黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

メッツで輝け千賀滉大〜言葉よりもプレーで語れ

千賀滉大の密着番組「最後の下剋上」がなかなか面白かった‥と書こうとしたら、ん? 何かおかしなことになってるぞ。思い当たる節はある。「勝っても負けても感情が揺るがなくなった」と「無」の境地だったことを車内インタビューで言っていたのだ。

2022シーズンのホークス戦全試合を追いかけた私としては確かに「え?」と思った。そりゃないぜと。勝っても負けても、それ以上でもそれ以下でもないとは‥勝ったらファンと喜びを分かち合い、負けたらファンと共に悔しさを噛みしめる。そうあってほしい。当然千賀も言っていた。「(感情が揺るがないなんて)良くないことだ」と。だからこそ早くいなくならなければいけないとも思ったのだ。

このドキュメンタリーは1年間の密着だという。記者経験のある私が見ても、「無」発言は千賀の内面がよく表現されていて、特番に編集する上では欠かせない発言だと思った。だが密着した人や親しいチームメイトは千賀のことを理解しているから、感情が揺るがなくなったという意味合い(あくまでも千賀の内面で一喜一憂しなくなった)は分かるのだろうが、一般の人からしたら「何か自分のことしか考えてないな」と思われてしまったのだろう。すでに削除されたらしいが千賀はTwitterで釈明。そうしたくなったのは真意を伝えたいという千賀の真面目さを物語るのだが、逆効果になった面も否めなかった。

そう、言葉で気持ちを100%伝えるのは難しい。とらえ方は何通りもあるのだ。「それは伝わんないよ」と言われたら、それはやめる。周防正行監督の言葉だと新聞に載っていた。どっちが良い悪いではなく伝わらなかった事実が重要なのだ、と解説文に書いてあった。言葉を生業にする者としてはいま一度肝に銘じるべき言葉だと思った。

千賀は球団関係者を交えてInstagramでライブをやり、ありがたいことに盟友の甲斐拓也も出てくれた。甲斐は、みんなに理解してもらうのは無理であるとか、みんな千賀の気持ちは分かってるってと千賀を励ましていた。素晴らしいバッテリーである。「絶対戻ってくるなよ」とも言っていた。本当はずっとバッテリーを組みたいに決まっている。しかし千賀が帰ってくるということは必ずしもメジャーで成功したことを意味しない。むしろうまくいかなかった結果だろう。そんな形ではバッテリー組まないからな。甲斐拓也流の激励だった。

ホークス選手が80人いたら自分は81番目の選手。そのくらいの立ち位置だったと千賀は振り返っていた。そこから千賀は努力してメジャー行きを勝ち取った。7年連続2桁勝利は責任感の何よりの証拠。千賀が適当に投げていたなんて思わないでほしい。そこはホークスファンなら信頼しようではないか。言葉足らずのところはあったにせよエースの言葉を信じられないなんて悲しすぎる。

ずっと追い求めてきた夢の舞台にようやく挑戦できる。ドキュメンタリーの中での千賀は晴れ晴れとした表情に見えた。同時に目標設定してそれをクリアすることの素晴らしさを再認識できる番組だった。思わぬ波紋を呼んだけれど私はメッツの千賀を応援したい気持ちになった。背番号34。かつてノーランライアンも付けた背番号が輝くことを願っている。

FA近藤健介獲得でソフトバンクは打線強化〜人的補償はどうなる?

2022年シーズンオフの移籍市場の目玉、近藤健介(日本ハム)がソフトバンク入りを決断した。11月には zakzak記事で西武入りへと報じられていただけにソフトバンクファン的には棚ぼた感すらあるものの、交渉のテーブルに長谷川勇也コーチが同席したとの情報から、まだソフトバンクの芽は消えていないのではと淡い期待も抱いていた。そう、近藤は成長の機会を得ようとして移籍を決断するのではないか、と。

契約額は36億円とも50億円とも報じられており、ともすると近藤がマネーゲームをしているとか、お金のための移籍と見るむきもあるようだ。しかし近藤は決して派手なタイプに見えず(むしろ逆の印象)、お金のためだけで日本ハムから離れようとしたとも思えない。チームにはまるかはまらないか。そう考えた時、近藤が日本ハムを出る理由が思い当たる。日本ハムは若返りを図っている、つまり出番は保証されてはいないという点だ。逆にソフトバンクはレフトを守れる人材を求めている。2022年レフトを守ったグラシアルが退団したからだ。

もちろんソフトバンクに来たからと言って好調を維持しなければ近藤とてスタメンは確約されない。グラシアルでなければ栗原陵矢もレフトを守るが、栗原は2023年は三塁で勝負するようだ。となると近藤を脅かす選手が出ない限り、レフト近藤は堅そうだ。そう、いい打者ではあるがソフトバンクはきちんとチーム編成上の戦略で近藤が欲しかったのである。若手のお試し機会で出場機会が削られる日本ハムより、ピースとしてはまると期待されるソフトバンクを選ぶ。近藤がそう考えても自然ではなかろうか。

もう一つ、ソフトバンク的には弱点の補強になる。同じ巧打者タイプの中村晃に陰りが感じられるのだ。渋い打撃と堅実な守備でチームを何度も救ったとは言え、シーズンを通して中村晃が活躍したとは言えなかっただろう。年俸が9000万円も下がったのがそれを物語る。V逸の責任を感じるべき主力である。ソフトバンクとしては中村の奮起を促しつつ、それを補って余りある同タイプの近藤健介がいたら安心だ。

