黒柴スポーツ新聞

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死闘から20年。いま松坂世代に注目する意味~「松坂世代」を読んで

1998年の死闘から20年。彼は日米野球の実況を担当していた。上重聡。元PL学園のエースにして、現在は日本テレビアナウンサーである。その実況席には松坂大輔がいた。この状況を感慨深く見た人も多かったことだろう。


今年、松坂世代は大きな節目を迎えた。象徴である松坂大輔ソフトバンクを戦力外になりながらも中日で再起を期した。全盛期の押しまくるピッチングは影を潜めたが、ランナーを背負いながらも粘りの投球。3年の未勝利からシーズン6勝と「復活」した。

プロ野球 復活の男たち (TJMOOK)

プロ野球 復活の男たち (TJMOOK)

一方で松坂世代の選手が相次いでユニフォームを脱いだ。98年夏の甲子園松坂大輔に挑んだ元鹿児島実業のエース、杉内俊哉松坂大輔と共に甲子園を制した元横浜高校後藤武敏。そして村田修一も、小谷野栄一も。松坂世代の現役プロ野球選手は確実に減っている。

そんな今だからこそ読んでほしい一冊がある。矢崎良一さんの「松坂世代」だ。

松坂世代 (河出文庫)

松坂世代 (河出文庫)

実はもう何年も前に買っていたのだが、読むタイミングを逃したまま本棚で眠らせてしまっていた。そもそもこの「松坂世代」という分かりやすいタイトル。松坂大輔の同級生であるプロ野球選手を並べて紹介する本だと思っていたので、急いで読もうとは思わなかったのが正直なところだった。

だが「松坂世代」の構成はそうではなかった。確かに木佐貫洋杉内俊哉といった、プロ野球でも名前が知られた投手も出てくる。しかしそれを上回るボリュームで語られるのが無名戦士たちである。そして高校野球ファンならば顔も名前も知っている懐かしい球児たちである。だが同時に痛感させられるに違いない。自分たちは彼らの胸の内をほとんど分からないまま名勝負を見せられていたのだ、と。

描かれるのが横浜高校PL学園など強豪校の選手たちだからこそ、進路は大学野球、社会人野球、プロ野球とさまざまである。端から見ればエリート街道、何不自由なく野球に打ち込めたのだろうと第三者は見ることだろう。しかしこの「松坂世代」には成功者も出てくるが、激しい葛藤も含めて、挫折や試練を味わう選手が何人も出てくる。それがそのまま作品の奥深さにつながっている。

続ドキュメント 横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たち

続ドキュメント 横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たち

冒頭紹介した上重聡もその一人だ。立教大学に進み、六大学野球完全試合も成し遂げた。それだけに日本テレビのアナウンサーになったことを知った時は心底驚いた。もう野球はやりきったのか?と疑問も湧いた。この大きな決断の背景も「松坂世代」には丁寧に描かれている。

後藤武敏引退試合横浜スタジアムでの中日戦。引退セレモニーでは盟友・小池正晃松坂大輔が花束を贈った。その流れで、背広姿の彼を見つけた高校野球ファンも多かったはずだ。横浜高校松坂大輔とバッテリーを組んだ小山良男。現在は中日のスカウトだという。個人的には「松坂世代」でこの小山と上重の章が特に心に残った。松坂世代は皆、追い付こうとしたかしないかに関わらず、松坂大輔に影響を与えられた若者たち。その筆頭が上重と小山に思えた。

松坂世代」は2006年の発売だからまだ松坂大輔メジャーリーグで活躍するくだりはない。そして日本球界復帰後に長期離脱することも書かれていない。稀代のスーパースターであってもプロ野球人生の締めくくりを難渋するのだなとさえ思った。それでも、松坂大輔松坂大輔だった。中日で勝ち星を付けるごとにテレビが報じた。個人的にはソフトバンクファンゆえに松坂大輔が勝つことに複雑な気持ちになるかなと思っていたが、とにかく勝ってくれたらいいかなと受け止めていた。やはり松坂大輔は多くのファンにとって特別な存在なのだ。

ともあれ、松坂大輔がまばゆいばかりに輝いた1998年から20年の歳月が過ぎていた。日米野球で来日したナショナルズのソトは1998年生まれ。これには上重も松坂も苦笑するしかないだろう。「人生の勝利者たれ」。横浜高校を率いた渡辺元智監督の教えだ。上重も松坂も世間的には勝ち組なのだろうが、渡辺監督に言わせれば勝ち組と勝利者は違うのかもしれない。そして、勝利者だったかどうかは死ぬ間際に初めて分かるのかもしれない。その意味では上重も松坂もまだ道の途中にいる。

人生の勝利者たれ

人生の勝利者たれ

日米野球上重聡と共演を果たして数日後の11月12日、松坂大輔は2018年度のカムバック賞に選ばれた。入団以来3年連続最多勝を成し遂げた松坂がまさかカムバック賞を取ることになるとは、と思ったファンも多かろう。しかしそれこそが20年という歳月の証しでもある。

1999年の松坂大輔 歴史を刻んだ男たち

1999年の松坂大輔 歴史を刻んだ男たち



松坂はまだ現役だが盟友たちは指導者の道を歩み出している。筆頭は楽天監督の平石洋介。それだけでもビッグニュースだったが現役を引退した小谷野栄一後藤武敏もコーチとして楽天入りした。それがどういう意味なのかは、ぜひ「松坂世代」を読んでじっくり味わってほしい。

今まで数多くの野球のノンフィクションを読んできたが、丁寧に一人一人の胸の内を描いたという意味では最高峰と思う。この一冊があるだけで、さんざん見てきた横浜対PL学園の死闘がさらにドラマチックに見えるはずだ。そして奇しくも松坂大輔と同学年でいた球児たちを応援したくなるだろう。この本は周りに影響を受けながらも自分らしく生きる尊さを教えてくれている。ぜひご覧ください。
松坂世代 (河出文庫)

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