黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

やれることはやっておく~上林が劇的逆転ホームラン、高橋純平はうれしいプロ初勝利

「(柳田)三塁塁審が(インプレーであるという意味の)セーフとしていたので、自分で(本塁打と)判断せずに、やれることはやっておいてよかった」

6月29日配信の日刊スポーツ「ソフトバンク 上林V弾  骨折影響で手に違和感も工夫」の中で、冒頭の村松コーチの言葉が印象的だった。

 

やれることはやっておく。大切だ。劇的な上林誠知の逆転2ランはランニングホームランとされた。個人的にはスタンドインしたように見えたが三塁塁審はインプレーのジェスチャー村松コーチは腕をぐるぐる回し、上林はスピードを緩めず本塁に突入した。

 

スタンドインしたかどうかに関係なくソフトバンクは9回二死の土壇場で逆転したからどっちでもいいじゃんと思うかもしれないが、仮に戻ってきた打球を日本ハムの野手が上手にフォローして素早くバックホームできていたら……打球の戻り具合からして迅速なバックホームは無理だったが、ホームランのダイヤモンド1周はスピードを緩めるもの。最後まで気を緩めなかった村松コーチ&上林の隠れたファインプレーと書いておきたい。

 

やれることはやっておく。それをやったもう1人は内川聖一

「最後の打者にならないことだけを考えた。上林も調子が上がってきていたし、つなげば何か起きると思っていた」(日刊スポーツ「内川聖一 『つなげば何か起きると』上林V弾アシスト」より)

土壇場でライト前に運べる内川聖一はさすが。上林の逆転ホームランをお膳立てした。テレビ中継解説の岩本勉は「(内川の一打が)効いてるわ~」と誉めちぎっていた。4番を務めていた頃なら一発、同点ホームランを狙っていたかもしれないが内川が意識したのは最後のバッターにならないこと。これまた冷静な判断でチームを勝利に導いた。

 

上林の劇的なホームランに目がいくのだが、うるっときたのはプロ初勝利のウイニングボールを手にした高橋純平が工藤公康監督とツーショット写真を撮られていた場面。よかったね、という感じで工藤監督が高橋純平の頭をポンポンと軽くタッチしていたのが印象的だった。

 

ドラフトの超目玉とされ競合の末ソフトバンク入りしながら過去3シーズンは1軍でわずか1試合。戦力外になる恐れも感じていただろう。2019年はソフトバンクが投手陣をフル回転させており、高橋純平はまだまだ勝ちパターンでの起用ではないが登板機会を得られている。

 

この日もランナーを背負いながらも踏ん張って追加点を許さなかった。劣勢の中でもやれることはやる。日本ハムにダメ押しさせなかったことも逆転勝ちにつながった。プロ初勝利は決して棚ぼたなんかじゃない。やれることをやったからこそ野球の神様が高橋純平にごほうびをあげたのだ。そう思いたい。高橋純平はウイニングボールを亡き愛犬(柴犬のメス「ゆう」)に捧げるという。黒柴を飼っている黒柴スポーツ新聞編集局長は妙に親しみを感じてしまうが、いいお話である。

 

勝っている時でも、負けている時でも、やれることはやっておく。結果が出れば最高だが、結果を伴わなくてもやれることをやっていれば諦めはつく。ソフトバンクがなぜ強いのか、さまざまな見立てがあるが勝利への執念も付け加えておきたい。そんな劇的勝利だった。

 

逆に土壇場でうっちゃられた日本ハムは5連敗と対照的だ。ソフトバンクとの差は何なのかと思うが、リーグ戦再開の日は岩本勉に、ランナーの進塁を何とか食い止めようとしない返球を指摘されていたし、2戦目のラジオ解説の大宮龍男には「この当たりならダブルプレーとらないと。自分がキャッチャーなら(喝を入れるため)蹴りを入れている!」と言われたりしていた。やれることはやっておく。それを意識するかしないかで結果は変わってくる。私も心に留めておこう。

グラシアルに続きモイネロも? ソフトバンクはキューバ危機をどうしのぐのか

ソフトバンクに“キューバ危機”」

なんじゃろな、この見出しはと思い、ついついクリックしてしまった。6月28日の東スポ記事だ。キューバ危機って?  ソフトバンクが誇る優秀な助っ人たちに何かあったのか?と思ったら何とモイネロが離脱する可能性があるという!

 

 

 

記事を読んでいたらグラシアルがキューバ代表活動のため夏場に1カ月離脱することが書かれていた。それは知っているよと読み進めていたら何とモイネロにもオファーが来た。これはまずい。守護神の森唯斗がけがで離脱し、今のソフトバンクリリーフ陣はモイネロが軸になっている。この日も、6点リードの9回に武田翔太がマウンドを守りきれずモイネロが尻拭い。犠牲フライで1点は取られたものの3セーブ目を挙げた。

 

モイネロは34試合に登坂し17ホールド、防御率1.09と安定している。森がいた頃は8回が定位置だったが9回も任せられる。ルーキー甲斐野央も抑えの経験を積み上げており、対戦相手が右打者左打者どちらかと見ながら併用していくのではないか。

 

そんな大事なピッチャーが抜けるとあらばまさに危機。東スポの見出しは誇張されていないのだが、現在大阪でG20が開かれているだけにキューバ危機との見出しをうまく使っているのはさすがエンターテイナーである。

 

[東スポ永久保存版]エンタメ劇場

[東スポ永久保存版]エンタメ劇場

 

 

 

記事によれば契約の関係でグラシアルは代表に呼ばれたら離脱するし、デスパイネはその必要がない。モイネロは特に決まってないそうだが、キューバが優秀な助っ人たちを供給してくれていることを考えると強く拒否もできないという。まさに外交的配慮が必要なのだ。

 

 

 

