強い人はここ一番に合わせてくる~ジャンプW杯44勝の高梨沙羅と4度目五輪で金のダン・ジャンセン
野球がオフシーズンになるとネタに困る。ラジオ、スマートニュース、購読している新聞。何かしら取っ掛かりがあればしめたものだ。ただしうまく構成できなければ下書きで終わり陽の目を見ないのだが。
きょうは新聞記事のこのくだりにビビビときた。
「本当の意味での強い選手は、ここぞという時に合わせていける能力がある」
発言の主は高梨沙羅。現在ワールドカップ44勝で、最多勝53勝が射程圏内だという。もっともそれは男子のシュリーレンツァウアーなのだが。
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記事を見てびっくりしたが高梨沙羅は2015年シーズン、17戦で14勝。もはや優勝が指定席。勝つのが当たり前になっている。
しかし高梨沙羅はソチオリンピックで金メダルを確実視されながらまさかの4位。五輪で勝つというのは簡単ではない。
強い選手はここ一番に合わせてくる。これを高梨沙羅が言うからリアルに聞こえるのだ。
ここ一番に合わせることを「ピーキング」という。
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2016年、リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックで日本中感動の風が吹き抜けたが、出場選手は皆、大舞台で力を出すべく「その瞬間」に向けてコンディションを整えていたのだった。
オリンピックは4年に一度だからシンデレラストーリーの主人公として五輪イヤーに鮮烈デビューする人を除き、年単位での調整が求められる。それをその競技の予選と決勝に合わせるのだからピーキングがうまくいく方が稀かもしれない。裏を返せばうまくいった人が勝者なのだ。本当に強い人はそれができる。それを高梨沙羅は言っているのだ。
これはスポーツ選手に限った話でもない。社会人も一緒。この商談、このプレゼン。デキる人はびしっと決めてくる。何ならとテレマーク姿勢を入れてくる人さえいる。余裕である。
勝負どころで力を発揮できる人とそうでない人、いったい何が違うのか?
一番違うのは自分を客観視できるかどうかではなかろうか? 勝負どころで入れ込むタイプの黒柴スポーツ新聞編集局長はピーキングが不得意だから、その逆で言ってみた。置かれた状況をもう少し冷静に見られたらそこまで慌てなかったのにな、なんて場面はよくあった。
勝負の時を前に調子が悪くても自分を信じられたら不安も感じずに済む。今調子が悪いだけで、本番はきっと大丈夫だと。だから焦らずに逆算して調整ができる。編集局長もかくありたい。
さて、大舞台でなかなか力を発揮できなかった選手の一人として有名なのが、スピードスケートのダン・ジャンセン(アメリカ)。2度目のオリンピック・カルガリー大会ではレース前に白血病でお姉さんが死去。動揺は隠せず500メートルも1000メートルも転倒した。
雪辱を期したアルベールビルオリンピックでは金メダルを確実視されながら500メートルで力を発揮できず4位。このまま五輪で勝てずに終わってしまうのか…。
最後となったリレハンメルオリンピック。またも500メートルで手をつき、ついに残るは1000メートルのみになった。
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実況アナ「大歓声はダン・ジャンセン。500メートルで、オリンピックで勝つ難しさを、またも味わいましたダン・ジャンセン」
号砲が鳴る。「両者いいスタートですよ」「最初のカーブ、ジャンセン、うまく回りました。ジャンセン、リードしています」
ちなみに同じ組の選手は日本の井上純一だった。
「さあ、残り1周です。43秒28。これは速い」
「ペースがちょっと落ちたか。ちょっと手も付いた。バランス崩した。ダン・ジャンセン、ここで立て直せるか」
「さあ、最後のカーブになる。オリンピック最後のカーブか」
「疲れが出てきた、ダン・ジャンセン。ふくらんだ。あと30メートル。最後の力を振り絞る」
「1分12秒43! トップに出たあ! 世界記録ダン・ジャンセン!」
今見ても感動する。オリンピックで3度メダルを逃しながら、最後の1レースで金メダル。最後の最後に勝負強さを発揮した。このあたりに、ピーキングが得意とは言えない黒柴スポーツ新聞編集局長は希望を持ってしまうのである。私だって、いつかは、いつかは……。
そのリレハンメルで12月2日から、ジャンプ女子のワールドカップが開幕する。高梨沙羅はこの冬、どんな活躍を見せてくれるか。追求するピーキングは上手くいくのか。応援しながら見守ろう。
きょうの1枚は、ウインタースポーツゆえに野球カードは無理だなあと諦めかけたがすぐひらめいた。ダン・ジャンセンの「D」「J」から「D・J」ことダグ・ジェニングス。いまフルネーム知りました。D・Jって勝負強かったか?と思いきやプロ野球タイ記録の4打席連続ホームランを打っていた。クリス・ドネルスという選手は略して「C・D」。DJだのCDだの音楽業界みたいである。