打順はどうなるだろう。日本ハムでは3番や5番と、4番のサポート役だったイメージだが、ソフトバンクでもそうなるのではないか。となると4番が誰になるか気になるところ。デスパイネがいなくなったら順当に行くと柳田悠岐。本人的には3番で自由に打つ方がいいのかもしれないが、優勝を逃したとはいえ最終盤の神がかり的なホームランを見せられるとやはりソフトバンク柳田悠岐のチームだと思える。個人的には柳田悠岐に4番を打ってほしい。その前後を近藤が固める。栗原の状態にもよるがヒットが見込める近藤が3番。勝負強く打点が稼げる栗原を5番というのを予想するがいかがだろうか。

このように書くと他球団のファンからは「お楽しみができていいよね」などと言われそうだが、そうばかりでもない。そう、人的補償だ。誰を持っていかれても残念なのだが、昨年私は陰ながら応援していた岩嵜翔が中日に指名されて複雑な心境になった。プロテクト漏れの予想はしてみたが、その選手のファンを慮って名前を挙げるのは控えておく。どちらかと言うと日本ハムは万波やら野村ら若手打者が伸びている印象なのでピッチャーを狙いそうに思うのだが…果たして近藤獲得の代償はどうなるだろうか。

38人の同僚捕手を蹴落とした野村克也〜甲斐と渡辺陸の起用方法に注目

ソフトバンクで久しぶりに捕手の生存競争を垣間見た。絶対的な甲斐拓也への挑戦権を得たのは育成出身の渡辺陸。28日の広島戦で初スタメンにも関わらず、第1、第2打席でホームランを連発。第3打席もタイムリーで計5打点の大暴れだった。肝心の守りも大関を7回1失点と良さを引き出した。終盤は甲斐の出番となったが、渡辺は100点の出だしだと思う。

ついに甲斐も追われる立場になったんだ、と感慨深いものがあるが、プロ野球選手にとってレギュラー争いは日常茶飯事である。ソフトバンクは有力選手の栗原陵矢や上林誠知が離脱してしまったが、その2枠を目指して若手のアピール合戦が続いている。

ふと思い出した。ホークスのキャッチャーだった野村克也はひたすら同僚を蹴落とした、という事実が宇佐美徹也氏の「プロ野球記録大鑑」に書いてあったっけ、と。久しぶりにページをめくってみて仰天。何と野村は在籍22シーズンで38人のキャッチャーを蹴落としていた。

このうち16人はキャッチャーとして出場経験があるが、22人は1試合も出られなかった。相手がレジェンド野村克也だから仕方ない、それが分かって入団するのだろうと言われたらそれまでなのだが、まさか1試合も出られないとは考えなかっただろう。また、試合に出られた16人の中でも、100試合以上出られたのはたったの2人だけだとか。

正捕手がしっかりしていたら控えキャッチャーはそうなる運命なのだ。ライバルを蹴落とすことは、例えば巨人V 9時代の巨人の森昌彦、横浜や中日でプレーした谷繁元信もやったはず。ひたすら結果を出して地位を不動のものにする。毎年その繰り返し。球団は定期的に新しいキャッチャーを獲得するから、その度に正捕手争いが繰り広げられる。

ネット記事では渡辺陸の記事があふれている一方、甲斐の記事は見当たらない。今こそ甲斐がどんなことを考えているのか聞きたいが、記者たちはあえて聞いていないのか。甲斐がしゃべらないのか。ただ、渡辺陸衝撃のスタメンデビュー翌日は甲斐が先発。無失点に抑えた。解説の若菜嘉晴も言っていたがやはり捕手の本分は守りだから、零封は甲斐の意地のようにも見える。それでも代打で出てきた渡辺陸がまたヒット…。まだまだ甲斐の牙城は崩れそうにないが、これからチームが渡辺をどう育て、甲斐とどう競わせるのか。ますます楽しみになってきた。

初スタメン渡辺陸2本塁打5打点の衝撃デビュー

しばらく鳥肌が引かなかった。初スタメンのソフトバンク渡辺陸捕手が2打席連続ホームランの衝撃デビューだ。

広島戦でスタメン起用との報道があったので予定通り。甲斐拓也を休ませつつ、渡辺の経験を積ませようとの考えだろうが、自分が甲斐の立場だったら顔が引きつってしまうだろう。

左打者の渡辺陸が左中間に放り込んだ。確かに柳田悠岐をほうふつさせる。甲斐もパンチ力があるが、このスケールの大きさは別格だ…とここまで書いていたら第3打席が回ってきた。今度はレフト前にタイムリー! どこまで行く渡辺陸! 3安打のうち2本はホームラン、計5打点の大活躍だ。初スタメンならまずは守備で及第点を…となってもおかしくない。それに加えて打ってしまうのだから素晴らしい。

侍ジャパンの扇の要として金メダルを獲得した甲斐拓也に強力なライバル現る…なんて書くのはまだまだ早いのかもしれない。しかし甲斐ですら競争を迫られる状況になってきた。解説の坊西浩嗣が「明日は…」と引き続き渡辺陸の起用も楽しみだなと匂わせていたが、本当にそうだ。これだけの打棒は魅力的だ。

