黒柴スポーツ新聞

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なぜ書くのか、なぜ載せるのか~鶴岡一人の孫や花咲徳栄元主将の記事を読んで

ある大学生が逮捕された記事を見つけた。給付金詐欺。記事になった意味を考えてみた。コロナ禍の中だからのようにも思うが、その記事には特別な意味があった。逮捕されたのは南海ホークスで1773勝を記録した、鶴岡一人元監督の孫だったのだ。しかし、その記事にはそれを説明するくだりはなかった。ゆえに、見出しは「慶大生を逮捕」となっていた。先にニュースアプリを通じて「慶大野球部4年・鶴岡容疑者、持続化給付金だまし取った疑いで逮捕 故・鶴岡一人さんの孫」というスポーツ報知の見出しを見ていた自分としては、肩透かしを食らった格好だ。

また考えてみた。慶大生と見出しにするということは、慶大にニュースバリューがあるということだ。確かに有名大学ではある。何大学だから記事になる、ならないというのは本来はおかしい。しかし、東大や京大、早稲田や慶応などはやっぱり耳目を集めてしまう。それは有名大学の宿命なのかもしれない。ただし、今回は慶大よりも鶴岡一人の孫、というところがポイントだろう。私が見たその新聞記事は、おそらく通信社のものだ。なぜ鶴岡一人の名前がなかったのかは聞いてみたいものだ。

 

じゃあ、あなたも結局鶴岡一人の孫かどうかでニュースになるかならないかを決めてるじゃん、と言われるかもしれない。それはその通りだ。確かに誰の子や孫であっても、やってはいけないことはやってはいけない。だが、先ほどの東大京大のくだりのように、やはり有名人の一家はそういう宿命なのだ。ニュースはそういう背景を知っているかで価値が決まる。だから、今回記事になったり、その記事を掲載したことは自然だと思う。と同時になぜ載せたのか、そこは説明不足が否めない取り上げ方だったように思う。

 

有名な学校出身の野球選手の不祥事がもうひとつある。花咲徳栄高校の主将として全国制覇した人が、強盗犯の一人として捕まった。目下、裁判中だ。日刊スポーツの記事、甲子園V主将裁判で主張、駒大野球部「風習」で転落、は読みごたえがあった。また、必要以上にこの被告をたたかず、更正へのかすかな希望で締めくくる構成も、記事とはそうありたいなと思わされるものだった。ぜひ記事本編をご覧いただきたい。

記者や編集者はついつい、その選手や出身校、所属チームの名前に価値判断を左右されがちだ。もちろんネームバリューというものはある。だからこそ、記者や編集者は表層ではなく深層を見るべきだ。浅い記事や深みのない紙面を読ませてほしくない。表現の巧拙はあろうが、まずはなぜその記事を書いたのか、なぜその記事を載せたのかを読者に伝えてもらいたいと思う。と、いつか記者や編集者に戻れた時のためにハードルを高くしておこう。今は一読者として、読みごたえがある記事を、紙面を、毎日求めて過ごしている。


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