黒柴スポーツ新聞

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オレがやるという目をする~ソフトバンク千賀が首位攻防戦で今季初完投初完封

先日、「ソフトバンク、史上初の完投勝利なしVの可能性」(毎日新聞)という見出しを見つけた。そう、2019年のソフトバンクブルペン陣を総動員しているため、完投がなかった。それがついに止まった。8月2日に行われた日本ハムとの首位攻防ラウンド初戦で千賀滉大が気迫のピッチング。2安打完封を飾ったのだった。

 

所用でリアルタイムではチェックできなかったのだが、radikoで数時間遅れで聞き始めた時、一瞬、千賀が投げているような実況が耳に入った。終盤まで千賀が投げている展開ならソフトバンクが優位に試合を進めているに違いない、とソフトバンクファンの私はほのかな期待を、いや、相当の期待を抱きながらラジオ中継に聞き入った。

 

試合はソフトバンクが2点リードのまま9回へ。その前の8回、千賀は無失点に抑えたものの四球を二つ献上。9回は別のピッチャーが出てくるかと思ったが、アナウンサーが、千賀が最終回に向けてスタンバっている様子を紹介した。これはなかなか気合が入っているなとほくそ笑んだ。千賀はこの2試合、エースらしからぬ崩れ方をした。その結果、チームは苦境に陥った。この試合に懸ける千賀の意気込みは相当なものだったに違いない。

 

千賀は最終回にヒット1本を許したもののそのまま完封した。ヒーローインタビューで続投策について聞かれた千賀はこう言った。

「(続投について監督、コーチから)話はなかった。僕が『行く』という目をしていた」

これにはシビレた。

「行けるか?  大丈夫か?」なんて聞かれもしない。オレがやるんだ。その気迫が空気感として流れていたのだった。

 

負けた試合でも千賀はエースのプライドを見せるピッチャーだ。打たれはしたものの敢えてあと1イニングを投げきり、何とか反撃ムードの火種は残す。そういうことができる。だがこの試合では投げきることでチームに貢献しようとした。

 

この試合で勝つ意味は大きい。チームは直近の西武戦で負け越し、日本ハムとのゲーム差は1.5。首位攻防戦の展開次第で2位に転落する可能性がある。逆に初戦に勝てばこの3連戦中の首位交代はなくなる。ペナントレースを占う意味でも大きな節目の一つと言える、そんな試合だったのだ。実際、工藤公康監督はこう評価した。

「こういうところで期待に応えて、最高の投球をするのがエースの証明」(時事通信記事より)

野球を裏切らない――負けないエース 斉藤和巳

野球を裏切らない――負けないエース 斉藤和巳

 

 

 

まさにエースの証明だ。エースとはただ勝つだけではない。チームがピンチに陥った時でも何とかしてくれる、頼りになる存在だ。千賀にしてみたらオールスター明けの直近2試合で不甲斐ないピッチングをしてしまったことの罪滅ぼし、汚名返上の意味合いがあった。連日奮闘する中継ぎ陣を休める意図もあっただろうが根底には、次こそはやってやるんだという、自分との約束があったように見える。それが「行くという目」になったのだ。

 

サラリーマンだって、「この仕事頼みたいが、やれるか?」と聞かれる場面はある。やれるよね、と託される時もあるし、大丈夫か?というニュアンスの時もある。しかしやれる人はもう目付きで分かる。そういう目をしている。オレがやるんだという意思を持った目だ。逆に自信がない人は目をそらす。最近のライトな風潮なら「できません」と言ってしまう人さえいるかもしれない。目付きで闘志を表した千賀。当然のように完投完封した千賀。まさにエースであることを証明する熱投だった。


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