黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

組織の評価と個人の思いは違う~ソフトバンク福田秀平がロッテ移籍決断

FA戦線の目玉だった福田秀平がついに移籍先を決断した。ロッテ。数日前、夜中にうたた寝から起きてスマートニュースのホークスのチャンネルを見て唖然としてしまった。ロッテ、ロッテという見出しが並んでいる。ずっと福田秀平のスタメン入りを応援していたから出番を求めての移籍はやむなし、と渋々納得していたのだが、よりによってロッテとは……

 

2019年シーズン、ソフトバンクは序盤からロッテには勝てなかった。一発のあるレアードの加入が大きかったが、ロッテにしてみたらソフトバンクには何とか勝てるという雰囲気が生まれ、逆にソフトバンクはロッテに苦手意識が芽生えてしまっていなかったか。結局対ロッテは8勝17敗。優勝するためには苦手チームを作ってはいけない。せっかく西武には13勝12敗と何とか勝ち越したのに、ロッテに9も負け越したことがペナントレースに大打撃だった。そこへ福田秀平が移籍する。そしてソフトバンク戦に限って粘投する(ように見えてしまう)美馬学もロッテに行く。2020年のロッテ戦が思いやられる。

 

それにしてもなぜ福田秀平はロッテに行くのか。片っ端から記事を読んだが、鳥越コーチの存在が大きかったという。プロ2年目、19歳で父を亡くした福田秀平にとって、一番辛い時期に支えになってくれたのが鳥越コーチ。それは美談なのだがまさか鳥越コーチのロッテ入りが今このタイミングでソフトバンクに打撃を与えるとは……しかし、一番辛い時に支えてくれる人は信用できる。逆にいい時だけ近寄って来る人は最低。最悪はピンチの時に逃げる人。そんな人もいるのだから、福田秀平が鳥越コーチの存在感を大切に思って移籍するのはよいことなのだと納得しないといけないのかもしれない。

 

また、ロッテには松本球団本部長という、高校時代から福田秀平を評価してくれた人もいるそうだ。鳥越コーチと松本本部長。支えになってくれた人、評価してくれた人。その人たちから一緒にやろう、力を貸してくれと言われたら、福田秀平もその気になったということだろう。年俸だけでも、出番争いだけでもなく、人が決め手になった福田秀平の移籍先。そこにソフトバンクファンは少し救われる。

 

「客観的に自分がプロ野球選手として、どのような位置にいて、どう評価されているのかを純粋に知った上で、自分を必要としてくださる球団で来シーズン以降プレーしたかったから」(福田秀平のブログ本文を紹介したベースボールキング記事より)の中の「自分を必要としてくださる球団で」というのが実はポイントだとも思う。じゃあソフトバンクは福田秀平を評価していなかったかというと、レギュラーに定着させなかったこと(福田にしてみたら「定着できなかった」)は事実だし、年俸が3600万円というのは評価が低かったのかもしれない。だがスタメン入りは選手層の厚いソフトバンクの選手全員がぶち当たる高い壁であり、福田秀平はレギュラーを常に補完することで存在感を高めた経緯がある。組織としては頼りになる福田秀平の起用方法は決して間違っていなかったと思うし、ファンもまたスーパーサブ福田秀平の存在を頼もしく感じていた。チームは福田秀平を軽んじていたわけではない。むしろ重宝した。

 

 

 

しかし、なのだ。福田秀平にしてみれば一度しかない野球人生。プロ野球選手だからこそレギュラー獲りして4打席バッターボックスに立ちたいと思うのは全然高望みではない。移籍するからといって定位置を確約されるほど甘い世界でもない。あくまでもチャレンジ。出番を求めて移籍する福田秀平をずるいとは思わない。むしろ厳しい道を選んだようにも見える。ソフトバンクに残ったら人気と再評価と見直された年俸は残るのだから。それでも福田秀平は自分の可能性に懸けた。その思いはソフトバンクファンとして受け止めねばならないなと思う。

 

スーパーサブとして福田秀平を使い倒したソフトバンク。それに応えながらもやはりレギュラーになりたかった福田秀平。組織としての評価と個人の思いは必ずしも一致しないということが、福田秀平の移籍話からもよく分かる。だが管理職でもない一兵卒の私はソフトバンクファンでありながら、また行き先が苦杯を舐めたロッテということに舌打ちしながらも、福田秀平が新天地で自分らしさをはっきりしてほしいと心の奥では願っている。そしてその活躍はどうかソフトバンク以外の試合で、特に西武戦あたりで光り輝いてほしいと都合よく考えている。ソフトバンク戦で福田秀平が出ていたらどんな気持ちになるだろうか。福田秀平はロッテのユニホームが似合うのだろうか。福田秀平の応援歌はどうなるのだろうか。気になることはいくつもあるが時間をかけながら割りきっていこうと思う。

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プロが選ぶ走塁1位は周東~その人らしさを生かして輝く

S-PARK恒例のプロ野球100人分の1位が発表中だ。11月24日放送分は走塁部門だったが、1位はもちろん周東佑京。その脚力で侍ジャパンにも選出された、今をときめくスピードスターである。

スタジオにいた立浪和義いわく「トップスピードにのるのが早い」。何だかスポーツカーのような表現だが、「塁間を走る姿が美しい」ともコメントしており、こちらの方がソフトバンクファン的にはうれしかった。

データ的には2019年シーズンの3塁到達最速タイムが10秒55(S-PARK調べ)。野間と金子が10秒66、源田が10秒68、近本が10秒69だから、このあたりが相場なのだが周東は0.1秒速い。最高の技術同士がぶつかり合い、ギリギリのタイミングで勝負するプロ野球だから、いかに周東に優位性があるかがうかがえる。

盗塁でも周東はすごいのだが、周東の魅力を高めているのが走塁。ヒット1本で二塁から生還する。高校野球かよとツッコミたくなるがそんなエキサイティングな走塁を見せてくれる。そしてチームに貢献してくれる。しかも試合の勝敗を左右する、終盤の大事な局面で。

