ここ一番ではベストピッチを投げよう~元東映・高橋善正はなぜ完全試合ができたのか
あと一人、打ち取れば完全試合。自分はシュートが得意なピッチャー。しかしバッターはシュートを打つのがめっぽう得意。さあ、あなたなら何を投げますか?
私は思った。相手はシュートを打つのが得意なのだから、シュートを投げるのはやめておこうとするだろう。しかし実はもう、この時点で勝負はついているのかもしれない。
完全試合は過去15回しか達成されていない。プロ野球における奇跡の一つである。その稀有な達成者が高知県にいる。元東映フライヤーズ、元巨人の高橋善正さん。ここはあえて敬意を込めながら以下敬称略でいこう。とにかく思考がカッコいいのだ。
冒頭の設定は、高橋善正が実際に体験した場面だ。高橋善正著「情熱野球で勝つ『言葉の鉄拳』」を元に詳しく見てみよう。日付は1971年8月21日。場所は後楽園球場。対戦相手の西鉄・和田博実を打ち取れば完全試合を達成できるところまできた。
情熱野球で勝つ「言葉の鉄拳」 (ベースボール・マガジン社新書)
- 作者: 高橋善正
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キャッチャーの種茂雅之が出したサインはカーブ。和田博実がシュート打ちの名人だからだ。高橋善正もそれは承知していた。だが、高橋善正が選択したのはシュートだった。「おれはシュートピッチャーだ」という強烈な自負があったからだ。
実は過去に痛い失敗をしていた。8回二死までノーヒットに抑えながら、ピッチャーの鈴木啓示にヒットを打たれた。ノーヒットノーランを達成できなかったことよりも、シュートではなく甘いカーブを投じた自分が許せなかった。
よい結果を目指し、かつリスクを回避する意味では相手の苦手な球種を投げるのも悪くない。だが、高橋善正は意識していた。「自分の力を出し切りたい」と。
大事なのは自分の力を出すこと。結果よりも自分のやるべきことをやれたかどうか、である。(中略)オレは結果オーライよりも納得のいく仕事ができたほうを評価する。(情熱野球で勝つ「言葉の鉄拳」より)
もちろん今時、こんな評価をしてくれる上司や会社ばかりではない。下手したら「オレがリスク管理してやったのに無視しやがって」とさえ言われるかもしれない。自分を信じてやるからには、やりきること、勝ち切ること、逃げ切ることが大事である。
高橋善正は自分を信じて得意のシュートを投げ込み、フライアウトに打ち取って完全試合を達成した。忘れてはいけないのが、この必殺技だ。自分を信じられるようになるためにも、得意なものは伸ばさねば、極めなければならない。冒頭、私がリスクを回避しようとしたのは、まだまだ自分の必殺技を確立できていない裏返しでもある。もちろん密かな自負はあるのだが、高橋善正ばりに「打てるもんなら打ってみろ」と言わんばかりに誇示できるよう、腕を磨いていこう。
さて、あなたが完全試合、最後の一球に選ぶのはどんな球ですか?