そんなに大事な大会なのかと思ったが、ペルーで開かれるこのパンアメリカ大会は東京オリンピックのプレ予選と書いてあった。予選と何が違うのか分からないが東京オリンピックにつながるとあれば、キューバも手は抜けまい。モイネロは今季好調なだけに白羽の矢が立つのも当然と言えば当然だ。

 

柳田悠岐中村晃東浜巨などなど離脱者続出のソフトバンク。日替わりヒーローと言えば聞こえは良いが、単に出場している選手たちが必死のパッチで打って投げた結果、首位争いができているわけで、「年金を増やす打ち出の小づちはない」と安倍首相が言うように、ソフトバンクも貯金を増やす打ち出の小づちがあるわけではない。ソフトバンクファンからすると、簡単に「巨大戦力」とか「選手層が厚い」と言ってほしくないなというのが本音で、実はどちらに転んでもおかしくない試合は多い。まあ、それをものにしているから首位にいるのだが。

 

だがさすがに投打の柱のグラシアルとモイネロが大事な夏場に離脱するとなるとこれは苦しい。頼りになるレギュラーの先輩抜きで甲子園予選に出るようなものだ。ほかの故障者の復帰が間に合うのか、新たな戦力が台頭するのか、今のレギュラー陣がさらに頑張るのかしかないがなかなかに頭の痛い問題だ。

 

まさにキューバ危機。だが急場しのぎと言われようが仮にモイネロが離脱したら椎野や高橋純平らの起用は増えるはず。とにかくこの1カ月モイネロの穴を埋められたらそれは彼らが確かな戦力になった証拠でもある。モイネロには離脱してもらいたくないが、若いピッチャーたちにはアピールするチャンス。一番いいのはモイネロも一緒に優勝争いすることだが、代表に招集されたら最高の結果を残してきてもらいたい。その間は全員で穴を埋めるまでだ。

 

歴史上のキューバ危機はすんでのところで終息に向かったが、ソフトバンクはどのように危機管理するのか。ファンとしてはただただ必死のパッチで応援するだけである。

勝者のメンタリティー~千賀が説く、ソフトバンクが常勝たる理由とは

交流戦8度目の優勝を果たしたソフトバンク。再開する2019年シーズン戦でも首位にいる。日本シリーズ3連覇を目論むソフトバンクはなぜ強いのか。育成システム云々の話はよく耳にするが、なるほどなという記事を見つけた。6月24日のスポーツ報知の【ソフトバンク】千賀が語る強さの秘密…受け継がれる「勝って当たり前」。

千賀滉大はこんなことを言っていた。

「強い時代の選手がやってきた『勝てる野球』を引き継いでいる。負けることに慣れていない。勝つ野球をするのが当たり前になっているところが強い。勝って『よし』って喜ぶより、負けて『何で?』って反省することの方が多い。そういう雰囲気は僕がチームに入ってからずっとある」

 

いわゆる勝ちぐせだ。勝って当たり前。かつての巨人がそうだった。セ・リーグなら今は広島か。今年の巨人は広島と張り合っているが高橋由伸政権のころはいいようにやられた。なめてかかられているんじゃないか、とさえ感じた。パ・リーグならかつての西武か。西武黄金期、南海、ダイエーはBクラスに沈んでいた。そのころからホークスを応援するファンは隔世の感があるだろう。今やソフトバンクが3連敗したら沈痛な記事が出回るほどだ。

 

【永久保存版】 ホークス80年史 〈Vol.1〉 投魂継承 (B.B.MOOK1408)

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勝ち続けることで自信が生まれる。負ける気がしなくなってくる。だから千賀が言うように、負けると「何で?」となる。それを追究して改善する。だから大崩れなんかしない。毎年のように優勝していた西武もなかなか3連敗以上はしなかったイメージ。大人の野球をしている印象だった。

 

ソフトバンクはいま投手陣の頑張り、踏ん張りが目立つから、実はそこまでどっしりともしていない。けが人が多いことから打線もほぼ日替わり。先発ローテーションが充実して不動の打線を組んでいた森監督時代の西武とは対照的だ。しかし勝ち慣れている、あるいは千賀が言うように「負けることに慣れていない」のは共通しているように思う。

 

組織においてそういうムードは大事だ。どうせやってもムダだというムードが蔓延したら危険。次の世代まで汚染してしまう。逆に常勝の気風があればそれを受け継いでいくものだ。甲子園の常連校は最たる例。なぜいつもあの学校が、と思うがきっと各校に勝つ理由があるのだろう。

 

今日からリーグ戦が再開。千賀は先陣を切って登板し日本ハムの有原航平とエース対決だ。前回登板の巨人戦では粘投したものの甲斐の絶妙なスクイズ&福田秀平の代打勝ち越し満塁ホームランに救われた形。今回こそエースの投球でチームを勢い付けてもらいたい。

積極的にスイングする~交流戦MVPはソフトバンク松田宣浩が最年長受賞

2019年の交流戦MVPは松田宣浩に決まった。NPBウェブサイトには選考理由が以下のように紹介されている。

「全18試合に三塁手として先発出場。18試合中15試合で安打を放ち(先制打1本、同点打2本、勝越し打1本、逆転打1本を含む)、本塁打も全体2位タイの7本と、力強い打撃でチームの勝利に貢献した。特に優勝争いが熱を帯びた6月18日からの対東京ヤクルト、読売との6連戦では、6試合連続安打、3本塁打、8打点と勝負強さを発揮し、チームを日本生命セ・パ交流戦8度目となる優勝に導いた」

 

ソフトバンクファンの中ではMVPは松田宣浩、グラシアル、福田秀平とさまざまな名前が挙がった。共に打撃が好調。松田宣浩とグラシアルは交流戦2位タイの7本塁打だった。打率で言えば松田宣浩は6位の.348が光る。それ以上に選考理由でわざわざ交流戦15安打中、5本が先制、同点、勝ち越し、逆転のいずれかである点が強調されている。勝負強さ。これが決め手ということだろう。