機動破壊 健大高崎 勝つための走塁・盗塁93の秘策

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周東自身、一番の走塁に選んだのが7月21日の楽天戦。1点リードの9回表、一塁から二盗。代走で登場したら100%走ってくるとバッテリーが警戒する中で成功するのだから、まずそこが素晴らしい。そしてバッター甲斐の浅いレフト前ヒットで二塁から一気に本塁を陥れた。レフトが捕球する時点でまだ三塁に到達していない。それでもセーフになるのだからやはり速さが尋常じゃない。

とまあ、番組の組み立ては至極その通りなのだが、周東の魅力はプロ野球の常識を実力で覆している点だと思う。楽天戦のシーンでは普通突っ込まない(1点リードしていることもある)。侍ジャパンで話題になった源田のスクイズでは捕球したピッチャーがタッチに行くも、周東が速すぎてタッチできなかった。周東の登場で野球の走塁のレベルがまた一つ上がったのは間違いない。

鈴木尚広の走塁バイブル

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数字に表れにくいが周東は足が速いから守備でも貢献している。外野フェンスに行く前に何とか捕ろうという姿勢がうかがえる。単打で終わらすか、二塁打にするかはまったく違う。クッションボールの手際よい処理も外野手の見せ場だが、周東にはそもそもフェンスに届かせないというアグレッシブな守備を高めてもらいたい。そしてまた常識を覆してほしい。あの当たりで二塁打三塁打にならないのかよ、と。

基本と実践で差がつく! 外野手 最強バイブル (コツがわかる本!)

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周東が支配下登録されたのは2019年開幕直前。プロ入りはドラフト育成2位であり、学生時代から注目されていたわけでもない。それでも今光り輝いているのは一芸に秀でているからだ。突き抜ければこれだけ名前が売れ、評価される。打つ、守る、走るが野手に求められる三拍子だが、まず脚力をアピールして光の当たるところに行った。そうした周東も、そうさせたソフトバンクも素晴らしいと思う。甲斐の強肩、千賀の速球&お化けフォーク、周東の俊足。育成出身でも武器を磨けばトップ選手にのしあがれる。周東の活躍は育成出身選手にとっても希望であることだろう。おまえの代わりなんていくらでもいる、なんて悲しい言葉は言わせたくないし聞きたくもない。誰にだってその人だからこそできる仕事は一つくらいあるはずだ。その人らしさを生かして光り輝く。周東の活躍は個性を生かして活躍する素晴らしさをあらためて教えてくれている。

 

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やらされでは身に付かない~巨人鍬原のサイドスロー転向に斎藤雅樹が金言

やらされでは身に付かない。本当にその通りだと思う。巨人の鍬原がサイドスロー転向という記事(スポーツ報知【巨人】斎藤雅樹氏、鍬原のサイド転向に太鼓判「左の中川、右の鍬原になれる」)を見てつくづく思った。

斎藤雅樹と言えばサイドスロー転向で大成功した、巨人のエースだ。11試合連続完投勝利はプロ野球記録。2019年は完投数の少なさなどがネックとなり沢村賞が該当なしとなったが、候補の山口俊は完投ゼロ、有原航平は1だから、斎藤雅樹の記録はもはや破られそうにない。投手分業制がすっかり定着したという背景もあるが、先発は投げきってこそという観念はもうないのかもしれない。ともかく、斎藤雅樹サイドスローを自分の武器にしたことで殿堂入りまで果たした。

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鍬原は巨人の2017年ドラフト1位。しかし2シーズンでこれといった成績は残せなかった。記事に書いてあったが、サイドスロー転向は原監督のアイデアだという。鍬原は中学まで横手投げだったというから、あながち無理な指示でもない。そして思うように結果が出せていない鍬原に対して、何かしら新しいことをしてみたら、という親心があったのかもしれない。

斎藤雅樹もまた監督(藤田元司監督)の助言によりサイドスローに転向したと言われている。サイドスローは腰の回転が横だから、それに適しているかどうかも重要だ。斎藤の場合はドはまりしたのだが、腰の回転以上に大切な要素がある。それは自分の意思で変わろうとしているのか、である。「フォームを変えるのは勇気がいります。やらされているといった思いがあるとなかなか身につきません」と斎藤雅樹は言う。そう、変わるか変わらないかは結局、本人の気持ち一つで結果が異なるのだ。

「鍬原自身が新しいものを見つけようと積極的に取り組み、コーチと相談しながらやっていけばいいのではないでしょうか」。スポーツ報知の記事で斎藤雅樹はそう続けた。誰が助言しようとも、結局は鍬原自身が変わろうとするかが大事であり、積極的にならなければならない。その上で周りにアドバイスを求める。そうやっていけばいいのだと斎藤雅樹は鍬原にエールを送っている。

なお、スポーツ報知には関連記事があった(見出しは、球界の主なサイドスロー転向投手…巨人・角三男ら多彩な顔ぶれ)。この中では皆川睦雄に目が止まった。皆川については野村克也の著書に紹介があり、過去にブログに書いたことがある(下記参照)。

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やはり成長するかしないかという局面では、本人の気持ち、意思が重要なのだ。私自身、これは強く意識しないといけない。鍬原が変われるか、挑戦は始まったばかりだが、変わろうとする気持ちは伝わってくる。自分も鍬原にあやかって、変わるためにできることは、できる限りやっていこうと思う。

松坂大輔西武復帰の見出しに感じた違和感~大幅減俸も覚悟、なんて当たり前

松坂大輔が古巣・西武に復帰する方向だという。それもいいかな、松坂が引退するよりはいいかなと思ったのだが何か心にモヤモヤが残る。その理由が分かった。見出しだ。私が見た日刊スポーツ記事は「松坂大輔、14年ぶり西武復帰へ 大幅減俸も覚悟」。見出しは間違ってなどいない。私が違和感を感じたのは「大幅減俸も覚悟」だ。

プロ野球 復活の男たち (TJMOOK)

