黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

やられっぱなしでは終わらない~楽天・美馬、令和初の完全試合逃す

7月19日はソフトバンク楽天美馬学にあわや完全試合を食らうところだった。美馬にしてみたらあと3人だったのにと惜しい気持ちがあるだろうが、実は充実した気分ではなかろうか。というのも美馬はソフトバンク戦で悔しい経験をしているからだ。

 

6月2日のソフトバンク戦でも美馬は5回を終えて完全試合ペースだった。だが6回にホームランを打たれて完封もなくなり、7回にはノーアウト満塁のピンチを作って降板。踏ん張りどころで死球を与えた美馬は自分の不甲斐なさから、ダグアウトのベンチにグラブを叩きつけた。私はソフトバンクファンながら、そこまで入れ込む様子を肯定的に見た。

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同じソフトバンクが相手だから美馬には心中期するものがあったに違いない。8回終わったところでまだ完全試合ペース。ソフトバンクファンの私も、これはひょっとしたらやられてしまうかもと諦めムードだった。しかし9回の先頭バッター、明石健志はフルカウントに。完全試合を期待する楽天ファンからは励ましの声援が湧いたが次の投球は高めに浮いた。これで完全試合は消滅した。

 

続いて代打の栗原が打席へ。代打ということはこの日の美馬の投球は打席では見ていない。この日の美馬は好調だ、という先入観がなかったことが効を奏したのだろう。栗原がバットを振り抜くと、打球はレフト前にポトリと落ちた。これでノーヒットノーランもなくなった。

 

考え方によってはここでピッチャー交代となるが平石監督は美馬の続投を選択。まだ完封の芽もあるし、何とか投げきってもらいたいということだろう。だが美馬は上林にタイムリーを喫し、完封も消えた。2019年の楽天はまだ完投ピッチャーがいなかったため、あとは美馬が最後までマウンドに立つかどうかだったのだが、美馬は何とかその1失点で試合を終わらせた。

 

「やっちゃうんじゃないかと……」

ヒーローインタビューで完全試合への意識を問われた時の美馬の正直さに、スタンドは湧いた。このあたりも美馬の魅力なのだろう。この時は私は美馬が6月のソフトバンク戦で見せたグラブ投げつけのシーンを忘れていたのだが、あとであの美馬の熱さを思い出すと、美馬は相当うれしかったんじゃないかと想像した。そう、やられたらやり返す。それができた時は気持ちがいいものだ。

 

特にプロ野球は同じ対戦相手と試合を重ねていく。相性というものがあり、続けて勝つ場合も続けて負ける場合もあるが、大抵は勝ったり負けたりだ。そしてやられた方はリベンジを期するし、勝った方は次も…と意欲が出る。その繰り返しの中でレベルが上がっていく。だからソフトバンク打線としては次回の美馬との対戦では何がなんでも打ち崩さねばならない。

 

その意味では最後に粘ってノーヒットノーランも完封も阻止できてよかった。最後のバッター牧原のアウト判定もタイミングとしては際どく、選手に促される形で工藤監督がリクエストを要求した。アピールしたのは内川聖一ら。最後の最後まであきらめない姿勢はさすがだった。やられっぱなしでは終わらない。美馬もソフトバンクナインもその大切さを見せてくれた試合だった。

小さな変化に気付けない~ソフトバンク和田毅が2試合連続で緊急降板

7月20日楽天戦に敗れ、ソフトバンクが6連敗となった。工藤公康監督就任以来のワーストタイ。6連敗は日本ハムに11.5ゲーム差をひっくり返された年以来というのだからソフトバンクにとっては縁起が悪すぎる。ベテラン和田毅の力で何とか連敗を5で止めてほしかったのだが、和田自身は楽天打線を無失点に抑えたものの、リリーフの一人、椎野が浅村に犠牲フライを打たれて0-1で終わった。

 

降板後の和田いわく、スパイクの刃の周りには土がこびりついていたという。状況が悪くなっていく、その小さな変化に気付けなかった。それが失敗だと受け止めた和田毅はさすがだったのだが、チームが負けてしまってはどうしようもない。けがの具合が気になるが、一日も早くよい状態に戻してもらいたいと思う。

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和田毅が注意散漫だったなんて、そうは思えない。むしろこの危機的な状況で、絶対に自分が勝たねばならない、連敗を止めなければならない、そのためには先取点を与えてはいけないのだ、という気負いがあったのではないか。だから自分のことを後回しにした結果、スパイクの刃に土がこびりついていたのを見落とした……。優しい人が陥りそうな悪循環だ。

 

だとしても和田毅は責められない。もはや回復力の高い以前の体ではないだろう。無理は禁物だ。責任感の強い和田毅のことだから、チームが危機を脱するまで自分のことを二の次にしかねない。それを避けるためには打線が奮起するしかない。

 

連敗中のソフトバンクは貧打が響いている。頼みのグラシアルは代表活動のため離脱、その穴を埋める筆頭の福田秀平は脇腹痛。1軍には長谷川や江川らが昇格してきたがまだ結果が出ていない。2ゲーム差に迫ってきた日本ハムの勢いとは対照的だ。工藤監督も頭が痛いところだろうが、各自でやれるのはその打席ごとにやれることをやるのみだ。ここまで何とか踏ん張ってきた投手陣に応えるためにも、1試合でも早く打ち勝つ試合を見せてほしい。

自分と戦っている状況では苦しい~ソフトバンク4連敗、チームも加治屋も踏ん張り時

過ぎたことをぶり返してもいけないが、昨夜のソフトバンクの敗戦は残念だった。打たれたこともそうだが、この日本ハム3連戦、何か、弱気が伝染しているように思えるからだ。初回に打ち込まれた大竹耕太郎、4四死球と乱れた甲斐野央、そして救援しながら満塁にして降板した加治屋蓮。勝負の前に自分との戦いに負けてやしないか。

