黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るシーンやプレーヤーから生きるヒントを探ります。

マネジメントを学ぶ人におすすめ。超二流を率い日本一になった「三原脩の昭和三十五年」

残業は少ないに越したことはない。しかしもうちょっとやればいい感じになりそうということはある。そういう時は素直に流れに身を任すことにしている。同じ居残りでもただ昼間の作業が終わりませんでしたでは芸がない。


いい流れ以上に野球選手にも全盛期なりピークなり、もっと瞬間的なゾーンに突入することがあるのだろう。打撃の神様川上哲治はボールが止まって見えた。大洋の捕手、土井淳は絶好調の時にベース付近の空気が光って見えたという。そこに投げて盗塁を阻止していたのだ。このクラスになると素人には立ち入れないが、黒柴スポーツ新聞編集局長もいい感じで仕事のアイデアがわく流れを感じることはある。


土井淳を調べようと富永俊治氏の「三原脩の昭和三十五年」を読み返した。面白くて一昼夜で読み終えた。ブログ更新が遅れた理由の一つがこれである。


富永俊治氏は出版当時、産経新聞の運動部編集委員。オワコンだなんだと言われる新聞だがさすが記者の文章、分析は秀逸。何よりそう題材にならない三原大洋で一冊書こうという意気込み、着眼点にうなる。登場人物である元選手の鈴木武でさえ「そんなもん本にしたって、だれも読めしまへんで」と言っていたという。しかし鈴木武はうれしそうだった。


この本は組織のマネジメントを学ぶのにも最適。ぜひ読んでほしい。この年の三原大洋は6年連続セ・リーグ最下位に甘んじていたチームの並の選手を「超二流」にして日本一になった。その勝因が描かれている。黒柴スポーツ新聞編集局長のように、半沢直樹下町ロケットを楽しんで見ていた人はドはまりすることだろう。


並の選手ばかりといってもエースとキャッチャーは一流だった。キャッチャーは若き土井淳。同学年の明大エースだった秋山登は大洋でも大黒柱。簡単に言えば投手陣はマー君がいたころの楽天だった。その秋山登が開幕戦開始直前に相手コーチのノックバットが顔に当たって入院。ドラマの第1話としては視聴率が取れるオープニングだ。大洋は開幕6連敗をしてしまう。



三原脩は投手陣を建て直す。右投げの若手・島田源太郎を抜擢。サウスポーで28連敗男の権藤正利は自信を失い引退宣言したのを思いとどまらせ食生活から改善させ再生。負けん気の強い鈴木隆は説得してリリーフに配置転換した。基本は長所を伸ばす戦略。というよりやりくりせざるを得ない戦力だったのだ。


野手も計算できたのは近藤和彦と4番の桑田武くらい。新人の黒木基康は長打に期待し5番とした。ショートは近鉄で干されていた元盗塁王鈴木武をトレードで獲得。セカンド近藤昭仁の台頭で二遊間(打撃では1、2番)が固まった。


もともとショートの麻生実男は打撃を生かして代打専門に。もう一人のショート、浜中祥和は守備のスペシャリストにした。鈴木武効果である。人事異動はこうあってほしいものだ。



もろもろの配置転換を三原脩はシーズンを戦いながらやっていった。負け犬根性も払拭させながら。



本を読んでいて気付いた。この年序盤戦の大混戦は2016年に似ているのだ。順位表を並べてみる。

2016年6月4日現在
1巨人28勝24敗
2広島30勝26敗
3阪神28勝27敗
4DeNA27勝27敗
5中日26勝28敗
6ヤクルト25勝33敗


1960年6月6日時点
1中日27勝23敗
2巨人24勝24敗
大洋23勝23敗
広島21勝21敗
5阪神22勝23敗
6国鉄22勝25敗


この展開だと今年は大洋の遺伝子を持つDeNAが優勝したりして…



さて、大洋は夏場の大事な頃、8月11日に島田源太郎が史上6人目の完全試合。20歳11カ月での快挙だった。だがドラマの視聴率が上がるエピソードがまた放り込まれる。8月23日に黒木基康が捕球の際転倒し鎖骨骨折。5番が全治1カ月…。さらに4番桑田武が24日に投球をひざに受け病院行き。ただしこれは半月で復帰できた。大洋の優勝までにはドラマチックな展開が目白押しだったのだ。

最終的には三原大洋が優勝。1点差試合は33勝17敗。2位巨人の22勝25敗とは対照的だった。この敗北で宿敵水原茂監督は巨人を去る。大洋優勝翌日の新聞には水原茂監督のカメラマン暴行疑惑が掲載される。このあたりもドラマチックだ。



別に若い監督を否定しないが、2016年は采配が話題になる試合が少ない。三原脩監督の大胆な投手器用(3回、下手したら1回に先発交代)まではいかなくともうならせる選手器用、抜擢が見たいものだ。


なお著者、富永俊治氏の勝負強さはすごい。本が出た1998年に横浜ベイスターズが38年ぶりに日本一になったのだ。どこまでドラマチックやねんとあとがきを読んでつっこんでしまった。


本では大毎をすべて1点差の4-0で退けた日本シリーズのことも書いてある。ここも大毎の西本幸雄監督辞任などドラマだらけ。野球ファンはもちろん、企業経営者や現場責任者、管理職、あるいはいずれ管理職になるミドル世代にもぜひご一読いただきたい。もうベイスターズはTBSと関係が切れたかもしれないがぜひ富永俊治氏作品を原作に池井戸潤さんのアイデアを入れた上で日曜21時の枠でドラマ化してほしいと切望している。


※2017年8月24日追記
ベイスターズは広島相手に3試合連続サヨナラ勝ち。これは1960年以来だそうです。この年はセ・リーグ制覇。果たして2017年は……