 

勝負強さという意味では福田秀平も十分アピールできた。交流戦首位決戦の巨人戦では3本塁打。1本目が代打勝ち越し満塁ホームラン。2本目がエース菅野智之の出鼻をくじく先制ホームラン。3本目は優勝を決定付けるホームラン。こう振り返ると福田秀平にも確かにMVPの資格が十分ある。

 

グラシアルも勝負どころでの打撃が光った。玄人好みかもしれないが阪神戦で高橋遥人から放ったホームランは内角球を巧みにさばき、適応力の高さを見せつけた。普段戦わないセ・リーグの投手相手に、巨人以外の5カードでホームランを打ったのはさすがだ。

 

 

 

ソフトバンク交流戦を終えた時点でわが黒柴スポーツ新聞はMVPを松田宣浩かグラシアル、さらに絞れば打率がよかった松田かと予想したので的中した。が、やはり最終戦インパクトが強かっただけに福田秀平を選んであげてほしかったなというのが正直なところ。実はこの黒柴スポーツ新聞の記事では福田秀平にスポットライトを当てた記事が他よりシェアされている。MVPには選ばれなかったが、福田の頑張りはファンの間で十分評価されている。

 

MVPが松田宣浩と知って、第一印象は、ああやっぱり松田宣浩かと。やっぱり持ってるんだなと思った。MVPの類いは初めてだというのが意外に思えるくらい、松田は勝負強いイメージが定着している。2018年は不調で9番を打ったりスタメンを外れたりしたのだが、すっかり終わったことになっている。やはり結果を残せば過去(の印象)は変えられるのだ。

 

松田宣浩くらい経験を積むと周りもとやかく言わないから自分で自分を追い込むしかない。環境や雰囲気を変えるには自分で動くしかない。その意味では、キャリアハイの成績を目指すと言ったり、背番号3にしたのを5に戻した姿勢はアラフォーの私にとってすごく刺激的だった。松田宣浩は打って当たり前のようなキャラクターになっているが、それは自ら作ったものなのだ。

 

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「積極的にスイングすることを心掛けた」

MVPに選ばれた松田宣浩は好調の理由をそう答えた。そう、やはり積極性が大事だ。松田だってDeNA戦のサヨナラの絶好機に見逃し三振をした。山崎康晃のストレートが見事に決まったと言えばそれまでだが、やはりバットを振らねば当たらない。松田宣浩は続くヤクルト戦で2打席連続ホームランを放ち、見事に取り返した。積極性にスイングする。さして真新しいことではないからこそ気を付けたい。1年も半分が過ぎようとしている。ここらで一つ、積極性に関して自分自身のメンテナンスをしておこう。

打てる球を確実に仕留める~ソフトバンク福田秀平、柳田悠岐に諭された目付けの意義

巨人との交流戦首位攻防3連戦での活躍で一躍MVP候補に名乗りをあげたソフトバンク福田秀平。かねてから俊足は定評があったが2019年シーズンは打撃が好調。交流戦だけで満塁ホームランを含む6本の本塁打を放つなど強烈なインパクトを残した。

 

6月24日配信のサンスポ記事「ソフトB・福田が先頭弾&トドメ弾!今宮のグラブを拝借『1番・二塁』で先発」を読んでいたら興味深い一文を発見した。

「昨オフ、初めて自主トレを行った同級生の柳田から『大事なのは目付け。打てる球を確実に仕留めること』と狙い球を絞って打つように助言され、目からウロコが落ちた」

なるほど。パワーが持ち味の柳田悠岐だがきっちり狙い球を絞っていたのか。もちろんひと振りで仕留める技術の高さは要求されるのだが。

 

それに対して福田秀平は「去年、柳田に目付けが悪いと指摘された。今までは漠然と打席に立っていたけど、甘い球だけを狙っていくようにした」と6月13日の西日本スポーツ記事で紹介されていた。押しも押されもせぬ大黒柱の柳田悠岐スーパーサブの福田秀平。同い年でありながら立ち位置が違っていた裏には意識の差があった。福田秀平の素晴らしいポテンシャルを考えればなおさらだ。

 

来た球をことごとく打ち返せるイチローのような仕事ぶりの人もいる。ある意味理想的だ。しかし誰もができることではない。むしろ仕事ができる人は確実性を持っている。これはできるということがたくさんあるのだ。柳田流に言えば狙った球は確実にとらえられている。

 

私は思わず自分を省みた。以前の福田のように漠然と打席に立つことが多いよな、と。逆によくそれでやってこれたなとさえ思う。それは曲がりなりにも来た球に対して誠実に振りにはいっていたからなのだが、狙い球を絞っていて、かつ、確実にとらえられる自信と技術があればもっと結果を出せていたと思う。

 

今年のソフトバンクはけが人続出で穴を埋める筆頭格の福田秀平自身も脇腹痛を抱えている。あまり無理はしてほしくないのだが、近年出場機会が増えている流れの中で2019年の交流戦での大爆発。念願のスタメン定着が現実的だ。慣れないセカンドを守らせてでもスタメン起用したいと思われた福田秀平。いかに期待されているかが分かるだろう。

 

グラシアルがキューバ代表としての活動で離脱するのはソフトバンクにとって痛手だが、福田が定着すれば守備面も含め大部分をカバーできるはずだ。交流戦が終わってからも福田秀平のますますの活躍に期待したい。


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爪痕を残したら次につながる~カープ曽根海成、ショート小園海斗と田中広輔のはざまで

「僕みたいな打者は首脳陣も期待してない。でも爪痕を残したら次につながる」

いい言葉だ。発言の主イコール僕とは曽根海成。広島の内野手だ。

 

広島では期待のルーキー小園海斗が売り出し中。6月20日にスタメン起用されたことによりショートを守ってきた田中広輔の連続フルイニング出場が635試合でストップ。翌21日は出場自体なかったため、連続出場が636試合で途切れた。