 

7月17日の日本ハム戦で加治屋は、4イニング投げて降板したスアレスの後を引き継いだ。しかし二塁打やセンター前に抜けそうな当たり(これは何とか牧原が食い止めたがアウトにはできず)で1死一、三塁に。問題はそこからだった。中島にタイムリーを浴びた後、加治屋はストライクが入らなくなった。

 

3ボールになった時、解説の加藤伸一は言った。勝負にいけている段階じゃない、自分と戦っている状況だ、と。これではいかにも苦しい。これは早めの継投をした方がいいと加藤伸一は提案したが、加治屋はそのままストレートの四球を与えて満塁の状況で降板してしまった。結局、リリーフした松田遼馬が踏ん張りきれず2失点。点差は4点に広がった。

 

調子が出ない時。それは得てして相手との勝負にはならず、自分で自分を追い込んでしまいがちだ。それでは勝負にならない。駆け引きにもならない。逆に自信があったり、結果が出ている時は自分のペースで攻められる。その点では、4-0とリードを広げた直後の5回にノーアウト一、二塁とランナーを背負いながらも無失点で切り抜けた日本ハム先発の有原航平はさすがだった。さすがリーグ最速10勝目を挙げるだけのことはある。

 

勝負に敗れるとしても、せめて相手とは勝負したいものだ。やるだけのことをやってうまくいかないならまだ納得できるが、力が発揮できなければ消化不良になるだけで成長にはつながらない。それではいかにももったいない。そういえば「四球から生まれるものはない」と工藤公康監督は言っていたなと検索してみたら、その試合(5月12日のロッテ戦)で加治屋は2四球を出して押し出しの1点を与えていた。

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同じ四球でも攻めて厳しいコースを突いての四球ならば意味はあるが、昨夜の加治屋は明らかに精神的な余裕のなさがピッチングに表れていた。モイネロが離脱することを考えても、加治屋にはしっかりしてもらわないと困る。特に今季はかなりリリーフ陣が若返っているだけに、優勝の味を知る加治屋には自分が引っ張るくらいの気概がほしい。4連敗で、グラシアルが離脱、そしてモイネロも……チームにとっても加治屋にとっても、今が踏ん張り時である。

才能ある人が結果を出せない不思議~ソフトバンク甲斐野が4四死球で決勝点献上

不思議だな、と思う。甲斐野が1イニング4四死球(申告敬遠含む)の乱調で日本ハムに決勝点を与え、敗戦投手になってしまった。負けること自体は、まだ若干の不安要素がある甲斐野だからあり得ないことでもない。だが、不思議だと思ったのは157キロを投げられる人でも思い切って投げられないことがある、という事実にだった。

 

たぐいまれな才能がある人をうらやましく思う。なぜいとも簡単に、そして、どうしたらいつも結果が出せるのか。ずっと前から、そして今なおジェラシーの塊である。だから才能がある人の気持ちは分からない。いつもうまくいっている人だからこそのプレッシャーはあるかもしれないし、実は見えないところでかなりの努力をしているのかもしれないのだが。決して天狗には見えないのだが、ルーキーながら抑えに起用されている甲斐野に対しても、エリートである印象を持っている。

 

だからこそ不思議だった。四球、死球送りバント、申告敬遠。三振一つは奪ったものの押し出しと、自慢のストレートやフォークで打者をねじ伏せてきた甲斐野のピッチングは影を潜めていたのだ。球速は150キロ台を出せていたから開き直っていなかったわけでもなさそうだ。しかしわずかに低めだったり、わずかに内角すぎたりと、いまいち攻めきれてない印象だった。

 

工藤監督は、「投手はこういうときもある。悔しさを乗り越えて前を向いて切り替えてやってほしい」(スポニチ記事より)と甲斐野をかばったが、あれだけのストレートやフォークがありながら攻めきれないというところがピッチングの奥深さ、ピッチャーの繊細さなのかもしれない。球速が出るだけで抑えられたらみんなそういう練習、トレーニングをするはずだ。

ピッチャー視点で“観戦力

ピッチャー視点で“観戦力"を高める 工藤公康のピッチングノート

 

 

 

甲斐野はデビューから無失点記録を作った後、手痛い被弾も経験している。守護神の森唯斗が離脱してからは9回を任せられる機会が増えたが、代役となった交流戦のヤクルト戦では3点差だったのに3四死球でツーアウトしか奪えず、嘉弥真に救援を仰いだことも。崩れる時は止まらないことがあるようだ。

 

それは抑えにはあってはならない。せめて、勝負しないといけない。日本ハム戦ではラジオ解説の岸川勝也が言っていた。「(こういう場面は)抑えるか打たれるかですよ」と。前日打ち込まれた大竹耕太郎もそうだ。何か、かわす気持ちがどこかにあったのではないか。大竹の場合は最近4試合がすべて4失点以上と結果が出ていなかった。それで腕が振れていなかったのなら、結果を気にしすぎだ。

 

かくいう私も切り替えの下手さは超一流だから人のことをどうこう言えないのだが、大竹も甲斐野も素晴らしい才能があるのだから、もっと思い切ってやればいいのになあ、と思ってしまうのだ。最初は無我夢中でやって結果が出ていたのが、ぼちぼち考える余裕が出てきたために、逆に考えすぎてはいないか。だとしたら守りに入るのはまだまだ早い。

 

幸いソフトバンクはまだ首位だ。日本ハムに連敗して5ゲーム差に縮まったが、この連敗くらいまでは吸収できる。ただし3連敗したら危ない。何せ栗山日本ハムはかつてソフトバンクに対して11.5ゲーム差をひっくり返した実績があるのだから。ソフトバンクはまもなくグラシアルとモイネロがキューバ代表活動のため離脱する。二人がいない間は最低でも首位をキープしておきたい。

 

