黒柴スポーツ新聞

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ジャンボ尾崎がつかんだ、勝利より大切なものとは~沢木耕太郎「儀式」を読んで

沢木耕太郎のノンフィクション「儀式」を読んだ。「激しく倒れよ」に収録されている。主人公は尾崎将司。プロゴルフの世界で活躍した「ジャンボ尾崎」だが、彼は元々プロ野球選手だった。黒柴スポーツ新聞編集局長はゴルフ知識に乏しいのだが、元プロ野球選手の話、という入り口から「儀式」にたどり着いた。そしてしびれた。沢木耕太郎の将来を決定付ける作品だし、今さら紹介するまでもなかろうが、まだの方にはぜひ読んでいただきたいと思う。

沢木耕太郎ノンフィクションI 激しく倒れよ

沢木耕太郎ノンフィクションI 激しく倒れよ

 

 

尾崎将司は徳島海南高校時代、センバツで優勝。スカウト合戦の末、西鉄ライオンズに入る。だが投手としての成績はパッとせず、打者挑戦も泣かず飛ばずに終わった。だが尾崎将司には別の道があった。ゴルフである。

着陸の日まで ―尾崎将司とその時代

着陸の日まで ―尾崎将司とその時代

  • 作者:佐藤 朗
  • 発売日: 2019/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

「儀式」には転職、というキーワードが出てくる。甲子園に出た海南高校の同級生らは約半数が転職した。沢木はその「変わり身の速さ」に注目したが、それには理由があった。1995年11月2日発行のNumber 創刊15周年特別編集 20代のテクスト「スポーツを読む」。に書いてあるのだが、沢木耕太郎は別の取材の過程から、若者の転職に着目していたのだった。ちなみに「儀式」はこのNumberにも収録されている。儀式についての本人解説付きだから、このNumberはどうにかして手に入れていただきたい逸品と推薦しておく。沢木は、尾崎も高卒の転職者だから何かしら書けるかなと思ったわけだが、その視点はそれほど重要なものではなくなっていく。同世代人としての尾崎に引かれていったからだ。

儀式の舞台は1971年の日米対抗ゴルフ。人気が出てきた頃の尾崎将司が有力選手らと出場したのだが、その試合展開と尾崎の人生を交互に描いている。この手法にたどり着くまでに時間を要したものの、沢木は「スタイル」を手に入れた。確かにゴルフの試合が進むのと、尾崎将司のエピソードが交互に出てくるので、非常にドラマチックに読める。もし別々に書かれていたら、片方はゴルフの観戦記、片方は尾崎将司の足跡以上のものにはなり得なかっただろう。黒柴スポーツ新聞編集局長も、このようなスタイルにいつか挑戦してみたいと思う。

前回、沢木耕太郎「さらば 宝石」を取り上げた時はタイトルが分かりにくいと思う、との感想を書いた。今回は全く逆。ネタバレになるので書かないが、もう「儀式」以外のタイトルはあり得ないくらいにゾクゾクする締めくくりだった。着地がピタリと決まるというか、もう鳥肌が立つような……えっ、これを23歳の沢木耕太郎が書いたのかと驚いた。早熟すぎる。もちろん後にノンフィクションの世界でたぐいまれな才能を評価されるのだが、沢木自身「はじめの一歩」と認識する「儀式」の完成度の高さには舌を巻いてしまう。編集者も徹夜で付き合った末の作品らしいが、こんな作品を書き終えた時の彼らの感動を自分も感じてみたいなと思った。もちろん黒柴スポーツ新聞編集局長も元新聞記者だから、手応えは何度も感じてきた。現場を離れて久しいが、この感動はぜひもう一度味わってみたい。感動の前にはものすごい「産みの苦しみ」があるのだけれど。

若き実力者たち

若き実力者たち

 

 

「儀式」を解説した「はじめの一歩。」で沢木は、スタイルと同時にスポーツの世界、勝負の世界を書くという「ジャンル」を手に入れた、と書いている。黒柴スポーツ新聞編集局長もそれがやってみたい。尊敬する後藤正治さんは自身を特にスポーツノンフィクションが専門とは思われていないそうだが、スポーツには勝負とか人生とか、人間性が凝縮されているのでスポーツの現場が多いみたいなことを言われていたような記憶がある。編集局長は単純にスポーツが好きなこともあるが、後藤さんのように人間性を追う観点から、今後もスポーツ選手を追い、スポーツ中継を見て、独自の解釈を加えていこうと考えている。

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