 

アグレッシブ

アグレッシブ

 

 

 

そのショートのポジション争いに顔を出したのが曽根海成。小園は拙守を連発。安打が出ているため評価が急落とはなっていないが、いかに田中広輔の打率が低い(記事執筆時点で1割8分4厘)とはいえ、田中は守備はうまいぞとカープファンから田中広輔復帰待望論が出てもおかしくない。同時に、広島は曽根のショートも試行するようで、曽根は小園に代わってショートの守りを命じられいくつかの打球をさばいた。

 

曽根にしてみたらビッグチャンス。カープ3連覇の立役者の田中広輔とゴールデンルーキーの小園海斗という豪華なショート定位置争いにちょいとノミネートされたのだ。ならば爪痕は残したいところ。確かに爪痕さえ残しておけば次につながる可能性は出てくる。私はこのような考え方が大好きだ。

 

広島では前の野村謙二郎監督が堂林翔太を使い続けた例がある。だが堂林は一皮むけきれなかった。若手を使い続けるには辛抱がいる。指導者もその若手にも覚悟がいる。西鉄三原脩監督が豊田泰光を起用した時はエラーをするものだから二人とも辛辣な言葉を浴びたとか。小園はまだまだ顔見せ興行的な、いわゆる初心者マークが付いた状態でもあるからカープファンも静観中とみるが、今やSNSで誰もが論評する時代。小園はそれとも戦わねばならない。それはプロ野球選手の宿命であり、小園がれっきとしたプロ野球選手になったという証拠でもある。

 

それだけでも十分興味深いのだが、虎視眈々と曽根が内野手としての出番を狙っているのがさらに面白い。打撃では小園の評価が高いから曽根は守備面でアピールしたいところだ。年齢的には田中や菊池涼介らの世代と小園との間の24歳。世代間の穴を作らない。さすがカープだ。結果を残した先輩たちと、期待のルーキーのはざまで曽根がどこまで自分をアピールできるのか注目してみよう。

ストロングポイントに賭ける~ソフトバンク交流戦優勝を決めた強気の用兵、特に福田。

13時から試合開始。DAZNに接続したら、ん?  福田秀平がダイヤモンドを回っている?  何とエース菅野智之から先頭打者ホームランを放っていた。勝てば交流戦優勝を決める大一番で福田がソフトバンク打線に点火。満塁と攻め立て坂本勇人のエラーを誘う松田宣浩の内野安打に甲斐拓也のスクイズ。いきなり4点を奪ってソフトバンクが試合の主導権を握った。

 

今季未勝利の和田毅が1回裏に巨人を三者凡退に抑えたのとは対照的に、菅野は立ち直れなかった。2回先頭打者の和田に四球を与えたことが原監督の逆鱗に触れプロ最短1回3分の0でマウンドを降ろされた。確かに原監督が最も嫌いそうな展開ではあったが、公開説教的な降板はエースに対していかがなものかと、わが黒柴スポーツ新聞は指摘しておく。そしてあえて打ちに行き四球を勝ち取った和田毅の男気に拍手を送りたい。

 

険悪でピリピリムードの巨人を尻目に和田毅はすいすいアウトを重ねていく。4回に岡本和真にソロホームランを浴びるも、5回1失点でまとめて後輩たちに後を託した。7回には椎野がランナー2人を背負ったが救援したモイネロが丸を討ち取り2イニング無失点。最後は甲斐野が締めて交流戦優勝を決めた。

 

 

 

和田は今季初勝利かつ651日ぶり勝利。交流戦優勝に花を添えた。ヤフオクドームなら確実に和田&福田のWヒーローインタビューであるが、この日は交流戦優勝監督インタビューとして工藤公康監督がお立ち台に上がったのみだった。巨人との3連戦中のソフトバンクが勝った試合はヒーローインタビューが終わるとさっさとDAZNは中継終了。日テレの制作と思われるためやむを得まい。

 

福田秀平の先制パンチも和田毅の好投も勝因なのだが、黒柴スポーツ新聞的には福田のプロ初セカンドでのスタメン起用に象徴される攻撃的オーダーとしたい。決して守備が磐石ではない「レフト」デスパイネ、「ライト」グラシアル、そして「セカンド」福田秀平。プロ野球選手だから打力も守備力も求められるが、この日に限っては菅野智之を打ち崩して勝つ。とにかく打ち勝つんだという意思を感じるオーダーで、特に外野を守ることが多い福田を内野で起用したことを見た篠塚和典は「工藤監督の強い気持ちを感じる」と解説していた。福田はこれに応えて7回にもダメ押しホームラン。巨人戦では初戦に森福から放った代打勝ち越し満塁ホームランと合わせて東京ドームに3本もアーチをかける大活躍だった。

 

大事な試合だからこそ経験のある明石をセカンドに起用する策もあった。だが守りに入ってはいけない。そんな考えがあったのかもしれない。セ・リーグの本拠地で行われる、指名打者制のない試合で打線に厚みを生もうとした。それがうまく機能したのが勝因と見ている。

 

少々の弱点があってもそれを上回るストロングポイントを生かす。多少の短所には目をつぶって長所に懸ける。勝ったから言えることではあるが、用兵がはまってソフトバンクは8度目の交流戦優勝。これで2年に1度は交流戦を制している計算となった。毎回毎回短所に目をつぶるのはハイリスクだが、ここぞの時にはポテンシャルに賭けてみる。個性的な部下を抱える指導者クラスにはぜひ応用していただきたい、鮮やかな勝ち方だった。

 