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これは私が松坂大輔を応援したい以前に、ソフトバンクファンであることに起因する。ご存知のように松坂大輔ソフトバンク入団をもって日本球界に復帰した。しかしまったく結果を残せなかった。結果論と分かってはいるが、年俸4億円の3年契約だからしめて12億円。もちろん松坂大輔というネームバリューも、過去の実績も加味されての年俸だから、ソフトバンク球団が納得していれば周りがとやかく言うものでもないかもしれない。しかし何かを言いたくなるというのがファン心理。期待の裏返しでもあり、私は松坂大輔にはソフトバンクでも年俸に見合う活躍をしてほしかった。戦力になってほしかった。けががあったから仕方なかったのだけれども。

そんなわけで、記事を読んで、中日ファンの気持ちになってしまった。引退のピンチに手を差し伸べたことに対しては、松坂はカムバック賞をもって報いたとは言える。しかし8000万円まで上げた年俸に対してこれまたけがの影響とはいえたったの2試合登板。残るにしても移籍するにしても、これで松坂が大幅減俸しなかったら他の選手はどう思うだろうか。大幅減俸も覚悟、なんて当たり前だ。そう思ったからこそ私は日刊スポーツの見出しに違和感を持ったのだった。ここは「中日ファンには感謝」という見出し、あるいはそういう趣旨のコメントがほしかった。中日ファンには同情する。

契約社会だからビッグネームに大金が投じられるのは当たり前だ。しかし大金を投じる裏ではその10分の1にも満たない年俸の選手たちが戦力外通告を受けている。もちろんその選手が力を発揮できなかったから戦力外になってしまうのだけれど、億単位の年俸の選手が極端に出場できなかった場合は何割か返上という流れはできないだろうか? 言ってみれば逆出来高的な。その原資があれば戦力外ボーダーラインの選手にもあと1シーズンの猶予が生まれる……というのは甘やかしだろうか。

俺たちの「戦力外通告」

俺たちの「戦力外通告」

 

 

別にお金の話ばかりしたいわけではないが、松坂大輔の西武復帰が既定路線ならば次は彼の年俸がどうなるか興味深い。グッズの売上、若手への影響など有形無形の指標から算出される松坂大輔の年俸とはいくらなのだろうか。それがいくらだったとしても、松坂大輔にはぜひ年俸以上の活躍をしてファンを納得させてもらいたい。

ライバルに評価された平石洋介~ソフトバンクが1軍打撃コーチに招聘

2019年シーズンに楽天を率いた平石洋介がソフトバンク1軍打撃コーチに招聘された(full-count記事、ソフトバンク楽天前監督の平石氏の招聘を発表 1軍打撃兼野手総合コーチに就任 より)。日本シリーズ3連覇を圧倒的な強さで成し遂げたソフトバンク。コーチ人事の面でも抜かりがない。この辺りが強さの秘訣である。

 

この人事を見る時、捨てる神あれば拾う神あり、というフレーズが頭に浮かぶ。捨てるなんて言葉は乱暴だが、実際、楽天は前年最下位から3位に浮上させた平石洋介を「切った」。三木肇を1軍監督に据えたのだが、三木とて1軍監督としては未知数だ。これって結局、石井一久GMがヤクルト時代の後輩の三木肇に監督をやらせようということじゃないのか?と勘ぐりたくもなる。社会人は結果がすべてであるのと同時に人脈がものを言う面もある、その典型的な例に見える。

ゆるキャラのすすめ。

ゆるキャラのすすめ。

 

 

もっとも、三木肇はコーチ経験が豊富で、現役時代は野村克也監督の指導も受け、山田哲人を育てた実績もあるからただの好き嫌いで選ばれた訳でもあるまい。だが繰り返すが平石洋介は決して厚みがあるとは言えない戦力をやりくりして西武やソフトバンクとつばぜり合いを演じた。皮肉にも楽天はそれを評価せず、苦しめられたソフトバンクが平石を評価した。

これでプロも変わった 守備・走塁の技術と極意

これでプロも変わった 守備・走塁の技術と極意

 

 

ここ最近の野球はだいぶスマートになり、因縁の対決といった煽り方は少ない印象だ。ゆえに2020年シーズンのソフトバンク楽天戦は見もの。平石洋介が重厚な戦力を使って、自分を切った楽天にリベンジを挑むのだ。楽天を叩くのに平石の自尊心と野球脳を使おうというソフトバンクが一番したたかではある。しかし平石にしてみたらこんなにうれしい評価はあるまい。自分なりに結果を出したのにはしごを外された。そこへ手を差し伸べたのがライバル球団なのだ。コーチ就任受諾を即答しなかったのは今まで支えてくれた楽天ファンへの気配りだったのかもしれない。PL学園時代からずっとユニフォームを着ていたわけで、監督退任を機に一度充電する選択肢もあったが、必要とされる場があるならば勝負してみたいと思うのが野球人。平石のソフトバンク入りは至極まっとうな選択に見える。

 

レギュラーシーズンは終盤に失速したソフトバンクだが、ポストシーズンは打撃絶好調。立花打撃コーチは留任だから平石洋介は育成や作戦面に期待されているのかもしれない。2019年シーズンはスクイズやら強攻策やらダブルスチールやら、ソフトバンク楽天に苦杯をなめた。その頭脳が仲間入りする。しかも古巣への対抗心を持って(表面的には見せないかもしれないが)。個人的には「松坂世代」を読んでから平石のことは気になっており、ソフトバンクファンの私は打撃コーチ就任を本当にうれしく思う。平石の加入はまさに鬼に金棒。慢心してはいけないが、平石がソフトバンクの戦力を使ってどんな野球を見せてくれるのか楽しみで仕方ない。2020年のソフトバンク楽天は白熱必至だ。

松坂世代 (河出文庫)

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心揺さぶられた井上尚弥VSノニト・ドネアの大熱戦

ここ数日、「ドネア」という単語が頭から離れない。ノニト・ドネア。井上尚弥と11月7日に死闘を演じた、フィリピンの名ボクサーである。予備知識なし、たまたまテレビで試合を見たのだが、非常に学ぶことが多い試合だった。勝った井上尚弥も、負けたドネアも素晴らしかった。以下、好勝負と感じた理由を思いつくままに書いてみた。

 