ただ甲斐拓也もこのままスタメンを譲るはずはない。甲斐には何度も日本一になった経験、そして並はずれた強肩がある。ここは渡辺を上回る。これだけ打線が活発なら打率の低い捕手でも勝てるのだろうが、捕手の打率が高いにこしたことはない。そこをチームとしてどうとらえるかなのだが、甲斐にはスクイズ送りバントという小技もある。まだまだ甲斐の優位は揺らがない。

この日の先発は大関。渡辺と共に育成出身だ。ソフトバンクにはすでに千賀と甲斐という育成出身バッテリーがある。広島相手に大関は7回1失点。渡辺は大関の好投を引き出せたわけで、これからは大関の時は渡辺という選択肢が生まれよう。

われわれファンは甲斐も渡辺も見たいというぜいたくな悩みが生まれただけだが、2人にとっては正捕手争いが正式にスタートしたようなものだ。甲斐には刺激になっただろうと坊西浩嗣が言っていたが、まさにその通り。ソフトバンクの事実上の1人正捕手状態はこれで解消されるのか。経験者で強肩の甲斐に、伸び盛りで打力の渡辺。正捕手レースは最高の形で火ぶたが切られた。

牧原大成、ジョーカーかレギュラーか〜FAなら争奪戦必至⁉︎

牧原大成の最大の魅力は「野心」だと思う。プロ野球選手なら誰しも試合に出たいと思うだろうが、これまでいわゆる便利屋として使われてきたバックグラウンドがそう言わせるのだろう。牧原は時折呼ばれるヒーローインタビューではレギュラーの座やら出場機会への欲を隠さない。正直で、聞いていて気持ちがいい。

27日の広島戦はスタメン、ショートをゲットした。センターに抜けそうな当たりをショートゴロにした。ヒーローインタビューではちょっと謙遜して、欠場の今宮健太の代役ショートだから、お客さんは物足りないでしょうなんて言ってしまう。そんなことないですよね、とアナウンサーが促すと球場では拍手が湧いた。牧原はちょっとうれしそうだった。たまにやってしまうエラーが失点や敗戦につながることはあるのだが、牧原の魅力は内外野を守れる器用さ。ユーティリティープレーヤーゆえにレギュラーに固定されないのは皮肉だが、確実に出場機会は得られている。

広島戦では3安打、うち2本はタイムリー。西武に行った平石洋介元打撃コーチは、マッキーはすごいと認めていたが、スイングの鋭さも魅力。脚も速い。これだけ書いていたら非の打ち所がないのだが、昨日の解説の柴原洋も「スタメンで使い続けたらいいのに」と何度も言っていた。ただ、藤本博史監督はそうしていない。ジョーカーだ、と切り札的な使い方をしている。

それってどうなんですか?とアナウンサーに聞かれたら、「ジョーカーと言われるのはうれしい。たまに打てないと『ただの数字やんけ』と言われるので、最後までジョーカーでいられるように頑張りたい。byジョーカー」(日刊スポーツ記事より)と茶目っ気たっぷりに応えた。だが長年、牧原大成を見てきたソフトバンクファンは知っている。マッキーは本当はただの数字、不動のレギュラーになりたいのだと。

ポテンシャルがありながら不動のレギュラーたり得なかった人として、福田秀平の顔が浮かんだ。守備固め、代走、代打。まさに縁の下の力持ちだった。パンチ力もあり、満塁ホームランやサヨナラホームランを打ったりもした。そんな福田はレギュラーの座や出場機会を欲してFA宣言。ロッテに移籍した。だがロッテでもスタメン争いはあるわけで、けがもあって結局レギュラーを勝ち取れたわけではなかった。じゃあ移籍しなかった方がいいのかというとそれもまた違うと思う。少なくとも手を挙げなければレギュラー獲りの確率は上がらなかったはずだ。

おっと、こんなことを書いていたら牧原がFA宣言してしまうかもしれない。宣言したら福田秀平以上に争奪戦が展開されそうな気もする。現に冗談とは言え日本ハム新庄剛志監督が「FAいつ?」と言っていたとか…。権利獲得はもう少し先だろうが、遠い未来ではない。ソフトバンクは権利獲得の前の武田翔太に引き留め的なニュアンスの大型契約を提示した。であれば2022年オフ、牧原大成にも複数年契約があるのでは…と早くも予想してしまう。何より牧原にはソフトバンクにいてほしい。どの球団でもレギュラー争いできる逸材だから勝負してほしい気持ちもあるが、大砲に頼るわけでもなく大技小技、適材適所で勝ってきたソフトバンクだからこそ牧原の良さが引き出された面はある。あとは牧原が自分の野球人生をどう考えるか…。

セカンドには成長著しい三森大貴。ショートには攻守に計算できる今宮健太。外野も柳田悠岐、グラシアルは外せないし、柳町達はレギュラーに近づいてきた。ああ、牧原はどのポジションで勝負したらいいのか。一塁は勝負強い中村晃がいる。固定できていないサードか? その日その日の手薄なポジションか? でも試合に使いたいから「ジョーカー」。藤本監督だって好きで牧原を固定化しないわけではなかろう。とかく残塁が目立つソフトバンクなだけに、勝負強く積極的な打撃が持ち味の牧原の起用方法はこれからも注目だ。