なお、全日程が終わってから発表されるのか交流戦MVPが待てど暮らせど発表されない。打撃成績ではロッテの鈴木大地が好調だったがソフトバンクが優勝しているだけに、黒柴スポーツ新聞としては共に交流戦ホームラン7本のグラシアルと松田宣浩を推す。どちらかに絞れと言われたら相当悩むが打率が3割台の松田か。交流戦首位争いに限れば文句なしで福田。Twitterでは福田を推すファンがおり、コツコツ努力してきた福田が報われる姿も見てみたい。ソフトバンクでは同じくスーパーサブ城所龍磨がかつて交流戦MVPに選ばれたこともあり、発表が注目される。

指示ではなく示唆をする~DeNA田代コーチとオリックス高山コーチが選手に送った言葉とは

おなかがすいた

こんなことをサヨナラの好機に言うコーチ、初めて見た。発言者はDeNA田代富雄コーチ。ネクストバッターズサークルに向かう大和に言ったそうだ。「この回で決めてくれよ」と。

最後のクジラ――大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生

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 大和は応えた。

裏にパンがありますよ

なかなかの切り返し。この奇妙なやりとりは大和の力みをなくすための、田代コーチの作戦だった。そしてその6月19日、DeNAは大和のヒットでサヨナラ勝ちした。

気合いを入れて打ってこい。そういうアドバイスもありと言えばあり。だがシャレオツで若干アメリカンなやりとりが選手に好結果をもたらすことがあるんだな、と勉強になった。田代富雄はそんなユーモアがあるんだ、とびっくり。アラフォーの筆者にしてみれば、田代と言えば黙々と、淡々とホームランを重ねていくホエールズの主砲というイメージ(通算278本塁打)だったのだ。

先日、日経新聞スポーツ面のコラムで、すぐマウンドに向かうコーチはどうなのかという内容があった(逆風順風「円陣と働き方改革」)。今後に期待されるオリックスの榊原に対して、高山郁夫コーチは、「ここで(気持ちを)切り替えられたら成長できる。踏ん張ってこい」とマウンドで告げたという。成長できる、というアドバイスがよかったと書かれていた。踏ん張った先の成長を匂わせる。技術論でも精神論一辺倒でもない、工夫したアドバイスに思えた。

そんなことを考えていたら、6月20日日経新聞連載「メガバンカー」第3回には三菱UFJフィナンシャルグループの亀沢宏規副社長の人物評で「指示がくるのではなく、示唆がくる」と書かれていたのを見つけた。こういう指導者っていいなと思う。成長を促そうとしたら、とかく技術論に偏りがち。それは早く独り立ちさせてやりたいという親心でもある。しかし指導者本来の役割は選手あるいは部下を成長させることだと思う。

入社前から先取り!  日経新聞の読み方・活かし方

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榊原や大和があのアドバイスをどう生かしていくのかは興味深い。ちなみに6月21日、大和はまたしてもサヨナラヒットを放っている。

必死さが結果を生む~甲斐セーフティースクイズでソフトバンク満塁の呪縛28打席で終止符

意表を突く甲斐拓也のセーフティースクイズソフトバンクがドはまりした、満塁からの無安打という呪縛から29打席ぶりに解放された。

 

さらには代打福田秀平の満塁ホームラン。約1カ月にわたりソフトバンクファンが抱えたモヤモヤを一掃してくれた。かくいう私も福田の一撃には夕飯を食べながら「オーッ!」と吠えてしまった。

 

甲斐のスクイズについてはいろんな記事を漁ってみたが、サインらしきくだりはなし。ラジオ解説の野村弘樹、視察に訪れていた侍ジャパン監督の稲葉篤紀ともに甲斐の発想を誉めていたので、甲斐の作戦勝ちということだろう。

 

産経新聞記事には森ヘッドコーチが「三塁が後ろに下がっているからチャンスだぞ」と打席に向かう甲斐に伝えたことが書かれていた。二死満塁だったからスクイズ失敗となればまたまたネット界隈は騒がしくなり、この日の千賀滉大の続投もなくなり、交流戦優勝の行方も分からなくなっただろうから、スクイズを決めたことは大きかった。

 

同点でも千賀は続投したかもしれないが、福田の満塁ホームランで続投確定。6回はランナーを背負ったもののしっかり坂本勇人から三振を奪って締めた。阿部慎之助にタイムリー、丸佳浩にはホームランを打たれ、球数は要したものの、しっかり試合をつくった。たまには打線がひっくり返して千賀に勝ちを付けるのもいい。

 

プロは結果がすべて。ソフトバンクに満塁機を与えた宮国、満塁ホームランを打たれた森福、とどめの2ランを松田宣浩に打たれたクックはそろって2軍降格。特に森福はソフトバンク時代に満塁での印象的な火消しがあったことから、日テレ中継時に採用されたTwitterでは「ソフトバンク満塁で森福」なんて投稿も見られたが、ソフトバンク同期入団の福田に豪快な一発を浴びてしまった。同期入団同士が十数年後には敵として生存競争を繰り広げる。プロの世界は厳しい。

 

ヒーローインタビューは福田秀平だった。勝利に導く完璧な当たりだったから当然なのだが、個人的には甲斐のお立ち台も見たかった。キャッチャーであるし、一塁へのヘッドスライディングなんて危険極まりないのだが、それでも……という気迫の表れに感動してしまった。一塁へのヘッドスライディングは海亀の産卵ばりになぜか人の心を揺さぶる。とにかく、何とかせねばという気持ちは本当に大事だ。それを再認識させてくれる妙技だった。これで交流戦は10勝4敗2分け。6月22日の巨人戦に勝てば2年ぶり8度目の交流戦優勝が決まるだけに、甲斐のスクイズは貢献度大だった。

常に道具を大切にする~ソフトバンク内川聖一、4安打3打点2ホームランの大活躍

朦朧とした意識の中で、朗らかな声に気が付いた。誰かがヒーローインタビューを受けている。radikoKBCホークスナイターを聴いていたのだが、山から吹き下ろす風が心地よく、うとうとしてしまったようだ。インタビューへの歓声が大きい。ああ、ヤクルトが勝ってしまったんだな。4-4まではうっすら覚えていたのだが……と思ったらソフトバンクが6-5で勝っていた。ヒーローインタビューを受けていたのは勝ち越し2ランを放った内川聖一だった。

