黒柴スポーツ新聞

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陰での努力を怠らない~ソフトバンク栗原陵矢、スタメン奪取後も慢心せず

こたつ記事、という言葉がある。読んで字のごとく、現場に行かずにお手軽にまとめた記事のことだ。まぁわが黒柴スポーツ新聞も一切現場には行ってないがホークス戦についてはradikoDAZNを活用して「取材」はしている。そこにスマートニュースのアプリと西日本新聞の情報を加味して、黒柴スポーツ新聞編集局長なりの見解を交えて書いている。もちろん趣味の域を出ないので職業倫理を問われるわけではないのだが。これでも元新聞記者。趣味の域を出るくらいの推敲はしている、かもしれない。愛情を込めてこのコラムを書いているが、やはり現場には勝てないなと思わされた記事があった。西日本スポーツの石田泰隆さん記事「歓喜の30分後グラウンドへ…心打たれたソフトバンク栗原の姿」だ。

歓喜、とは8月26日のオリックス戦で中村晃が放ったサヨナラタイムリーを指す。まさにホークスファンを小躍りさせる、殊勲の1打。27日の西日本新聞スポーツ面には一塁から二塁に向かう、疾走感あふれる中村の写真が掲載されている。後方にはナインが打球の行方を見ながら総立ちのソフトバンクダグアウト。盛り上がりが伝わってくる。代走牧原が一塁から長駆、ホームイン。ソフトバンクは4連勝となった。ナインもファンも余韻に浸りながら帰ったかと思いきや、激闘の30分後に栗原陵矢がグラウンドに現れたという。はて?

もちろん選手が居残るとしたら理由はアレしかない。
栗原も整備が行われる本塁横を通り過ぎ、三塁ベース横も通過していった。そこでようやく察しがついた。それから間もなくして、左翼ポール下まで歩を進めた栗原が力強くバットを振り抜いた。さらに一歩歩いて1スイング。さすがにバックネット後方にある記者席までスイング音は届かなかったが、約30分かけて右翼ポール下まで歩きながらの素振りを繰り返した」(前述の石田泰隆さん記事より)

一時期草野球に励んだ私も、高校野球経験者に教わってフェンス沿いを素振りして歩く練習をしたことがある。もちろん栗原の方が本格的なのだが、フォームの矯正が目的だったのだろうか。ボールも使わない、地道な練習である。30分前はサヨナラ勝ちの歓喜に包まれていたのだから、なおさらギャップがある。しかもそれをしているのが栗原という伸び盛りの選手。でもこういう記事を見ると、栗原がただの勢いで試合に出ているのではないと分かる。そしてまた応援したくなる。現場にいたからこそ取れるネタであり、かつ読んだ人の心をぽかぽかさせる。その熱量はこたつ記事の比ではない。何でもリアルタイムで速報できる時代ではあっても、陰で行われている努力に気付くかどうかは取材者の姿勢次第。そしてそういう人が書く文章にたどり着けるかは読み手のセンス次第だ。わが黒柴スポーツ新聞は速報では他メディアにかなわないとしても、洞察力とトリビアでは負けないよう精進していこうと気を引き締めている。栗原を見習って、地道に努力していこう。


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