走れ三森!〜DeNA戦の走塁を糧に

今でも三森大貴はセーフだと思っている、かもしれない。DeNAとの交流戦。グラシアルのセカンドゴロで本塁に突入した三森は寸前でタッチアウトになってしまった。藤本監督によるリクエストも実らなかった。

このプレーに関して、プロ野球ニュースでは高木豊二塁手の牧秀悟を「勇気あるプレー」と絶賛。DeNAは1点を覚悟して前進守備を敷かなかったのだが、牧は本塁封殺を諦めてはいなかった。まさに矢のような送球。いわゆる追いタッチでもあり、リプレーを見る限りセーフに見えたのだが、判定を覆すほどの確証にはならなかったらしい。

ちなみに筆者はソフトバンクファンなのでそもそも「立ち位置」が違う。ここでホームインできたら同点だし、三森は俊足だからアウトにはならない、そんな目線だからセーフだとの期待感を持ってリプレーを見る。しかし審判はアウトの判定を検証するのだから、覆すだけの根拠が必要だ。ヘッドスライディングした三森は脇腹をタッチされる前に、左手でホームベースに触れているように見えるが、認められなかった。

セカンドゴロでホームインできないのかと思われそうだが、グラシアルの打球はライナー性の打球であり、三森のスタートが一瞬遅れたのだろう。しかしその隙を見逃さずホームに投げた牧も一瞬での判断。さらに言えば一か八かやってみるという攻めの姿勢が明暗を分けたのではなかろうか。

三森は最近ついてない。一塁手の足がベースから離れて見えるがアウトになるし、セカンドゴロで一塁から一気に三塁を狙うもヘッドスライディングで「オーバーラン」してアウトになるし、本塁突入もアウトになってしまった。懸念されるのは三森が勝負弱い印象を持たれること。あまりアピールしすぎてもいけないが、ホームインへのヘッドスライディングをアウト判定された後にリクエスト要求のジェスチャーをした。その前に、やったぞセーフや!的なアピールができるようになればなと思う。選手がそこまで言うのだから、と審判も思うはずだ。逆に競り負け続けると「三森だしな」みたいになる恐れがあるかもしれない。

三森にとってありがたいのは、Twitterでは三森セーフという投稿がたくさんあることだ。筆者がたまたまソフトバンクファンの投稿ばかり見たのかもしれないが、自軍のファンによく応援されている証拠ではある。期待されていないと反応は真逆。例えば松田宣浩。筆者は松田を応援しているから、再三凡退しても「くっ…ま、次は頼むわ」と何とか耐えられるが松田を見切っているファンは「打てよ」とひとこと言いたくなる。今年の三森は一番に定着してチャンスメイクしてくれているから期待値が高いのだ。だからこそこの間に結果を出し続けないといけない。走れ三森! いつか振り返った時、DeNA戦での走塁が一つのターニングポイントになればな、と思う。

カッコいい背中見せた!東浜のノーヒットノーラン

東浜巨ノーヒットノーランを達成した。いつも帰宅がナイター開始に間に合わないため、帰りの車内ではradikoRKBまたはKBC)、帰宅後はDAZNで擬似生放送を楽しむわけだが、今時、リアルタイムで情報を「入手しない」のは大変である。スマホのプッシュ通知、テレビ、ラジオのニュース速報。筆者は新聞社員だから、フロアで編集情報をゲットしてしまうかもしれないし、何より新聞社員は人に「伝えたい」気持ちがものすごく強い。今季もパイセンたちから何度か不意打ちのネタバレを食らっており、この日も「大変なことが起きている」とガヤガヤしだしたので店じまいして帰宅した。

急いでradikoで聴くと東浜が西武の隅田と投げ合っていた。柳田悠岐がヒットを打っていたから隅田のノーヒットノーラン完全試合の線はない。とすると東浜か? 帰宅してDAZNで追いかけ再生スタート。その後なんやかんやありまして、試合はとうとう9回に突入した。一応、試合終了前には会社を出てきたから結果までは知らない。この前の中日・大野雄大の例もあるし、最後まで気は抜けないぞ。お、ついにあと1人。金子侑司か…最後にしぶといのがきてしまった。

そして打球が東浜を襲った。グラブが弾かれて…え、まさか終わった?未遂?お、三森!アウト!やったーっ!追いかけ再生だったため、22時台に家の中で絶叫してしまった。

何とか「生」でノーヒットノーランを体験できた。実は前回、千賀滉大の時は会社を出る直前にスマホを開いてしまい「千賀ノーヒットノーラン」のプッシュ通知を見てしまっていた。今回はリベンジできた。

しかし、ノーヒットノーランの喜びは翌日じわじわ来た。昼休み、スマートニュースでホークス記事をチェックしていたらある記事のサムネイルが目に止まった。川瀬晃が東浜と抱き合っていたのだ。他にも、三森大貴が東浜と抱き合っているのがあった。いいなぁ。今季は佐々木朗希がほぼ2試合連続完全試合をやってしまったため、恐らくこれ以上の偉業は難しい。だが、30代の東浜が20代の後輩と抱き合って喜びを分かち合うこの感覚は、佐々木朗希にはない。いいなぁ、先輩がかっこいい背中を見せるって。この日は風間球打ら未来のホープが観戦した。先輩の偉業に感じるものがあったに違いない。

