黒柴スポーツ新聞

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情を感じた工藤監督の2つの続投策~ソフトバンク継投プランは誤りだったのか

7月7日のオリックスソフトバンク戦。世間的には工藤監督の継投プランが失敗した、という評価ではなかろうか。しかし、目の前で見届けた人はそう見えなかったのでは……少なくとも私はそう。先発の松本裕樹にしろ、決勝タイムリーを浴びた椎野にしろ、何とか成長させてやりたい、一本立ちさせてやりたいという親心を感じた。負けた悔しさはあるものの、実は納得できている。

 

もちろんペナントレースの大事な1勝がかかっているから、負けていいはずはない。だが9連勝して貯金を作れているだけに、ある意味工藤監督が貯金を使ったように見えた。目先の1勝はもちろん大事だが、松本裕樹や椎野の今後を考える上で「この山を乗り越えろ」と、あえて壁を設定したように思えるのだ。

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松本裕樹のピッチングからは非常に丁寧さを感じた。サインが決まるとすぐに投球動作に入り、テンポよく投げ込んだ。四球が少なかったのがよかったのだが、最終にはその四球が痛かった。7回にも1アウトから吉田正尚に四球を与えたが、4番マレーロ、5番モヤを打ち取りピンチを脱した。だが8回は二死から後藤駿太に四球を与えた後に宗にはツーベースを喫し降板を余儀なくされた。

 

7回で終わっておけば計画的に8回、9回とピッチャーを投入できたかもしれない。7回に一打同点のピンチを迎えただけに私はこの回で交代と見ていた。だが被安打が2で無失点だったから、工藤監督が続投を選択したのを見た時、これは工藤監督がピッチャー出身だから山を越えさせようとしているなと想像したのだ。いつまでも8回、9回は誰かが抑えてくれる、そんなシチュエーションでいいのか、と叱咤激励しているように見えた。松本裕樹が8回を投げるのはプロ入り後初めてだったことを、私はゲーム後に知った。

 

椎野にしても、嘉弥真が同点タイムリーを浴びた後だからオリックスの勢いを止めるのが大変な状況。大城にヒットを打たれ、吉田正尚に四球を与えて満塁にしてしまった。ここまで来たら引き受けるピッチャーもなかなかいない。そのまま椎野が投げたがマレーロに痛恨の走者一掃決勝タイムリーを喫してしまった。だがまだ椎野は降板しない。点差を与えた状況だったからでもあるが、この回は抑えて帰ってこい、このまま降板したら負け犬になるぞ、おまえもこの山を乗り越えろという意味の続投指令にも見えた。椎野は歯を食い縛り、モヤを打ち取った。

 

松本裕樹にしろ椎野にしろ、危険な続投策だった。そして工藤監督が思い浮かべたようには事が進まなかった。モヤを打ち取った後、長身を折り曲げるようにして、力なく椎野が三塁ベンチ前に戻ってきた。そこに松本裕樹の背番号66が見えた。松本はおつかれ、という具合に椎野の腰の辺りに手を出したが触れたかどうかというふうに見えるくらい、力のない動作だった。結果的にソフトバンクは継投のタイミングが遅れて後手後手になり、火消しに失敗した。

 

ペナントレースを占う天王山でこの采配をして、もし負けたら批判は免れない作戦に思えた。だがまだ7月。2位以下に差を付けており、9連勝の貯金を一つだけ使ってみる……工藤監督にはそんな思惑があったのではないか。ファン的にはそのおろした貯金が選手の成長につながるならば、一つの負けを何とかのみ込める。 

 

「8回もまだいける感じだった。(後藤への四球は)制球できなかった。今日(7日)みたいな投球だったら、これからも結果が出る。今後に見えてきたものもある」

日刊スポーツ記事にはそんな松本裕樹のコメントが載っていた。確かに7回終わって被安打2の無失点だったから、敗戦の中に確かなか手応えが残ったはずだ。だとしたら工藤采配も浮かばれるというものだ。松本裕樹も椎野も、この悔しさをばねに次回やり返してもらいたい。


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