黒柴スポーツ新聞

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やられっぱなしでは終わらない~楽天・美馬、令和初の完全試合逃す

7月19日はソフトバンク楽天美馬学にあわや完全試合を食らうところだった。美馬にしてみたらあと3人だったのにと惜しい気持ちがあるだろうが、実は充実した気分ではなかろうか。というのも美馬はソフトバンク戦で悔しい経験をしているからだ。

 

6月2日のソフトバンク戦でも美馬は5回を終えて完全試合ペースだった。だが6回にホームランを打たれて完封もなくなり、7回にはノーアウト満塁のピンチを作って降板。踏ん張りどころで死球を与えた美馬は自分の不甲斐なさから、ダグアウトのベンチにグラブを叩きつけた。私はソフトバンクファンながら、そこまで入れ込む様子を肯定的に見た。

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同じソフトバンクが相手だから美馬には心中期するものがあったに違いない。8回終わったところでまだ完全試合ペース。ソフトバンクファンの私も、これはひょっとしたらやられてしまうかもと諦めムードだった。しかし9回の先頭バッター、明石健志はフルカウントに。完全試合を期待する楽天ファンからは励ましの声援が湧いたが次の投球は高めに浮いた。これで完全試合は消滅した。

 

続いて代打の栗原が打席へ。代打ということはこの日の美馬の投球は打席では見ていない。この日の美馬は好調だ、という先入観がなかったことが効を奏したのだろう。栗原がバットを振り抜くと、打球はレフト前にポトリと落ちた。これでノーヒットノーランもなくなった。

 

考え方によってはここでピッチャー交代となるが平石監督は美馬の続投を選択。まだ完封の芽もあるし、何とか投げきってもらいたいということだろう。だが美馬は上林にタイムリーを喫し、完封も消えた。2019年の楽天はまだ完投ピッチャーがいなかったため、あとは美馬が最後までマウンドに立つかどうかだったのだが、美馬は何とかその1失点で試合を終わらせた。

 

「やっちゃうんじゃないかと……」

ヒーローインタビューで完全試合への意識を問われた時の美馬の正直さに、スタンドは湧いた。このあたりも美馬の魅力なのだろう。この時は私は美馬が6月のソフトバンク戦で見せたグラブ投げつけのシーンを忘れていたのだが、あとであの美馬の熱さを思い出すと、美馬は相当うれしかったんじゃないかと想像した。そう、やられたらやり返す。それができた時は気持ちがいいものだ。

 

特にプロ野球は同じ対戦相手と試合を重ねていく。相性というものがあり、続けて勝つ場合も続けて負ける場合もあるが、大抵は勝ったり負けたりだ。そしてやられた方はリベンジを期するし、勝った方は次も…と意欲が出る。その繰り返しの中でレベルが上がっていく。だからソフトバンク打線としては次回の美馬との対戦では何がなんでも打ち崩さねばならない。

 

その意味では最後に粘ってノーヒットノーランも完封も阻止できてよかった。最後のバッター牧原のアウト判定もタイミングとしては際どく、選手に促される形で工藤監督がリクエストを要求した。アピールしたのは内川聖一ら。最後の最後まであきらめない姿勢はさすがだった。やられっぱなしでは終わらない。美馬もソフトバンクナインもその大切さを見せてくれた試合だった。


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