ドラフト1位の東浜は16勝で最多勝に輝いた年もあったが昨シーズンまでの9年で53勝。もっと勝っていても…と思ったが故障でうまくいかないしんどさもあったことだろう。千賀滉大や石川柊太が台頭し、エースの座からは遠ざかってしまった感がある。

だが、元々内に秘めた闘志はあるはずだ。筆者が忘れられないのは2020年シーズン。勝率わずか一厘差に追い上げてきたロッテとの直接対決で東浜は8回1失点の気迫のピッチングを見せた。8回、ランナーを背負いながらも三振で切り抜けた瞬間、東浜は吠えた。こんな東浜を初めて見た。いつもクールに見えるが、こんな一面もあるんだなと思い、うれしくなった。東浜にはそのあたりの物足りなさを感じていたからだ。

ノーヒットノーランをした夜はその闘志を少し感じた。強い打球に飛びついた時に。そして、甲斐拓也のリードに何度も首を振る表情に。オレはこれで行くんだと、強い意思を感じた。

東浜は18日に、地元沖縄で登板機会があるという。ノーヒットノーラン達成後という、この上ない話題性である。沖縄的には盛り上がることだろう。今年は本土復帰50周年という節目の年でもある。打者では山川穂高がホームランを量産中。必要以上に本土復帰と絡める必要もないが、2人とも地元の励みになることはうれしいに違いない。

ちなみに沖縄球界のレジェンド、安仁屋宗八の記事がデイリーに出ていた(【野球】ソフトバンク・東浜 沖縄本土復帰50周年に沖縄の星・安仁屋宗八を超えたノーノー)。安仁屋は9回ツーアウトまでノーヒットノーランだったことがあるという(阻止したのは巨人の黒江)。「わしは沖縄でオープン戦しか投げたことがない。東浜には故郷で最高のピッチングをしてもらいたい」。18日の相手はまたしても西武。ノーヒッター東浜対ホームランキング山川というだけでも盛り上がることは間違いない。この日も思わぬネタバレを食らわないよう、早めに帰ることにしよう!

「バスに乗り遅れるな」猛攻ソフトバンクにある潜在意識

20安打16得点。ロッテに大勝したソフトバンク打線を見ながらこのフレーズが浮かんできた。「バスに乗り遅れるな」。imidas.jpによると、「時流に乗り損なう、好機を逸することのたとえ」で、「早く社内のIT化を推進しないと、バスに乗り遅れて取り返しのつかないことになるぞ」みたいに使われる。ソフトバンクは試合途中から起用された中谷、谷川原、川瀬もヒットを放ったのだが、とにかく結果を出して試合に出たい選手からは、まさにバスに乗り遅れるなという雰囲気が感じられたのだ。

その背景にあるのは藤本監督の起用方針。結果を出したら使われるし、調子が落ちたら使われない。左対左であっても上林誠知が使われたのは信頼感が出てきた証拠。そう、こいつを使ってもいいかなと思わせるには、とにかく結果を出すことだ。ロッテ戦で2日続けて中谷が代打起用されたのは、初戦で見事な同点ホームランを打ったからだと見ていて分かる。そしてそのチャンスを逃してなるものかと、中谷は見事にタイムリ二塁打。またまた勝負強さを印象付けた。

一方で、解説のジョニー黒木は、中谷は内角低めが強いよねと早速分析。だから次は外角やら、内角でも高めを試したらいいと話していた。そして本当にロッテの捕手、佐藤はそのように攻めていた。結果的に中谷はセカンドにゴロを打ち返して中村奨吾のエラーを誘ったのだが、こうやってデータは取られていく。

先頭打者弾でチームを勢いづけた三森大貴にしても、黒木は「外角高めは振ってしまう」と見抜いていた。実際、佐々木朗希に喫した三振もそうだった。プロ野球は同じ相手と何度も対戦するわけだから、傾向と対策の繰り返し。その意味では、まだまだソフトバンクの若手のデータは少ないだろうから、今後マークが厳しくなることは間違いない。真価が問われるのはこれからだ。

それにしても、代走や守備固めで使われる谷川原や川瀬がヒットを打つのを見ると、こういうアピールっていいよなと思う。若手芸人がオンエアで爪痕を残したいと思うのを彷彿させる。打つ方もそこそこいけるんで、ぜひ使ってください! そんな感じだろう。バスに乗り遅れるな。その合言葉が聞こえるソフトバンクのバスは今、中堅若手で満席状態。この調子で首位楽天に食らいついていってほしい。

中谷移籍初アーチは劇的同点弾!同い年のエース千賀の黒星消す

それは今年見たソフトバンクのホームランで、一番うれしかった一発だった。ロッテ戦、土壇場の9回。マウンドには益田直也がいた。中谷将大が益田の変化球をすくい上げ、豪快にスタンドに運んだ。2点のビハインドを埋める2ランはソフトバンク移籍後初アーチ。翌朝、私が購読する新聞のスポーツ面には「代打中谷 起死回生同点弾」の見出しが立った。

まさにこの長打力が中谷のも持ち味。必ず紹介されるのが阪神時代のシーズン20発の実績だ。それを買われてのトレード(相手は二保旭)だったのだが、移籍初年度は1軍に上がれなかった。何でかなと思っていたが、結果が出せていなかったらしい。しかしソフトバンク2年目の今年は1軍に呼ばれ、ちょこちょこ試合にも出られていた。三森、柳町、上林、牧原らソフトバンクには左打者が育ち結果を残しつつあるが、右が手薄。その意味でも中谷は魅力的だ。ロッテ戦でもホームランを期待されての代打だったのだが、本当にホームランを打ち、藤本監督の起用に応えた。

