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黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るワンシーンやプレーヤーについて綴ります。

猫ひろしを枕にニャンコ藤本修二のしなやかな変身に思いを馳せる

猫ひろしがマラソンのカンボジア代表としてリオ五輪に出場するという。前回五輪の時はこういうウケ狙いは嫌いだなと思ったが、いざ本当に出場が決まるとすごいなと思う。


で、このネタを枕にどんな記事が書けるかなと思ったが2秒で思い付いた。猫→ニャンコ→藤本修二

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ニャンコとは、藤本が2年目のキャンプ中、野良猫に餌をやろうとしてかまれ、つめははがれるわ傷口は化膿するわで、選手生命のピンチに陥ったことに由来する。


このエピソードは都市伝説的に聞こえるが、澤宮優著「打撃投手」にちゃんと載っていて、藤本がその話はもういいじゃないですかと否定していない。餌をやろうという気持ちは優しいが商売道具の右手を出さんでも…と思ってしまう。江川卓なら右手を出さないばかりか餌もあげなそうである。

打撃投手

打撃投手

意気消沈する藤本だったが一軍行きを行きを進言してくれたのは河村英文コーチ。河村と言えば黄金期の西鉄を詳細に描いた「西鉄ライオンズ 伝説の野武士球団」が素晴らしい。傑作である。河村は面白おかしく語るイメージだったのだが才能ある若手をきちんと評価する指導者だったのだ。

西鉄ライオンズ―伝説の野武士球団

西鉄ライオンズ―伝説の野武士球団


そして「打撃投手」で藤本が語ったのは山本穣というキャッチャーの存在。藤本が若手の時すでに現役は引いていたがコーチの指導はこういう意味なんだと分かりやすく説明してくれたという。


説明が遅れたが、念のために書くと晩年の南海で7勝、8勝、10勝、15勝と着実に力を発揮した藤本だったがダイエーへの身売りを機に暗転。以後、阪神、西武にも在籍するが事実上輝きは南海消滅とともに失われてしまった。それで阪神の打撃投手に志願したことから「打撃投手」に登場するのである。


一時はエース格にのしあがった人が他人をサポートする立場。しかも打たせない職業から気持ちよく打たせる商売と真逆になる。まあイメージでしかないが、定年退職しても会社の肩書きが抜けないと人って多そう。できる人ほど新たな居場所を自ら求めるイメージなのだが。そういう意味では藤本には妙なプライドがあるわけではなく、好感をもった。


とは言え完全に割りきれているふうでもない。仕事として割りきれないものはあるが、しがみついている。この辺の葛藤は藤本のくだりの名場面なので書かない。ぜひ「打撃投手」をご覧ください。藤本が澤宮氏と大阪球場に行くシーンもジーンとくる。


クライマックスの鳴尾浜で二軍の若手に投げるくだりもいい。いつまでも昔のままではいけない。変わらなきゃいけない時はくる。藤本のピッチングフォームの変化は人生を前向きに進む時に人が見せる進化のようだ。これを知ればもうニャンコとか軽々しく言えない。


黒柴スポーツ新聞編集局長はなかなか自分の価値観を広げられないが、変わらなきゃいけない時は柔軟にやりたい、そう考えさせられる本だった。本には裏方の思いがぎゅうぎゅう詰め、てんこ盛りである。裏方に目が行く心優しき野球ファンにはぜひ何らかの機会に手にとっていただきたい。