グラウンドの借りはグラウンドで返す~習志野戦、サイン盗みとの星稜抗議に感じた違和感
「グラウンドの恥はグラウンドでそそぐ」
かつて巨人を率いた水原茂監督が残した言葉だ。昨日読んだ「三原脩の昭和三十五年」(富永俊治著)で見つけた。悔しい気持ちはそれを味わった所でこそ晴らすべき。そんな気概が伝わってくる。昨日センバツで習志野に敗れた星稜の林監督は、水原監督のような心境にはなれなかったのか。
星稜高校野球部―「第3期黄金時代」の幕開け (B・B MOOK 1214 高校野球名門校シリーズ 10)
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4回の習志野の攻撃中、林監督がセカンドランナーの動きを不審に思った。その指摘を受けて審判団が協議したが試合はすぐ続行された。林監督は習志野が1回戦からサイン盗みをしていたという心証を抱いていた。というか、映像があるような発言も試合後にしていた。
それはあろうことか、試合後の習志野控え室で、だった。0-3で敗れた林監督は習志野の控え室を2度も訪れた。「フェアじゃない」。その一心だったと推測する。もっと言えば林監督は石川県民&星稜関係者の期待を一身に背負う立場。林監督なりの精一杯の誠実な対応だったのかもしれない。だがはっきり言ってやりすぎだ。
星稜にしてみれば同世代最強、プロ注目の豪腕・奥川恭伸を擁して、今度こそ全国制覇をと意気込んでいたことだろう。それがまさかの3失点。打線は習志野の継投を前に1得点に封じられた。
だが試合後の騒動に関してネットニュースのコメントでは星稜をかばうものは少数派だった。習志野の得点が、奥川の投球に食らいついたタイムリーだったり、力負けしないホームランだったことが影響していると見た。サイン盗み疑惑の前に、星稜は力負けした、と見られていたのではないか。
私も4回の習志野の攻撃を見返してみた。セカンドランナーを常時映しているわけではないため、具体的に怪しい動きは分からなかった。なお、大会規則ではランナーがキャッチャーのサインを見て球種やコースをバッターにつたえることは禁止されている。
もちろんサイン盗みはフェアじゃない。日頃培った技術と精神力でしのぎを削ってもらいたい。野球は頭のスポーツでもあるから相手より何とか上回ろうと策をめぐらすこともある。でもやっぱりフェアプレーでなければだめだ。
今回の件に関して習志野OBの掛布雅之がTHE PAGE記事の中でコメントしているが、本当にこれに尽きる。少し長くなるが、引用させていただく。
「私自身が、プロ時代も、そういう野球を否定してきました。野球への敬意がない行為であり、自分自身の努力を台無しにする行為なのです。大原則として高校野球は、教育の場であり、何をしても勝てばいい、というものではなく、野球を通じて人としてのあり方、生き方を学ぶものです。サイン盗みはやってはいけない野球です。フェアプレーの精神、モラル、そして、そもそもなぜ野球をするのか、という理念を常に監督は選手に説き徹底しておかねばならないでしょう」
いかがだろうか。習志野をどうこう言う意味ではなく、サイン盗みはつまらない行為だ。一方、星稜からの抗議は別の形でやってもらいたかった。私が購読している新聞のスポーツ面には星稜の抗議が掲載され、奥川のサイド記事も写真も載っていなかった。たまたまかもしれないが、それだけでもすごく残念だ。
別に星稜の負けを恥だなんて言わないが、グラウンドの借りはグラウンドで返す。それが王道だ。あの習志野戦で負けたからこそ、と夏に一回りスケールアップして、星稜ナインにはまた甲子園に戻ってきてもらいたい。