DAZNで、中谷の打球を目で追っていた時も幸せな気持ちだったのだが、ホームインした中谷がベンチ前でチームメイトと笑顔でハイタッチしているのを見てさらにうれしくなった。中谷、めちゃくちゃうれしそう。最後に抱き合ったのは千賀滉大かな? 移籍してきた選手は結果を出して真の意味でチームメイトになるのかもしれない。そう考えると、中谷はようやくソフトバンクの戦力になった。

元々この日は佐々木朗希と千賀滉大という珠玉のエース対決に注目が集まっていた。千賀は序盤から160キロが出ていて、佐々木への意識を感じさせた。打球が足に当たって野手のいない所にボールが行く間に勝ち越しのランナーを還すなど3失点した。試合途中で足がつるアクシデントがあったという。このままロッテが逃げ切るかなというムードもあったが、中谷同点弾に加えて、延長にはグラシアルのヒットで勝ち越しに成功。千賀降板後にソフトバンクのリリーフが失点しなかったのも大きい。又吉、モイネロと勝ちパターンのリレーで締めた。

佐々木朗希に1得点に封じられたが、打線はこの日も2ケタ安打。得点力はまだまだ課題だが、今年の打線は活発だ。矢のように次々に好投手を襲うイメージか。このところ、山本由伸や宮城、佐々木朗希相手の試合でことごとく勝てたのは、一人一人の力を結集できた結果に見える。いかに優れた投手が相手でもチームで対峙すれば勝機はある。そう思わせてくれている。

中谷というカードが加わり、さらに厚みを増したソフトバンク打線。これからもヒットを浴びせてパリーグの好投手たちを打ち崩してもらいたい。

柳町、上林…野手「渋滞」のソフトバンクはいい流れ

周東が2軍から上がってこない。オリックス戦の中継で周東への言及があり、周東いないんだよなぁと再認識した。すると、ベンチの野村勇が映った。うわっ、野村勇さえベンチなんだよな、と再認識した。ショートには絶好調の今宮健太がいるし、セカンドにはこの日で8試合連続安打になった三森大貴がいたのだった。

そんな感じでソフトバンクの若手野手が「渋滞」している。ベテランぞろいで野手の高齢化が課題とされていた近年では考えられない、いわゆる「うれしい悲鳴」である。今や松田宣浩がベンチを温めている。松田には松田のよさがあるのだけれど、長期的に見たら、やはりチームの若返りは歓迎されるべきだろう。

その象徴が柳町達である。栗原陵矢の長期離脱で垂れ込めた暗雲を吹き飛ばしている。チームにとっては危機だが柳町にとっては千載一遇のチャンス。プロ野球は弱肉強食の世界だから、不動のレギュラーの栗原が抜けた穴を埋めたらそこを死守することでレギュラーが勝ち取れる。ヒーローインタビューで好調の背景を問われた柳町は素直に、結果を求めていることを話していた。貴重な2点タイムリーを放ち、これで三森を上回る10試合連続安打とした。

外野手争いの渦中にいるのは上林誠知も同じ。満塁の場面でダメ押しのタイムリーを放ったが、その裏には、左投手から打つという結果を残すことが、使ってもらうことにつながると同じくヒーローインタビューで答えていた。打つ方が充実してくると、守備でもいい結果につながるようだ。この日は吉田正尚の大飛球を、フェンスに激突しながらスーパーキャッチ。前の試合ではライトから強肩も披露したし、ありゃ、何年も前の、輝いていた上林が戻ってきたんじゃないか?と期待してしまう。

打点が稼げる栗原陵矢の長期離脱はものすごく痛いのだが、栗原とはまた違う持ち味でそれぞれがその1枠を狙っている。例えばリチャードはパワーで。野村勇は俊足とパンチ力と好守で。柳町はヒット量産で。上林もコンスタントに打ちだしたし、守りも持ち味が出てきた。勝負強い牧原大成ですらスタメンが長続きしない。これらの選手は日々結果を出さないと使ってもらえない。その危機感が若手や中堅を成長させている。結果を出した人を藤本監督が使っているのも分かりやすい。ソフトバンクはいまとてもいい流れができている。

神に感謝の柳田悠岐満塁弾!得点への執着感じるエンドランもハマる

久々にピッチャーが膝に手をつくシーンを見た。しかもそれは山本由伸。柳田悠岐が勝ち越し満塁ホームランを放ち、山本由伸をノックアウトした。ソフトバンクは連敗を4で止めることができた。

4連敗の後、オリックスの先発が山本由伸だと分かった時は何とも言えない気持ちになった。「泣きっ面に由伸」というフレーズが浮かんだ。一方で前回はエラー絡みとは言え山本由伸の連勝を止めたソフトバンク。ひょっとしたら今回も…と淡い期待は抱いていたが、本当にその通りになった。

ソフトバンク4連敗は歯車が噛み合わなかった結果に見えた。打線は活発でヒットは出る。それが得点に結び付かなかった。「あと一本」が出ないというやつだ。楽天戦で則本を攻略しかけながらイニング5安打で1点しか取れなかったり、雨によるぬかるみでグラシアルが「オーバーラン」してタッチアウトになったあたりは象徴的だった。