そのためには大竹にも甲斐野にも結果を残してもらわないといけない。打たれる怖さはまだまだあるだろうけれど、工藤監督が言うようにそれを糧に成長するしかない。どうせうまくいかないにしても、せめて納得いくパフォーマンスはしたいものだ。大竹と甲斐野には自分の持ち味を発揮し、次回登板で取り返してもらいたい。

伝統が大事か、変革が大事か~高校野球古豪・県岐阜商がユニホーム大胆チェンジ

甲子園を目指し、高校野球都道府県大会が進められている。ふと県立岐阜商業の画像を見てびっくり。古風な紺主体のユニホームから、やまぶき色やブルーのカラフルなものに変わっていた。秀岳館みたい……そう、今の県岐阜商監督は秀岳館を率いていた鍛治舎巧監督なのだ。青系と黄色系という反対の色を取り入れると体が大きく見えるという効果も狙っているそうだ。

 

いつものくせで、最初はこの変化に違和感を感じてしまった。特に県岐阜商は公立校最多勝利を誇る伝統校。あまりに変えるのは歴史を軽んじているのではないか、と思ってしまったのだ。しかし県岐阜商は2012年を最後に夏の甲子園から遠ざかっているという。つまり変革が必要な時期。ユニホームの配色を変えるのもその一環というわけだ。

 

でも秀岳館チックだしそもそもベースになっているのは鍛治舎監督がいた松下電器らしく、率いていた枚方ボーイズもこれだったと記事に書いてあった。それでなんだかなあ、と思ったが実はやまぶき色やブルーは校旗に使われている色だそうだ。これならば伝統のユニホームに愛着があるOBたちも何とか折り合いをつけられたのではないかと想像する。

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何よりOBたちだって伝統にとらわれるよりは低迷を脱してほしいことだろう。ただただ勝てばいいというものでもなかろうが、やはり母校の選手にははつらつとプレーしてほしいに決まっている。それにユニホームは勝ち星が印象をつくるものだ。新ユニホームで勝てば強そうに見えるし、負け続けたら失敗だったと思われるだけだ。

 

その県岐阜商は7月14日の岐阜大会2回戦で新ユニホームを泥だらけにしながらの逆転勝ち。ユニホームの配色がどうなろうと必死のパッチでやることは変わらない。伝統を守ることを隠れ蓑に、変わることを恐れて何もしないのは最悪だ。新しい発想、新しい感覚を生かしてチャレンジしていくことが結果的に伝統を守ることにつながる。県岐阜商ナインには新ユニホームで新たな歴史をつくっていってもらいたい。

アリかナシかはやった人による~阪神近本球宴サイクル安打へのアシストに賛否両論

阪神の近本光司がオールスターで5安打の大暴れ。史上初のルーキーによる先頭打者ホームランだけでもすごいのに球宴史上二人目のサイクル安打まで記録した。しかしその打席となった三塁打パ・リーグのアシストが見受けられ、それをめぐって賛否両論が渦巻いているという。

 

ざっと見た感じ、アリの方が多そうだ。球宴だから許されるという意見には素直にうなずける。オールスターはお祭りだ。オールスターを球宴と表現した人はさすがだな、と思う。まさに宴なのだから、エンターテイメント性はむしろあってしかるべきなのだ。

 

また、舞台となった甲子園は阪神の本拠地。近本光司のホームグラウンドである。そもそもパ・リーグ外野陣が前進守備を敷いたのはファンが「前で守れ」と圧をかけたという話も。それでもプレッシャーのかかる場面で大飛球をかっ飛ばした近本のバッティングや勝負強さは大したものだし、躊躇しながらも三塁に向かう走塁はいやらしさがなく、近本については全く責められる要素はない。120点、いや、200点満点だ。

 

これをアシストしたと見られているのは頭上を越された秋山翔吾、ふんわり返球の源田壮亮、派手な空タッチの松田宣浩パ・リーグ3人と、近本光司の進塁を促す本塁突入をした坂本勇人だ。これについては特定の誰かを追及する書き込みは見当たらない。むしろ坂本勇人や、特に松田宣浩の株価が上がっている。

 

そう、結局アリかナシかは誰がやったかによるのだ。秋山翔吾源田壮亮松田宣浩坂本勇人は実力者だし普段から目一杯のプレーをしている。そういうブランドがあるから責められたりしないのだ。「アウトだ!」とグラブを高々と挙げてタッチをアピールする松田宣浩を千両役者とかゴールデングラブ賞と評した人がいたが、まさにそうなのだ。あれは常にはつらつプレーでファンを楽しませる松田宣浩だからこそ成立すると言ってもよい。

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結局、このサイクル安打の価値は近本光司自身に託されたと言っていい。このままスター街道ばく進ならサイクル安打パ・リーグ勢が粋な立ち回りをしたことは「愛嬌」で終わるのだけれど、並の選手で終わってしまえば、やっぱり自力ではサイクル安打無理だったよねと記憶は都合よく書き換えられていくのだ。

 

それは決して重い十字架ではない。オールスターの5安打なんてなかなかできることではない。前回の達成者はペタジーニというから近本も打撃をさらに磨けばとんでもないことになるかもしれない。盗塁もできるしこれにスター性が加わればもっともっと人気が出そう。オールスターで名前が売れたから、後半戦で活躍すれば新人王レースも優位に進められる。阪神ファンは楽しみで仕方ないことだろう。

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近本光司がこのままスターになったら、パ・リーグの先輩たちはとんでもないプレゼントをしたことになる。そして、近本の活躍で多くのプロ野球ファンが胸を熱くさせるようになっていったら……近本にはぜひサイクル安打を大きなきっかけとして球史に残る名プレーヤーになってもらいたい。

