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黒柴スポーツ新聞

ニュース編集者が野球を中心に、心に残るワンシーンやプレーヤーについて綴ります。

荒川博さんはなぜ野球少年に教えるのが好きだったのか~一本足打法を王貞治に授けた名伯楽逝く

王貞治一本足打法を授け、世界のホームラン王へと育てた荒川博氏が12月4日、亡くなった。86歳だった。


王選手コーチ日誌 1962-1969 一本足打法誕生の極意

王選手コーチ日誌 1962-1969 一本足打法誕生の極意


驚いたのはその日もプロゴルファーの上田桃子を指導していたこと。教えることはこの人の天職だったのだろう。



選手としての現役生活は9年と長くない。安打数も503安打とそこまで多くなく、打率も2割5分1厘とそこまで高くない。だからこそ思う。現役時代の成績イコール指導者の素質ではない。

豪打伝道の達人 荒川博―一本足打法を完成に導いた名伯楽

豪打伝道の達人 荒川博―一本足打法を完成に導いた名伯楽



黒柴スポーツ新聞の書庫にあった1977年の月刊ジャイアンツを引っ張りだしてきた。荒川道場というコーナーで一般の人に打撃論を説いているのだが、できるかどうかは別としてそこまで難しいことは言っていない。



「軽く打ってもビューと飛んでゆく。つまりだね、当たった瞬間に最大の力が出れば他に力はいらないんだ。当たったときから手を伸ばしてやる。そこに飛距離をのばすコツがあるんだ」(5月号)



草野球に行った時にも聞いたことはある話。これができればねえ。きっと黒柴スポーツ新聞編集局長は力を入れ過ぎなんだな。



「大人の野球、もちろんプロ野球も入るんだけど、もっと素直な気持ちで人の意見を聞くことができたら、もっともっとうまくなれる人がたくさんいる。でも、ほとんどの人が自分の我を通してしまう。だから、ぼくが子供たちに教えるのが好きなのは、みんな素直に、その通りにやってくれる純真さが好きなんだ。それはいつまでもなくしちゃいけないことなんだけどね」(8月号)



もっと素直な気持ちで人の意見を聞くことができたら。



グサッと胸に突き刺さる。もっと素直な気持ちで人の意見を聞いていたら、もっと成長できたことだろう。



だがそれは今からでも遅くはない。



8月号の荒川道場では王貞治の心が「少年」であり、この人の言うことは間違いないという心のつながりがあったから世界のホームラン王になったのだと分析している。



荒川博の訃報を伝える新聞記事に王貞治のコメントがあった。



「しんどい思い出しかない。朝昼晩バットばかり振った。手、足から血が出た」


「一緒に練習した人もいたが、最後まで続いたのは私だけだった。私も幸せだったが、荒川さんも幸せだった」



深い。しんどい思い出しかないけれど、師匠も弟子も幸せだった。



それは結果を出せたからなのか。もしかしたらそうでなくとも求道者同士出会えたことで、満足感はあったかもしれない。

世界のBIG1 王貞治メモリアルDVD

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中学時代の王貞治が野球をしていたところに、毎日オリオンズの選手だった荒川博が通りかかる。こんな運命的なことが本当にあったのだろうか? 後に師弟関係になるからこそ、結果が出たからこそ、出会いがエピソードになっただけなのか。
www.jiji.com



だとしたら毎日毎日の出会いを、できるだけ大切にしたいものだ。どれが幸せの種か分からないのだから。




きょうの1枚は王貞治。最優秀選手9回、首位打者5回、本塁打王15回、打点王13回。栄光の裏で師匠と二人、畳をすり減らしてバットを振り、真剣を振りおろしていた。濃密な時間はきっと、二人にしか理解できない。
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