だからこそ、オリックス戦ではベンチが積極的にエンドランを仕掛けたり、ものにはできなかったがスクイズを指示したりと得点しようという意図が感じられる采配だった。あと一本が出ていたらもっと楽に勝てたはずだが、そのモヤモヤを吹き飛ばしたのが柳田悠岐だった。

打った瞬間は「神様ありがとう」と思ったというギータだったが、主砲対エースの対決は見応えがあった。際どい球を何とかファウルした後、見事に153キロのストレートを弾き返した柳田悠岐に軍配が上がった。

山本由伸の7失点は自己ワーストらしい。本調子ではなかったとは言え、三森大貴の3安打など10安打を浴びせた。佐々木郎希がソフトバンク戦に当てられる話もあり、次々いいピッチャーが来るなと心配していたがこの勢いで佐々木朗希を返り討ちにしてほしいと、俄然強気になってきた。

懸案の救援陣だが、今日は先発石川柊太が5回を投げきれずに降板するも、藤井が押し出しの1点でしのいだ。その後は津森、又吉、モイネロとつないで「勝ちパターン」の継投を実践できた。楽天戦で追いつかれた挙句のサヨナラ負けだっただけにすぐ悪い記憶を上書きできたのは大きい。

打線に勢いがあるうちに首位楽天とのゲーム差を一つでも縮めておきたいところ。歯車が噛み合わない時期は今日のエンドランのようにジタバタするのが意外と手っ取り早いのかもしれない。もしくはギータばりにドカンと結果を残す。5月の反転攻勢を期待させるソフトバンクの勝ち方だった。

佐々木朗希にちなみ「完全試合」関連記事まとめ2022

ロッテの佐々木朗希が2試合連続の完全試合目前で降板した。この調子ではいつまた達成するか分からないので、ここらで過去のわが黒柴スポーツ新聞で紹介した、完全試合関連記事をまとめておく。

 

あの別所さんもあと一人で完全試合を逃す…。阻止したのは大打者ではなかった。

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酒にまつわるエピソードで知られる今井雄太郎完全試合達成者。

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元ロッテ監督の八木沢壮六も完全試合達成者。

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佐々木朗希の前に完全試合を達成したのは槙原寛己

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藤本英雄完全試合達成者第1号。

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森滝義己は通算16勝でも完全試合達成者として球史に名を残した。

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元中央大監督の高橋善正も完全試合達成者。

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完全試合達成者の中には「佐々木」姓が3人。

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もう一息というところで完全試合を逃す人もちらほら。

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完全試合達成者の中には黒い霧事件の渦中にいた人も。

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佐々木朗希と島田源太郎は20歳で完全試合達成。

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日本シリーズ優勝と完全試合(継投)が同時に成し遂げられた時も。

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完全試合に興味をもった方はぜひこちらの本「完全試合」がおすすめです。槙原寛己までの達成の瞬間や達成者の足跡がコンパクトに、詩的にまとめられています。プロ野球ファンならぜひ手にして見てください。

笠谷をフォローできなかった海野。からの森唯斗〜苦しい時に見捨てない

鹿児島での楽天戦、リリーフの笠谷が炎上した。3イニング被安打10、6失点のメッタ打ち。解説の坊西浩嗣はキャッチャー海野の姿勢を指摘した。14点目のタイムリーを浴びてホームにバックアップに回った笠谷がマウンドに戻る際、2人は無言で交錯したのだ。

「マウンドまで一緒に歩いてあげて、声を掛けてあげるのも愛情ですからね」

本当にその通りだ。ただ、海野がそういうケアができない選手だとも思わない。アナウンサーは「そういうことをするゆとりすらなくなっている」とフォローしてくれたが、これも本当にその通りだと思う。一旦火がついた相手打線がもう手を付けられないくらい活気付いている。海野も余裕がないのだ。


さらにヒットを浴びて、ようやく海野はマウンドに向かった。タイミングが遅い、と坊西は言った。

「気持ちは分かる。僕もこういうことがあり、よくベンチから怒られた。キャッチャー的には苦しい。何を投げても…って感じで。ここを何とかしてあげなければいけないという気持ちは大事」

若いバッテリーはようやくこの回を締められた。


今のソフトバンクで、もう1人孤独な投手がいる。そう、守護神の森唯斗だ。私は鹿児島の試合を視聴中に、森が登録抹消になったことを知った。期限は特に設けられていないという。モイネロや又吉との配置転換、つまり投げるイニングの前後を変えるかと思っていたので2軍行きは驚いた。藤本監督いわく「前にいっても余計におかしくなる」(スポニチアネックス記事、ソフトバンク森が“無期限”登録抹消 藤本監督「9回いける状態まで期限決められない」より)ということだが、分からなくもない。森にも最終回を任されてきた自負があろう。

ただ、個人を尊重しすぎてチームに影響してはいけない。鹿児島での楽天戦は明らかに、北九州での逆転負けを引きずっているように見えた。

われわれファンはそれを踏まえつつ、森唯斗が1軍のマウンドに戻るまで見捨てない、苦しい時こそ声を掛ける。そういう愛情ある姿勢が求められているのではないだろうか。

森唯斗3敗、ついに守護神交代論〜選手とチーム成績のはざまで

プロ野球は結果がすべてとは言うが、シーズン序盤で早くも森唯斗配置転換論が浮上した。北九州で楽天相手に手痛い逆転負け。今季4敗のうち森で3敗。いやが上にも目立ってしまう。

