いつか神宮球場を思い出してきっと泣いてしまう【2】ペプシマン技術論
前回に引き続き、本紙編集局長が神宮球場でペプシマン=ジュースの売り子だったころの話をします。
下を見ずに下る
売り子はさまざまなテクニックを持っています。上手な人はお客さんの顔を見ながら観客席の階段を下れます。足元を見ずにグラウンドに背を向けたまま、ジュースを16杯くらい乗せたボックスを抱えて下るのです。あれができたらかっこいいな、とは思いましたが転んでジュースをまき散らすわけにもいきません。最後までやりきる自信はありませんでした。
なぜ売り上げに差があるの?
同じ時間働いているのに、自分と周りでは売り上げが違います。出来高払いですから、1本でも多く売りたいところ。とにかくたくさん動けばいいの? 売れるスポットがあるの? どうしたら売れるか頭を使わないといけないことが分かってきます。そこで売り子の動きを遠目から観察することにしました。
攻撃側は買ってもらいにくい
するとある法則に気付きました。これは外野席の話ですが、そもそも攻撃側の席は売り子の姿が少ない。これは自分をお客さんの立場に置き換えれば簡単。一生懸命応援する人ほど、買う暇がないのです。むしろ目の前のプレーを見る邪魔になる可能性大。攻撃側に売り子が少ないのは必然だったのです。
移動していく売り子たち
さらに見続けると、売り子が徐々に移動していくことが分かりました。例えば広島戦の場合、広島攻撃中は買ってもらえません。やはり売り買いがしやすいのは守備側、試合観戦に余裕があるヤクルトファン相手なのです。それがワンアウト、ツーアウトと展開する間に、売り子がヤクルトファンのいるライトからレフト側に少しずつ進んでいくのです。売り子同士でかち合わないよう距離を詰めすぎないのは暗黙の了解、エチケット。距離を保ちつつ、イニングの展開に合わせながらライトスタンドのヤクルト側からレフトの広島応援席に向かっていきます。ここで先回りしてツーアウトからレフトに忍び込んでおけば、チェンジの瞬間から売りさばくことができます。
お客さんの気持ちになって
確かに多くのお客さんと目を合わせることは大事。しかしやみくもに動いてはいけない。お客さんの気持ちやタイミング、競争相手である売り子の心理も読む。たかがアルバイトですが、物を売る大変さ、売れた時のうれしさ、売るための工夫の大切さを学ぶことができました。本紙編集局長のキャラをご存じの読者には想像がつくと思われますが「ペプシコーラいかがですかー!」と不特定多数のお客さんに向かって大声で言うのは度胸がいりました。売れなければずっと重い商品を抱えたまま。しかも手早く売らないと紙コップはブヨブヨになり、下手したら廃棄処分です。1本売れてやっと20円。それをいかに積み上げるかでした。アルバイトとしては決して成功した職場ではありませんでしたが、編集局長が営業職、販売職の方への敬意を培った職場であることは間違いありません。