自分の道は自分で切り開く~ソフトバンク新生ローテに二保、松本そして和田毅

西日本スポーツ記事「ソフトバンク 後半戦は大竹で開幕 ローテ再編、 二保→ 和田→千賀→ 高橋礼→松本」を見てうなった。二保と松本がローテ入りしている……。素晴らしい。やはり自分の道は自分で切り開くしかない。自ら出した結果を伴って。

 

二保は5日のオリックス戦で6回3安打1失点。先発としての初勝利を飾りチームを8連勝に導いた。今季は5月28日のオリックス戦でも7年ぶりの先発ながら4回1失点でしのいだ。山本由伸との投げ合いだったし、上等だ。それがあったから次も先発で起用されて先発初勝利。そしてローテーションの一角に食い込んだ。

 

松本裕樹は何と言っても7月7日のオリックス戦。初完封さえ期待できる丁寧なピッチングで7回終わって無失点。8回にランナー二人を背負ってリリーフを仰ぎ、チームは逆転負けを喫したのだが、あの山を越えていたら今以上に自信になったことだろう。

 

私は現地で見ていて、実は8回、不意に涙が出てきた。結果が残せず一時はサイドスロー気味に投げ方を変えた松本裕樹が粘りのピッチングでオリックスを抑え続けている姿に心を打たれた。人間、真面目にやっていればいつか結果は出る、報われるんだ……なんてじーんとしていたら松本はピンチになり降板してしまった。私はちょっと泣くのが早すぎたのだが、それでもファンは同じ気持ちだったように思う。なぜならマウンドを降りる松本裕樹には、それは温かい拍手が送られたのだから。確かにランナーを残していたからファンとしては惜しいなという気持ちもあっただろうが、それを上回るくらい気持ちのこもったピッチングだった。だから工藤監督が継投を早めなかったことは仕方ないと思っている。

 

松本裕樹は2勝目や完投完封はならなかったがローテ入りというチャンスはしっかりゲットした。それは紛れもなく松本自身が勝ち取った権利なのだった。

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和田毅も復帰後はさすがのピッチング。往年の勝ち星は見込めないかもしれないが安定感はさすが。前回登板が足を気にしての緊急降板だったのが気がかりだが、ローテに名前が上がることから考えて重傷ではなさそう。けがには気を付けながらローテを守ってもらいたい。

 

二保と松本と和田毅が入るということは、当初ローテ入りしていた東浜、武田、ミランダがいないことを意味する。それはそれで厳しいのだが、この6人でも4勝2敗でいけそうな気がする。そもそも二保と松本と和田毅は今季、先発としてどれくらい期待されていただろうか。感覚的には彼らが勝つほど貯金が貯まるイメージになるのではなかろうか。クライマックスシリーズも考えておくと、しっかり6人、試合がつくれるピッチャーを整えておきたい。二保、松本、和田毅がローテ入りすることは本当に心強いことなのだ。新生ローテーションでもきっちり、勝ち星を積み上げていってもらいたい。

色でテンションを上げる~ソフトバンク松田宣浩の道具は球宴仕様のプリズム柄

日刊スポーツ記事「ソフトバンク松田宣浩球宴用具は5色のプリズム柄」を見て、さすがだなと思った。カラフルな道具にこちらまでテンションが上がる。ファンをワクワクさせるのもプロ野球選手の大切な役割だ。

 

思い出したのが新庄剛志日本ハム時代にはオールスターでピカピカ光るベルトを着用し、外見で目立とうという作戦にまずはハマったのだが、何と新庄剛志はホームスチールを敢行。日本中をあぜんとさせた。

 

川上哲治赤バット大下弘青バット柴田勲の赤い手袋、松本匡史の水色の手袋、鈴木尚広のオレンジの手袋、丸佳浩のピンクのバンド……色でテンションを上げていたのかは分からないが、敵チームには危険信号として色が刷り込まれているかもしれない。

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それにしても松田の道具はカラフルだ。色で気分を、テンションを上げるのは健康的に思う。サラリーマンはワイシャツが相場だけど、ちょっと頑張りたい日は攻めた色(が入ったもの)を着てみたい。さすがに松田宣浩くらい派手なのは攻めすぎだけれど。いい仕事をしていくことで、自分も「熱男」「輝男」になれるよう頑張ろう。

二人の正義~ソフトバンク田中正義は打たれ、塚田正義はタイムリー

復帰登板は思わぬ形でやってきた。和田毅が5回ツーアウトで緊急降板。足に違和感があったようだ。2-2の同点、ランナーは一、二塁。ここで田中正義はマウンドに上がったのだった。

 

2016年ドラフト1位ながら未勝利。即戦力としての期待には応えられてこなかったが2019年は2軍戦で無失点試合を続け、1軍に上がってきた。そしてすぐに登板機会を得たのだが、いきなりピンチでの登板となった。和田毅がアクシデントで降板したのだから、誰でも慌てるだろうが、田中正義も焦ったに違いない。

 

しかし私は気付いた。結果を残せていない人はこういう起用のされ方になってしまうのだ。もちろん、大事に大事に育てるつもりなら例えば回の頭からなどの配慮があろう。しかしもう田中正義は3年目。自力飛行していかねばならない。そして厳しい局面を抑えていかないとお呼びが掛からない。むしろ緊急降板の際に起用されたことを喜ばなければならないのかもしれない。

 

「こういうところを抑えていけば」と解説の松中信彦は言っていた。松田遼馬しかり、椎野新しかり、高橋純平しかり。最初はビハインド、次は同点、そして勝ちゲームでの起用。信頼感を得るごとに活躍のステージは上がっていく。そうやってソフトバンクのリリーフ陣は整ってきた。

 

だが田中正義は踏ん張れなかった。高めに浮いた速球を外崎にとらえられ、2点を失った。その後は何とかしのいだが、続く6回に四球を二つ出したところで交代を命じられた。5回の被安打よりも6回の四球がマイナス評価になったと思う。リリーフはピンチを拡大させる訳にはいかないからだ。

 

