば申告敬遠を2つしてとか、いろんな考えがあったが、最後はこのチームの野球を貫こうと思って勝負するぞという指示を出した」(日刊スポーツ記事、興国・喜多監督「このチームの野球貫こうと」大阪桐蔭に申告敬遠せず/大阪 より)。そう、勝負=甲子園よりもチームカラーを優先させた。バッテリーも同じ気持ちだったから、当事者が納得していたらいいんじゃない?と思う。一方でこうも思うのだ。何が何でも、と思わなければ甲子園には行けないんじゃないか、と。

話は再び高知大会に戻るのだが、なぜ明徳義塾は勝負強いのかという疑問に対し、その答えは甲子園に対する執念だという確信が年々高まっている。高知大会決勝で勝った明徳のエース代木が「高知の山奥まで来た」発言をした。それは別に明徳の野球道場をディスった訳ではなく、自分たちの覚悟を言いたかったのだろう。何かを得たかったら相応の何かを犠牲にしなければならない。それは得たい果実がおいしければおいしいほど、すさまじい犠牲なのだろう。地元親元での生活はできず、ひょっとしたら甘酸っぱい恋愛も? 高校生の特権のアオハルはなかったかもしれないが、代木たちは甲子園行きという願いを叶えた。

そしてこうも思うのだ。在学中に甲子園に行った経験があった代木たちの方が、甲子園未経験の森木よりも甲子園へのこだわり、執念があったんじゃないか、と。もう一度みんなで聖地に行くんだ、と。もしも一度でも森木が甲子園に行っていたら、高知大会決勝はさらに血みどろの激戦になっていたに違いない。「球数を投げさせろ」。馬淵監督は森木攻略へそう指示したという。高校野球が真に爽やかなものであればそんな指示はない。類いまれな才能をいかに潰すか。潰さないで行けるほど甲子園は甘くない…。今年の夏も全国で甲子園行きの切符を手にした学校がある。そこは確実に、その地区で最も甲子園に出場する執念が勝った学校なのだ。

ソフトボール藤田倭がカッコいい理由〜日本、イタリア下し3連勝

東京オリンピックソフトボールで日本が3連勝。その立役者となった藤田倭(やまと)ってカッコいいなぁと思った。3試合連続でホームランを打ったから? キリッとした顔立ちだから? どちらも合っているけれど、私は見た。藤田の素晴らしい動きを。

イタリア戦でホームランを打った後のイニング間。藤田がベンチ奥に走った。投手もこなす二刀流だからマウンドに行くためグローブを取りに走ったのかと思いきやレガースを手に取った。え? 藤田ってキャッチャーもやるの?と思ったらレガースをキャッチャー我妻に装着してあげていた。我妻は攻撃で最後のバッターとなったから、急いで準備しないといけないのだった。

二刀流でソフトボール界の大谷翔平とも言われた藤田倭(藤田の方が年上だけどな)。3試合連続でホームラン打ったら自分だったらウハウハ、ノリノリで視野は狭くなるだろう。しかしスター選手藤田は率先して仲間をサポートする。手を貸す必要がある人が視界に入ってくる。しかも自然に…。そういう人にならなければな。ホームランも素晴らしかったが、とてもいいものを見せてもらった。このチームワークでぜひ一番いい色のメダルを取ってもらいたい。

 

※7月27日追記  日本は決勝でアメリカを下し、金メダルを獲得しました。本当におめでとうございます。そして感動をありがとうございました!

振らなくていい局面もある〜絶好機にソフトバンク明石、今宮連続三振

バットは振らなきゃ何も始まらない、とは思う。しかし時には振らない選択もある。いや、振ってはいけない局面はあるのだと痛感した。楽天との2点差の試合、8回裏1アウト満塁から明石、今宮健太が連続三振した。しかも二人ともボール球を空振りした。

ストレートとフォークしか投げてない。そう解説の池田親興が言っていた。楽天のリリーフは酒居。落ちる球がウイニングショットであることは明白だった。なのにまんまと術中にはまった。悪いが今季明石と今宮はものすごく打率が低い。であればベンチは打席に送り出す前に「じっくり見極めろ」と伝えたのか。満塁なのだからヒットを打てば一気に2点差が縮まる可能性はあったが、そういうのは中村晃柳田悠岐、栗原陵矢あたりに求めること。悪いが今の明石と今宮ならば、無傷で1点取る押し出しで十分なのだ。しかもこの二人ならばそれは不可能ではない。

もちろん今宮はこの試合2安打していたから打ちにいくのは悪くはない。しかしボール球まで打ちにいってはいけない。まあ、それが我慢できないから二人とも打率が低いままなのだが。山本由伸しかり、田中将大しかり。落ちる球があると分かっていても振ってしまう。そのくらい素晴らしい球なのは分かるのだが、解説の若菜嘉晴も言っていた。「もっとゾーンを上げて臨まないと厳しい。低めのボール球に手を出してしまえば相手の思うつぼ。見逃せば球数を投げさせることにもなり、攻略の糸口になるはずだ」(スポニチ記事、若菜嘉晴氏 楽天・田中将にあってソフトバンク・石川に足りなかったのは制球力 より)。

そう、もうはなから低めの球を視界から除外する。見ない。打たない。それくらいしないと攻略できない。もちろん、落ちる球を見切ったら由伸もマー君もズバッとストレートが来るだろう。だとしても落ちる球より勝機はあると見るがいかがだろうか。きれいにタイムリーで得点するだけが殊勲じゃない。バットを振らないことも時には必要。そう強く感じた試合だった。

使ってもらうためには?〜ソフトバンク野村大樹「空気読まない」アピール続く

使われる人になるにはどうしたらいいか。そう、まずは使いたいと思わせることだ。いま売り出し中のソフトバンク野村大樹。3年目の野村が起用され出して、妙に打線がかみあってきたのは偶然か? 野村が2試合連続タイムリーを打ったこともあり、チームは3連勝と乗ってきた。野村が調子を落とすまではぜひ使い続けてほしい。

素人ながらビビビッときた。7月6日のロッテ戦は大敗したのだが、8回に打席が回ってきた野村はバットを目一杯振り切り二塁打を放った。今季初安打。大敗の中でもしっかり首脳陣にアピールした、ように見えた。あの思い切りの良さ、パンチ力。そして大敗の中でも空気をいい意味で読まずしっかりバットを振り切る。そう、梅雨空モードだったソフトバンク打線に最もほしいバッターに見えたのだ。多分プロから見てもそうだったのだろう。やがて野村はスタメンで起用され出した。

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このところは好投手から打ったのがポイント高い。宮城からも則本からも。お立ち台にも初めて上がったが、長谷川パイセンが近くにいるのに「勝負強さが売り」発言。恐ろしい。でも多分野村はキャラ的に許される。体格は小柄だがパンチ力があり勝負強い。さらに一塁が守れるとなると…これはまさしくポスト中村晃の最有力候補。帝京高校卒の中村晃に対して野村大樹は早稲田実業卒。あの清宮と主軸を務めた打者である。勢いのある野村大樹。このまましっかりアピールを続け、次代のソフトバンクを引っ張っていってもらいたい。


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