黒柴スポーツ新聞

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持ち味を伸ばす~日本ハム吉田輝星、初登板初勝利よりも大事なもの

棋士は自分が持っているものをどれだけ伸ばせるかだと思う」

羽生善治がそう言っていた。

その前に見た、吉田輝星のデビュー登板を思い出した。吉田は初先発初勝利を飾ったが、持ち味の直球は十分アピールできたのではなかっただろうか。

 

低めにズバッと決まるストレート。甲子園で何度も見た。美しい軌跡。甘いマスク。擦れていない受け答え。人気が出たのは当然だろう。しかしプロで結果が出せるかはまた違う判断基準がある。単純に、プロのバッターに吉田輝星のストレートが通じるのか。興味があった。

 

にしても、さすが日本ハム。環境を整えてきた。地元の札幌ドーム。話題作りとファンサービスを兼ねた、観戦証明書発行。対戦相手はセ・リーグ首位、リーグ3連覇中の広島。完全に台本が出来上がっている。栗山英樹監督は優しいのかドSなのか分からない。

 

稚心を去る

稚心を去る

 

 

 

結果は5回84球、被安打4、失点1。奪三振は4だった。広島の強力打線相手に上々の内容ではなかろうか。三振がそこまで奪えなかったのは、今の吉田の力量の表れと見た。まだまだ力を伸ばしていかないと、プロの打者を抑えていけない。今回はあくまでも「片鱗を見せた」ということだ。

 

羽生善治が言うところの「自分が持っているもの」は、吉田にとってはストレート。だが上背があるわけでもないので、キレで立ち向かうことになる。ストライクに取ってもらえなかったが、低めにも外角にも、ズバッと決まった球はあった。吉田自身、少なからず手応えはあったと見た。

 

まだまだ発展途上の吉田輝星。後を引き継いだ先輩ピッチャーが反撃をしのぎ、吉田はプロ初登板初先発初勝利を収めた。勝ち星はもちろんうれしかっただろうが、大事なのは手応えを感じられたかどうか。これからプロでやっていけるかどうか。足りないものは何なのか。それをマウンドで感じられたかどうかだろう。逆に言えば、それを感じられさえすれば勝ち負けが付かなくても納得できたと思う。

 

大卒や社会人出身ピッチャーでもないので、早くも6月にデビューさせたところを見ると、栗山監督は吉田について、1軍でも十分通用すると見ているということか。それは5回までとは言え、大瀬良大地と投げ合えたことからも過大評価にも思えない。

 

デビュー戦でいきなりお立ち台に上がれる点からも、吉田はいわゆる「持ってる男」。日本ハムには同じドラフト1位入団の「持ってる男」と呼ばれていた男がいるのだが、彼は特別な成績を残せずにいる(今粘っている姿は嫌いじゃないけれど)。彼と吉田、最大の違いは代名詞の球があるかどうか。吉田にはあの低めのストレートがある。これがどこまで通用するかがそのまま生命線となる。

 

このまま即ローテーション入りとはいかないかもしれないが、2019年シーズン、もう何回か先発する姿は見てみたい。初年度でもあるし、結果も大事だが中身にこだわってほしい。私はソフトバンクファンだから日本ハムの柱に成長されたらすごく困るのだが、それを打ち砕いてみたい気もする。いかにもパ・リーグっぽい戦いを見てみたい。それにしてもパ・リーグにはいいピッチャーが毎年入ってくる。実力のあるピッチャーの中でもまれながら、吉田輝星には自分の持っているものを目一杯伸ばしてもらいたい。


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