松中信彦が言っていたように、2軍で抑えられたとしても1軍はそうはいかない。空振りを取れていた球がファウルまたはヒット、ホームランになる。よりレベルアップしないと1軍では通用しない。本当に厳しい世界だ。田中正義は後半戦も1軍に帯同できるだろうか。同じドラフト1位だった高橋純平も加治屋も平淡な道のりではなかったが、加治屋は昨年大活躍したし、高橋純平は今年ようやく結果が出始めた。田中正義も彼らに続いてもらいたい。

 

そしてもう一人、松中信彦が「こういうところで打てば」と言っていたのが塚田正義。左のテクニシャンぞろいのソフトバンク打線にあって手薄なのが右の代打。塚田は「ここで打てば右の代打の一番手」(松中信彦)と言われた。塚田は2点差で迎えたチャンスに代打で登場。見事にタイムリーを放った。

 

「初球のチェンジアップを打てるとは、準備ができていたということ」と松中信彦。確かにストレート狙いだったら引っかけて内野ゴロだったかもしれない。しかし塚田はレフト前にタイムリーとした。塚田はこれを入れても4安打しか打っていない。まだまだアピールしていかないといけない。

 

田中正義と塚田正義。田中は結果を出せず、塚田は結果が出た。プロ野球選手は結果がすべて。二人が出続けるためにはとにかく抑え、とにかく打たねばならない。ぶっちぎりでパ・リーグを独走するソフトバンクだが、チーム内では出番を求めて切磋琢磨が続いている。勝った負けたも大事だが、いつ、どのタイミングで誰が起用されるのかを見ているのも楽しい。後半戦も出番争いに注目していこう。

場慣れすることが余裕を生む~ソフトバンク福田秀平が行使できる2つの宣言

「試合慣れしている」

RKBのエキサイトホークスを聴いていて、浜名千広の解説が心に残った。試合慣れしていると評されていたのは福田秀平だった。私には福田の心理がよく分かる気がする。最近の福田秀平は確かに打席で粘りがあるというか、落ち着きがあるように感じられる。ちょっとやそっとじゃ交代にならないという事実からくる落ち着き、と言っていい。それを浜名千広は「試合慣れ」と言っていた。

 

試合慣れしているも何も、福田は十分試合に出ているだろうと思われるかもしれない。13年もプロ野球選手をやっているのだから。しかし福田は言う。自分はレギュラーではない、と。確かにこれまでは代走や代打、守備固めでよく起用されてきた。それはそれでチームに必要な存在であり、福田を福田たらしめてきた。これまでも十分、福田には存在価値があった。

 

そんな福田秀平だが2019年のソフトバンクは故障者続出であり、福田は例年以上に重宝されている。時にはスタメン起用され、交流戦優勝争いの巨人戦では森福から満塁ホームラン、エース菅野の立ち上がりを崩す先制ホームランなど鮮烈な活躍をした。ファンからは交流戦MVPに推す声も出た。明らかに福田秀平の存在価値は上がったのだった。

 

 

浜名千広はその変化を読み取ったのだった。今までは途中出場が多く、それだと打席も1試合数回。1回だけ、さらには1度もないことすらある。そんな状態の人と、毎試合4回ほどコンスタントに打席に立てる人とは心理状態が違うのだ。もちろんレギュラーがその地位を手にするまでには努力があるのだが、レギュラーはポジションの数しか選ばれない。狭き門なのだ。

 

福田秀平は13年を経てようやくスタメン起用が増えてきた。いまだ柳田悠岐は復帰が見通せず、今宮健太中村晃もめどが立たない。グラシアルの離脱も決まっている。後半戦も福田秀平にかかる期待は大きい。それは福田自身も分かっているだろうが、「数字は気にしていない。レギュラーを確約されている立場ではない」(スポニチ記事より)と慢心はない。だがあくまでも福田にとっては1打席1打席の積み重ねなのだ。

 

福田がバッターボックスに立った時、アナウンサーも言っていたが「その位置(レギュラー)を確固たるものにするために」ヒットを打っておきたい。もちろんこれまでチームに貢献してきた福田が自分のことだけを考えてスイングするとは思えないのだが、30歳という年齢を考えると、野心的なバッティングをしても許されるのでは……とも思う。

 

しかし福田は、一試合一試合やるだけだと言う。それを福田らしいと評価するか、だからレギュラーになれそうでなれなかったんじゃないかと見るか、判断が分かれそうだ。私はソフトバンクが勝つためにも、思いきってレギュラーを狙うと福田に宣言してほしい。今の福田の活躍なら誰も異論はないと思う。レギュラーではないのにホームランは自己最多の8号。その一発で7月9日の西武戦は逃げ切れたのだ。福田の長打力に4打席トータルで期待するという作戦もあっていい。しかも福田は守れるのだから。

 

一つ気になる記事があった。福田は7月14日にも国内FAの資格を得られるという。ソフトバンク一筋の福田が移籍なんて考えられないが、選手にとっては貴重な権利。もし宣言したら同じパ・リーグからでも声がかかりそうだ。だが私にはソフトバンク以外に福田に似合うユニホームはないと思っている。FA宣言するよりも(そもそも宣言しないかもしれないし宣言の上で残留するかもしれないが)、まずはレギュラー奪取宣言をしてもらいたい。福田の存在価値は日に日に高まっているのだから。

 

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結果が出なかった翌日をどう過ごすか~ソフトバンク上林9回同点弾、椎野はリベンジ登板で3勝目

結果が出なかった時、そしてミスをした時はその次の機会が大切だ。ソフトバンクにとって7月8日の西武戦は大事な一戦。前日のオリックス戦は松本裕樹が好投しながらも8回に捕まり、リリーフ陣も打たれて一挙5失点。手痛い逆転負けで工藤政権初の10連勝を逃したばかりだったのだ。そんな中、特に二人の選手が結果を出した。上林誠知と椎野新だ。