怪物

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1.ドネアのプロ根性

まずはドネアの闘志。特に最終12ラウンドの最終盤、試合も残り10秒切った頃、ドネアはフガッともンガッとも聞こえるうなり声を上げながら最後の力を振り絞って井上尚弥にパンチを繰り出した。直前の11ラウンドにはダウンを喫しているし、判定になればもはや勝ち目はない。それでも一発当たれば奇跡の逆転打になり得る…そんな意図は素人目にも分かった。だが、ここまで執念を見せられる人って実は少ないのではないか。5階級制覇までした、キャリア十分のドネア。経験があるからこそ諦めてしまうことも十分あり得る。だが、ドネアは違った。最後の最後まで勝つ可能性を追求した。これぞプロフェッショナル。

 

 

2.クレバーだった井上尚弥

続いて、井上尚弥の冷静さ。人生初のカット(とボクシング業界では言うらしい)と記事で読んだが、2ラウンドに有効打を食らい右まぶたから出血した。その影響でドネアが二重に見えていたという。さらに9ラウンドには右ストレートを浴びてふらつくシーンも。すべての試合を追っているわけではないのだが、井上尚弥のピンチらしいピンチは初めて見た。そしてクリンチをして逃れる井上尚弥の姿も初めて見た。そう、ここはなりふり構わず逃げる場面である。ファイティングポーズを取るだけが戦法ではない。また、最終ラウンドは11ラウンドにダウンを奪っているのだから一気呵成に攻めたててダウンを奪ってもらいたい…というのがファン心理なのだが、井上尚弥は必要以上に深追いはしなかった。ドネアが最後の力を振り絞り一発逆転のカウンターを狙っているのは確かに見え見えだが、日本での試合であり、大勢のファンが見守っているのだから井上尚弥が熱くならないはずはない。それでも井上尚弥は無理にドネアを沈めようとはしなかった。心は熱く、頭は冷静。井上尚弥は本当にクレバーだなと思った。

 

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3.井上尚弥の卓越した試合運び

そして井上尚弥は試合運びもうまかった。井上尚弥が強打を浴びてふらついた9ラウンドと、ドネアがダウンを喫した11ラウンドがフォーカスされがちだが、個人的には10ラウンドを井上尚弥が制したことが勝敗に大きく影響したと見た。9ラウンドを終えてほぼ互角、ひょっとしたらドネアが僅差で井上よりもよい評価を得ているのではないかと思っていただけに、残り3ラウンドでよい印象を与えた方が勝つと見ていた。その初回である10ラウンド、井上尚弥はドネアをとらえて場内を沸かせた。絶対に取らなければならない3ラウンドの評価の一つをまず得た。ここで心理的に優位に立てたと思う。まず貯金を作るというのはいかにも日本人的な発想かもしれないが、勝つために貯められるポイントは早めに取っておくに限る。この10ラウンドがあったからこそ11ラウンド、思い切った攻めができたのではないか。そして11ラウンドがあったからこそ12ラウンドは俯瞰的に試合を見て動くことができたのではないか。ボクシングはついつい打った打たれたという、解りやすい構図を楽しんでしまいがちだが、ラウンドごとのつながりを味わう楽しさもあるんだなとよく分かった。

 

 

4.明暗を分けた勝負のあや

ドネアは試合後、9ラウンドに攻めきれなかったことを最大の過ちと振り返った(スポーツ報知記事、ドネア「9回に最大の間違いを犯した」「また戦おう」…井上尚弥とのWBSS決勝から一夜明け独白 より)。ドネアは井上尚弥が反撃してきたところを狙って仕留めようと考えていたのだが、思った以上に井上が踏み込んでこなかったことから攻め時を失ってしまったのだった。これもまた勝負のあや。ボクシングを見る時はパワーやスピードを楽しんでいたのだが、これからはボクサーがどんなことを考えているのか、想像しながら試合を見ればさらにボクシングを楽しめるような気がしている。

 

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5.まだ進化する井上尚弥

そして何よりこの試合に価値があると思ったのは、井上尚弥という素晴らしい才能を持った選手でもなお試合で成長するんだと分かったからだ。この試合までに18戦16KO。常にファンの期待を裏切らなかった選手がキャリアで初めて本格的にまぶたを切り、鼻血を流し、あわやダウンという局面まで追い込まれた。ドネアが二重に見えるからいつものように瞬殺もできない。ついに井上尚弥も負ける時が来るのかと覚悟したファンもいたことだろう。私もちょっと頭をよぎった。それくらいドネアのファイトは素晴らしかった。しかし11ラウンド、ついに井上尚弥のパンチがドネアのボディーにさく裂。しんどい試合をいかにして勝つか。井上尚弥はまさに身をもって学んだことだろう。そしてファンは井上尚弥に感情移入することで、ああ、自分も苦しい局面を耐えることでいつか勝機が生まれるんじゃないか、自分も頑張ろう、という気になったに違いない。

 

 

6.敗者のいない好勝負

というわけで普段野球ばかり見てきた私が井上尚弥とドネアの好勝負に触発されて感想など書いているのだが、素人でさえこんなに楽しんだのだからバリバリの、そして目の肥えたボクシングファンはその何倍も楽しめたことだろう。日刊スポーツ記事によれば、勝った井上尚弥には10社以上、総額5億円ものスポンサー契約が舞い込んだという(井上尚弥5億円オファー スポンサー10社超名乗り より)。面白いのは、ドネアはドネアで日本でファンを拡大したようなのだ。「かなりの接戦だったと思う。名勝負だった。そして、ノニト・ドネアも多大なリスペクトを勝ち得ることができた。日本で大きなレガシーを残すことができた。ノニトは親日家としても有名だ。日本で人気がある。この日はイノウエに勝てなかったが、敗戦という結果に関わらず、さらに日本でファンを拡大したのではないか」。THE ANSWERの記事にはドネア側のプロモーター、リチャード・シェーファー氏の話が紹介されていた。あんなに熱い試合をしたのだから、ファン獲得もうなずける。そういう意味ではこの試合に敗者はいないのかもしれない。

 

