見てくれている人はきっといる~悪送球に備えカバーに走った高木守道とそれを見逃さずほめた別当薫監督
デキる人は気配りもできる。きょうは2274安打を打った高木守道が守備も密かに頑張っていた話から展開する。
高木守道は二塁手でベストナイン7回、ダイヤモンドグラブ賞を3回取っている。ここで問題。二塁手はどこを守るのか?
どっち寄りかは別にして一塁と二塁の間の延長線上に位置する。このあたりに飛んできた打球を処理したり、二塁に走ってくるランナーにタッチしたり、ほかの野手からの送球を二塁付近で受けてダブルプレーを完成させたりする。
だが高木守道は一塁手の後方によく走っていたという。そう、一塁への送球がそれた場合に備えカバーに走っていたのだった。
プロだから、草野球みたいにそう暴投はない。だが人間のやることに完璧はない。送球がそれたら打者走者は二塁に達してしまう。失点の危険性が拡大する。だがもし高木守道がカバー出来たら二塁への進塁は防げるかもしれない。高木守道はその可能性を増やしていた。
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カバーが報われることはそうそうあるわけではない。じゃあカバーなんてしなくてもいいじゃんと思うかどうか。そこは考えようだ。まさに保険。掛け捨て保険である。だが世の中はよくできている。確認しなかった時、あるいはちょっと目を離したすきにこそアクシデントは起きる。そしてそれは運が悪いことに致命的だったりする。今回のネタはベースボールマガジン社「中日ドラゴンズ70年 昇竜の軌跡」に収録されている高木守道と中利夫の対談がベースだが、高木守道自身が言っていた。そういうカバーに行かなかった時に限って悪送球だったりするんだよなあ、と。
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それが嫌だったのかどうか、とにかく高木守道は全力でカバーに励んでいた。ここである気持ちが浮かんでくる。「だれかこの頑張りを認めてくれないかな」。中日のフロントはその辺の評価が、高木守道的には足りなかったらしい。
うんうん、わかるなあ、その気持ち。高木守道とて別にほめられたいからカバーに走っているわけじゃない。あくまでもフォア・ザ・チームだから。二塁手として当たり前のことをしているだけだ。が、一人くらいこの頑張りを見ていてくれてもいいじゃないか…という気持ちにはなった。
そして運が良いことに「見ていてくれる人」がいた。なんと敵チームの大洋・別当薫監督だった。素晴らしいプレーだと言ってくれて連盟の特別賞をもらえることになった。サラリーマン的に言えば、ライバル会社の部長に「あの営業マンはなかなか頑張っとるやないか」と褒められて業界内で表彰されるようなものだ。
高木守道の名誉のために強調するが表彰されたかったわけではない。だれかに気付いてもらえたらうれしい、という話だ。肯定である。めんどくさ、と片付けてはいけない。人の気持ちなんてちょっとしたことで燃え上がるエネルギーになったりするのだから。逆につまらない一言でやる気をなくしたりする危険もあるのだが。
密かに頑張っている人は往々にして自分との約束を果たす意味で頑張っている。だがそこに第三者からの評価があればもっと頑張ることができる。あなたには別当薫監督のように「見てくれている人」はいるだろうか。たぶん一人くらいはいる。だから頑張っても意味がない、なんて卑下しなくてもいい。筆者には一人どころか4人心当たりがあり、心の支えになっている。
もちろんあなた自身が別当薫監督のように「見てあげている人」になってもいい。同僚や後輩にこつこつ頑張っている人はいないだろうか。いたらありのまま、「なかなかいいね」と評価してあげてほしい。きっとその人は、高木守道みたいに意気に感じてバリバリやってくれるはずだから。
※高木守道さんが2020年1月17日に亡くなりました。ご冥福をお祈りします。