 

稀代のヒットメーカー、異常な勝負強さを誇った内川聖一が2019年シーズンは苦しんでいる。打率は2割5分あたりをうろうろ。特に好機でのダブルプレーが目立ち、それを揶揄する造語まで現れた。打てない、期待に応えられない。この日のインタビューでも内川は「悔しい思いをした」と語っていた。

 

内川家。

内川家。

 

 

 

さすがに4安打3打点2ホーマーだから早速内川に関する記事がネットに出ていた。速い。しかし試合展開をなぞり、内川のコメントを上手に絡めたありきたりな記事ばかりだな、と思った。そんな中、日刊スポーツ記事「工藤監督『まだまだ いける』4安打内川に今後も期待」に素晴らしいくだりがあった。

 

「打撃職人はベンチでバットを常にきれいに磨き上げている。打球跡や土などを拭き、常にきれいな相棒と打席へと向かう」

 

いかがだろう。内川いわく、結果と気持ちがうまく噛み合わない状態が続く中でも、バットを磨き上げている。常に前向きに打席に向かおうという姿勢、そして結果が出なくても諦めまいという闘志が伝わってくる。サムライが静かに刀を手入れしているかのようだ。筆者は石橋隆雄氏。細かな描写がグッときた。

結果が出ないとついイライラしてしまう。こんなにやっているのに何で、とこぼしてしまうこともある。だが、そんな時こそ道具を手入れする時間は大切なのだろう。心を整える。そんな意味合いがあるのかもしれない。私は残念ながら、そのあたりをなおざりにしてきた。だから愛用の道具がものすごく少ない。バットを大切に扱う内川聖一とは大違いだ。

 

結果が出ない時こそ道具を大切に扱う。心を整える。それでも相手のあることだから、野球でもビジネスでも常に好結果が出るとは限らない。しかし道具を大事にできない人が結果を出せるはずがない。自分と向き合い、現状を把握する。そんな意味でも、道具を大切に扱うことからやり直してみよう。

回り道に意味はあるのか~日本ハム上沢直之、膝に打球直撃で今季絶望的

人生に無意味なことはない。そう言うのは簡単だ。決して無駄なことはない。そう言い切れるのは勝者のみである。苦しいことに意味を見いだせることができる人は強い人だ、と私は思う。では上沢直之はどうだろうか。今季日本ハム開幕投手を務め、ここまで5勝を挙げながら、先日のDeNA戦で膝に打球が直撃。全治5カ月の重傷を負ってしまった。

 

日本ハム栗山英樹監督も沈痛。「何かメッセージがあると思っているけど、ナオに野球の神様は何を求めているのか……。ナオも苦しいし悔しいと思う。大きなメッセージがあると思ってやるしかない」(full-count記事より)というのは偽らざる気持ちだろう。

 

野球が教えてくれたこと

野球が教えてくれたこと

 

 

 

野球の神様は時に残酷なことをなさる。コツコツ頑張っている人にスポットライトを当てる役回りでもいいのに、わざわざ悲劇を演出したりする。野球の神様は相当のドラマ好きである。プロ野球ファンは野球の神様のさじ加減一つで右往左往する、哀れな生き物である。もちろん神様のおかげで死ぬほどハッピーになれたりもするが。

 

野球の神様がくれたもの

野球の神様がくれたもの

 

 

 

上沢直之に打球が直撃したことはペナントレースに影響必至だ。楽天ソフトバンク日本ハムが上位を争う展開で、楽天ソフトバンクは上沢とやるかやらないかでは全くハードルの高さが違ってくる。私はソフトバンクファンだから上沢が今季絶望的になったことは客観的に追い風なのだが、そういう悲劇で日本ハムを上回ったとしてもうれしくない。日本ハムファンだって柳田悠岐やグラシアル、中村晃が離脱したことでペナントを奪回してももろ手をあげては喜ばないだろう。もちろん優勝は喜ぶとしても。

 

日本ハムは有原航平がすでに8勝と絶好調。エース級の働きだが、上沢がけがしなければ有原と上沢がエースの座を争うシーズンになっていた。その意味でも上沢のけがの意味はとてつもなく大きい。栗山監督が野球の神様にけがの意味を問いたくなる気持ちはすごく分かる。上沢にこの試練をどう意味付けさせたいのか。

 

起きたことすべてに意味付けをする考えを、私は鬱陶しく思ったりもする。それは何らかの意味があるんだよ、と第三者に言われても素直に受け止められない。実際、上沢にしてみれば着実に力をつけてきて開幕投手の座をゲット。2019年に結果を残せばエースの称号を得られたかもしれない。それが今季絶望的。悔しくないはずがない。

 

長期離脱に意味を見いだせなんて、簡単に言えることだろうか。病と闘う水泳の池江璃花子、けがで代表から離れた体操の村上茉愛もそう。アスリートにとって時間は有限だから、追い込まれているのは間違いない。長期離脱をしなければ才能はますます花開いたはずだ。故障や心身の不調に意義付けをするのはさも優等生的な回答に思える。池江璃花子が耐えられているのは彼女に芯があり、周りが彼女を思いながら支えているからではなかろうか。誰もがアクシデントを受容できるわけではない。

 

結局、起きたことに意味があったか、なかったかを決めるのはその後の自分。傍目には不幸に見えても本人が納得できていれば周りがとやかく言う話でもない。上沢が将来、あの重傷に意味があったと思うかどうかは、けがからの回復具合や復帰後の成績、さらには引退後の環境にもよると思う。

 