私事だが1カ月、のっぴきならない事情でブログの更新ができなかった。過去3年分の記事の蓄積でしばらくは一定のアクセスも得られていたが、さすがに読者は減った。そりゃそうだろう。だが嘆いても過去は戻らない。であれば井上尚弥のように大ピンチの時はクリンチでも何でもして当座をしのぐしかないし、できるだけ冷静にゴールから逆算して事を運ぶしかない。理想は毎日ブログを更新することだが、義務的にやるものでもないし、心を揺さぶられるものがあったら書いていこうと思う。というわけでまた機会があればぜひこの黒柴スポーツ新聞にお付き合いいただければと思います。今後とも応援よろしくお願いします。

活躍して居場所をつくる~ソフトバンク石川と福田がCS敗退の危機救う

負ければ終わりのCS2戦目、お立ち台に立ったのは石川柊太と福田秀平だった。これがソフトバンクのなせるわざだ。もちろん3打点のデスパイネ、同点ホームランやタイムリーの柳田悠岐とてヒーローインタビューを受けてもよいところだが、やはり勝利のポイントは石川と福田。ソフトバンクファンも納得だろう。

 

石川にしてみたら9月に復帰したばかり。2019シーズンは若手が台頭したから、離脱している間に自分の居場所がなくなったことになる。そんな中で、崖っぷちの試合での2イニング無失点の好投。ソフトバンク中継ぎ陣は少しだけ余裕が生まれた気がする。何よりCSファーストステージでは楽天打線が好調なだけに、石川が無失点(うち1イニングは三者凡退)に封じたことで流れが変わった。そこはラジオ解説の岸川勝也もきょうのヒーローに石川の名前を挙げて評価していた。短期決戦は特に流れは重要だ。

 

そして福田秀平。交流戦の満塁ホームランと言い、この日の勝ち越しホームランと言い、なかなかの勝負強さだ。この日は不動のスタメン松田宣浩が美馬との相性の悪さがあったとはいえ下げられてグラシアルが三塁に回り、福田が外野に起用された。そんなこともあり福田には結果を出すことが求められていた。そこで結果を出すのだから福田は素晴らしい。

 

福田はヒーローインタビューでホームラン後1周する場所を「ベンチ」と言い間違え、さらに「グラウンド1周」と訂正していたがラジオ中継では岸川勝也に「ダイヤモンドですよ」と突っ込まれていた。「ベンチが慣れているので」という言い訳は微笑ましかったが、いやいや、福田はベンチが似合うわけじゃない。選手層が厚いことや、守備固めや代打代走要員としての能力の高さからベンチスタートが多いだけ。ソフトバンクになくてはならない選手だ。あらためてFA市場で注目されるのは皮肉なものだが、ひとまずファイナルステージ進出に集中してもらいたい。

 

というわけでファイナルステージ進出争いに踏みとどまったソフトバンク。石川、福田含め全員野球で楽天を倒し西武への挑戦権を勝ち取ってもらいたい。

弱みを受け入れる~荒木雅博は2000安打時の通算本塁打が最少33本

片付けをしようと紙袋を漁ったら、熊本日日新聞が出てきた。知人にいただいたものだ。日付は2017年6月4日。前日に熊本県出身の荒木雅博が2000安打を達成しており、それを報じている新聞なのだった。

懐かしがりながらめくってみると、あるくだりに目が止まった。
「2千安打達成時に通算33本塁打は史上最少となる」
いわゆる一問一答記事の中だから、会見でそういう質問、問いかけがあったのだろう。これに対して荒木雅博はどう答えただろうか。

「33本しか打てない選手だったから徹底して小技もやってきたし、右打ちもしてきた。33本のおかげで2千本打てた」
ちょっと感動する。数に差はあれど1軍のプロ野球選手なら打つのは不可能でないホームランがなかなか出ない。それはコンプレックスになりかねなかった、いや、コンプレックスそのものだっただろう。荒木雅博がすごいのはそれを否定しなかったことだ。弱みを受け入れるのは、本当に弱い人間にはできないことだ。

望んでも飛ばす力が付かないならどうするか。荒木雅博は先ほどの答えのように小技を磨き通算犠打は284。これはプロ野球歴代11位だ(2019シーズン終了時)。右打ちも鍛えたことで安打数も伸びたことだろう。そうやってなくてはならない選手になった。だからこそ2000安打が打てたのだ。

なりたい自分を思い描くのは成長につながるから、悪いことではない。しかし自分に足りないものや弱点を認めることも成長につながるのだな、とこの一問一答記事を見て学んだ。そして新聞を読む意味はこういう体験にある、と思っている。

というわけでこのブログを書き始めたから片付けは一向に進んでいない。片付けが苦手という弱点を認めることから、整理整頓を始めよう……

強行策失敗は危機を招く~ソフトバンクCSファイナル進出に黄信号

選手にフォーカスすることが多かったが、きょうは戦術について語りたい。ズバリ3回裏ノーアウト一塁からの強行策は失敗だった。2019年クライマックスシリーズファーストステージ、ソフトバンク楽天での話。ソフトバンク明石健志がヒットで出塁するも、今宮健太は送らずレフトライナーに倒れた。

今宮健太を責めるつもりはない。センターライナーは鋭い当たりだった。ズバリ批判の矛先は工藤公康監督。ここは送ってチャンスを拡大させるべきだった。なぜなら短期決戦だから、勝たねばならないからに他ならない。

今宮健太は初回に同点ホームランを放っており、調子は悪くないのかもしれない。打たせるのは確かに一つの手であった。だが、繰り返すが短期決戦。結果がすべてなのだ。ファンが試合後あれこれ語るのはズバリ結果論で、空虚なものかもしれない。しかし送りバントをさせてほしかったのには理由がある。

まずは千賀滉大の不安定さ。いきなり初回浅村に先制ホームランを浴び、3回オコエにも打たれた。内川聖一が2回に勝ち越しツーランを放っていたからまだ勝っていたが、1点差になった後は四球を連発し満塁になった。何とか後続は断ったが大量失点の危機だった。

ソフトバンクが手堅く送りバントしなかったのはそのピンチの裏なのだ。フラフラのエースを一刻も早く援護するのが打線の責務であり、作戦ではなかろうか? あれだけ貧打に苦しんだのなら、少ないチャンスを有効に活用しないと勝てない。そう、二つ目の理由はこれ。後半戦打てずに苦しんだのなら、まずは得点圏にランナーを送り、得点の可能性を高めるのが合理的だと思うのだが。今宮は犠打の名手でもある。

