黒柴スポーツ新聞

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優しい人が怒ると恐ろしい~関根潤三は門限破りの衣笠をどう諭したのか

前回、関根潤三さんのことを書いたが実はもう一つ書きたいエピソードがあった。いかにも優しそうな関根さんぽい逸話で大好きなので、関根さんを偲ぶこのタイミングで書いておきたい。出典は近藤唯之著「プロ野球新サムライ列伝」(PHP文庫)ナマイキざかりに出会った人生の師 衣笠祥雄(212~219ページ)。そう、衣笠にとってのこの師こそ関根潤三さんだった。

事件が起きたのは衣笠プロ6年目の昭和45年夏。衣笠は売り出し中の若手だった。雨でゲームが流れたその晩、衣笠は夜の街に繰り出した。それ自体は問題なかろうが、門限11時をはるかに越える深夜2時近くに合宿所に戻ってきた。そーっと部屋に入ろうとしたところに「祥雄、待ってたよ。さあ素振りをしようか」。関根さんが現れた。階段に座って待っていたらしい。

いきなり声を掛けられること自体びっくりするが、しかも関根潤三、しかもこの内容である。当時の関根さんはヘッドコーチ格で、投手、打者両方を担当していたという。ヘッドコーチなら門限破りに対し怒鳴っても何ら不思議はない。むしろガツンと言ったり、戒めるだろう。だが関根さんは「さあ素振りをしようか」である。考えてみてほしい。当然怒られる場面で「祥雄、待ってたよ。さあ素振りをしようか」である。衣笠は血の気が引いたに違いない。

「我が道」衣笠祥雄

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関根さんは寝間着のゆかた姿、衣笠は上半身裸で200スイング。技術的な指導しかされなかったが、酒が抜けてきた衣笠には、関根さんが鬼のように見えたという。確かに、いかにもというテイで怒る人だけが鬼ではない。本当に大切なことをじんわり諭す。しかも自覚を促しながら。鬼は高等なテクニックを持っているのだ。

アラフォーともなると、怒られる衣笠の心境というよりは指導する側の関根さんの気持ちが近くなってくる。関根さんはどんな気持ちで衣笠の帰りを待っていたのだろうか。酔って帰ってきた衣笠に「待ってたよ。さあ素振りをしようか」と言った瞬間は最高に気持ちよかったかもしれない。うわ、オレ言ったったわ~、キタ━(゚∀゚)━!みたいな。ただし効果的にやるためには普段から人間性を磨いておかないといけないだろう。日頃優しく温和だからこそそのギャップでビビらす。やっぱりあの怒り方、諭し方は関根潤三の真骨頂だったよなとあらためて思った。


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