さんざん悲観的なことを書いたが、もちろんリハビリがうまくいって、けがを糧にしてもらいたいに決まっている。無事復帰したあかつきにはソフトバンクとガチンコの勝負して、もちろんソフトバンク打線に上沢をノックアウトしてもらいたい。幸い、上沢の膝の手術はうまくいったようだ。上沢にはこの試練をどうにか乗り越えてもらいたい。きっと、この苦境に意味を見いだせるだけの力があるはずだから。

ミスは自分で取り返す~ソフトバンク松田宣浩2連発&松本裕樹今季初勝利

DeNA戦、おいしいサヨナラのチャンスで見逃し三振。ソフトバンクファンをがっかりさせた松田宣浩が6月18日のヤクルト戦で汚名返上の2打席連続ホームランを放った。先制弾に勝ち越し弾。試合展開からしても価値あるホームランだった。

 

松田宣浩メッセージBOOK-マッチアップ-

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いつも元気いっぱい。イケイケの熱男も守りに入ることがあるんだなとびっくりしたDeNA戦。しかし松田のことだ。次こそは、と燃えていたに違いない。環境もよかった。舞台は神宮球場亜細亜大学時代に汗を流した「庭」だ。気分転換にはもってこいだっただろう。

 

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見逃し三振から、2打席連続ホームランで挽回というのも松田らしい。radikoKBC実況を聴くと2発目は打球がグングン伸びてフェンスを越えた様子。松田の気迫が飛距離を伸ばしたに違いない。過去は戻らないのだから、次が大事。悪い記憶や記録はよい結果で上書きするに限る。

 

この日の先発は松本裕樹。いわゆるローテーションの谷間であり、松本にとってはまたとないアピールのチャンスだ。充実の救援陣に対して先発が手薄なソフトバンク。松本が結果を残すことはチームにとっても大きい。だから早く1勝する必要があった。

 

松本裕樹は試行錯誤していた。サイドスロー転向も模索した。変わらなきゃ。そんな姿勢が伝わってきた。結局サイドにはしなかったが、いろいろ試したことは自分を納得させるためにも必要なプロセスだったのではないか。結果的には球速も取り戻せた。肘を傷めた過去があるだけに、そのあたりのケアは十分してもらいたい。

 

まだまだ長いイニングは投げられず、何とか5回を投げきった。勝ち投手の権利が得られるか、という5回は不運な当たりとはいえ連打を浴び、1点差まで追い上げられた。ああ、また松本裕樹は勝てないのか。いや、ここで何とか踏ん張ってほしい。ここを乗りきることができれば、新しいステージに一歩進めるんじゃないか。私はほのかに松本裕樹と自分を重ねながら、実況を聴いていた。頑張れ松本裕樹、踏ん張れ松本裕樹。君がこのピンチを乗りきることができたならば、私自身も何とかなるんじゃないか。私は勝手に自分自身と松本裕樹を重ね合わせていたのだった。

 

松本は勝ち投手の権利を何とか守ったまま降板した。この日は打つ方でも貢献した。二塁打スクイズ。特にスクイズは、自らのミスで同点に追い付かれた後。松田がすでに勝ち越しホームランを打ってくれてはいたが、甲斐らがつくったチャンスにセーフティスクイズを敢行。2連続悪送球のミスを取り返した。

 

一旦radikoから離脱して、あらためて実況を聴き始めたのだが、スマートニュースのアプリを開いてしまった。「ソフトバンク甲斐野 『頭が真っ白』でプロ初S逃す」。日刊スポーツの見出しを見て、嫌な予感が。まさか、甲斐野が救援失敗?

 

ドキドキしながらradiko再開。甲斐野はアウトをとりつつも四球あり暴投あり押し出しあり。フォークボールは制御できない。2点差まで追い上げられ、アウトあと一つとしながらも嘉弥真に後を託して降板。嘉弥真がしのいで甲斐野の代わりにプロ初セーブを記録した。

 

ということで、打てないことも抑えられないこともあるプロ野球選手。だからこそいつまでも引きずれない。それはわれわれ社会人も同じだ。やられたらやり返す。それしかない。松田宣浩と松本裕樹はよい方向に行けたから次ぎは甲斐野だ。鉄腕・森唯斗のけがは思ったより重く、早期復帰はどうやら望めない。甲斐野が今後どんな役回りになるのか分からないが、任されたイニングはきっちり抑えてもらいたい。ミスは自分で取り返す。私もその心意気でやっていこう。

どんな形でもいいから勝つ~中日、悪夢の大逆転負け翌日に辛勝

5点リードを9回裏にひっくり返されたのは、セ・リーグでは20年ぶりだという。中日が6月16日、ロッテに大逆転負けを喫した。ちなみに20年前も中日が横浜にやられた。ドラゴンズファンはたまらない。だが次の日が大事だと、OBの鈴木孝政が解説で話していた。きれいな勝ち方じゃなくていい。とにかく勝つことなんだ、と。

 

もちろん中日ナインだって相当悔しかったに違いない。高校野球地方大会、引退を控えた3年生の異常な執念を彷彿させるロッテの粘りに屈しはしたものの、鈴木大地のライトに抜けるどん詰まりの当たりに対して、ビシエドも亀澤も必至のダイビング。惜しくも届かなかったが、まるで映画のワンシーンだった。

 

天国を見ることもある。地獄を見ることもある、と鈴木孝政。確かにそれはプロ野球選手の宿命だ。嫌でも次の試合はやってくる……と、私はこのくだりを、初めてradiko東海ラジオのドラゴンズ戦中継を聴いたのだが、こういう深みのある話ができる聴けるのはラジオの良さ。普段DAZNを重宝しているが、ラジオもなかなかオツである。

 

きれいな勝ち方じゃなくてもいい、と言われた中日ナインだったが試合はどうなったのか。NHKニュースウオッチ9のスポーツコーナーを見たら、VTRのふりが「終盤までもつれました」。あれ、またまたドラマが?

