黒柴スポーツ新聞

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自分のタイミングを大切に~ソフトバンク上林誠知に伝えたい王貞治の打撃の秘訣

世界の王貞治がなぜあれほどホームランを打てたのか。前々から理由が知りたかったのだが最近購入した山際淳司の「ウィニング・ボールを君に」に収録されている「王貞治、55ホーマーの目撃者たち」を読んで、王貞治の打撃の秘訣を知ることができた。そしてかなり納得した。

 

 

 

秘訣を披露してくれたのは王貞治自身ではなく若生智男。この「王貞治、55ホーマーの目撃者たち」に出てくるのは1964年5月3日に王貞治に4打席連続ホームランを喫した阪神の3投手たちなのだ。若生は3本目のホームランを打たれた。

 

その若生が王貞治に聞いた秘訣とは。「いい状態でボールを呼びこむ」だった。

 

まずは準備。ネクストバッターズ・サークルで待機中、ピッチャーの癖やタイミングをじっくり見る。そして間合いを体で覚えるという。やはり何事も準備が大切だ。

 

次に、自分のタイミング、リズムでボールを待つ。個人的にはこのくだりがグッときた。やっぱりタイミングって大事。打たされるのではなく、打つ。いかにバッターが受け身の立場であっても、王貞治は自分のタイミングで打撃をしていたのだ。

 

the 50th 王貞治 栄光の軌跡

the 50th 王貞治 栄光の軌跡

 

 

 

これを裏付けるようなことを、王貞治の「初の一本足本塁打」を打たれたとされる稲川誠(大洋)が作中で言っていた。「"型"で打つ。一種の芸術ですよ」「選球眼がいいから自分のポイントで、型どおりのスイングができる」。どんな分野でも、自分の形を持っている人は本当に強い。

 

ソフトバンクファンの私としては今一番この極意を伝えたいのが上林誠知。右手の骨折が判明したのだが、それでなくとも開幕からいまいち調子が上がらなかった。そもそも避けられそうな内角の球を右手に当ててけがしてしまったように見えた。骨折は事故のように見えつつも、不調が影響しているように思えたのだった。

 

上林誠知の打球の飛距離は天性のものだと思う。リストの強さもありそうだが、振り切るよりはパンとリズムよくバットに当てることで軽々とスタンドインしているように見える。フルスイングでかっ飛ばす柳田悠岐の打撃とは一味違う。

 

その柳田悠岐がけがで離脱した時、抜けた3番には上林が入ってもおかしくなかった。だがいま、そこに収まっているのは今宮健太。チャンスメイクではなく力強い打球で結果を出すことが求められるポジションだが、今宮健太は見事に結果を出している。

 

上林は対照的に、スタメンを外れている。けがも影響しているが、何か振らされているというか、当てにいっているように見えて仕方ない。日本ハム戦ではライト方向にホームランを打ったのだが、逆方向にも飛距離を出せるのが上林の強みだったとしても、あれは自分のタイミング、自分の型ではなかった。

 

上林がスタメンを外れたのは、けがで離脱していたグラシアルが復帰したタイミング。上林は骨折しているのだから外れてもおかしくはないのだが、周東や三森、釜元ら若手の台頭を考えると、けががなくても自分のバッティングができていない上林は厳しい立場になっていたように思う。

 

人生に当てはめても、いつもいつも自分のタイミングでバットが振れるわけではない。背面投法で王貞治を撹乱させようとした小川健太郎は有名だが、スケジュール一つとっても常に自分の思い通りにいくことは稀だ。その時に結果を出せるのは長嶋茂雄ばりに体が泳ぎながらもバットに当てることができる人か、王貞治のように自分の型でバットが振れる人だ。

 

もうひとつのフィールド・オブ・ドリームス―伝説のエース小川健太郎物語

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かくいう私は外的要因に左右されがちと自覚している。もっと自分というものを確立できていれば、ちょっとやそっとじゃ崩れないのにな、と思う。その意味では上林に自分の姿を見ているのかもしれない。確かにバッターはピッチャーが投げるのに合わせねばならないのだが、王貞治のように自分のタイミングでボールを待つ、ボールを呼びこむことができれば、少なくとも自分が思い描いたとおりのスイングができるはずだ。ならば仮にうまくいかなかった時でも納得ができよう。

 

もっと遠くへ (私の履歴書)

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骨折はすぐには治らないし、意思でどうにかできるものでもないから上林は我慢のしどころだ。だが、王貞治が実行したように、相手ピッチャーの癖やタイミングを覚えることはできるのではないか。そしてスタメンに戻ったあかつきには、今宮健太松田宣浩が実行しているように力強いスイングを実行してもらいたい。それをやるだけでも、当てにいくバッティングにはならないはずだ。上林にはもっともっと上を目指してもらいたい。


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