黒柴スポーツ新聞

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これぞエース、山本由伸が魅せた141球〜ソフトバンク石川も千賀も見習うべし

史上初の前年度最下位チーム同士の日本シリーズが終わった。ヤクルト対オリックスの戦いは6試合すべて接戦、最大でも2点差という、まれに見る大激戦。戦力的にも拮抗していて、とても楽しめる日本シリーズだった。昨日はヤクルトの優勝が決まった第6戦を見ていたが、敗れたオリックスのエース山本由伸の力投が心に残った。特に印象に残ったのは6回。サード宗、ショート紅林が立て続けにエラーをしてしまったが動じる素振りも見せず、後続を断ち切った。まさにさすがエースという態度。今年度の沢村賞投手にふさわしいピッチングだった。


これについては第6戦で解説を務めた新井貴浩も絶賛。スポニチ記事「新井貴浩氏 オリックス・由伸 エースの振る舞い、若手の失策にいらだちも落胆もせず」で褒め讃えた。私も同感。せっかく自分が頑張っているのに周りがミスすると、普通の人ならば足を引っ張るなよと思ってしまうものだ。しかし実力のある人は違う。そのミスを帳消しにすることでさらに評価を高めてしまう。ミスをカバーしてもらった人は今度は別の形で貢献しようという気になるものだ。そうやってチームは強くなっていく。きっと、エラーをした宗も紅林も次、取り返そうという気持ちになったはずだ。


8回を投げ、山本由伸は高山ピッチングコーチと握手をしていた。私はそれを見て9回は平野に交代と思った。しかし山本はコーチや中嶋監督と話をしていた。そして9回のマウンドに立った。恐らくはじめは8回で交代の予定だったのだろう。しかし同点だったこともあり山本が続投を志願したに違いない。結局、山本由伸は141球を投げた。オリックスがもし点を取れていたら、十分完投できていたと思う。


山本由伸が沢村賞に選ばれた時、選考基準が話題になった。ダルビッシュが「時代にあった基準」を求めるコメントを出していたが、確かに分からなくもない。近年はピッチャーの分業化がさらに進み、中継ぎも1イニング限定が多くなった。ほぼ毎試合が継投であり、エースといえども完投が1桁であるのは珍しくない。これでは当分、沢村賞の選考基準の一つである完投数「10以上」は難しそうだ。山本は今年6完投で、別の選考基準であるイニング数(200以上)も届かなかった。しかし日本シリーズでの山本の姿勢を見る限り、山本には常にチームのために腕を振る意識があるように思う。「自分のためではなく、チームのために腕を振ることができる。真のエースの姿だった」。先ほど紹介したスポニチ記事で新井貴浩はそう振り返っていた。


最後に、あえてこの話題を、私が応援するソフトバンクに展開する。開幕投手を務めた石川も、けがから復帰して10勝を挙げた千賀も、今シーズンの完投数はゼロだった。工藤監督は基本的に継投する作戦だから仕方ない面もある。千賀については奪三振型のピッチングスタイルだから球数が増えてしまうことも影響しよう。しかし、ソフトバンクのエース格が6回や7回で降板するのも何だか寂しい。8回にはモイネロという素晴らしいピッチャーがいるものの、石川と千賀クラスならまずは完投を目指して登板してもらいたい。新任の藤本監督は千賀の登板を山本由伸にぶつけるプランも持っているという。千賀が山本より長くマウンドに立つ。まずはそれがV奪回の条件になりそうだ。


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