 

オリックス戦で上林が送りバントを命じられたシーンがあった。二塁には内川聖一。次打者は甲斐拓也。甲斐は今シーズン、打撃が堅調だ。とはいえ上林が送って甲斐に託すことは昨シーズンでは選択肢になりにくく、2019年上林がいかに不調であるかを物語っているように思えた。

 

すると上林がバントをファウルにした。「しっかりやれ!」。そんな野次が飛んだ。「打率が1割台だもんな」。バントくらいしっかりやれってことだよな。私は内野席で見ていたのだが、そんなことをしゃべっている声も聞こえた。長打を期待されていた昨シーズンとは明らかに上林の立ち位置が変わってしまった。だが上林にとってはまずはこの送りバントを決めることが大事だ。上林は無事に内川聖一を三塁に進めることができ、続く甲斐が犠牲フライを放ってソフトバンクは追加点を奪うことができた。

 

得点に貢献できたのだから上林は下を向く必要はないのだが、結局ヒットを打つことはできなかった。もともと強いリストを生かしてホームランを打てるバッターではあるが妙に手打ちのバッティングに見えるというか、腰の入ったスイングには見えない。結果が出ていないから余計に自信なさげなバッティングに見えてしまっている。上林は重症だ、しっかり自分のバッティングができるようになってもらいたいと思っていた。

 

そうしたら上林は翌日の西武戦で2発のホームランを含む4安打の固め打ち。特に2本目は9回裏の同点ホームランだった。ソフトバンクは一時5-0とリードしながらも逆転されていただけに貴重な同点打となった。前日手痛い逆転負けを喫しているだけにもしこの日も敗れていたら相当のダメージがあったが、上林の一発でソフトバンクは甦った。

 

延長戦ではお互い得点できず、12回の攻防に。ソフトバンクはマウンドに椎野を送った。マレーロに走者一掃の決勝タイムリーを浴びた翌日の登板。工藤監督が椎野をあえて送り込んだというよりは、この日は野手も含めてモイネロ以外全員出るような総力戦だったから、一戦力として起用されたのだろう。

 

とにかく、昨日の今日だから椎野は何とか抑えたい。しかし四球でランナーを背負ってしまった。ラジオ解説は薮田安彦だったが、切り替えの大切さを説いていた。結果よりも自分のピッチングをすることが大切である、と。原点に立ち返り、自分のボールをキャッチャーミット目掛けて投げ込むことが大切なんだ、と。シンプルに切り替え方がよいという。

 

プロ野球選手も社会人も、一晩寝たらまた勝負の1日だ。引きずっている暇はない。特に椎野はいま中継ぎの一角。早く切り替えないといけない。ここも厳しい場面ではあるが、抑えることによって信頼が得られ、勝ちゲームでの登板が増えていくと薮田。それは社会人も全く同じである。椎野は二塁までランナーを進められたが何とか後続を断ち切った。そしてチームは12回裏、代打栗原の犠牲フライでサヨナラ勝ちした。椎野には3勝目が転がり込んだが、前日の登板も含めて忘れられない勝ちになったと思う。

 

ソフトバンクにとっても大きな1勝。首位にいて貯金もたくさんあるとはいえ連日逆転負けを喫していたらズルズル行きかねない。追い付かれ、逆転されたのは反省材料だがサヨナラ勝ちで沈痛なムードも一掃できたと思う。2019年の鍵となる試合の一つだった。結果が出なかった時にどう対処するか。個人で言えば椎野のようにすぐ切り替えてやるべきことをシンプルにやる。あるいはホームランを放った上林のように持ち味を取り戻すことが大切だ。そしてチームとしては結果が何より大切……。そんなことがあらためてよく分かった熱戦だった。

情を感じた工藤監督の2つの続投策~ソフトバンク継投プランは誤りだったのか

7月7日のオリックスソフトバンク戦。世間的には工藤監督の継投プランが失敗した、という評価ではなかろうか。しかし、目の前で見届けた人はそう見えなかったのでは……少なくとも私はそう。先発の松本裕樹にしろ、決勝タイムリーを浴びた椎野にしろ、何とか成長させてやりたい、一本立ちさせてやりたいという親心を感じた。負けた悔しさはあるものの、実は納得できている。

 

もちろんペナントレースの大事な1勝がかかっているから、負けていいはずはない。だが9連勝して貯金を作れているだけに、ある意味工藤監督が貯金を使ったように見えた。目先の1勝はもちろん大事だが、松本裕樹や椎野の今後を考える上で「この山を乗り越えろ」と、あえて壁を設定したように思えるのだ。

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松本裕樹のピッチングからは非常に丁寧さを感じた。サインが決まるとすぐに投球動作に入り、テンポよく投げ込んだ。四球が少なかったのがよかったのだが、最終にはその四球が痛かった。7回にも1アウトから吉田正尚に四球を与えたが、4番マレーロ、5番モヤを打ち取りピンチを脱した。だが8回は二死から後藤駿太に四球を与えた後に宗にはツーベースを喫し降板を余儀なくされた。

 

7回で終わっておけば計画的に8回、9回とピッチャーを投入できたかもしれない。7回に一打同点のピンチを迎えただけに私はこの回で交代と見ていた。だが被安打が2で無失点だったから、工藤監督が続投を選択したのを見た時、これは工藤監督がピッチャー出身だから山を越えさせようとしているなと想像したのだ。いつまでも8回、9回は誰かが抑えてくれる、そんなシチュエーションでいいのか、と叱咤激励しているように見えた。松本裕樹が8回を投げるのはプロ入り後初めてだったことを、私はゲーム後に知った。

 

