黒柴スポーツ新聞

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結果を残した人ならではのギャップ~内川聖一が密かに抱いていた危機感

ヒーローインタビューで内川聖一の目が潤んでいたように見えた。そして私も泣きそうになった。アラフォーには痛いほど分かるベテランの胸の内。稀代のヒットマン内川聖一でもこんな心境になるんだな、と少し驚きもした。

 

無理もない。前日の西武戦では16安打16点の大勝だったが着火したのは初スタメンの若手、三森大貴(猛打賞)と周東佑京(プロ初ホームラン)。だめ押しで美間優槻までプロ初ホームランを叩き込んだ。

 

きょうのオリックス戦でのお立ち台。「若手の活躍に刺激を受けた部分もあったんでしょうか」とふられた内川聖一は答えた。「若い選手の活躍を頼もしいと思う半面、自分がどんどん弱くなっていくような気がして。負けちゃいけないなと思いましたし……まぁ、よかったです」

 

内川聖一が若干声を詰まらせたところにソフトバンクファンがわーわー声援をかぶせるもんだから内川はますます感情が高ぶったように見えた。2000本以上ヒットを打った人でもこんなになるんだな。

 

いや、結果を残した人だからこそ、衰えに対する恐怖が生まれるのかもしれない。ピーク時のレベルが高ければ高いほど、どん底とのギャップが激しいのだろう。このあたりは結果を残した人にしか分からないつらさだ。

 

だがそこを打ち破るのもまた己でしかない。打席に入る際、内川は「奇跡が起きないかな」とさえ思ったという。そうしたら本当に奇跡が起きたとおどけたが、奇跡を起こしたのは内川聖一のバットにほかならない。忍び寄る衰えを振り払うかのような、鬼気迫るスイング。久々に見た内川聖一らしい鋭い打球だった。

 

そう、どん底に落ちたのならバットを思いっきり振るしかない。もちろんやたらめったら振り回すのは体力の無駄だ。しかし狙いを定めたら渾身の力を込めて振り抜く。そうやって、うまくいかないかも、という不安を一掃する。それしかないように思う。

 

不振の内川が弱気になったと読める記事が東スポに出ていた。あまりに打てなければ内川とて引退を考えるのかと思ったが、それはプロ野球選手である限り避けては通れない。内川が現役を続けたければ打ち続けるしかない。分かっているからこそ、内川は若手の成長に危機感を覚えたのだろう。

 

実際、ソフトバンク投手陣は一足先に相当若返った。一時代を築いた攝津正、五十嵐亮太寺原隼人は2018年シーズンをもって戦力外に。2019年はドラフト1位の甲斐野、奥村が早速結果を出した。そしてきょうは泉圭輔がプロ初勝利を挙げた。泉の背番号53は五十嵐が背負っていたものだ。ソフトバンクは五十嵐ではなく新しい選手に背番号を託した。五十嵐をリスペクトしていないとかそういうことではない。組織としての新陳代謝である。

 

内川聖一はスタメンを外れることになっても現役を続けるだろうか。いわゆる代打の切り札的な立ち位置をよしとするのか。そこを危惧している。内川聖一の勝負強さは天下一品。代打でも十分相手には脅威だと思うが、きょうのあの自分の追い込み方を見ると、やめるときはスパッといきそうな気がする。

 内川家。

 

内川家。

 

 

もちろん私は1日でも長く内川聖一の打撃が見たい。だがそれ以上に納得できる現役生活であってほしいと思う。きょうの一打が復活ののろしであってほしいと願う。世間的には初勝利でキラキラ感満載の泉圭輔で記事がわんさか出そうな気がするが、私はヒーローインタビューを見た瞬間、きょうは内川聖一のことを書きたいと思った。内川はまだまだ人の心を「打つ」ことができる。経験と熟練の技で若手とガチンコの勝負を繰り広げてもらいたい。

 

 


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