黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

言われなくてもやる~高谷裕亮は鷹のアンサング・ヒーロー

言われなくてもやる。これができたら確実に誉められる。8月12日のオリックス戦で、高谷裕亮が送りバントを決めた。1死一、二塁。サインは出ていなかったらしい。工藤監督が誉めていた。
サインは出してないです。出そうとはしてたんですが、初球から(バントに)構えて、意図を持って打席に入ってくれていたので任せました。相手がいい投手なので、そうチャンスはないし、前の回のチャンスでも点が取れてなかった(1死一、三塁から併殺)ので、その辺はさすがベテランだなと思うところはあります。これもチームのことを考えた素晴らしいチームプレーだと思います」(2020.8.13 Full-Count記事、鷹ベテラン高谷が好リード&先制打お膳立て 工藤監督絶賛「コーチの域に達してきた」より)

高谷に柳田悠岐並みの長打力があればここで送りバントはない。でも高谷には気遣い、心配りができる長所がある。ここは手堅く送って松田に何とかしてもらおう。そんな心境ではなかったか。その思いを十二分に汲み取った松田宣浩は見事、2点タイムリーを放ち勝利を決定付けた。

お立ち台には和田毅松田宣浩が上がった。和田の持ち味を引き出したり、タイムリーのお膳立てをしたのは高谷なのだが、高谷は呼ばれなかった。でもきっと高谷はお立ち台に上がりたいなんて思ってプレーする人ではない。まさに高谷は縁の下の力持ちなのだ。私はそんな高谷の控えめさが好きなのだが、たまには誉めてあげてほしいと思う。だからこそ、工藤監督が高谷についてきちんと働きを認めてくれたことがうれしかった。

55歳の自己改革

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アンサング・ヒーロー、という言葉を初めて知った。内田樹さんが書かれていた。
「誰かがしなければいけないことがあったら、それは自分の仕事だというふうに考える人のこと」だそうだ(2019.9.3 内田樹の研究室、道徳について より)。内田さんは例で雪かきを書かれていたが、雪かきをした人が作業を終えて帰る。その道を通る人は恩恵を受けつつも普通に歩けていることに疑問を持たない。ゆえに雪かきをした人は称賛されない。アンサング・ヒーローは頑張りに気付きもされない。気付きもされない、と書くと少々大げさなのだが、高谷は甲斐から引き継いで試合終盤だけマスクをかぶったり、控えのまま試合が終わったりすることが多い。試合に出なければいないのと同じなのがプロ野球の世界なのだが、じゃあもし高谷がいなかったら? 甲斐に代打も送れない。甲斐はこれまで以上にけがに気を付けて慎重になるだろう。だって代わりはいないのだから(九鬼という若い後継捕手はいるけれど)。まさに高谷は雪かきをした人状態なのだ。高谷が送りバントを決めた結果、松田宣浩のタイムリーが飛び出した訳だが、やはりクローズアップされたのは松田宣浩なのだ。

とはいえ、Full-Countや西日本スポーツはしっかり高谷の送りバントにフォーカスしてくれた。さすが。川島慶三二塁打、周東が四球を選び、高谷が送って松田宣浩イムリー。この流れがホークスファンにはたまらない。ホークスはこういうチームプレーで勝つチームなのだから。アンサング・ヒーロー、高谷裕亮。選手層が厚いホークスでいぶし銀の活躍をしている。言われなくても、やる。私も高谷を見習って、言われなくてもやる人にならねば。


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