椎野にしても、嘉弥真が同点タイムリーを浴びた後だからオリックスの勢いを止めるのが大変な状況。大城にヒットを打たれ、吉田正尚に四球を与えて満塁にしてしまった。ここまで来たら引き受けるピッチャーもなかなかいない。そのまま椎野が投げたがマレーロに痛恨の走者一掃決勝タイムリーを喫してしまった。だがまだ椎野は降板しない。点差を与えた状況だったからでもあるが、この回は抑えて帰ってこい、このまま降板したら負け犬になるぞ、おまえもこの山を乗り越えろという意味の続投指令にも見えた。椎野は歯を食い縛り、モヤを打ち取った。

 

松本裕樹にしろ椎野にしろ、危険な続投策だった。そして工藤監督が思い浮かべたようには事が進まなかった。モヤを打ち取った後、長身を折り曲げるようにして、力なく椎野が三塁ベンチ前に戻ってきた。そこに松本裕樹の背番号66が見えた。松本はおつかれ、という具合に椎野の腰の辺りに手を出したが触れたかどうかというふうに見えるくらい、力のない動作だった。結果的にソフトバンクは継投のタイミングが遅れて後手後手になり、火消しに失敗した。

 

ペナントレースを占う天王山でこの采配をして、もし負けたら批判は免れない作戦に思えた。だがまだ7月。2位以下に差を付けており、9連勝の貯金を一つだけ使ってみる……工藤監督にはそんな思惑があったのではないか。ファン的にはそのおろした貯金が選手の成長につながるならば、一つの負けを何とかのみ込める。 

 

「8回もまだいける感じだった。(後藤への四球は)制球できなかった。今日(7日)みたいな投球だったら、これからも結果が出る。今後に見えてきたものもある」

日刊スポーツ記事にはそんな松本裕樹のコメントが載っていた。確かに7回終わって被安打2の無失点だったから、敗戦の中に確かなか手応えが残ったはずだ。だとしたら工藤采配も浮かばれるというものだ。松本裕樹も椎野も、この悔しさをばねに次回やり返してもらいたい。

負けない雰囲気~ソフトバンク怒涛の9連勝、うち5回は逆転勝ち

ファンながらあきれる強さ。ソフトバンクがまた勝った。これで9連勝だ。毎試合よく見ていると、リーグ戦再開以来、日本ハム戦も楽天戦も今のオリックス戦も勝負の分かれ目はあったのだが、ことごとくソフトバンクがものにしてきた。本当に勝負強い。

 

特にオリックス3連戦初戦は先発未勝利だった二保が登板。一刻も早い援護点が必要だったが先取点を奪われてしまった。しかも相手は前の試合まで24イニング連続で無得点に封じられている山本由伸が相手。嫌な展開だったが一気呵成に4点を奪い逆転した。山本由伸が立ち直りその後は得点できなかったが8回に松田宣浩が代わった東明からだめ押しの2ラン。直前の7回裏、オリックスは一、三塁のチャンスをダブルプレーでふいにした後だっただけに、カウンターパンチとなった。

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2戦目はオリックスが善戦。デスパイネに先制ホームランを浴び、中盤には内川聖一に突き放される2点タイムリーを喫するも、佐野のプロ初ホームランやマレーロの勝ち越しタイムリーでついにソフトバンクを1点リードした。ソフトバンクはショート高田の不安定な守備が失点につながっており嫌な展開だったがそれを払拭したのはまたも松田宣浩だった。この人の勝負強さはどこからくるのか。力強く振り切ると打球は高々と舞い上がり、そのままレフトスタンドに飛び込んだ。ラジオで聴いていたが、熱男コールはヤフオクドームかと思うくらいの大きさ。ほっともっとフィールド神戸は相当盛り上がっていたに違いない。

 

この回先頭の内川聖一の出塁はオリックスのサード安達のエラーによるもの。これがなければ松田宣浩にホームランを打たれたとしても同点止まりだったし、そもそも松田宣浩は2アウトからの打席だから内川がアウトになっていたら8回は打席に立っていない。チームメイトのミスを消し、相手のミスにはつけ込む。強いチームの勝ち方には隙がない。無駄がない。

 

けが人、離脱者続出で、ソフトバンクファンは頭を抱えていた。しかし代役が次々に結果を出してのアピール合戦。みんなでやれば何とかなる的なムードがすっかり定着したようだ。今のソフトバンクにはちょっとやそっとじゃ負けない雰囲気がある。負けていても「もしかしたら」という雰囲気が。2018年、西武が見せた異常なまでの粘り強さのお株を奪う勢いだ。 

 

その2018年は9連勝しながらもレギュラーシーズンの優勝は西武に持っていかれた。だからまだまだ気は緩められない。日本ハム楽天が連敗している間に西武が2位に浮上してきた。7月6日終了時点で6.5ゲーム差を付けているが油断は禁物だ。昨年の悔しさを西武はぶつけてくるのだから。7月7日も勝てば工藤ホークスとしては初の10連勝。負けない雰囲気の中で経験を積めることは若手にとっても幸せなことだ。それがまたチームを強くする。ソフトバンクにはいけるところまで連勝を伸ばしてもらいたい。

トレードは有効な人材活用~吉川、下水流、松井雅人、モヤらは新天地で輝けるか

プロ野球で、立て続けにトレードが実行された。前半戦が終了間近であり、各チームが現状を何とか手当てしたいという思惑だろう。だとしても当該選手にはチャンスだ。最も不幸なのは組織において、忘れられた存在になることなのだから。

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よかったな、と思うのが早速移籍先で試合に出ている点。日本ハムでは宇佐美、吉川光夫(共に巨人から)、オリックスではモヤと松井雅人(共に中日から)、楽天では下水流(広島から)が確認できた。環境も変わるし、すぐさま結果が出るとは限らないが、いかに新チームが期待しているかが分かる。選手も意気に感じているだろう。

 

