黒柴スポーツ新聞

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運命の分かれ道でどう振る舞うか~ヤクルト田川賢吾、弾まなかったセカンドゴロ

ヤクルト対巨人が珍しく地上波で中継されていた。最近スマホDAZNを見る機会が多いので、テレビ画面が大きいと感じてしまったのだが、そこに田川賢吾が登板していることに気が付いた。

 

私はヤクルトファンではないのだが、彼が高知中央高校という非甲子園常連校からプロ入りしたことは知っていた。2012年のドラフト3位。高い評価に驚いた。ヤクルトには一時代を築いた岡林洋一という元エースのスカウトがおり、球団と高知県勢の橋渡し役をしてくれている。田川もおそらく、岡林洋一という橋を渡ってプロの世界に入ったのだろう。

 

カネボウ1993 プロ野球ガム No.026 岡林洋一
 

 

 

だが勝負はそこから。結果を出さなければプロでは生きていけない。この日の中継副音声はザキヤマ谷繁元信とヤクルトびいきの磯野貴理子だったのだが、ザキヤマと谷繁が「プロで一本もヒットを打てずにやめる人はいっぱいいる」と話していたら磯野貴理子は「え?」と信じられない様子だった。

 

谷繁流 キャッチャー思考 (当たり前の積み重ねが確固たる自信を生む)

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田川は打者ではないからヒットを打てずに、ではなく「1勝もできずに」引退しそうな局面が何度もあったらしい。田川クラスの選手はいっぱいいるからメディアが詳しく報じることはない。ドラフトから7年もたったし、田川賢吾という名前を忘れていた。

 

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だが田川は育成契約を経験しながらついに2018年、1軍の試合で登板していた。育成経験ありと言えば今年楽天の1軍で投げている石橋良太(明徳義塾高校出身)もそう。復活組が踏ん張る姿には心を揺さぶられる。

 

そして田川賢吾は地上波中継される中、豪華絢爛な巨人打線と対峙していた。田川が投げていると気付く前にまず丸佳浩がホームランを浴びせていた。それでも2アウトまでこぎ着けた。そしてセカンドゴロが山田哲人の元に飛び、このイニング終了、と思われた。

 

だが思ったほどゴロが弾まず、山田哲人のグラブには打球が入らなかった。イニングは終わらず打席には四国アイランドリーグ出身の増田大輝が入った。もしもセカンドゴロがさばかれていたら増田のこの打席はなかったし、田川は何とか巨人打線を乗りきれたはずだった。だが増田はこのチャンスをものにしてタイムリーを放った。

 

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田川は小林にもタイムリーを浴び結局4失点。もちろんヤクルトベンチは山田哲人のゴロ捕球失敗を見ているからすべてを田川に背負わせはしないだろう。しかし田川の4失点は消しゴムでは消せない、油性ペンばりにはっきりと残る失点になってしまった。何度も登板機会が保障されているわけではない田川クラスの選手にとっては一回一回の登板が勝負。あの弾まなかったゴロが何ともうらめしい。

 

一方であのあたりが人生の分かれ道なんだな、とも思う。もしもあの時あの人に出会っていなければ、あの会社に入っていなければ、あの仕事を任されていなければ、あの現場にいなければ、なんて機会は誰にもある。好機ならそこをどう生かすか。ピンチならどうしのぐか、だ。

 

ヤクルトベンチは田川が打たれても交代はさせなかった。最終回だったし、点差もあったから今さら次のピッチャーをつぎ込む選択肢もなかっただろう。しかし田川は打たれながらも何とか巨人打線をしのいだ。任されたイニングを投げきったのは数少ない収穫だった。

 

 

 

3度のトリプルスリーを達成した山田哲人にとっては痛みの少ない捕球失敗だが田川にはダメージが大きかった。しかし仮に山田哲人が無難にアウトにしていても、田川に実力がなければいずれ打たれてしまうことだろう。田川が巨人打線に捕まったのはやはり今の実力ということ。失策はあり得ることだから、ピッチャーはピンチをしのぐ力を持っておかねばならない。そこはまだまだ足りない田川ではあったが、できればヤクルトには田川の実力を伸ばす機会をまた与えてあげてほしいと思う。


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