黒柴スポーツ新聞

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川島慶三、代打逆転サヨナラ打でチームメイト救う〜ベテランが元気なソフトバンク

彼の打席はいつも劇的である。
川島慶三。2021年シーズン、最初の打席は劣勢の9回裏、2死満塁で回ってきた。最初の球を見逃し、次はファウルであっという間に追い込まれた。しかし、落ちる変化球を辛うじてバットに当てた辺りから徐々に川島のペースになってきた。

この日はすごい試合であった。ホークスが先制するもロッテに逆転されて2-3となり先発和田毅は降板。松田宣浩のエラーが致命傷になった。それを帳消しにしたのは8回裏のデスパイネによる2ランだったが、9回表2死から岩嵜翔が菅野に逆転2ランを喫する。まさにカウンターパンチ。応援するこちらもへたりこんでしまったが、9回裏1死から代打長谷川がヒットで出塁。2死となりさすがにこれまでかと思ったら開幕から神がかっている今宮健太二塁打でチャンスを拡大。当然柳田悠岐は敬遠…という流れで川島慶三は打席に立ったのであった。

逆転までは望まないからまずは同点に…と祈っていたが2ストライク。もはやこれまでかと諦めかけたが外角の球に川島が手を出すと打球はライト線近くで弾んだようだ。スマホの小さい画面でDAZNの中継を見ていたから打球までは追えなかったがアナウンサーが絶叫していて、セカンドランナーの今宮が戻ってきたのが見えた。サヨナラ。井口監督が映ったが視線は宙をさまよっていた(そらそうなるわな)。対照的にセカンド辺りでは川島慶三がもみくちゃにされていた。その光景はDeNAとの日本シリーズでサヨナラ優勝決定打を放った時を彷彿させた。

「あの2人(松田と岩嵜)を救ったのは僕です」とヒーローインタビューでアピった川島慶三であったが決してディスったわけではない。試合に出てりゃミスもある。そこをフォローするのがチームメイトであり、そうやって勝つんだよと言わんばかりである。ヒーローインタビューで川島の鼻はふくらみっぱなしに見えたが、この日はご両親ご親戚が生観戦していただけにやむを得まい(そらそうなるわな)。とにかく川島には殊勲打を放たねばならない理由がいくつもあったのである。

このコラムを書くに当たりいくつかネット記事を見たが日刊スポーツの写真を見て気が付いた。殊勲の川島慶三に最初に抱きついているのは長谷川じゃないか? 打席では目を見開いて集中し、アナウンサーに「打席に飢えている」と言わしめた長谷川。カウント0-3から狙い澄ましたように打って出て出塁した長谷川は、代走を送られてベンチに退いていたはずだが川島の一番近くにいる。一塁ランナーだった柳田と、凡退してベンチに下がっていた俊足周東よりも速く川島に飛びついていた。そういえば前述のサヨナラ優勝決定打の際、川島に向かって内川聖一が猛ダッシュしていたっけ。熱い瞬間のベテランの走力はすさまじい。

ベテランになると熱くなるのは少々気恥ずかしいものだ。しかしソフトバンクのベンチはベテランが喜怒哀楽をはっきり表している。チームメイトの活躍をわがことのように喜んでいる。そういうチームは強い。降板した和田が引き揚げる際に松田に声をかけ、試合後には川島が被弾の岩嵜と抱擁する。松田も岩嵜も心に機するものがあろう。若手の成長が楽しみなソフトバンクではあるが、やっぱり元気なベテランから目が離せない。


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