契約して年俸をもらっていればプロ野球選手には違いないが、やはり1軍で試合に出てこそ正真正銘のプロ野球選手。それはかなり狭き門だ。記事に取り上げられる選手に限ればほんの一握り。だからこそ一般人には手が届かないくらいの年俸がもらえるのだが。FA移籍があるからか、昨今のトレードは出場機会を与えつつチームの弱点を補強したい考えで選手がピックアップされている。

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今回のトレードはなかなか興味深い。まず下水流。潜在能力の高さからずっと期待されてきたのだろうが、レギュラーの壁を崩せなかった印象。だとしたら楽天でチャンスをもらえたらさらに花開く可能性はある。もちろん楽天のレギュラー陣だって黙ってポジションを渡しはしない。新チームで試合に出られなかったら、それが下水流の球運ということだ。

 

吉川光夫はもともと日本ハムにいたから復帰だ。先発ピッチャーとしてパ・リーグMVPになったこともあるが、巨人では先発以外に中継ぎも務めた。だがいまいちパリッとしなかった。日本ハムに復帰してすぐ、吉川は先発に起用された。「やり方によっては吉川らしさが出る可能性がある。先発? 1イニングを投げるタイプではないように見えるよね。それが先発なのかどうかは別だけど」(スポーツ報知)と栗山監督。このまま巨人にいたら萎れてしまいかねない、と目をつけられたのか。日本ハムの投手陣は若い印象だから、吉川ぐらいの年齢(31歳)が入るのはちょうどいい。栗山監督は優しさも厳しさもあわせ持つタイプだから、どんなふうに吉川が再生するか見ものだ。

 

オリックス入りしたモヤについては、同じく中日で2軍暮らしだったブライアントを思い起こした野球ファンもいたのでは。特に長距離砲は試合は出してあげないと結果が出ない。中日はビシエドらが1軍に定着しているから外国人枠の関係でモヤにチャンスを与えられないらしい。だったら、ということでモヤを出すがオリックスから松葉を獲得する。これは非常に合理的な考え方だ。

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オリックスは投手陣が育ってきている一方、アキレス腱を傷め長期離脱を余儀なくされたキャッチャー伏見の穴は痛い。そこで松葉を中日に出す代わりに松井雅人で埋めようと考えた。松井は早速試合に出してもらっている。パ・リーグは周東、西川、金子、荻野ら俊足がひしめくから盗塁対策は必要だが、キャッチャーはまずはリードをしっかりして投手陣を生かさないといけない。オリックスはピッチャーが若いだけに、キャッチャーがしっかりしたらもっと強くなるはずだ。 

 

キャッチャーは一人優秀な人がいるとどうしても第2、第3のキャッチャーは試合に出られない。だがけがもあるし、複数確保しておかないといけない。特殊なポジションであるだけに、すぐには育てられないから非常に貴重な人材だ。今回トレードが急がれた背景には人材の有効活用を念頭にした「現役選手ドラフト」を各球団が封じる思惑も影響しているのでは、との分析がzakzak記事【江尻良文の快説・怪説】前代未聞!「電撃トレード」が頻発する裏事情 選手会の要求に12球団側が“対抗策”か、に書かれていた。キャッチャーの有効活用という意味でも、枠の関係で「飼い殺し」(本当に使いたくない言葉だ)になるよりサッカーのレンタル移籍みたいにまずはチームの補完&出場機会の提供の両立が目指せないものか。組織の中で人材が埋没することほど不幸なことはないのだから。

できる人は一撃で仕留める~ソフトバンク首位攻防戦でグラシアル3発11打点

「難しい球、打ってますよね。甘い球打ち損じて」

7月4日のソフトバンク楽天戦で、解説の若菜嘉晴が上林誠知の打席をそう評していた。確かに上林は高梨が投じたやや内角高めの球を窮屈そうに打ち、キャッチャーゴロに倒れていた。

 

「高打率の人は、甘い球一発で仕留めますよね。先ほどの内川みたいに。グラシアルもそう」

復調モードの内川聖一はこの日も2安打。グラシアルは初回に2ラン、6回には3ランと首位攻防初戦の6打点に続きことごとく打球を的確にとらえていた。

 

「打率の低い人は打ち損じて追い込まれていってボールを振るという傾向が多い」

ま、キャッチャーはそういうふうに仕向けるんですけどね、と若菜嘉晴は続けた。

 

なるほどな。仕事ができる人はそうなのだ。結果を出せる時は必ず決める。しかも一撃で。だから時間的にも体力的にも精神的にもロスがない。仕事がうまくいかない人は正反対。一撃で決められないから時間的にも体力的にも精神的にも消耗してしまう。その結果追い詰められて、難しい選択肢しかなくなっていく。そうなるとリカバリーは厳しい。

 

両者を分けるのはひとえに技術力。狙った球を的確にとらえられる技術があるから打ち損じない。技術を高めるには磨くしかない。内川聖一は横浜時代、杉村繁コーチと打撃力を向上させたし、グラシアルは年下の上林の打撃練習の映像をまとめてほしいとコーチにお願いするほど研究熱心(西日本スポーツ記事より)だ。やはりできる人はやることをやっている。

 

甘い球を打っているように見えるがグラシアルのこの日2本目のホームランは内角に入ってくる球を、少し腕をたたみながら打っている。簡単に結果を出しているように見せる。それは技術力がある人ならではだ。

 

 

 

内川聖一の右方向への打撃は芸術的。確実に打てるポイントがある。これは強みだ。得意技、必殺技を持っておくことは自分を助ける。内川の場合はあとはレフト方向に強い打球が打てだせば打率も上がって打点も稼げるだろう。

 

打率が上向かない上林、牧原あたりはまだまだ能力が発揮できていない。そんな焦りがあるのか特に上林は当てにいくようなバッティングに見えて仕方ない。

打つべき球の見極め、そして的確にとらえる技術。それは社会人が結果を出す過程にも通じる。追い込まれて自分のバッティングができなくなる前に、気持ちよくフルスイングできるよう、やれることはすべてやっておこう。


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