監督のガッツポーズはありなのか~明石商業の狭間監督を野球に戻した妻の言葉
web Sportivaの記事、明石商・狭間監督がマイナスから目指した甲子園「初日で辞めようと思った」(文・沢井史さん)を読んだがなかなか面白かった。正直なところ、狭間監督が甲子園で見せた派手なガッツポーズには違和感があったのだが、記事を読んで見方が変わった。やはり物事は表面だけを見てはいけない。
狭間監督が明徳義塾中の指導者として全国制覇などの結果を残されていたことは、実は明石商業が甲子園出場を決めてから知った。狭間監督がどのような経緯で明徳義塾中で指導するようになったのか、どうして明石商業に行ったのか深くは知らなかった。記事によると、狭間監督は日体大卒業後、兵庫県内の高校に講師として赴任。コーチとして指導はしていた。しかし常勤の教員の枠は狭く、一度は一般企業に就職したという。ここが最初の分かれ道。だいたいは折り合いをつけざるを得ず、そのまま希望を断念する人が多いと思う。結婚後、明徳での指導役という選択肢が浮上した時、背中を押したのが妻の言葉だった。
「『ネクタイ姿よりユニフォーム姿のほうがいいんじゃない。私は行ってもいいよ』って言われて決心したんです」(記事より)
ネクタイ姿よりユニフォーム姿のほうがいいんじゃない。これを言われた時、狭間監督は心底うれしかったのではなかろうか。自分の良さ、自分の思いを分かってくれる人がいる。たった一人でもそんな人がいれば救われる。勇気が出る。こうして狭間監督は明徳中に行ったのだった。
詳細は沢井史さんの記事を読んでいただくとして、これだけ野球に心血を注ぐ監督だから、あんなガッツポーズが出てしまうのだな、と見方が変わったというわけだ。そしたらあらためて、狭間監督の采配を振り返った。甲子園、宇部鴻城と2-2で迎えた10回裏、明石商業は1死満塁からスクイズを敢行した。「狭間監督はこういう場面でもスクイズをやってくる」と解説者も話しており、宇部鴻城バッテリーもそこは警戒していたはずだ。その中でバッターはきっちりやや三塁側にスクイズし、三塁ランナーは素早くホームを踏んだ。ここが素晴らしい。得てしてスクイズはホームに滑り込む場面が多いが、ホースアウトになるのを防ぐためにはいち早くホームを駆け抜けねばならない。スクイズの方向、走り方。狭間監督が細やかな指導をしていることがうかがえた。監督が前に出すぎることは賛否あると思う。しかし生徒と一体になっているのであれば、熱くなるのはありではないか。一人の生き方さえ変えてしまう甲子園。現状では開催が難しいかもしれないが、できればこんな熱い場面を今年の夏も見れたらな、と願う。