黒柴スポーツ新聞

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ひずみを見て見ぬふりしても何も解決しない~守護神・増井浩俊を配置転換した栗山監督の柔軟な発想

増井浩俊が9月9日の楽天戦で7勝目を挙げた。守護神から先発へと配置転換されたが、この6試合で4勝1敗。日本ハム首位浮上の原動力になったのは間違いない。

サラリーマンの世界でも上半期、下半期ごとに異動がある企業は除いて年度途中の異動はそう多くない。異動があった場合は本人なり社内的に「何か」あったと見るのが自然だろう。いったい増井に何があったのか?


増井は静岡高校から駒大、東芝を経て2009年のドラフト5位で入団。下のNPBサイトの個人成績を見てもすぐ分かるように、2~4年目はホールドを積み重ね、5、6年目はセーブを順調に記録。2015年は39セーブ、防御率も1.50と抜群の成績だった。
※参考 NPB増井浩俊成績 http://npb.jp/bis/players/81285131.html


7月10日の日刊スポーツ記事に、栗山英樹監督が増井の配置転換の意図を説明していた。日本一を取るために必要なのは先発投手をそろえることであり、21試合で3勝2敗10セーブ、防御率6.30と本来の働きが出来ていない増井自身のことも考えてのことだったという。
※参考 日刊スポーツ記事 http://www.nikkansports.com/baseball/news/1676274.html


勘ぐりすぎかもしれないが、増井の「何か」が狂ったのは2015年だったのではと思っている。39セーブ挙げているのにと思われるだろうが、思い出してほしい。2015年11月19日のプレミア12韓国戦、あの9回逆転負けのシーンを。増井はアップアップだった松井裕樹の後を継いでマウンドに上がり、3-2のスコアから李大浩に逆転2点適時打を浴びたのだった。

あの時は大谷翔平が7回まで完璧なピッチング。2番手、則本昴大も8回は悪くなかったが9回に捕まった。ノーアウト満塁での松井投入に黒柴スポーツ新聞編集局長はひっくり返りそうになったがやはり押し出し。火事の炎が大きくなってからの出動で増井は気の毒だったがもう流れが完全に韓国。しかも李大浩。タイムリーを打たれた後も秋山翔吾のファインプレーがあって何とか抑えたという印象だった。

守護神は抑えて当たり前である。大魔神佐々木主浩のように実績を積み上げていくと、佐々木がスタンバイしている時点で「もうだめかな」と思わすことができる。プロの抑えはそういうイメージ戦略も重要。だから江川卓は、豊田清がマウンド上でスーハーこれみよがしに深呼吸する動作を「弱気に見えるからやっちゃだめ」と言っていた。「おれが出てきたらもう打たせねえよ」くらいに思われないとプロでは気合負けするのだ。

2016年、調子がいまいちだったすべてが韓国戦に起因するわけではないだろうが、打ち崩せそうなイメージを持たれたのかもしれない。とにかく増井の不調は日本ハムのつまずきにつながった。


今から見れば栗山監督による配置転換案はファインプレーなのだが増井には大ばくちだったことだろう。ずっと抑えでやってきたわけで、守護神失格を言い渡されたとも見える。実際、増井は前述の日刊スポーツ記事で「悔しい」と語っている。優しい上司ならなおさら、本来の持ち場で復活してこそ本人のためになる、と配置転換は考えなかったかもしれない。

伝える。

伝える。


同じく7月10日配信のベースボールキング記事では、助っ人外国人のマーティンが増井の穴を埋めたことで配置転換は無理ではないと分析。さらに、増井がずっと投げ続けてきたことを考えると、先発として登板間隔をあけながら取り組むことで増井のコンディションが整いそうだとも見ている。的確な見立てである。
※ ベースボールキング記事 https://baseballking.jp/ns/79198


こうなるとあとは増井本人のモチベーションなのだが、この6試合を見る限り完全に切り替えができている。8月4日のロッテ戦では5回78球にとどまったが失点ゼロ。以後5試合は最低でも7回を投げ、球数も101~118球と十分先発としての役割を果たしている。しかも失点は最大で2。安定感は抜群だ。


DeNAの山口峻が抑えから先発になってまあまあ成績を残したが、配置転換は誰でもできるわけではない。そもそもローテーションが確立されて登板間隔があく先発と、毎日登板する可能性がある中継ぎ、抑えとでは調整方法が違うのだ。


ただし、増井本人は「先発は一度投げたら登板間隔があくので楽だ」とテレビインタビューで語っていた。何年もスクランブル態勢だった人からしたら当然だろう。


編集局長は「年度主義」が大嫌いだ。一回決めたし、まあ変えるのは来年度でいいんじゃない? このままで…という考え。確かに方針がコロコロ変わると現場は調子が出ない。しかし目の前でできたひずみを放置しても状況は変わらない。しかもそれが顧客にとって不利益なことならなおさらよくない。


人の配置もそうだ。明らかにその人に向いていないとか、無理があるという場合はすぐ対応しないと、本人も周りもいいことはない。適材適所とは本当にその通り。一人ひとりの力が合わさって仕事が進むのだから、変な話、4月のポジションと翌年3月のポジションが変わっていても、合理的な理由がありさえすれば何の問題もないと思う。


「いや 、途中で変えると本人が『失格』の烙印を押されたみたいだからさあ…」なんていうのは何の救済策にもなっていない。「日本一を取るためにどうすべきか」を突きつめた栗山監督、日本ハム球団の柔軟さが首位浮上の力になったと編集局長は見ている。


増井の復調が気になるのは、実はそういう観点から、なのであった。


といっても、増井がこのまま活躍してしまったらホークスを応援している編集局長としてはよくない。だがちょっと安心できるデータを一つ見つけた。増井のチーム別防御率だ。
オリックス 1.23
楽天    1.35
対西武    1.80
対ロッテ   2.16
ソフトバンク7.94


シーズン終盤も、CSも、ホークスと増井の対決は残っている。増井にはホークス戦以外で頑張ってもらって、最終的にはホークスが増井を凌駕する。そんなエンディングを編集局長は期待している。ベースボールキング記事が指摘したように、増井はペナント後半を面白くしたキーマンとなっている。


きょうの1枚は栗山英樹。写真はヤクルト時代だが1989年版カルビーカードの復刻版。裏面のミニ解説では、球界で唯一、小中高の教員免許を持っていると書いてある。柔軟な発想ができる栗山なら学校の先生としても成功したことだろう。

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