黒柴スポーツ新聞

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勝負は最後まで分からない~明徳義塾9回2死から鳥取城北下す、甲子園特別試合

見終わってからも鳥肌が引かなかった。甲子園特別試合の鳥取城北明徳義塾。無安打ながら7回まで2対1と明徳義塾がリード。もらった四死球を、盗塁や犠打を絡めて得点する。気付いたらリードしている。まさに明徳野球の定番だ。しかし、エース新地が捕まり8回に手痛い4失点で2-5。試合の大勢は決まったかに思われたが8回裏に2点を返して4-5と1点差に。最後は4番新澤のサヨナラ三塁打で劇的勝利を収めた。

9回の攻防は見応えあった。先頭の代打竹下は三振に倒れるも、続く奥野が死球で出塁。奥野には盗塁が期待されたがなかなかスタートが切れない。2死になることを覚悟で2番合田に送りバントをさせるか、奥野を信じて走らせるか……馬淵監督からはどんなサインが出ていたのだろう? ドキドキしている間に合田は四球を選んだ。これで1死一、二塁。ここから主軸に回るが3番のキャプテン鈴木はいい当たりのセンターライナー。明徳の粘りもここまでか……と私は正直なところ諦めていた。さらに鳥取城北はピッチャーを、一度降板させたエース阪上に交代。土壇場でエース対4番の対決となった。どちらもチームメイトの思いを背負っている。特別な夏。意地のぶつかり合い。結果は…………新澤が会心の当たりを放った。「行ったぁ!」。私はホームランかと思ってイスから立ち上がったのだが、打球は外野手の頭を越えてフェンスまで。一塁ランナーと帰って来られるのか?と思ったが、ボールはホームに返ってこなかった。一塁ランナーが頭からホームに突入し、仲間と抱き合った。

輝け甲子園の星 2020年 08 月号

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  • 発売日: 2020/08/04
  • メディア: 雑誌
 

 

ダグアウトから駆け寄る選手の中に背番号1の新地の姿を見つけた。ここ一番で踏ん張れなかった新地。それは高知県での特別大会決勝でもそうだった。9回に決勝打を浴びて明徳義塾は優勝を逃した。優勝して甲子園での特別試合に出るという目標は果たせなかった。コントロールのよい新地が生きるのはバックの堅い守りがあってこそ。それが県決勝では3失策。足を引っ張ってしまった野手陣だったが甲子園では堅守を発揮した。そして最後の最後は4番がチームを救った。

 

特別試合が始まる前、NHKの番組で桑田真澄が言っていた。甲子園は卒業式なのだと。ほとんどの学校は負けて終わり、勝って終わるのは一校だけ。負けから何を学ぶか、優勝校は勝ちから何を学ぶかだと。2020年の夏は変則で、春に力を発揮できなかった学校の選手が卒業式をやりに来た。それぞれ1試合限定だ。その2時間半ほどの濃密な時間の中で、選手は様々なことを学ぶのだろう。サヨナラ打を放った新澤は、サヨナラ打を打たれた阪上は、それぞれ何を学んだのだろう。私は1ファンだから感想を持つだけなのだが、やはり勝負は最後まで分からない(だからこそ最後まで諦めてはいけない)ということ、そして勝利や敗北を分かち合える仲間の存在は財産だなとあらためて教わった気がする。1試合限定の特別なゲーム。時間の都合がつく限り、見届けようと思う。


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