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黒柴スポーツ新聞

現役記者が野球を中心に、心に残るワンシーンやプレーヤーについて綴ります。

バックを信じて投げろ~名解説者・鬼嶋一司による剛腕・高田萌生への的確な指摘

実況はNHK竹林宏アナウンサーがイチオシだが、アマチュア野球解説は鬼嶋一司さんが最も勉強になっている。13日の盛岡大付-創志学園戦をカーラジオで聴いていたら鬼嶋一司さんの声に気が付いた。


鬼嶋一司さんは慶応高校、慶応大学出身で川崎製鉄千葉で都市対抗に出場。慶大監督も務められた。選手をこきおろさない、非常に温かみのある解説に好感を持っている。


それは4回裏、盛岡大付猛攻のシーンだった。鬼嶋一司さんは創志の高田萌生投手に対し「守っているバックを信じて投げられるかどうか」「緩い球を混ぜるのも攻撃的な投球」と、一人相撲にならないように気をつけるべきだと指摘していた。だが高田萌生投手は直球主体のピッチングで1イニングに4点を取られ、4-8とリードを許してしまった。

後で知ったが高田萌生投手は大会屈指の剛腕だそうだ。150キロ以上出るという。自分の持ち味を出すのは構わないのだがさすがに全国大会に出る学校が相手なのだから一本調子になれば打たれてしまう。鬼嶋一司さんは「バックを信じて」「1対1ではなく1対9の勝負で」と訴えていた。そう、野球は9人で守るものなのだ。毎回投手がノーヒットノーランができるわけがない。第一、ノーヒットノーラン完全試合も投手一人では達成できない。


なんとかその回の失点を4で止め、創志が反撃に出た。興味深かったのは鬼嶋一司さんが「これを高田投手に見ていてほしい」と言ったことだ。味方投手が打たれた分、自分たちが打たなければと必死になる姿を見て「感じろ」というのだ。野球は決して一人でやるスポーツじゃないんだよと重ねて言いたいわけである。


創志も5回表、よく食い下がり7-8となった。高田萌生投手が踏ん張れば流れはまだどうなるか分からない。味方の踏ん張りを意気に感じて高田萌生投手がきっちり抑えればよっしゃと士気が高まるかもしれない。ここで鬼嶋一司さんを喜ばせる出来事が起きた。イニングの初球、高田萌生投手が変化球を投げたのである。これを鬼嶋一司さんが見逃すはずがない。


「変化球から入りましたでしょう?」。解説する声も心なしか弾んでいる。味方の反撃の最中、高田萌生投手は冷静になり、力勝負でなく打たせて取るぞという姿勢に変わった。鬼嶋一司さんはそう見たのだ。たった1球の変化球をこのように解説する。背景を知った視聴者はより深く場面に入り込むことができる。試合を楽しめる。これぞ解説の妙、解説者の腕の見せ所である。


だが高校野球の試合は一瞬先が分からない。高田萌生投手が立ち直ればあの失点は糧になるのだが6回裏にホームランを打たれて降板してしまった。そして8-11で創志は負けた。150キロ投げる投手が勝つためには直球だけの勝負ではいけない。このことが分かった時にはもうマウンドを降りなければならない。高田萌生投手の3年生の夏はもう2度と訪れないのだから非情だ。しかし高田萌生投手は1年生のころから注目されていたという。この先野球を続けるのであればこの敗戦や仲間たちの反撃の姿勢がきっと糧になるはずだ。素晴らしい投球をまた見ることがあればその時、黒柴スポーツ新聞編集局長の耳には鬼嶋さんの的確な解説がよみがえることだろう。


1試合でも選手は成長ができる。野球は奥が深い。だからまた見たくなる。


きょうの1枚は高田つながりで高田繁。ちょっと強引だがお許しを。鬼嶋一司さんは慶大だが高田は明大。盗塁王1回、新人王。外野を守っても三塁を守ってもうまかったそうだ。猛練習の賜物だろうが、いろんなポジションで活躍できる人ってカッコいい。

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※これを書いた後の8月21日、作新学院ー北海の決勝解説をもって鬼嶋一司さんは高校野球解説を勇退されました。好プレーが出ると「爽やかな風が吹くようです」などと温かい語り口が好きでした。長い間素敵な解説をありがとうございました。
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tf-zan96baian-m-stones14.hatenablog.com