黒柴スポーツ新聞

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85%は苦しみの日々~張本勲はなぜ3085安打できたのか

5月28日は張本勲が3000安打を達成した日だ。ことあるごとに川崎球場での豪快なその1打の映像が流れる。対戦投手は阪急の山口高志。山口対張本ならそりゃあのくらい飛ぶわなというくらい、高々と打球は飛んでいった。そして張本勲はヘルメットも高々と放り投げて、ふさふさの髪を揺らすように、うれしそうにダイヤモンドを1周したのだった。

最強打撃力 バットマンは数字で人格が決まる (ベースボール・マガジン社新書)という本を以前買ったのだが、どうもタイトルが気に食わず、読んでいなかった。ただ、5月28日が張本勲の記念日だと知り読んでみた。出だしは打撃論なのでそこはカット。その後の張本の生涯の方が格段に面白かった。韓国から日本に来たご両親の間に生まれるも、お父さんをすぐ亡くした。お母さんは相当苦労されただろう。お姉さんは原爆で亡くなった。張本自身、被爆している。4歳の時には事故でたき火に突っ込み、やけど。一部の指同士が癒着した不自由な手で、張本は日本通算最多の3085安打を放ったのである。タクシー運転手のお兄さんが給料から学費や下宿代を捻出して広島から浪華商業高校に進むくだりは泣けてくる。張本の才能を見いだした指導者や家族の支えがなければ張本勲の今日はない。

今年、新型コロナウイルスの影響で甲子園が中止になったが張本勲は球児の気持ちがよく分かる。張本は不祥事に巻き込まれ休部扱いにされ、甲子園への挑戦を断たれた経験があるのだ。コロナと同じではないし、今回の方が大規模なのだが、夢に向かってひたすら努力したのは昔も今も変わらない。張本の場合は高校時代からすでに注目され、何と水原茂に「巨人に来なさい」と言われている。実際には巨人が獲得レースから手を引き、残ったのは東映と中日。張本は東京(東映)行きを選んだ。最初は岩本義行監督だったが、のちに水原茂が監督に就任するのだから不思議な縁だ。縁と言えば東映松木謙二郎コーチと出会ったことも張本の人生を決定付けた。まさに二人三脚で理想の中距離バッターを目指していった。

東映フライヤーズ あゝ駒沢の暴れん坊 (追憶の球団)

東映フライヤーズ あゝ駒沢の暴れん坊 (追憶の球団)

  • 作者:越智 正典
  • 発売日: 2014/12/01
  • メディア: 単行本
 

 

実に3割以上を16回。首位打者7回。ホームランは504本。そりゃバットマンは数字で人格が決まるというタイトルの本を書くわなと思う実績だ。しかし黒柴スポーツ新聞編集局長としては張本の偉大さを認めつつも数字と人格を結びつける考えは肯定できない。どの業界にも言えることだが、結果さえ残せば偉そうな態度をとってもいいかと言えばそれは違う。張本は記録がぶっちぎりすぎてご意見番にならざるを得ないのだろうが日曜朝ごとに苦言を呈していちいちネットニュースに書かれるという流れはそろそろ終わりにしてもらいたい。レジェンドなのに自ら格を下げている。いちいちネットニュースにする方もする方だが。前は放送を見たりネットニュースを拾っていたが最近はほとんど見ていない。

「最強打撃力 バットマンは数字で人格が決まる」でどのくだりがよかったかというと、「85%は苦しみの日々」。3000本以上ヒットが打てたら、また、毎年のように3割打てたらそりゃ楽しかっただろうなと思っていたがタイトルや優勝の喜びをかき集めても15%にしかならないという。不安や苦しさとの戦い。その連続だったから、引退を決めた時はホッとしたらしい。実は3085安打とは、どうなるか分からない明日に備えて、今を懸命に生きた証だったのだ。成功者の裏側とは、案外こんなものかもしれない。


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