黒柴スポーツ新聞

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10回裏二死満塁フルカウント…大ピンチ脱した板東湧梧が手に入れたものとは

地味ながら面白かったソフトバンク対ロッテの首位攻防(8月19日)。ソフトバンクは崖っぷちまで追い込まれながら、ギリギリのところで首位をキープした。何せサヨナラ負け寸前、10回二死満塁カウント3ボール1ストライクまで追い詰められたのだから。大方のソフトバンクファンは負けを覚悟したに違いない。そこから板東湧梧がよく踏ん張った。一つストライクを奪うもなおフルカウント。ファウルを挟み、頬を紅潮させた板東は汗をかいていた。そして…………外角いっぱいに決まった、あれはカットボールだったのか? しぶといロッテ清田育宏のバットが空を切り(と思わず書いてしまいましたが実は手が出ず見逃し三振←訂正します!)、熱戦は引き分けで幕を閉じた。

若い頃の苦労は買ってでもせよ、という言葉がある。金出してまで苦労する人なんているのか?奇特な人だなと思うが、板東の渾身のピッチングを見て思った。金を出して苦労を購入するかどうかは別として、若い時にピンチを乗り越えたことは必ず自信になる、と。今後板東が先発になるのか中継ぎになるのかは分からない。しかし、どの立場になってもピンチはいずれ来るだろう。その時、「あの大ピンチを克服できたのだから」と思える経験があるのとないのとでは、落ち着き方が変わってくると思う。

そして結果と同じくらい大事なのが、ピンチの時逃げずに立ち向かえたかどうか。もしも板東が押し出しを献上しサヨナラ負けを喫していたら、負け投手になると同時に心に深い傷を負っていたはずだ。リリーフピッチャーとしての資質にも関わる深い傷を、だ。ベテラン清田は緊迫した場面で打席を外した。場の空気が一瞬緩んだし、そこからまた板東は気持ちを、集中力を高めなければならなかった。そんな細かい駆け引きにも板東は根負けしなかった。なぜか分の悪い敵地マリン。アウェイの観衆の手拍子。うだるような暑さ。その中で板東は踏ん張った。「よくやったよ」。そんなトーンで甲斐はミットを右手で叩き、マウンドを降りた板東の背中もトントン叩いていた。先日手痛いエラーをした川瀬の頭を柳田悠岐がポンポン叩いて話題になったが甲斐の背中トントンも優しさがにじみ出ていた。「あの一球を投げきれたのだから」。板東はピンチを乗りきったことで、金を出しても買えない自信と経験をゲットしたと思う。


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