結局この3回、ソフトバンクは今宮がランナーを進められず、グラシアルは内野ゴロでゲッツーは何とか免れた。続く柳田悠岐がヒットを放ってグラシアルが一塁から三塁まで進みチャンスは拡大したが、デスパイネが倒れて追加点は奪えなかった。ランナーを二塁に進めた上で、グラシアル、柳田悠岐デスパイネの中から得点を期待する。それでよかったのではないか。そうしなかったのはアウトを与えることを惜しんだからなのか。中軸が打てないから、あわよくばノーアウト一塁二塁さらにはノーアウト一塁三塁を望んだのか。だとすれば中軸はあまり期待されていないのかもしれない。そう勘繰ってしまうほど、作戦の意図を汲み取れずにいる。

作戦の意図が分からない試合を見るのはなかなかしんどい。試合途中、立花コーチを中心に円陣が組まれ、中では松田宣浩も手を叩いて鼓舞していたが、結局得点は前半だけ。工藤監督含め、ファイティングポーズを見た気がしないのはなぜだろうか。9回に送り込んだのは高橋純平。逆転するためには1点差を守りきらねばならない。高橋純平も勝ちパターンの一角だが、ここはチームを鼓舞する意図も込めて森唯斗投入が見たかった。

 

考えたくもないが、2戦目負けたらソフトバンクの2019年は終わる。たった一つの送りバントだが、もしソフトバンクがCSファイナルステージ進出を逃したら、分岐点はこの回だと私は見る。そう、結果論だけれども。勢いのある時はイケイケでいい。しかし盛り下がっている時こそ、少ない可能性は拡大すべきではなかろうか? もがくエース、バットが湿る中軸に少しでも結果が出るよう整えるのがベンチの役割のはずだ。千賀の4被弾ばかりクローズアップされがちだが、この強行策失敗は看過できない。

ソフトバンクファンが「タラレバ」を言うためには何としても2戦目を勝たねばならない。パ・リーグは過去、ファーストステージ初戦に勝った15チーム中、13チームがファイナルステージに進んでいるという。圧倒的に不利なデータはあるが、今の戦力とチーム状態で勝つためには、ということを考えて戦ってもらいたい。

福田秀平のFA宣言をソフトバンクファンは受け入れられるのか

ソフトバンクの福田秀平がFA権の行使を検討しているという。具体的には中日やヤクルトが興味を示しているとの記事もあった。福田は代走や守備固め、代打で活躍しているイメージが強いが、実際、規定打席に達したシーズンはない。他球団ならレギュラーとも言われる福田はどのような判断を下すのか興味深い。

 

もちろん私はソフトバンクファンだから福田秀平にはこのままチームにとどまり大活躍してもらいたい。打撃も勝負強く、福田が巨人戦で森福から放った満塁ホームランは、個人的には2019年ソフトバンクの最も心に残る一発だった。何よりけが人の穴を颯爽と埋める福田の姿に感動していた。

 

だが、福田秀平とてプロ野球選手。実際、プロ野球選手ならスタメンで頭から試合に出たいと発言もしている。そうだ。試合後半からだと打席も限られる。打つに限らず、守って、走って、と丸々1試合活躍したいと福田は考えているのだろう。

 

となると、福田秀平がFA宣言したらファンはどう受け止めるだろう。もちろん引き留めの声は多いはずだ。これからもソフトバンクになくてはならない存在だから。福田秀平はいま30歳で、引退するまであと何年やるか分からないが、残りすべてソフトバンクにいてもらいたいと私は思う。

 

そのためにはしっかり球団に評価してもらいたい。ズバリ今の推定年俸3500万円は低すぎる。この評価のまま「これからもよろしく」というのは少々虫が良すぎないか。査定についてはド素人ながら、倍プラスの8000万円の4年契約でどうだろう。レギュラー確約ができないなら出場試合数に応じた出来高も付けてあげてほしい。

 

FA宣言するのは決して今のチームが嫌な訳ではあるまい。福田秀平の場合はお金というより出場機会がほしいのだと思う。理想はソフトバンクの中でレギュラーを奪うことだが、柳田悠岐中村晃、グラシアルの牙城を崩すのは容易ではない。ライバルには上林や周東らがいる。そんな中でぜひ使いたいという球団からオファーがきたら、腕試ししたくなるのは当然だ。だから私は福田秀平には残留してほしいけれども、FA宣言すること自体は納得できる。

 

じゃあ移籍も容認するかと言われたら心情的には無理だ。やはり福田秀平はソフトバンクのユニホームが一番似合うと思っている。どうしても移籍するならパ・リーグは御免だ。セ・リーグにしてもらいたい。

 

必要とされるポジションで活躍できるなら、プロ野球選手に限らず、こんなにうれしいことはあるまい。今ソフトバンクにいても困った時に顔が浮かぶ福田の存在価値は素晴らしいと思う。残留なら今後環境が変わるリスクは低いが、ローリスクローリターン。起用方法はさほど変わらない気がする。一か八か他球団に移籍してもうひと勝負してみるのも一つの生き方だ。FA宣言してあらためて自分の評価を見つめるのも意味がある。誰も福田が年俸を上げるためにFA宣言するとは思うまい。だからこそ気になる。福田秀平がFA宣言したらソフトバンクファンはどんな反応をするのか……

私は残留◎、セ・リーグ移籍△、パ・リーグ移籍×だ。残ってほしいのはやまやまだが、福田秀平が輝くならば彼の決断を何とか受け入れよう。そう考えている。

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ホークス終戦の夜に~課題が浮き彫りになった2019シーズン

ホークスの2019年シーズンが終わった。私にとっては、DAZNradikoを駆使してほぼ全試合を追った、初めてのシーズンが。だからこそ素直に言える。西武ファンの皆さん、おめでとう。西武の打力には参りました。

 

対照的にホークス打線は終盤、爆発力がなかった。西武はたびたびサヨナラ勝ちしたが、ホークスは最後にサヨナラ勝ちしたのはいつかなと思い出せないくらい。先行逃げきりという勝ちパターンはあっても、逆に言えばそれでなければ勝てないようなチーム状態だった。

