黒柴スポーツ新聞

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名コラムニストに必要な才能~黒田創さん「加藤博一」コラムを読んで

最近、セレンディピティーを大切にする気持ちでいられるのだが、またうれしい出合いがあった。文春野球コラム ペナントレース2020にこんな素敵な作品を見つけた。改めて「親父、すげえな」って思った…“56歳で他界”元大洋・加藤博一さんと最愛の息子の物語。作者は黒田創さん。恥ずかしながらこのコラム企画の熱心なファンではなかったゆえ黒田さんのことは「初めまして」なのだが、加藤博一というネタに引かれて読み進めた。大当たりだった。

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加藤博一。初めて知った頃はスーパーカートリオの一角。当時私は神奈川に住みながらもバリバリの巨人ファンで(成人後にホークスファンに転向)、横浜大洋ホエールズと言えば5位をヤクルトスワローズと争っていた印象だ。大人になってからはあの大洋のユニフォームはシックでかっこいいな(特に遠藤一彦あたり)と思えるが、子供心に地味に見えて仕方なかった。それでもスーパーカートリオという名前はスピード感があり明るいイメージ。特に加藤博一は引退後もっぱらプロ野球ニュースで見たが、いつも目尻を下げてニコニコしている印象。明るく楽しいキャラクターだった。

 

黒田さんのコラムには、そういうエピソードと共に、そうではない一面が描かれている。故人の足跡をたどる記事はそうであってほしい。みんなが知っている定番は抑えつつ、しかし実はこんな一面がある、と紹介する。このバランスが絶妙であればあるほど故人が生き生きと描かれる。加藤博一編では次男の眞一さんの語りを通して加藤博一の人となりが描かれる。筆者としてはとっておきのエピソードをゲットしたら小躍りしたくなるものだ。それを抑えつつ、眞一さんの語りを生かす形で作品を仕上げた。ここが素晴らしいなと感じた。きっと黒田さんと眞一さんは信頼関係が出来上がっている。そのことにジェラシーさえ感じてしまった、物書きの端くれとしては。

物語を書く時、ライターには文章力、構成力が求められる。しかしそれ以上に取材対象との距離感が大事だと個人的には考えている。この黒田さんの作品では加藤博一が亡くなる場面も描いているのだが、加藤博一の顔まで浮かんでくるようだ。最期の言葉でまた加藤博一という明るいキャラクターが印象付けられる。悲しいはずなのだが、それが爽やかさに変わっていく。そのダメ押しが加藤博一のお墓の話。写真が紹介されているのだが、こんなに素敵なお墓は初めて見た。お墓まで人柄を表すんだなとビックリした。そこまで把握できるなんて、黒田さんの丁寧な仕事ぶりの一端が見えた気がした。

まあお会いしたこともない人をよく誉められるよなと自分で思わなくもないが、これでも私は記者歴10年以上。文章が人を表すことを知っている。まさに文は人なり、と思っているから黒田さんにはぜひ一度お目にかかりたいなぁと思った。大洋ファンはもちろんそうでない方も、ぜひ黒田さんのコラム、改めて「親父、すげえな」って思った…“56歳で他界”元大洋・加藤博一さんと最愛の息子の物語、をぜひご覧ください。世の中にはまだまだ素晴らしい文章があふれている。お宝を探して、きょうもネット上を回遊しよう。

改めて「親父、すげえな」って思った…“56歳で他界”元大洋・加藤博一さんと最愛の息子の物語 | 文春オンライン


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