黒柴スポーツ新聞

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超二流はここぞという時に何とかする~昭和35年大洋日本一のMVP近藤昭仁氏をしのんで

近藤昭仁氏が亡くなった。これに反応するのはなかなかのオールドファンかもしれない。しかし近藤昭仁の生き様、特に選手時代のプレースタイルはビジネスマンにもよいお手本になると思うので、ざっくり振り返ってみたい。



本日のテキストは富永俊治氏の「三原脩の昭和三十五年 『超二流』たちがはなったいちど限りの閃光」。三原率いる大洋ホエールズが奇跡の日本一を果たした1年を丹念に追ったノンフィクションだ。著者の富永氏は産経新聞の記者だった。三原脩の統率力&超二流たちの奮闘を描いており、ビジネスマンにはおすすめの痛快作だ。

近藤昭仁はその超二流の筆頭、代表格だ。新人ながら大洋のスタメンに抜てきされたのだが、当初は全く期待されていなかった。しかし同僚のセカンドも泣かず飛ばず。近藤昭仁は入れ替わる形で1軍に定着することになった。


セカンドはショートとのコンビネーションが大事だが、ペアを組んだのは近鉄からシーズン途中で移籍してきた鈴木武盗塁王にも輝いた実績の持ち主だが近鉄では巨人から招聘された猛牛・千葉茂監督とそりが合わなかった。干されていた鈴木武に目をつけた三原監督は獲得を申し入れ、ショートに固定した。

球際に強く、いぶし銀のバッティングをする鈴木武をお手本に近藤昭仁も勝負強さを発揮。トップバッターながら打点は40。下位が作ったチャンスをよくものにしたという。


規定打席に到達したのは天秤打法近藤和彦、中軸を務めた桑田武近藤昭仁の3人だけだったが、近藤昭仁は389打数88安打に過ぎなかった。打率は何と.226。一体何がすごいのか。


それはズバリ勝負強さ。この年近藤昭仁はホームランをたった4本しか打っていないのだが例えば6月1日に巨人を1-0で下した際の一発はプロ入り2本目だった。この日はチームメイトの鈴木隆が8者連続奪三振を記録した日でもあった。


大洋は8月23日からの中日戦で相次いでアクシデントに見舞われた。23日は五番のロングヒッター黒木基康が守備で転倒し鎖骨骨折。24日は桑田武死球で病院行きになった。何とか1勝1敗で向かえた25日の3戦目はホームランを1本も打っていない鈴木武を五番に据える苦しい新打線だった。ここで近藤昭仁はサヨナラ二塁打を放って2勝1敗で乗りきった。


近藤昭仁は大毎との日本シリーズでMVPに輝いたのだがシリーズではたった3安打だった。しかしそれは価値があった。第3戦ではサヨナラホームラン。下馬評を覆し大洋まさかの3連勝で迎えた第4戦では均衡を破るタイムリーを放ち、大洋がそのまま1-0で逃げきってしまった。


「成績そのものは15打数3安打2打点で、打率わずかの2割。たった3安打でシリーズMVPに輝くのは、異例中の異例である。だが、その2打点こそが近藤昭仁の真骨頂だった」(「三原脩の昭和三十五年」より)


そう、数ではない。インパクトである。ここぞという時に結果を残すのも、ビジネスマンが目指すべき姿の一つだ。近藤昭仁は体力がない自覚があった。だからこそ、いつもいつも目一杯やっていたらもたないのでここぞという時に「よーし、何とかしよう」と奮起した。それは技術以前の問題だったという。


ちなみに近藤昭仁が新聞の見出しになるような活躍をしたかったのには、別に大きな理由があった。好きな人がいたのだ。新東宝の看板女優、北沢典子。野球のことがまったく分からない彼女にアピールするために考えてたどり着いたのが、新聞に載るように活躍することことだったのである。ちなみに二人はめでたくゴールイン。恋愛面でも近藤昭仁は勝負強さ発揮した、というのが近藤昭仁を語る上で欠かせないエキスである。


いやはや、恋の力はすごい。男ってバカだなぁ、なんて言ってはいけません。好きな人のためならいろんなことができてしまうのです。それを三原監督ばりに上手に操るのが素敵な女性というものではありませんか?
魔術師―三原脩と西鉄ライオンズ

魔術師―三原脩と西鉄ライオンズ



「一人前というには力不足で『0.7』の実力しかない選手でも、それを二つ足せば『1.4』になって『1』の選手を上回る。つまり、選手個々の長所を適材適所で臨機応変につなぎ合わせたなら、一人の一流プレーヤーを上回る戦力になるというのが三原の考えである」(「三原脩の昭和三十五年」より)


超二流の代表選手が無類の勝負強さを発揮した近藤昭仁であり、このシーズンの大洋は超二流選手の宝庫だった、と富永俊治氏はまとめている。

一流になれればそれにこしたことはないが、そうでなくとも戦力にはなれる。何だか前向きになれるまとめだった。まもなく新年度。新たな気持ちで突入したいと思う。黒柴スポーツ新聞読者の皆さん、2019年度も一緒に前向きにやっていきましょう。

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