 

多くの人は同情するだろう。ホークスはけが人続出しながらよく頑張った、と。それはその通り。だからこそ感動もした。若手の台頭に胸を躍らせた。だが、終盤は柳田悠岐中村晃も戻ったのに優勝できなかった。ラインナップに戻ってはいるが本調子ではなかったということだ。それならば他の野手が二人を押し退ければよいのだが、本調子でない柳田悠岐中村晃をしのぐ野手がいなかった。

 

 

ひょっとしたら長谷川勇也や福田秀平なら代わりになれたのかもしれないが、4打席で見たときはやはり柳田悠岐中村晃の方が上回ると見られたのかもしれない。野手力の底上げは2020年シーズンに必ず成し遂げねばならない。2019年にはその課題がはっきりと見えた。

 

中継ぎ陣は新人の甲斐野やようやく花開いた高橋純平、椎野新ら若手が文字通り奮投した。石川や加治屋が本調子でない穴をしっかり埋めてくれたし、チームが苦しい時を支えてくれた。だが、終盤息切れしてしまった。ここ一番というところで打たれたり、四球を連発したりした。タラレバを言ったらきりがないが、この若手に調整面も含めてもう少し経験があれば、もう少し違った展開になったと思う。

 

ウィーラーに逆転ホームランを喫した千賀、それにつながるランナーを出した今宮のエラー……チームを引っ張ってきた主力がここ一番で踏ん張れなかった。これは本人たちも悔しいと思う。ありきたりだが、それを晴らすのはCSしかない。西武に勢いがあるから、短期決戦の経験豊富なホークスでも簡単には勝てないだろう。今の調子では3位に足元をすくわれかねないくらいだ。それだけは絶対に避けたい。

 

2年連続でシーズン優勝を逃した事実は重い。だが、CSというステージは用意されている。だからまだホークスは下を向くことは許されない。ほぼ全試合を追ったからこそ強く主張したい。
CSこそは勝ち抜け、と。

俺がやる。と思わせるために~ソフトバンク逆転優勝へ必要な合意形成

総力戦だ、執念だとマスコミは美辞麗句を並べているが、ソフトバンクはベンチが勝ち急いで見えて仕方ない。9月22日は不振の柳田悠岐の4番昇格という奇想天外なプランが当たったが、ハイリスクだった。柳田悠岐の頑張りに救われた面は大いにある。

 

その前の4番にはグラシアルが座った。残り5試合ほどで4番変えるかね?と思ったのが正直なところ。ただしデスパイネの不振もなかなかだから、ベンチは少ない可能性の中でもがいているのだろう。そこは逆転優勝へなりふり構わず行くんだという合意形成ができていれば問題ない。しかしただただ勝ちたい負けたくないという思惑だけなら、選手は落ち着かないのではないか。日替わり打線や矢継ぎ早の継投はいかにもチームのドタバタぶりが見えてしまう。

 

今日は高橋礼を初の中4日で投入するという。これは高橋礼もチームの危機的状況が分かっているから、気持ちを入れて投げてくれると思う。そう、このようにスクランブル態勢というのはプレーヤーと指揮官の気持ちが一つになってこそ効果が期待できる。

 

前日の森唯斗の回またぎもそうだ。もうあれだけ中継ぎがドタバタしたら森だって自分がやるしかないと思うに決まっている。森に関してはもともと気持ちで投げるタイプだから、残り試合すべて投げる準備はするだろう。願わくば森を出さずに終われるくらい打ち勝ってほしいのだが。

 

もう1試合も落とせないからなりふり構わず打順を組む気持ちも分かる。だが、それならばそうチーム内で宣言して打順を組んでもらいたい。そうすれば何番だろうがみんな必死のパッチでバットを振るはずだ。俺がやるんだ、と。2014年にはスローガン「俺がやる。」を掲げて日本一になったソフトバンク。逆転優勝に向けてそれぞれが、俺がやる、の気持ちで戦い抜いてもらいたい。

本調子ではなかったとしても~ソフトバンク内川聖一のガッツポーズに闘志を見た

島田誠がさかんに訴えていた。ヒットを二千数百本打ったバッターに8番を打たせてはいけない……そう、内川聖一のことだ。もちろん内川は8番だからといって手は抜かない。何番だろうがやるべきことはやる。

ヒットが打てなかった打席でも、最低限の仕事イコール進塁打を放った内川。「一番に手を差し伸べにいったのは松田ですよ。分かってるんですよ」と島田誠。ベテラン同士、勝つために必死にならなきゃいけない状況であることは共通認識としてある。松田宣浩は内川が進めたランナーを返すタイムリーヒットを放った。

内川はこの日6番に昇格していた。勝負を決めた8回には一塁に俊足・周東を置いた場面で打席へ。周東を警戒してオリックス増井は内川に集中できない。盗塁もあり得るため、直球主体になるはず……そのくらいは野球ファンでも分かる。そしてストレートを内川はセンターに打ち返した。これでランナーは一、三塁。さすが内川だなと思ったら池田親興は「ストレートを待って詰まるのは、今の内川の状態を表している」と解説した。確かに内川クラスなら、以前の内川ならばホームランあるいはタイムリーになっていたかもしれない。内川が下位を打たされるのはこのあたりが見極められているのかもしれない。

それでもなお気持ちでセンター前に持っていった内川のバッティングには心を動かされる。チャンスを拡大したソフトバンク中村晃の犠牲フライで勝ち越した。代走を送られてベンチに退いていた内川は飛び出してガッツポーズをしていた。タイムリーにならないあたりが今のソフトバンクの苦しさなのだが、今は勝つことが最優先。勝ち方は二の次だ。内川のガッツポーズにはまだまだ優勝を諦めないという闘志が見えた。

数字的には優勝争いが厳しくなってきたが全員が内川や松田宣浩ばりの闘志を見せればまだチャンスはある。きれいな勝ち方じゃなくていい。ここまできたら一つでも多く勝って西武にプレッシャーをかけたい。ソフトバンクファンもまだまだ諦めてはいけない。

