黒柴スポーツ新聞

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落ちそうで落ちない〜松田宣浩の鳥人間的現役生活はいつまで続くのか

貧打に泣いたソフトバンクが嘘のような先発全員安打で獅子粉砕。9点も取って勝った。北九州市民球場だったから? 鷹の祭典だったから? 赤い特別ユニフォームだったから? 久々に福岡でお客さんが入った試合だったから? ま、その全部だったということでよかろう。打線が活性化したおかげで松田宣浩まで目覚めた(2ランを放った)。松田はしぶとい。もし今日打てていなかったらどうなっていただろうか。そろそろ出番がなくなっていたかもしれない。そのどん詰まりで打つ。そして熱男と絶叫し、ヒーローインタビューで観客を沸かせる。するとみんなマッチの虜になっている。そう、これがマツダノブヒロなのである。

まさにこれが、松田が長く第一線でやれている理由にほかならない。題して鳥人間的生き方。そう、だんだん降下して、あ、もう着水だな、もうダメやろと人が思ったその時! 火事場のくそ力で再びペダルをこぐ。するとまた上昇する。しかしそれは長くは続かない。疲れるから当たり前である。そして再び落ち始めるのだが、決して着水はしない。そのギリギリのところで踏ん張る。絶対に着水はしない。スタメンを外されてしまっても、次に起用されたら勝負強いバッティングをしてチームに貢献する。やっぱり松田は必要だ。そう思わせられるからこそ、松田宣浩は使われ続ける。思えば松田の出身地は滋賀。鳥人間コンテストが行われる琵琶湖がある滋賀である。

見る人が見れば、コンスタントに頑張っている人(いま中村晃の顔が浮かんだ)より松田の方が生き方上手なだけじゃないの? うまくやってるだけじゃないの?と思うかもしれない。しかしあの鳥人間コンテストパイロットは見えないところで必死に脚を動かし続けている。きっと松田ももがいている。そう、やはり楽して結果を出せるほど甘くはない。松田は不調に陥る度にまた結果を出して、周囲の評価を覆す。近年はその繰り返しだと思う。

北九州でホームランを打った後、ベンチで松田がよしよしとばかりに谷川原の頭に抱き抱えた。谷川原がタイムリーを打ってつないだから松田に打席が回った。だからこその「よしよし」だった。「松田の気持ちが分かりますね」と解説の池田親興。こういう池田の解説は最高である。

もう一つ、松田をいいなと思ったのは、先発東浜が四球でランナーを貯めた時。次打者のスパンジェンバーグへの初球が抜けたのだが、幸い空振りしてくれた。東浜が不安定になっていることがありありと分かる一球だったのだが、「ナイボー!」という大きな声が中継で聞こえた。声の主は映っていない。しかし明らかに松田だった。いつも声を出しているかもしれないが、本当にしんどい場面だからこそ、東浜は勇気付けられたことだろう。東浜はスパンジェンバーグを空振り三振に抑え、7回を投げ切った。そう、松田は気遣いができる人だ。和田毅が不調の時には「グラブを変えたら」なんてアドバイスも。勝っている時のグラブと負けている時のグラブの違いに気付く細やかさ。相手のことを思わないとできない助言だ。

ソフトバンクファンはまたしても松田にやられた。鷹の祭典であと1本が出なかった松田にフラストレーションが溜まったソフトバンクファンは相当いたはずだが、北九州でのホームランからの熱男ポーズ、そう、いつもより長めの熱男ポーズを見せつけられてファンはすっかり乗せられた。これだから松田はニクめない。だが確実に松田の着水は、刻一刻と近づいている。果たして松田の鳥人間的現役生活はいつまで続くだろうか。楽しみにガッカリと歓喜を繰り返すとしよう。


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