筆者自身、森が打たれたら又吉の顔がチラついてしまった。モイネロもいる。選択肢があるという意味では決して悲観的になる必要はないのだが、気になるのはファンが森を信じられなくなっていることだ。

森が守護神として結果を残していた時期は、ソフトバンクが日本一になっていた頃と重なる。サファテが故障で離脱することになった時、森が代役になったのだが、うまく受け継げたと思う。球には勢いがあり、連投を厭わない。だが今、肝心の球威が落ちてきているように見えているのだろう。だからファンがざわついていると見た。

2021年シーズンの故障の影響もあるのだろうか。森の離脱はチームに響いた。岩嵜や板東が投げたが森にはなれなかった。だが、今年はモイネロがいる。そして中日から来た又吉も結果を出している。チーム事情を考えたらすぐに守護神を交代させてもおかしくはない。

だがプロ野球において守護神を降りて再びその座に戻るケースは決して多くない。ある意味横綱のように勝つか引退か、そのくらい過酷な地位である。そう考えると守護神として何百セーブも積み上げてきたレジェンドたちは化け物だ。

藤本監督はそのあたりも含めて判断しないといけない。選手よりチームだろと思われるかもしれないが、森のプライドというものもある。打たれたらプライドも何もあるまいと思われそうだが、守護神を代わるとしても代わり方がまずければ森は一気に抜け殻になりかねない。それを危惧する。

森自身、うだうだ言うタイプではなさそうだから、結果が伴わなければ受け入れるかもしれない。森の年俸のことを言うファンもいた。そう、森の年俸はチームの勝ちを含んだ額である。ゆえに森はこうした批判に耐えねばならない。守護神は本当に過酷な職場である。

野手については分かりやすいくらい、結果を出した人をどんどん起用してきた藤本監督。それを当てはめると守護神は代わる。まだ貯金は7あり、首位との差もごくわずか。あと一回くらいは森に猶予を…というのは甘いだろうか。個人の選手生命とチームの成績。藤本監督がどのようにバランスをとり、決断するのか。守護神を変えないなら変えないと即言う人もいる中で藤本監督はそうは言わなかった…。その判断に注目が集まっている。

最年少20歳で完全試合の佐々木朗希と島田源太郎

ロッテの佐々木朗希が史上最年少(20歳5カ月)で完全試合を達成した。新聞によっては完全試合を報じる紙面に、過去の達成者一覧が載っていたかもしれない。佐々木の前の最年少が誰だったのか。確か似たように若くして完全試合をした人がいたよなぁと、後日、北原遼三郎著「完全試合」を開いた。この本、藤本英雄から槙原寛己までの完全試合を丹念にまとめた傑作である。今回の佐々木朗希完全試合を機に、ぜひ多くの人に読んでもらいたい。これまでの最年少達成者は大洋の島田源太郎(20歳11カ月)だった。

島田源太郎完全試合を達成したのは1960年。大洋ホエールズ三原脩監督の采配と選手の頑張りにより6年連続最下位からの日本一に輝いた。島田はエース秋山登(21勝)に次ぐ19勝を挙げ優勝に貢献した。そのくらい勝てる投手なら完全試合もできるのかというと、そうとも限らないのだが、少なくともロッテの佐々木朗希のように鳴り物入りで入団したわけではない。「完全試合」によると入団テストに合格したのだった。

佐々木朗希は岩手県出身だが、島田は宮城県気仙沼市出身。気仙沼高校卒業後は盛岡鉄道管理局への就職が決まっていたが家の事情もありプロ野球入りを目指したのだった。島田は就職しなかったが、鉄道管理局出身のプロ野球選手はたくさんいるようだ。元ロッテ監督の西村徳文は鹿児島鉄道管理局。木塚忠助は門司鉄道管理局だった。

佐々木朗希は主にストレートとフォークで完全試合を達成し、また13連続奪三振や1試合19奪三振を成し遂げた。完全試合達成時の島田の持ち球はストレートとカーブだけだったという。2人ともこれで完全試合をやってしまうのだからすごい。

完全試合達成者の中には金田正一の400勝、藤本英雄200勝、槙原寛己159勝など3桁の勝ち星を積み上げた人がいる一方、2桁にとどまった人もいる。森滝義己はわずか16勝だった。通算310勝の別所毅彦も9回2死までパーフェクトだったが、最後の最後に打たれてしまった。やはり運もあろう。

島田は通算70勝なのだが、完全試合達成の後、肩を壊してしまう。それを考えるとその後も大洋に居続けたり、勝ち星をかさねていること自体がすごいと思える。どんな治療法だったのかや、不死鳥のように蘇るあたりはぜひ北原遼三郎著「完全試合」を読んでいただきたい。

完全試合を重荷に感じたことはありません。本人の気持ちの持ちようですから」(「完全試合」より)


何と清々しい島田の言葉だろう。果たして最年少達成者の佐々木朗希は、これからどのようなプロ野球人生を歩むのだろうか。勝ち星がどうなろうと、佐々木朗希が完全燃焼できることを祈っている。


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