黒柴スポーツ新聞

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信じる力〜甲斐拓也が岩嵜に送った激励のシグナル

甲斐は立ち居振る舞いが大人びてきた。風格さえ漂い始めている。日本シリーズ4連覇中だから当然かもしれない。この日、5月19日の西武戦では大事な局面での落ち着きが頼もしく見えた。それは5-5で迎えた8回2アウトの場面だった。

ランナー1塁、バッター木村。2ストライク目に決まったかと思われた外角低めの球はボールと判定された。これで2ボール1ストライク。じわじわ苦しくなってきたところで甲斐は時間をぜいたくに使った。木村はもうスタンバって打とうとしていたが、甲斐は立ち上がってホームベースを越えてマウンド方面へ。右手で「ツーアウトだぞ」とジェスチャーした。そして再び本塁側に戻った。しゃがむと岩嵜翔を指差した。やればできる、抑えられる、と。そして指差した後、ゲンコツを握り、心臓の辺りを軽く二度叩いた。「いける、抑えられる」と。

その激励のシグナルを受け取った岩嵜の表情は落ち着いていた。手痛い一発を浴びた、いつぞやの、焦りというか自信なさげな表情ではなかった。一呼吸おいて岩嵜が投げ込んだのは153キロのストレート。木村はかろうじてバットに当て、ファウルチップが球審小林のマスクを直撃。「素人は立ってられないですよ」と松沼兄が解説した。続いて甲斐は外角低めに要求したが、岩嵜の球は高めに行ってしまった。だが球威に押され木村のバットは空を切った。甲斐は上等だと満足げに、岩嵜を見ずに帰りながら、拍手をするように右手で何度かミットを叩いた。

やみくもに「強気で来い」と言うだけがキャッチャーではない。「信じている」、そんなシグナルを甲斐が送ったように見えた。そして岩嵜はそれに応えた。これぞバッテリー。仲間の力を信じて引き出す。背番号19が日に日に存在感を増している。


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