黒柴スポーツ新聞

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ウチゲ、その衝撃~稀代のバットマン内川聖一はこのまま刀を置くのか

ウチゲという言葉を初めて見た。内川聖一のゲッツーの略。Twitterにはその単語がいくつもあった。確かに薄々感じていた。2019年シーズン、チャンスで内川聖一ダブルプレーに倒れるシーンが目につかないか、と。あの勝負強さはどこへいったのか、と思ってしまうが内川聖一とて人。イチローもそうだった。稀代のバットマンにも衰えは忍び寄る。なんと残酷なことだろう。

 

にしても、ウチゲとは衝撃だった。2000安打、名球会入りしても揶揄されるとは。プロ野球選手とは大変な職業だ。しかし、プロ野球選手が結果で語られるのは紛れもない事実。内川聖一は一切言い訳なんかしないだろう。

 

打てない理由は何なのか。体力的なことなのか。感覚と体の動きにズレがあるのか。ゲッツーだから、バットには当たっている。しかしとらえきれていないから、打球が内野手の餌食になっている。なまじバットに当てるのがうまいから、と分析している人がいた。確かにそうかもしれない。当てるのはできるけれど、今はヒットゾーンに打球が飛んでくれない。何度もチームに力を与えてきた内川聖一のバッティングはどこへいってしまったのか。

 

もちろん打ってもいる。交流戦に入り、広島との試合では決勝タイムリーを放っている。しかし何ゆえ人は成功より失敗を強く心に刻むのだろう。内川聖一の場合は結果を残し続けてきただけにそもそもの期待値が高く、うまくいかなかった場合とのギャップが激しいのかもしれない。このウチゲという、バッシングと言っていい状態は内川聖一ならではの面がある。

 

心配だ。内川聖一が打てない自分を受け入れられるはずがない。あまりにも不振が続けば決断を迫られるかもしれない。だが今のソフトバンクには内川聖一を追い越せる右バッターが見当たらない。実はそれが一番問題だ。

 

思い出す。あのホームランを。2017年、DeNAとの日本シリーズ。第6戦は1点ビハインドのまま9回1アウト。ピッチャーは守護神、山崎康晃。万事休す、と思ったら内川聖一が同点ホームランをスタンドに運んだ。何という勝負強さ。カーラジオを聞いていた私は運転しながら絶叫した。その1年で一番大きな声を出した。うれしかった。ここで打ってほしい。その願いに内川聖一は応えてくれた。本拠地で3連勝した後に横浜で2連敗。もしあのまま敗れていたら逆王手をかけられる崖っぷちだった。そこからの日本一。内川聖一の同点ホームランがいかに価値があるかが、よく分かるだろう。

 

って、そんな2年前のこと言われても今が大事だという人もいるだろう。確かに。今ソフトバンクを応援している人にとってみれば、今打ってもらわないと困るのだ。別に内川聖一をバッシングしているのではなく、応援しているからこそ「何だよ!」と思ってしまうことも分かる。ウチゲとワイワイ騒ぐ人の中にはそれ自体を楽しんでしまう人もいるけれど、打ってもらわないと困る人もたくさんいるのだ。

 

かつてあまりに負けるホークスに激怒したファンが、選手の乗るバスに生卵を投げつけたことがある。世界の王貞治率いるホークスが生卵を投げつけられたことは衝撃だった。

「屈辱ではありますけど、それだけ卵を投げてくれた人たちは、南海時代からのカチカチなホークスファン。その人たちが真剣に怒った結果が卵事件だと思うんですね」

王貞治は平成を振り返る講演でそう語った。そして、「それをまともに真正面から引き受けないといけない。我々はいい刺激になったと思います」「そういうことを積み重ねていくなかで、選手達は勝つ事の素晴らしさとか、勝ちに向かってやるにはどうやったらいいかということで、技術向上につながったと思います」とも。

 

ありがとう,監督・王さん~福岡・ホークス・14年~ [DVD]
 

 

 

内川聖一が浴びているのはあの生卵と同じ意味合いがある一方で、ただ便乗して面白がっている向きもある。そこがやっかいなのだが、騒音を封じるにはやはり結果を残すしかない。バットを置くのはまだ早い。やはり内川聖一だ、さすが内川聖一だというところを見せてほしい。クライマックスシリーズで史上初の同一シリーズ4試合連続ホームランなんて神がかり的な打撃は無理かもしれないが、今一度勝負強い内川聖一のバッティングが見たい。頼れる助っ人グラシアルが代表活動のためチームを離れることが決まっているだけに、内川聖一の復調がチームの浮沈の鍵を握る。

「右に左に捌け コースを絞って 狙い澄まし 内川打て」

かっ飛ばせ、内川!


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