引退したイチローを何と呼ぶ?~今なお翻弄されるメディア
イチローが国民栄誉賞辞退との日経新聞記事を見た。何か違和感が……。気付いた。「イチロー元選手」と書いてあったのだ。だよな、イチローは引退したんだ。しかし私はすぐ別のことを予想した。ひょっとして、メディアはイチローの呼称に難儀しているのではないか……。
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案の定、である。まずは産経新聞の「イチローが国民栄誉賞辞退 菅官房長官「本人の気持ちを尊重」。
菅義偉官房長官は5日午前の記者会見で、米大リーグを引退したイチロー元選手に対する国民栄誉賞授与の検討を見送ることを明らかにした。
「イチロー元選手」。無難である。
次はハフィントンポストの「イチローさん、国民栄誉賞を3度目の辞退 『人生の幕を下ろした時に…』」。
菅義偉官房長官は4月5日午前の記者会見で、3月に現役を引退したアメリカ大リーグ・マリナーズのイチローさん(45)が、国民栄誉賞を辞退したことを明らかにした。
「イチローさん」。マスオさんみたいで親近感がわいてくる。
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アメリカ・大リーグから引退したイチローさんが、国民栄誉賞に続き、愛知県が受賞を打診した県民栄誉賞についても、辞退する考えを伝えていたことが明らかになりました。
これも「イチローさん」。公共放送たるNHKがこれを貫けばイチローさんが標準になる可能性は大きい。
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同じくテレビの日テレは「イチロー氏『国民栄誉賞」を3度目の打診も辞退」。
先月、引退を表明した元メジャーリーガーのイチロー氏が、政府からの国民栄誉賞の打診を辞退していたことがわかった。イチロー氏の辞退は3回目となる。
「イチロー氏」。イチローさんよりはカッコいい。だがひたすらにイチローと呼び捨てにしていたから、取って付けた感は否めない。近年は「籠池氏」みたいな使われ方もあるから余計に距離を感じるのかも。
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時事通信は「イチローさん、国民栄誉賞辞退=「人生の幕を下ろした時に」
菅義偉官房長官は5日の記者会見で、現役引退した米大リーグ・マリナーズのイチローさん=本名鈴木一朗=への国民栄誉賞について、本人の意向を踏まえ授与を見送る考えを明らかにした。
「イチローさん+本名鈴木一朗」とは活字メディアのなせる技。ま、テレビでもそう呼ぶ場合はあろうがわざわざ感はある。ピーター(池畑慎之介)的だ。
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読売新聞は「イチローさん3度目辞退、菅氏『本人の意向尊重』」でこう書いている。
菅官房長官は5日の記者会見で、現役を引退した米大リーグ・マリナーズ元外野手のイチロー(本名・鈴木一朗)さんへの国民栄誉賞の授与について、本人の意向を尊重して見送る方針を明らかにした。
これまたイチローさん+本名だが、まとめてのさん付け。時事通信よりなお丁寧な感じがする。
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サンスポは「イチロー、国民栄誉賞を3度目辞退『人生の幕下ろした時に』」。
米大リーグを引退したイチロー元選手(45)=本名鈴木一朗=は、国民栄誉賞の受賞を辞退すると代理人を通じて日本政府に伝えた。菅義偉官房長官が5日の記者会見で明らかにした。
スポーツ紙ならイチローと呼称なしでもいけそうだが元選手と付けている。
同じくスポーツ紙の日刊スポーツは「イチロー氏、国民栄誉賞を辞退と米でも報道」と見出しから「氏」が付いていた。
マリナーズなどで日米通算4367安打を放ったイチロー氏(45=本名鈴木一朗)が国民栄誉賞を辞退したことを5日、AP通信が報じた。
記事では辞退が3度目であることを強調した。メジャー通算3089安打で、日本人初の米国野球殿堂入りは確実ともした。
球界での国民栄誉賞は1977年に王貞治さんが初受賞し、2013年にはヤンキースなどで活躍した松井秀喜さんが受賞していることも紹介した。
イチローが「氏」なのに王貞治さんや松井秀喜は「さん」付け。二人が先に引退した感はちょっと出ているかも。ゆくゆくはイチローもマイルドにさん付けがなじむのかもしれない。
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結局、何が言いたいかと言えばまだまだみんな、イチローを呼び捨てにしないことに慣れていないということだ。そしてイチローとは単なる呼び捨てではなくかなりの敬意を持った呼び方だったのだ。氏とかさん付けだと、いかにも簡単にヒットを量産した魔法つかいの杖であるバットを持たなくなった感がある。私たちは記事を読んで、あらためてイチローが引退したことを思い知らされている。
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同じく惜しまれつつ引退した黒田博樹は間を置かずに氏あるいはさん付けになったのではないか。イチローにわざわざ元選手と付けてしまうのは引退直後というのもあるが、やはりまだ、選手じゃないイチローに世間が戸惑っている現れだろう。呼び捨てではなくイチローを何と呼んだらいいのか、みんな分からないのだ。
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現役時代からメディアを手玉にとってきたイチロー。引退してもなお人々を戸惑わせているのはさすがである。