各自が持ち場を全うする~ソフトバンク「執念の継投」は美談なのか

ソフトバンクが9月15日の日本ハム戦に敗れ、西武がロッテにサヨナラ勝ちしたため、西武にマジック9が点灯。Twitterではまずい守備で西武に決勝点を献上したロッテに対する激辛コメントが並んでいたが、ソフトバンクファンとしては西武戦よりもまず日本ハム戦での敗因を見つめたい。私は6回の継投と見ている。

 

え? 甲斐野が清宮らにタイムリーを打たれた8回がポイントじゃないの?と思われるだろう。確かにそこが決定的な場面だが、伏線は6回に求めたい。なぜならソフトバンクは6回、先発した和田毅を含めて4人のピッチャーがマウンドに立った、つまり早めにコマを使ってしまったのだ。

 

和田毅からスイッチした嘉弥真は対左のワンポイントだったから仕方ないが、高橋純平が中田翔にタイムリーを浴びた。ここが痛かった。チームへの貢献度が高い高橋純平が1本タイムリーを打たれただけで責められるのは酷だが、結果的にはこれで継投のタイミングが少しずつ早まった。高橋純平は続く渡邉諒から三振を奪ったところで降板。清宮に左を当てるためにモイネロが投入された。

 

モイネロは回またぎできるから、登板が早まった1イニング分は取り返せる。しかし仮にモイネロが温存できていたとしたら……つまり、甲斐野が失点した8回にこそ、モイネロを対左として清宮にぶつけていたら……と考えてしまった。もちろんタラレバなんてプロ野球を語る上では意味がないのだが、タラレバをついつい口にしてしまうのが熱烈なファンである。

 

早いイニングや短いイニングにどんどんピッチャーをつぎ込むことをマスコミは「執念の継投」と美談に仕立てる。それは果たして的を射ているのだろうか? 特に近年はますます投手の分業化が細かくなり、回またぎなんて言葉も定着するほどだ。つまり、強いチーム、磐石なチームほどピッチャーの出番は定番化している。ソフトバンクが立て続けに「執念の継投」という記事を書かれているのは、投手陣が磐石ではない何よりの証拠に思えるのだが。

 

残り試合が一桁になった今、確かに出番がいつも通りなのかをいちいち気にしては勝てないかもしれない。しかし、スクランブル発進せずに済むならそれにこしたことはない。武田翔太の四球という悪い流れを断ち切り逃げ切った前日の執念の継投と、ヒットやタイムリーを打たれながらの前倒しの継投は意味合いが違う。残り試合が少ないからこそ、今一度各自のピッチャーが持ち場を全うする継投が見たい。

 

ライバル西武の勝ちパターン投手である平井や増田も登板が多く、特に平井はいっぱいいっぱいに見える。まさに根比べ。奮闘してきたソフトバンクの中継ぎや抑えは今が一番しんどい時だろうけれど、そんな時こそ各自が持ち場を全うすることでお互いを助けてもらいたい。

意識して「意識」する人、しない人~ノーヒットノーランの千賀と、キャッチャー大野奨太

何か大きな出来事を控えている時、あなたはそれを「意識する」派だろうか? それとも「意識しない」派だろうか? 今月2人がノーヒットノーランを達成したが、当の本人やそれにまつわる人、それぞれの思考はとても興味深い。

 

1人目はソフトバンクの千賀。ノーヒットノーランの次の登板日は宿敵西武との天王山2連戦の初日。エースとして意識しないはずがない。ところが天王山で勝ち星を挙げた翌日の新聞記事を見ると「(その試合が)大事かどうかも考えなかった」という予想外の千賀のコメントが載っていて驚いた。

 

ちなみに私は大きな予定を意識する派だ。大事なことだからこそ丁寧にやりたい。慎重にやるのはいいのだが、意識しすぎる傾向がある。だからこそ今回の千賀の思考に唸った。千賀は大事な試合かどうか、考えないくらい、自分のやるべきことに集中していたのだ。

勝てなかったらどうしよう、なんてことをあれこれ考えるよりもまずは自分がやるべきことをやる。それを実行し、結果が残せたらチームに勝利をもたらすことができる。なるほどなと思わされた。ピンチを迎えた試合終盤には好打者の栗山、勝負強い外崎から連続三振を奪った。絶対に点をやらない。そのために、投げるべき球を投げるべきコースの投げるべき高さに投げた。そこにしびれた。

BBM 2018 1st 千賀滉大 BM01 プリントサイン

BBM 2018 1st 千賀滉大 BM01 プリントサイン

 

 

 

さて、もう1人はノーヒットノーランを達成した中日の大野雄大、ではなくてキャッチャーの大野奨太。元ネタは中日スポーツの「途中からマスク、中日・大野奨太ノーノー初体験 意識して大野雄大の快挙達成サポート」だが、スタメンキャッチャーの加藤が負傷したため6回から出場した大野奨太は、見出しにあるようにノーヒットノーランをあえて意識して出場したという。

 

「考えないようにじゃなく、逆にノーヒットノーランだと思って自分は行った」(中日スポーツ記事より)
これも一つの考え方だ。千賀の場合はその試合が大事かどうかも考えなかった。だが、大野奨太はいま目の前で大記録が継続中ということもあり、意識することでリードがうまくいったのではないか。

 

普段の試合でももちろんヒットを打たれないよう配球するだろうが、特に6回という後半から、しかもノーヒットノーラン継続中からマスクをかぶるのだから、引き気味に引き受けていたらあまりよい結果にならなかったような気がする。大野雄大自身、「5回くらいから絶対打たれるやろなって思って投げていた」(東スポ記事より)そうだから、大野奨太が意識してリードしたことは意味があったと思う。

 

意識する派かしない派か聞いたが、特にどちらがよいと言うつもりはない。自分の場合はいつも意識しすぎてしまうので、そんな時は千賀みたいにまずはやるべきことをやる、そこに集中してみようと思う。そして、都合よく使い分けてみたいのだが、強気で行った方がよさそうな場面では、大野奨太のようにあえて意識しながら実行してみる。どちらも今までやったことはないが、ノーヒットノーランという快挙にあやかって、大事な予定がある時は意識して「意識する」「意識しない」を使い分けてみよう。


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