黒柴スポーツ新聞

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1992年日本シリーズでの大塚光二の神走塁と秋山幸二への指摘に見るプロフェッショナル論

プロフェッショナルとは? 「プロフェッショナル 仕事の流儀」でもおなじみの質問だ。このことを考える時、あの鮮やかなシーンが頭をよぎる。



1992年日本シリーズ第6戦。9回表、神宮球場のマウンド上には伊東昭光がいた。スコアは7-6とヤクルトがリード。ツーアウトで1塁には大塚光二。打席の秋山幸二はツーナッシングと追い込まれていた。



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追い込んでいながらヤクルトベンチの野村克也監督の表情は渋い。フジテレビの実況を見直してみる。「(勝負を)急ぐなっていうことなんですよね」と大矢明彦。続く伊東の投球は外角に外しつつもあわよくばストライクを狙いに行くような微妙なコースとなった。これを秋山が打ち返した。



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「右中間へ!」。思わず実況の福井謙二アナウンサーが叫ぶ。「さあ、1塁ランナーはセカンドを回って…」。しかし画面は信じられない状況を映し出していた。もう大塚は3塁に到達していたどころかベースを蹴ってホームを目指し激走している。画面手前では3塁コーチャーの伊原春樹が小走りするように足でリズムを刻みながら右腕をグルグル回している。「おおっと、ぐるぐる回ったあ」。グルグル回ったのは大塚ではなく伊原の右腕である。



「ホームを突くぅ! セーーーフ!」。7-7と画面いっぱいに字幕が出た。ホームイン後ゴロンゴロンと2回転した大塚は生還を確認しがポーズ。「同点、同点!」。ところが西武ベンチでは黒江透修コーチが1塁方向を指さして怒っているように見える。直後、伊原コーチも映るが「なぜ1塁止まりなんだ。2塁へ行かんか!」とばかりに1塁上の秋山に向かってジェスチャーしていた。右足で地面を蹴るような動きもしているから相当お怒りのようだ。


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確かに同点では勝てない。秋山が2塁に進んでさえいれば、ワンヒットで帰って逆転できる可能性は高まる。西武ベンチの怒りはもっとも。しかし土壇場、あと1球からの殊勲打である。草野球プレーヤーなら1年この話題だけでおいしい酒が飲めそうだ。ところが秋山は誉められるどころか叱られた。秋山はニコニコするどころか、タイムを確認後離塁してバッティンググローブをグラウンドに投げつけて悔しがった。指揮官を経験した今ならベンチの指摘はよく分かるだろうが。とにかくやれることは徹底する。これが西武を常勝たらしめた要因であり、西武黄金期を象徴するシーンであった。一言に凝縮するのは難しいが、黒柴スポーツ新聞編集局長としてもプロフェッショナルとはこういうことなのだろうなと考えている。



なお、フジテレビのプロ野球中継大好き男の編集局長としては今回もカメラ位置の職人技に注目したい。1塁側のウエイティングサークルくらいの方向から本塁を撮影しており、大塚がブルーのヘルメットを飛ばす勢いでキャッチャー・古田敦也の背中を回り込む様子を克明にとらえている。2016年シーズンからの本塁ブロックでは古田は同じ動きができないかもしれないが左脚でホームベースをブロック。大塚はこれを避けながら左腕を目いっぱい伸ばして左手でホームベースをかすめた。西武の好走塁と言えばクロマティの緩慢(もう使い古された表現だが)な返球の隙を突いた辻発彦が思い出されるが、大塚の場合はアウトになってもおかしくない状況だった。今風の言い方なら「神走塁」となる。



「いやあー、いかに(大塚が)俊足と言えどアタクシは無理かと思いましたけど、ま、ツーアウトということもあるんですが八木沢さん、突かせましたねホームをねえ」(福井アナ)
「そうですね、割とあの、こういった時に伊原コーチはですね、思い切ったあのう、腕を回すんですね。よく(大塚の手が)入りましたですね」(解説の八木沢壮六)。フジテレビの解説のチョイスが渋すぎる。



本紙編集局長は人間修業がまだまだ足りず恐らく秋山と同じ心境。まずは同点を喜べばいいじゃないか、と。しかしプロは今できることを徹底できる。そして今だけでなく「常に」なのだ。でなければ大塚はあんなスピードで3塁を蹴っていない。前の塁を狙うのは当たり前。凡事徹底。社会人としても見習いたい。



やや強引に時事ネタにかぶせる感じもあるが、五輪予選突破が絶望的になったなでしこの動きが気になっている。ボールを持っている相手選手への「寄せ」が毎試合甘く見えて仕方がない。素人レベルの感想なので恐縮だが、サッカー経験者の方にぜひ解説をしてもらいたい。寄せきれないことは沢穂希さんも指摘していること。コミュニケーションも取れていないと指摘していた。本紙としては応援してきたし、傷心のなでしこを必要以上に追いこむつもりは全くないが、恐らく沢さんはあの時の伊原コーチと同じく喝を入れたい心境だろう。ピッチ上で涙すら見せていたなでしこにはどうにか気持ちの整理をつけ、プロフェッショナルとして今できることを表現してほしい。





※コメントを下さった方へのお礼が先になってしまいましたが、いつも熱心にお読みくださり☆を付けてくださっている方(そう、あなたです!)たちがいらっしゃいます。励みになっております。本当にありがとうございます。