 

MIZUNO(ミズノ) 野球 中日ドラゴンズ レプリカキャップ 2019 ホーム サイズ:L 12JRBD06 L

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9回裏、同点のチャンスで岡大海がホームに突っ込んできた。セーフなら同点だ。際どいタイミング。アウトのジャッジに岡はセーフだとアピール。井口監督がリプレー検証を求めたが、判定は覆らず。そしてまたもや鈴木大地が打席に立った。乗りに乗った鈴木が2日連続でヒーローになるのか?  まさかまさかと思っていたが最後は空振り三振。中日が何とか逃げ切った。そう、きれいな勝ち方じゃなくてもよかったのだ。まあ、熱烈なドラゴンズファンからしたら、いい加減にせい!と思っているかもしれないけれど。

 

月刊ドラゴンズ 2019年 06 月号

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何でもかんでも勝てばいい、というのは好きじゃないが、とにかく勝たなきゃいけない時もある。負けた時こそ次が大事。へこむ暇があったら努力しよう。明日はすぐにやってくるのだから。

バットを振らねば奇跡は起きない~ソフトバンク松田宣浩、熱男らしからぬ見逃し三振

ノーアウト満塁で松田宣浩。サヨナラはもらったも同然。と思いきやまさかの見逃し三振。どうした熱男と言いたくもなる。確かに山崎康晃インコース低めの球は絶品だった。打ってももしかしたら詰まらされてダブルプレーだったかもしれない。三振だったからアウト一つで済んだのかもしれない。だが松田宣浩に見逃し三振は似合わない。

 

結局ソフトバンクDeNAと引き分けた。モヤモヤしたまま、他球場のゲームを物色した。ロッテが中日を猛追していた。9回1死、3-7から見たのだが、中村や藤岡のタイムリーで6-7に。田村のヒットと荻野の四球で2死満塁。打席には鈴木大地が入った。直前2打席はホームランとノリノリだ。マリンの大歓声に背中を押された鈴木はバットを折りながらライト前に弾き返した。サヨナラ2点タイムリー。何と最終回に6点奪って逆転勝ちした。

 

ソフトバンクとあまりに対照的。食らいつく気持ちが奇跡を起こす。私はソフトバンクファンだが率直にロッテナインの諦めない気持ちは素晴らしいと思った。もちろんソフトバンクナインも懸命に勝ちを目指しただろうし、上林が併殺を逃れようとヘッドスライディングしたり高谷が山崎康晃の速球に食らいついたりするのも見たが、やはりポイントは松田宣浩の見逃し三振。気持ちで勝負するのが松田の真骨頂であるだけに、モヤモヤが消えない。

 

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やはり勝負はバットを振らないと始まらない。満塁なら押し出しやらパスボールという敵失で得点できることもあるが、やはり勝負にいかないと。結果的には満塁策をとったDeNAは正解だった。今季ノーヒットの塚田を歩かして松田宣浩勝負というのはなかなか大胆な作戦ではあったのだが……

 

前のカードの阪神戦といい、ソフトバンクはよく粘っている。対DeNAも負け越してもおかしくなかった。だが勝てた試合にも思える。救援陣が踏ん張っているだけに、打線の奮起を促したい。何でも精神論で片付けるのは好きじゃないが、食らいつく気持ちが勝敗を分けることはある。今季は楽天日本ハムと三つどもえの戦いになりそうな様相であるだけに、勝てる試合はきっちり拾っておきたい。執念。ロッテの大逆転勝ちに学ぶ意味は大きい。

イメージとのギャップをいかに埋めるか~ソフトバンク内川聖一、衰えとの戦い

内川聖一の勝ち越しホームランから優勢に試合を進めたソフトバンクDeNAを下した。前日、エース千賀で負けただけに「ムードを変えられた」と工藤公康監督も褒めた価値ある一発だった。

 

中継の解説は若菜嘉晴だったが、内川聖一の第一打席では打撃のイメージ論が出てきた。リポートによると、内川自身、日々変わるコンディションに戸惑っているという。そこは必ず年を取るゆえに誰もが逆らえない。特に内川聖一は2000安打達成者。数々のよいイメージが頭にこびりついている。今はそれと結果との間に相当のギャップがある。

 

「内川は打つ方向を決めて打席に立つタイプ」と若菜。それがイメージ通りにはできていない。「若いうちはイメージした球が来たらイメージ通りに打てていた。それが遅れたり詰まったりする」。実際、この試合の8回の打席では速球に対して振り遅れたり、とらえたかなというタイミングでもファウルになったりしていた。おかしいな。そう一番感じているのは内川聖一自身だろう。

 

内川聖一は36歳。「一番難しい年齢に入った」と若菜は解説した。衰えは受け入れなければならない。だが「ここを抜ければまだやれる」とも。かつてのような対応力がない前提で再び打撃を確立せよということなのか。内川聖一がどう対応していくのかは非常に興味深い。

 

若菜は、内川や松田に世代交代を促すような若手がいない、とも指摘。特に右バッターがいない、と。まったくいないわけではないが、後輩たちは内川にも松田にもまだまだ及ばない。守備も含めた総合力ではやはり内川聖一松田宣浩は一段上にいる。

 

松田はDeNAのエース今永から2打席連続ホームランを放つなどまだまだ元気いっぱい。内川聖一も率は低いが打席での目を見ると集中力が伝わってくる。世代間競争がある方がチームは活性化する。美間や真砂は物足りないが塚田あたりはそろそろ結果が出そうな予感も。左は周東、三森、川瀬、釜元とアピールが続いているので右打者の台頭を期待したい。アラフォーとしてはまだまだ内川聖一に頑張ってもらいたいのだけれど。内川聖一が若手を退けながら、衰えを一定受け入れながら、いかに次のステージに歩を進めるのか、2019年シーズンは非常に興味深い。


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